Lupin The Fake〜ルパンという名の生徒   作:Another2

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偽札の流通を阻止せよ

 ブラックマーケットの外れにて、五人の生徒と一人の大人が一走りしていた、この文字列だけ見るとなんら違和感はないご今現在に至っては場所と生徒達の格好が違和感でしかない、生徒達は一人残らず覆面を──一人は紙袋だが──を被りブラックマーケットから離れ走り続ける。

 

「はひー、息苦しい、もう脱いでいいよね?」

 

「のんびりしてられないよー急げ急げ、追っ手がすぐ来るだろうからー」

 

 完全に離れ切った訳ではないとはいえ追っ手を撒いた一行──アビドス高等学校の生徒達──一人違う者も居るが──は覆面を脱ぎ去り一息入れようとしていた。

 

「できるだけ早く離れないと……間もなく道路が封鎖されるはずです……」

 

「ご心配なく、万全の準備を整えておきましたから⭐︎」

 

「こっち、急いで」

 

 各々覆面を脱いでいく中唯一人、砂狼シロコだけは最後まで覆面を外さず指摘されるまでずっと装着していた。

 

「天職を感じちゃったって言うか、もう魂の一部みたいなものになっちゃって、脱ぎたくないんじゃなーい?」

 

「シロコ先輩はアビドスに来て正解だわ……他の学校だったら、ものすごい事をやらかしてたかも……」

 

「そ、そうかな……」

 

「そうは言っても覆面も中々良いもんだぜ?とはいえ長い時間被ってたら本当の自分を見失っちまうがな」

 

 さりげないやり取りを行う小鳥遊ホシノ達の会話に割り込む新たな声、ここにいる生徒の中でこの声を聞いた事がある人物は一人もいない。

 

「ッ⁉︎誰⁉︎」

 

 いつの間にか、ほんの少しの気の緩みが生んだ微かな隙、否隙とも呼べるか怪しいが確かに存在したそれをソイツは見逃さない。

 黒いスーツに身を包み青緑のジャケットを羽織ったその生徒を知っているのはこの場においてただ一人。

 

“……ルパンか‼︎”

 

「よぉぅ先生ご無沙汰、久方振りの再会に熱く語り合いたい所だが生憎と今はそうは行かねえ、アンタ等が走って来た方角から察するにブラックマーケットから走ってきて覆面までしてるとなるとそのカバンの中身はおおよそ検討は付く、まぁちょっと改めさせてくんな」

 

「ちょっと何を勝手に‼︎」

 

 声を荒げるセリカを尻目にルパンはシロコからカバンを取り上げ脇目も振らずに中身を確認する、その中には大量の札束が詰められていた。

 

「……へ?なんじゃこりゃ⁉︎カバンの中に……札束が……⁉︎」

 

「うえええええっ⁉︎シロコ先輩、現金を盗んじゃったの⁉︎」

 

「ち、違う……目当ての書類はちゃんとある、このお金は、銀行の人が勝手に勘違いして入れただけで……」

 

 何やら手違いで現金を盗み出した様ではあるのだが、ホシノが軽く計算してみたところ1億近く入っており彼女の口振りから5分でこれだけの金額を盗み出したらしい。

 それはそれとして彼女達の本来の目的の代物も中に入っているので目的は達成されているわけなのだが。

 

「あぁらま、5分で1億?素人にしちゃこりゃまた偉く稼いだじゃないのって本来なら言いたい所なんだが、生憎とこの金は渡せねえ、確認してみてそれがよくわかった」

 

「なんで⁉︎このお金は私達が稼いだお金よ‼︎私達はそれを犯罪組織の手に回る前に取り返しただけ‼︎」

 

「いやまぁその辺に関しちゃ俺はノータッチだしその話を聞かされちゃ俺としても大変心苦しいとは思うぜ?これが()()だったらコイツの処遇はそっくりそのままアンタ等に任せるさ」

 

「……()()だったら?一体どういう事?」

 

「……偽物だよ、よぉくできちゃいるがな」

 

