パワハラギルマスをぶん殴ってブラック聖剣ギルドをクビになったので、辺境で聖剣工房を開くことにした   作:だいたいねむい

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第97話 『圧倒的すぎる暴力』

「な……嘘だッッ!! 俺の全盛期の十倍以上の戦力だぞ!? グリフォンだって……炎竜だっていたんだぞ……!? それを、一瞬で……お前ら、何者だ!?」

 

 一瞬で手駒を粉砕されたせいか、魔物使いが混乱している。

 

「何者って……ただの冒険者だが?」

 

「だな」「ふむ」「そうだね」「そ、そうだナ!」

 

 皆で顔を見合わせる。

 

 特筆すべき点があるとすれば、カミラ以外は全員聖剣持ちではあるが……すでに三人聖剣持ちがやられている以上、これも別に特別感はない。

 

 そもそも聖剣はただの武器だ。

 

 決してガラクタなどではないが、使う者の技量によって強さは変わる。

 

 だが、そうだな……もっとこう、ヤツをビビらせる煽りはないものか。

 

 そんなことを考えていると、魔物使いが狼狽したように騒ぎ出した。

 

「いや、待て……お前、そこの女! どこかで見たことが……まさか、あの『傀儡の魔女』か? いやありえない……! 俺が見たのは二十年以上前だぞ!?」

 

「…………」

 

 ピクン、とカミラの肩が動いた。

 

「カミラ?」

 

「なに、大したことではないさ。……ブラッド、彼奴は必ず屠るべきだね。今すぐに」

 

 なんで、とは聞けなかった。

 

 なぜなら、カミラの怒気が周囲の空間を捻じ曲げて見えるほどに溢れていたからだ。ついでに言えば、目が完全にキマっている。

 

 うわぁ……

 

 あの魔物使い、完全に竜の尾を踏んだぞ。

 

「あーあ……」

 

 フレイも「アイツ、やっちまったなァ」みたいな顔で肩を竦めている。

 

 そう。

 

 カミラの年齢を推察させるワードを口にすることは、すなわち死を意味する。

 

「……『この地を司る大地の精霊よ、岩の楔を我に(もたら)せ』」

 

 表情の失せた声色で、カミラが精霊魔術を発動。

 

 メキメキと音を立て、ダンジョンの石床が引き裂かれる。

 

 石床はバキバキと崩壊と結合を繰り返し、夥しい数の、楔状の礫が生成されていく。

 

 それらが、カミラの周囲に浮かび上がった。

 

 一つ一つはごく小さなものだが、数えるのがバカバカしくなるような数だ。

 

 この程度、彼女ならば無詠唱でも行使できるところをわざわざ詠唱して見せているのは、完全に威圧目的だろう。

 

「さ、させるかッ!」

 

 カミラから尋常ではない力を感じたのか、魔物使いが吼えた。

 

 同時に彼の背後から何十本もの肉が湧きだし、魔物に変化。

 

 一斉にカミラに襲いかかった。

 

 だが。

 

 バキン!

 

 殺到した魔物のすべてが、ある地点で進行を阻まれた。

 

 どうにか突破しようとするが、魔物がぶつかるたびに淡い魔力光を発するだけで進むことができてない。

 

 どうやらカミラは、土の精霊魔術を発動する前に防御用の魔力障壁を展開していたらしい。

 

 そういえば、彼女はかなり高度な魔術も無詠唱で並列行使できるからな。

 

 これではもう、魔物使いは万に一つも勝ち目はない。

 

「死ぬがいい、小童(こわっぱ)

 

「待ッッ、待て魔女ッ! こいつらが見えないのか!? そのまま術を放てば、こいつらが挽肉になるぞ!?」

 

「……ほう」

 

 いつの間にか、魔物使いの前に人影が立っていた。

 

 その数、十人以上。

 

 全員血色は悪くないが、目は虚ろだ。意識があるように見えない。

 

「あの男……なんてことを!」

 

 アリスが憤慨したように叫んだ。

 

 目の前にいるのは、肉繭に取り込まれたと思しき冒険者たちだった。

 

 若干数名ゴロツキみたいなのが混じっているが、そっちは魔剣使いだろう。

 

 いずれにせよ、カミラが術を放てば魔物使いに届く前に連中が術を喰らうことになる。

 

「フハッ……! フヒヒハハハアァーーッッ!! 誰が、俺が魔物だけ(・・・・)を使役できると言ったんだ!? お前がそう来るのなら、俺は『盾』を構えるだけだッ!」

 

 何が嬉しいのか、引きつったような笑い声を上げる魔物使い。

 

「さらにさらにさらにイイイィィー!! こういう趣向はどうだろうなアアァァッ!? そら、お前! 行けェッ!」

 

『ガ……ガァッ!」

 

 魔物使いの合図とともに、『盾』の一人がこちらに駆け出してくる。

 

 あれは、ビックス氏だな。

 

 全身を強固な鎧で身を固め、自身の肉体も強靭な大男だ。

 

 さすがは魔物使い。ちゃんと戦力になりそうで、かつ、こっちが嫌がる存在をけしかけてきている。

 

