プロジェクト東京ドールズ:外伝 『忘却のイミテーション・ドール』   作:やさぐれショウ

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陸 縮まる距離

歓迎会から次の日が経った今…ダンスレッスンでは、ノドカは結構踊れていた。物覚えも良く、サクラも見惚れてしまう程だ。

 

「見惚れてねぇで合わせろ。」

 

「あっ、はい!!」

 

翔の言葉を聞き、慌てながらもレッスンについて行くサクラ。普段の翔は、Dollsの前で顔に黒いマスクを身に着け、正体を隠している。

 

「ノドカさん……ダンス経験があるんでしょうか?」

 

「初めてとは思えないわね。基礎は完璧…」

 

「だけど……」

 

何やらロボットダンスのように踊るノドカを見て、クスッと笑うシオリ。

 

「あの体操みたいな踊り、入ったばかりのころのどなたかにそっくりですよ♪」

 

「よ、余計なこと言わないで…!!」

 

ミサキの反応を見て、「ふふふ♪」と笑うシオリ。

 

「翔さんに笑われたら、どうするのよ……」

 

「……。」

 

『翔』という言葉が出た瞬間、先程まで笑顔を見せていたのが嘘のように…悲しそうな顔をするシオリ。

 

「…あの、Sさん?」

 

「……?」

 

シオリは翔に話し掛けると、こんな質問をする。

 

「Sさんって、ひょっとしたら……翔君だったり、しますか?

 

「バカ言ってんじゃねぇ…」

 

シオリの質問を速攻で否定する翔。

 

「見ろ。仲間がこんなに頑張ってんだ、そんな顔してんじゃねぇよ…」

 

翔は頑張るメンバー達を見守りながら、ミサキとシオリに言う。その時、サクラが足を滑らせて転倒してしまう。翔はため息を着き、サクラに声を掛ける。

 

「大丈夫か?」

 

「あ、Sさん…すみません。」

 

「慌てなくて良い、お前のペースで良いんだ…さぁ、立て。」

 

「…はいっ!!」

 

翔の言葉を聞き、立ち上がるサクラ。

 

(頑張らなきゃ…ノドカちゃんと仲良くなるためにも!!)

 

後半からは挽回出来たようで、上手く踊れていた。翔は、ノドカがサクラに視線を向けているのを見逃さなかった。ダンスレッスンが終わった後、シオリが翔にまた声を掛けて来た。

 

「Sさんは、ダンス得意なんですか?」

 

「出来るに決まってんだろ。」

 

迷うこと無く質問に答える翔。

 

「じゃあ、実際に踊ってみてください。口だけなら何度でも言えますよね?」

 

「…良いだろう。」

 

「では、Sさんには〜…これを踊って貰います♪可愛い曲ですが、上手く踊ってみてくださいね?」

 

シオリが選択したのは『すー◯ー☆◯ふぇ◯しょん』というアニソン、しかもフルバージョンだ。翔はマスクを着けたまま、配置に着く。そして、曲が流れ始めると、メンバー達にダンスを披露してみせた。

 

「「「!!??」」」

 

ノドカを除く、チームAのメンバーは目を丸くしている。踊っている翔は無表情だが、全くブレず、よろける事も無く、一つ一つの動作全てがキレキレだった。

 

(え、Sさん…カッコいい……!!)

 

(全ての動きに、無駄が無い…彼も、ダンス経験者なの?)

 

(ビックリです、Sさんの方が私達よりレベルが高いかもしれませんね…!!)

