プロジェクト東京ドールズ:外伝 『忘却のイミテーション・ドール』 作:やさぐれショウ
ピグマリオン討伐が完了したDolls一行は、ノドカとSと名乗った翔と共にドールハウスへ帰還した。観測室に入ると、斑目とカナ…そして、見慣れない女性の姿があった。名前は『
「−−というわけで、本日より研修生としてDollsに加入することになりました。『ノドカ』です。」
祥子がノドカを紹介すると、ノドカは「よろしくお願いします」と言いながらお辞儀をした。すると…
「…やり直せ。」
…と、翔が声を上げた。
「それじゃあ相手に声が届きにくいだろ。よろしくお願いしますの後にお辞儀をするんだ、これ常識だぜ?近くにいるあんた、コイツの保護者なのかは知らんが…仮に保護者を名乗るのであれば、我が子に常識を叩き込んでおけ。」
翔の言葉を聞いた祥子は、ニコッと笑う。
「えぇ、貴方の言う通りね。さぁノドカ、もう一度挨拶して?」
「はい、よろしくお願いします。」
ノドカは挨拶の後、お辞儀をした。それを見た翔は、小さく頷く。その後、斑目は翔をメンバー達に紹介する。
「我がドールハウスに、新たな研修生が加入した。名前は……」
「俺はS、よろしく。」
翔は『S』という仮名を名乗り、メンバー達にお辞儀した。
「翔く…んんっ、Sさんはマスターの代わりにDollsと任務の同行、マネージャー業務、事務作業、その他諸々の作業を担当していただきます。」
(…コイツ、わざとやってんのか?)
翔は思わず口を滑らせそうになったカナを睨みつける。
(10人目のドール…私の後輩……)
ノドカを見るサクラ。彼女にとって、ノドカは後輩になる人物だ。
「ねーねーカナちゃん、Sさんって翔さんなの?」
「えっ!?」ドキッ
唐突なヒヨの質問に、明らかに動揺するカナ。
(隠すならちゃんと隠せよ…ったく、使えねぇなコイツ……)
すると、ヒヨの言葉を否定したのはアヤだった。
「何言ってんのヒヨ、翔ならもっと優しいでしょ?コイツは明らかに冷たい、冷酷非道よ。」
「それもそっか!!」
アヤの言葉を聞き、すぐに納得するヒヨ。
(随分好き勝手言ってくれたな…まぁ良い、単純な奴で助かったぜ……)
「それじゃあノドカちゃん、ドールハウスを案内しますね。」
カナはノドカをドールハウスに案内する事に…そこに、祥子も同行する事になった。斑目に「丁重に案内しろ」と指示をされ、カナは観測室から退室する。観測室を出る直前、祥子はサクラの方へ振り向くと……
…と言い、退室した。サクラは敬礼しながら、祥子を見送った。
「……。」
(アイツもノドカって奴も、どうにも気味が悪い…ぜってぇ何かあるな……)
最後まで祥子を観察していた翔は、彼女を怪しい人物と予感し、警戒していた。ノドカが退室したタイミングで、ミサキとヒヨが斑目に質問する。
「そこのSという人物はともかく、新メンバー……所長、どういうことでしょう?」
「あの子もヒヨたちと同じ…ドールなの?」
「いいや、残りのギアはドールハウスが厳重に管理している。」
ドールになるには、彼女達の心臓となるオーパーツ『ギア』が必要だ。ギアが適合した者のみ、ドールになる事ができるのだ。
「じゃあ彼女はドールじゃない…?」
サクラの疑問を抱くと、斑目はノドカについて説明を始める。
「ノドカは『デザインドール』だ。」
「…そのデザインドールと、コイツらの違いってのは……ギアを挿し込む事で誕生するのがドール…デザインドールは、何らかの実験でギア無しでドールと同等の力を得たってか…?」
「その通りだ、しょ…んんっ、S。」
(この野郎……)
翔の言葉を肯定する斑目。彼女も口を滑らせそうになり、翔はあからさまに不機嫌な態度になる。
「で?ノドカの近くにいたアイツ、どこかしらの国家所属の野郎なのか?」
「小山内 祥子は『特疾研』所属の者だ。ノドカもその特疾研入りの新技術の産物らしい。」
「人工的に創られた国家兵器ってわけね。」
「それを創った『特疾研』って確か−−」
斑目曰く……特疾研とは、ピグマリオン被害者の治療研究機関である。過去に、ドールハウスとギアの取り合いで衝突があり、その影響でこちらを敵対視している。ノドカに付き添っていた小山内 祥子は特疾研室長で、ドールハウスのピグマリオン対抗戦線に割って入るつもりらしい…とのことだ。
(やっぱりなぁ…あの目は友好的な目ではなかったからな……)
翔の予感は見事的中…人間不信の彼は、根っからの悪人を瞬時に見抜く事ができるのだ。
