Lupin The Fake〜ルパンという名の生徒 作:Another2
夜も更け方、猫すら寝静まったであろう夜陰の隅、怪しく動く人影が一つ、それは大きな袋を身体に身につけ建物の壁を物音立てずにまるで滑るかのように降りてゆく。
人影が地面に降り立つと同時に建物全ての明かりが灯され一瞬にして騒ぎが大きくなる、その間にも人影は建物から既に遠く離れており、フェンスをまるでハードル走のハードルを飛び越えるかのように二つ、三つと飛び越えていき事前に用意していた車に乗り込む。
ここで漸く追手が建物から飛び出し車に向けて発砲するが距離がありすぎるのか一発も当たることはない、ならばこちらも車で追おうとするのだがどの車も故障を起こしたのか一台とて走り出すことはなく、一台のボンネットが開き中には一枚の紙が貼られてありこう記されていた。
明け方も近く、高速道路を走る車が一台、中からは笑い声が絶えず聞こえてくる。
「くぅ〜!ナンバー不揃いで20億はあるぞぉ‼︎札ビラのシャワーだ!……ってな」
紡がれる言葉は一人、車内の人影も一つ、本来仲間となる凄腕ガンマンはおらず、また、斬鉄を極めたお侍の姿もない、故に単独での犯行というわけだ。
「まぁ、ゴート札じゃねえのが幸いな所かね、この世界にカリオストロ家があるかどうかは知らねえけども」
しかしそれでも彼女は盗みを働くことをやめない、世間一般では悪行でありそれを行う彼女は悪党ではあるのだけど。
誰でもいいわけじゃない、ただ金を持ってたから盗んだわけじゃない、彼女が今盗んだ金は世間的に言えば表立って言えないような経路で流されてきた物、謂わば不当な金と言われる代物、ならばその金を悪党がどうしようが世間は特に気にならないのだ。
そうして今回も難なく追手を振り切った彼女は悠々とアジトへ戻っていくのであった……
「なになに……連邦生徒会長の失踪、これに対して連邦生徒会は未だ声明をあげず……かぁ〜っ‼︎どこもかしこも同じ情報ばかりだねぇ、情報は鮮度が大事だってのに、さぁてと、最新の情報は〜?」
携帯端末の画面を閉じ、別の個人端末を開く、彼女特有の改造が施されたオリジナル製品だ、故にセキュリティは万全、仮にミレニアムが誇るハッカー軍団がこの端末をハッキングしようとしても余程のことがない限りは突破出来ないだろう。
「おぉおぉ出るわ出るわ表沙汰になってない情報が、矯正局から囚人が脱走……あらら、何やっちゃってんのカンナちゃん達はよぉ、まぁこれでちょっとスリルが増えたって考えりゃあプラスかねぇ、それに……?連邦捜査部S.C.H.A.L.Eの立ち上げ……なんだこりゃあ、担当は外から来た大人の先生ぃ?」
その端末に記されているのは未だ表の世界に情報として発信されていない物ばかり、それらを値踏みするかのように読み漁っていく。
「ふぅん?連邦生徒会長ちゃんが選出した大人……ねぇ?ちょ〜っとばかり興味が出てきたかな?こりゃあ次の仕事は決まったぜ、なら早速準備と行くかぁ!」
シャーレの部室にて、つい先日就任したばかりの先生は一先ず仕事に慣れる為の段階としてキヴォトスの資料を読み耽っていた。
“う〜ん、覚える事が沢山だ”
そう口から溢れる物の本人からは特に苦労の色は見えない、見えはしないが好き好んでやるかと言われたらそうでもなく、ただそれが役目故にやっているだけ、要は大人としての責任を全うしているだけなのだけど。
すると突然部屋のドアが開く、入ってくるのは当然生徒だろう、しかし当番制度は発案されたばかりでまだ募集に応じた生徒の数は少ない。
就任して翌日に部室に押しかけてきた例外も居るには居るが。
それはそれとして、要はこんな早くに募集を受けてくれる生徒に心当たりが……まぁないわけでもないが彼女は仮にも指名手配犯なのもあって余り目立つ行動はしない筈、ならばこの入室者は誰か?