 

やがて、3分32秒の曲が終わると同時に、翔は踊り切った。思わず拍手をするチームAの3人。

 

「…これで満足か?」

 

「はい、とっても良かったです♪でも、表情が硬かったですよ?」

 

「んなもん知らねぇよ。」

 

「あの、Sさん…もし、よろしければダンスが上手くなるコツを教えていただけませんか?」

 

「俺が教えるとでも思ってんのか?自分で考えろ。」

 

「貴方、それでもマネージャーですか?」

 

「泣きつく前に、まずは己の脳ミソで考えやがれ。どうしてもわからねぇってんなら教えてやっても良いぜ?」

 

そう言うと、翔はレッスン場から退室した。その後、チームCとの巡回に同行し、チームBのモデル業に同行し、ドールハウスに戻り次第事務作業をこなした。

 

「ふふっ、翔君は物覚えが良いですね♪」

 

「口を滑らせるなと言った筈だが……」

 

「う、すみません……」汗

 

「ま、今Dolls(アイツら)はここに居ねぇし、近くに気配も感じねぇから良いが……」

 

仕事の関係上、カナの方が翔より立場は上なのだが、そんなのは彼には関係ない。立場が上の者に対しても、敬語を使う事は無く、言いたいことは躊躇無くズバズバ言う。そのため、すっかり立場が逆転してしまっていた。やがて、1日の業務も終了し、翔は自室へと戻って行った。着いて来ようとするカナを睨み付けると、彼女は着いて来なかった。

 

(今Dolls(アイツら)に気付かれたら終わりだと思っておこう…ったく、シオリもユキも時より探りを入れて来やがって…マジ勘弁してくれよ……)

 

自室に来ると漸くマスクを外し、素顔を晒すことができる。この部屋には監視カメラも無ければ、盗聴器も無い。周囲の壁は防音壁であるため、何も気にする必要はないのだ。いつものように夕食を作り、シャワーを浴び、再び部屋に戻って来る。

 

(…ちょいと夜空でも見るか……)

 

特に何もする事が無く、退屈だと感じた翔は…マスクを着けると自室から出ていった。

 

 

その頃、女子寮では……

 

「はぁ〜〜〜〜……」

 

リビングにて、サクラは1人ため息をついていた。

 

(あんまり上手く踊れなかった…むしろ、ノドカちゃんの方が上手だったよ……Sさんはもっと上手だった……)

 

Dollsに入って間もない彼女は、ダンスが苦手であった。新人のノドカの方が上手く、更には翔のダンスを見て、すっかり落ち込んでしまっていた。しかし、そんな彼女にも強みがある。それは……

 

(でも大丈夫!!家事なら得意だから距離も縮められるはず!!)

 

彼女は家事が得意であり、先輩メンバー達も大助かりする程である。また、どういう訳か掃除がプロ並みであり、メンバー達からは『掃除番長』という異名が着けられている。

 

(でもノドカちゃん“命令”じゃないと一緒にやってくれないからなぁ……)

 

まず、得意の家事を通じてノドカとの距離を縮めようと考えたサクラだったが…ノドカは命令をされなければ動かない。

 

「何かいい方法無いかなぁ…ん?」

 

ふと、リビングの壁に貼られている当番表が目に入る。

 

(当番表!!これだ!!)

 

良い方法が見つかったサクラは、明日…もう一度ノドカと仲良くなる作戦を実行する事にした。

 

(今日は外も晴れているし、星でも見に行こう……)

 

そして、星空を見るため、屋上へと足を運んだ。屋上に着くと、既に先客がいた。

 

「あ、Sさん。」

 

「…満開野郎か。」

 

「ま、満開野郎…?」汗

 

サクラに背を向けたままの翔。そんな彼から変な呼ばれ方をされ、困惑するサクラ。

 

「それって、私の事ですか?」汗

 

「他に誰がいんだよ?それより、お前も夜空を見に来たのか?」

 

「はい。」

 

翔の隣に移動するサクラ。少しだけ沈黙があったが、翔がそれを破った。

 

「…どうだ、新人とは仲良くなれそうか?」

 

「はい、大変ですけれど…まずは一緒に家事をして、少しずつ距離を詰めていこうと思ってます。どう思いますか、Sさん?」

 

「お前が決めた事だろ。お前が良いと思うなら、それで良いんじゃねぇか?」

 

普段はDollsに対し、冷徹に接している翔だが…サクラにとって、今の彼はどこか冷たいとは感じなかった。

 