「なんて卑怯な真似を……ッ! これでは手が出せないじゃないか」

 

 アリスがギリリと歯噛みする。

 

『ガアアアァッ!』

 

 操られたビックス氏は異様な身体能力で壁を走り、天井を駆け、こちらに向かってくる。

 

「まずはお前からだアアアァーーッ! 我が竜の仇ッッッ!!!」

 

 ビックス氏が襲い掛かったのは、あろうことかフレイだった。

 

「……チッ」

 

 フレイが舌打ちした。

 

 彼女は、『大食い(ヴォーラ)』がビックス氏に当たらないよう後ろに引き、身体を後ろに向け――

 

「ドラァッ!!」

 

 強烈な後ろ回し蹴りを彼の胴体にブチ込んだ。

 

『ゴゲェッ!?!?』

 

 フレイの蹴りをまともに喰らったビックス氏は、襲いかかったときの勢いそのままに広間をぶっ飛んでゆき――壁に叩きつけられた。

 

 彼女の蹴りが当たった鎧の胴の部位――ちょうど鳩尾付近には――彼女の足の形でベコリと凹んでいる。

 

 当然、ビックス氏が起き上がってくることはない。

 

「…………は?」

 

 これには、さしもの魔物使いもあっけに取られるしかなかったようだ。

 

 しばらく、静寂が広間を支配する。

 

「お……おい、お前ェ! そこの女アアァッ! なんだその真似は!? 味方だろうが、アイツはッッ!」

 

 フレイをビシビシと指さしながら、口角泡を飛ばしながらの猛抗議である。

 

 いや、お前が吐くべきセリフじゃねぇだろ……

 

 と、この場にいる誰もが思ったに違いない。

 

 だが、フレイは慌てず騒がず鼻を鳴らしただけだ。

 

「ハッ! 人間は竜じゃねぇからな。手加減はしたぜ? だいたいあいつ等級Aだったろ? この程度大したことじゃねえよ。それに……ホレ」

 

 フレイが腰の魔導鞄(マジック・バッグ)から自慢げに取り出したのは、液体の入った小瓶だ。

 

 回復剤である。

 

 それも、ひとたび振りかければ内臓がまろび出るような致命傷すらたちどころに癒す、最高ランクのヤツだ。

 

「ハハーッ! 当てが外れたなァ、魔物使い野郎。コイツがある限り、テメーの策は完ッ璧に無効なんだよ!」

 

 無効なのか? それは……

 

『『『…………ッ!?』』』

 

 心なしか、使役されているはずの冒険者たちが怯んだ気がする。

 

「オラ、どんどん来いよ! お前の傀儡、全部オシャカにしてやんよ! ハハッ、意外とこういうケンカも楽しいじゃねーか!」

 

 およそ味方とは思えない啖呵を切りながら、フレイが心底嬉しそうな声を上げている。

 

「こ、この人でなしめえええェ! ならば、俺にだって考えが……ぐ、ぐあ……!?」

 

 魔物使いが覚悟を決めたのか、さらなる冒険者たちをけしかけようとした、その時だった。

 

「あ、頭が……割れる……ッ! がああぁぁっッ!?!? ち、力が……逆流するッッ!?!?」

 

 急に頭を抱え、苦しみだす魔物使い。

 

 同時に、操られていた冒険者たちが糸が切れたかのようにバタバタと倒れ始めた。

 

「おい……? どうしたんだよお前、大丈夫か?」

 

 肩透かしを食らったフレイが逆に魔物使いを心配している。

 

「ぐ、ぐああああぁっ!?」

 

 苦悶の声を上げながら、のたうち回る魔物使い。

 

「あれは……!?」

 

 見れば、魔物使いの背中がボコボコと蠢いている。

 

「おい、なんか暴走してるぞ」

 

 フレイが呟く。

 

「がはっ」

 

 そうこうしているうちに、魔物使いの背中から腕が突き出てきた。

 

 赤黒い、巨大な腕だ。

 

 ごぼっ。

 

 さらにもう一本。

 

 ごぼっ。「がっ!?」

 

 ごぼっ。「ぎゃあっ!?」

 

 ごぼっ。「うがあぁっ!?」

 

 魔物使いが悲鳴を上げるたび、背中から生える腕が増えていく。

 

 すでに蜘蛛の足よりも多い。

 

 そして……周囲に、強い瘴気が漂い始めた。

 

 先ほどまで感じていたものよりも、濃密で粘りつくような瘴気だ。

 

「……ブラッド」

 

「ああ」

 

 カミラが土の魔術を解き、こちらに視線を送ってくる。

 

 険しい表情だ。

 

 この瘴気と、肌に感じるピリピリとした緊張感。

 

 俺には、覚えがある。

 

「あれは……おそらく邪神だ。どういう訳か分からんが、あいつ、邪神に内部から食われかけている」

 

『オオ……オアァ……ロオオオオオオオォォォォーーーー!!!!』

 

 ついに魔物使いの姿が、肉の腕に呑み込まれ見えなくなる。

 

 代わりに姿を現したのは……身体中から長い腕を生やした、異形だった。

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