「要するにノドカさんは特疾研が用意したジブンらへの対抗馬、いわばライバルってことっすね。」
「だけどギアなしでドールを生み出すなんて…一体どうやって……」
「詳細は一切不明だ。記憶や感情は正規のドールと同様、ほぼ完全に喪われているらしいが…実際のところはどうだかな。」
色々疑問があるが、斑目は注意事項をメンバー達に告げる。
「デザインドールについては急ぎ調査させる。君たちはノドカの行動に最大限注意を払え。」
斑目の言葉に、サクラが再び疑問を抱く。
「注意…?でもノドカちゃんはDollsに加入する…仲間ですよね?」
「いいえ。」
サクラの疑問を否定するように、ナナミはこう言った。
「スパイかもしれませんよ?特疾研がドールハウスを出し抜くための…ね。」
ナナミの言葉を聞き、ビックリするサクラ。
「ナナミ、言い過ぎよ?」
「…失礼しました。」
レイナに注意され、謝罪するナナミ。しかし……
「俺もメガネと概ね同じ考えだ…仲間とはあくまでも表面上の肩書……小山内って奴、ドール達のギアを狙ったりしてなぁ…?」
翔がそう言うと、レイナは翔を睨みつける。
「…S、貴方…!!」
「何だよ金髪、俺は俺の意見を言っただけだぜ?文句があるなら言えよ、なぁ?なぁ?」
段々喧嘩腰になっていく翔を斑目が宥める。
「S、そこまでだ。」
「…ちっ、勝手にしろよ。」
翔は不服そうに舌打ちし、大人しくなった。
「まぁでも、斑目さんやナナミの言う事もわかるよ。正体不明の研修生を押し付けられてこれからよろしくなんて……」
「アヤさん……」
「でも!加入が決まった以上、DollsはDollsだからね!!」
アヤの言葉に便乗するサクラ。
「わ、私も…そう思います!!」
サクラは続ける。
「記憶や感情を失って、戦場に立つこの辛さは…私達が1番よくわかってあげられるんじゃないでしょうか?それに、ここで一緒に暮らしてアイドル活動するなら…どんな事情であれ、大事なメンバーです。もしここにマスターがいたらきっと同じように……仲間として受け入れようって言うはずです!!」
「そうだよ!!ヒヨもあの子となかよくなりたいよー!!」
ヒヨもサクラと同じ意見であるようだ。
「全く貴女は…」
そんな2人に呆れるミサキ。
「あたしもサクラと同意見よ。」
アヤもサクラの近くに移動しながら言う。そんな彼女達を見て、レイナも次第に納得していく。
「……そうね。私たちは今までもそうやって新しい仲間を受け入れてきた。」
「でも、Sはちょっと…ね……」
だが、アヤは未だにSと名乗る翔を警戒していた。そもそも、メンバー達はSが翔である事を知らないのだ。その為、見知らぬ男である彼に警戒する者がほとんどである。それでも、翔は全く動じない。
「…勝手にしろと言った筈だが?」
「言っとくけど、覗きとか付き纏いとかしたら速攻で通報するわよ!?」
「そんなくだらねぇ真似しねぇよ…」
「どうでしょうね?ここは美女達の楽園、オ・ト・コの貴方にとってパラダイスなのでは?」
「笑わせるな、寧ろその逆だ…」
アヤやナナミからの攻撃をのらりくらりと躱す翔。
「ホントに覗かないんすか?」
「あぁ、興味がねぇからな……」
ニヤニヤするヤマダに、翔はため息をつきながら言う。
「これだから女は嫌いなんだ…てか、さっさと話を終わらせろ。時間は有限、無限じゃねぇんだよ……」
シオリは斑目の前に出て、交渉を始める。
「戦闘についてはご指示に従います。ですが寮内のこと、アイドル活動については、私たちに任せていただけないでしょうか?」
「…やれやれ、その調子では何を言っても聞かんだろうな。」
斑目は少し考え、メンバー達に言う。
「ノドカはチームA預かりとする、頼んだぞシオリ。」
「……わかりました。」
シオリの後ろで、サクラは微かに嬉しそうに微笑んだ。
メンバー達が観測室から退室し、完全に彼女達の気配が消えた頃…翔は黒いマスクを外す。
「…ったく。」
「ご苦労だったな、翔。」
「なぁにがご苦労だ…おいコラ所長さんよぉ、口滑らせたらどうなるか分かってんのかこの野郎?てかわざとか?わざとやってんのか?どうなんだ、あぁ?」ゴゴゴゴゴ……
「…す、すまない……」汗
斑目の胸ぐらを掴み、ネチネチ文句を言いながら詰め寄る翔。汗をかきながら謝罪する斑目。
「後は、あのへっぽこヘッドフォン……戻って来たら、覚えてろ?」
(……頑張れ、カナ……)