(Sさん、本当は悪い人じゃない気がするなぁ……)

「Sさん、少し話をしませんか?」

 

「俺と話をするだと?構わねぇが、1つ条件がある。この事は他言無用だ、それを誓うなら相手になろう。どうだ?」

 

「はい、わかりました。」

 

サクラの目を見て、少し黙り込む翔。

 

(嘘はついてねぇな、なら……)

 

すると、翔は顔に身に着けているアスクを外し、サクラに素顔を見せた。

 

(マスクを取った…これが、Sさんの素顔……)

 

「んで、何を話すんだ?」

 

「…えっ、あぁっ!?えっと、その……」

 

「ゆっくりで良い、話してみろよ……」

 

サクラは悩んでいる事を、翔に話し始めた。

 

「私、まだDollsに溶け込めてなくて…歌もダンスも苦手で、いつも足を引っ張ってしまって……早く1人前にならなきゃって、思うんですけど……中々、難しいんです……」

 

「…そうか。」

(コイツは、中々自分に自信を持てねぇ性格だからなぁ…自虐すんのも、無理ねぇか……)

 

サクラの話を聞いた翔は、ゆっくり話し始める。

 

「辛いか?」

 

「…いいえ、辛くは……ない、とは……」

 

「別に無理しなくても良い…辛くて当然だ……けどな…俺はお前を高く評価しているぜ?」

 

「へっ!?」

 

「お前が頑張っている事は、俺も知っている。今日のレッスンでは転んでも、すぐに立ち上がったろ?その後は挽回出来てたじゃねぇか……それは、お前が成長している証だ。自信持って良い…」

 

そして、サクラに微笑んで見せた。

 

「お前の思い、ノドカ(アイツ)に届くと良いな……」

 

「Sさん…ありがとうございます…!!」

 

その時……

 

「サクラー!!夕飯出来てるわよー!!」

 

屋上のドアが開き、アヤがやって来た。

 

(え、Sさん…素顔が…!!)

 

「って、ちょっとS!?アンタ、サクラに何をしたのよ!!」

 

「雑談をしているだけだが?」

 

「ホントよね!?サクラ、コイツに変な事されてない!?正直に言って!!」

 

「いつの間にマスクを!?ち、ちが…変な事なんて、されてないです…!!ただ、悩み事を聞いてもらっていただけで…その……」

 

何故か頬を赤くし、ゴニョゴニョと口籠るサクラ。

 

(おいおい、しっかりしろよな…)

 

「サクラ!?Sゥ〜、あんたねぇ!!アタシの大事な大事な後輩になんて事してくれたの!?ちょっとそこに座りなさい!!座れ!!正座!!」

 

(っせぇな……)

 

時刻は19:30、夜である。あまりにもアヤの声がデカい為、次第にイライラし始める翔。そして……

 

 

まずテメェが静かにしろよ…?

 

 

…と、ドスの効いた重く低い声を出した。

 

「「ひっ!?」」

 

アヤは思わずビビったが、何故か近くのサクラもビビっていた。

 

「今何時だと思ってんだ?折角夜空を見てたってのに、テメェがギャーギャー騒ぐせいで雰囲気台無しじゃねぇか…飯ならさっさと食いに行けや……」

 

「ご、ごめんなさ〜〜い!!」

 

あまりにも圧が凄い翔に恐怖を感じたアヤは、全力疾走で去って行った。

 

「え、えっと……Sさん、ありがとうございました…!!し、失礼します……!!」

 

サクラは翔にお礼を言った後、お辞儀をして去って行く。

 

(サクラは多分、上手くやっていけるだろう……アヤは相変わらずうるせぇ…)

 

1人になった翔は、再び夜空を見あげる。

 

(北斗七星か……いつ見ても幻想的だ……)

 

夜空に北斗七星を見つけ、それを眺める翔。

 

(思えば、俺がDollsの世界に来た頃…夜空には北斗七星が輝いていたな……)

 

北斗七星を眺めた後、翔は自室に戻り、眠りにつくのであった。

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