「必要最低限の防犯設備は備えていた方が今後の為ですよ、先生殿?」
そこには青いジャケットに上下の黒スーツを決めた人物がいた、頭にヘイローを浮かべている事から生徒なのだろうが、一見すると男のようにも見えてしまう。
“……まぁ考えておくよ、とはいえ生徒の来訪を拒む理由はシャーレにはないんだけどね?”
「おやおやおや、これはまぁなんてお優しい御言葉、一般的な生徒なら嬉しさの余り走り出してしまいそうだ……だけど俺はそうじゃない、俺の今回の目的は先生……つまりはアンタなんだからな、さてこの俺の目的はなんでしょうか?」
“身代金?じゃあなさそうだよね、服装がしっかりし過ぎている、お金に困ってるわけじゃなさそうだ、命でも取りに来た?それも多分違う、それなら音を立てず声を掛けずその腰にぶら下げた銃の引き金を引けばいい、でも君はそうはしなかった……んー、降参とか受け付けてる?”
「いいねぇ、目の付け所と頭の回転は悪くない、降参はもうちょっと考えてからでも遅くはないぜ?お互い時間はたぁっぷりとあるんだからよ」
“うーん……身のこなしからして、泥棒……とか?それで何かを盗みに来たって所かな?でも私に用があってきたんだよね?態々見つかりに来る必要も無い、だとするなら……キヴォトスの外から来た大人に興味が湧いた……かな?”
「こいつぁたまげた大当たりだぜ、テストの解答なら100点あげても良いくらいだ、そう、俺は泥棒、本来なら人知れず侵入して物を盗むのがお仕事な訳よ、だけど今回の仕事はちょっと違う、あの連邦生徒会長が任せた大人ってのに興味が湧いた、噂だけじゃあ人は動かない、だから実物をこの目で見に来た訳よ」
“……其れ等の情報はまだそこまで広まって無いはずなんだけどね”
「この俺の情報力を舐めちゃあいけねえ、情報収集を怠る悪党は居ねえってな?」
“ところで君の一人称と口調だけど……念の為に聞くね?生徒で、女の子……だよね?”
「ん、そだよ、まぁ一人称と口調の事は気にしないでくれや、これが俺なんでな、自己紹介が遅れたな、改めて俺の名はルパン、泥棒さ」
“宜しくルパン、私の事は気兼ねなく先生と呼んで欲しいな、その方がお互い気が楽そうだ”
「本名は明かさねえって訳ね、悪党に対しての対応なら完璧だ、名前ってのはそいつの全てが詰まってる物だからな、んで、どうする?警察にヴァルキューレにでも突き出すか?」
“そんな事はしないよ、まだ現行犯じゃないしね、それにこれは感だけど、君を牢屋に入れたところで意味がない”
「ほほぉう?その理由は?」
“直ぐ
「クッ……ハァッハッハ‼︎こりゃまたまた大正解‼︎そりゃそうだこの俺の手に掛かればあんな牢屋すぐにでも脱出出来る、イタチごっこってのは正にこの事だわな」
無法者の泥棒と秩序者の先生という相反した存在が、今こうして和気藹々として話しているという違和感、泥棒側は先生側の腹の内を探ろうとしているように先生側も泥棒側の真意を探ろうとしている、とはいえこれ以上やっても平行線なのだが。
「はぁ、まぁいいや、これ以上長居しても仕方ないしな、あそうそうそれから……あんまし悪人に気を許しちゃいけないぜ?生徒が大事なのは分かるが棲み分けはしないとな」
“悪人であれ生徒なら私は大事にするよ、断言するけど君は悪人ではあれど非道じゃない、外道であるかどうかは……まぁちょっとわかりかねるけどね”
「物好きなこって、後これだけはいうが俺は間違いなく外道の類だよ、泥棒なんだからな」
“ルパン”
「どったの?」
“またいつでもここに来ていいからね、シャーレは生徒の来訪を歓迎するから”
「ククッ、泥棒の来訪を歓迎するたぁ見上げた根性だ、良いぜ、暇になったらまた来てやるよ」
これはキヴォトスに於いてシャーレが設立されてから存在したかもしれないお話の一幕。
続きません。