 偽物、棚ぼた的とは言えブラックマーケットで最も大きな銀行から盗み出した現金、それが偽物だとルパンは言う、そう言われて他の生徒もそのお金を、自分の財布の中にある本物のお金と比べて確かめるが誰もが真贋の区別が付かず唸り声を上げている。

 

“ルパン、キヴォトスを股に掛ける君の事だ、その発言は確かな物なんだろう、だけど私の目にはこの偽札は本物と区別がつかないレベルの代物と言っていい、特に円の偽造はかなり難しい筈”

 

「……本当は巻き込みたくねぇんだがまぁ図らずしも首を突っ込んでる訳だしな、良いぜ、説明してやるから先に場所を変えよう、ここはブラックマーケットから離れてるとは言えまだ安全圏じゃねえからな」

 

 ルパンからそう促され一行はアビドス高等学校の校舎へと戻るのだった。

 

 

 ルパンの提案によって場所を街中からアビドスの校舎に変更して机の上に広げられた札束をひとしきりに確認するルパンを横目にアビドスの生徒達はシロコから手渡された取引書類の内容を確認して絶句していた。

 なんと借金の取り立てで回収した金をアビドスを狙うヘルメット団等の犯罪組織に活動援助として資金提供を行なっているのが発覚したのだ、それはつまり借金を取り立てなければならない立場の組織がその取り立てる学校を潰そうとしているという事なのだから元も子もない計画だ。

 

“それでルパン、そっちの方は?”

 

「おう、全部(ぜぇんぶ)綺麗さっぱり偽物だったわ、全く手の込んでる事だ」

 

「ルパンさん、貴方はキヴォトスでも屈指の大泥棒で世間一般でいうところの悪党です、そのお金を自分の物にする可能性がある以上完全に信用することは出来ません」

 

 ルパンの鑑定結果に異を申し立てたのはノノミだ、彼女はセリカと同じく犯罪者の手に自分たちが苦労した稼いだお金が渡るくらいなら自分たちが使って方が良いと考える人間である。

 それ故にノノミはルパンという悪党に自分達のお金を持ち逃げされるくらいならという気持ちが強いのだろう。

 

「全くもってその通り、どれだけ善行を積み重ねようが俺は世間からの弾かれ者さ、だけどな……だからこそ超えちゃならねぇ一線ってのもわかってるつもりさ、今回のこれはそれを容易く超えちまってる」

 

「一体その偽札は何なのでしょうか?ここまで精密に作られた物はそうありません……」

 

ゴート札だよ」

 

「ゴート札……まさかあの幻の偽札と呼ばれた、あの⁉︎」

 

 ルパンのゴート札という単語に目敏く反応したのはノノミとトリニティに所属しているヒフミだ、どうやら彼女達はゴート札のなんたらかを知っているらしい。

 

「おやまぁお嬢さん達ったらよぉくご存知だこと、そのゴート札で合ってるよ」

 

「まさかこれが全てあのゴート札だっただなんて……だったらこれは使用できません、すぐにでも処分するべきです」

 

「ノノミ先輩⁉︎ちょっと、そのゴート札ってのは一体なんなのよ‼︎説明ぐらいはしてもいいでしょ⁉︎」

 

 ゴート札と知るや否や即座に廃棄する事を提案するノノミに驚愕するセリカがルパンに説明を求める、ルパンは一つ息を吐いて、漸く言葉を紡ぎ始めた。

 

「ゴート札ってのは昔からキヴォトスの動乱の影に必ず蠢いていた謎のニセ金でな、トリニティの一つの派閥を破滅させ、ゲヘナの雷帝の資金源となり、果てにはミレニアムの経済恐慌の引き金にもなりかけた、歴史の裏舞台、ブラックマーケットの主役……それがゴート札って訳だ、まさかカイザーの手に渡ってたとはな……」

 

 そう言い残すとルパンは札束を纏め上げて自前のカバンに詰め込み始める。

 

“それ、どうするつもり?”

 

「そこのお嬢さんが言った通りさ、捨てちまうのさ、こんな紙屑鼻噛む紙にすら使えねえやな」

 

「この事はティーパーティーに報告した方が良いのでは……」

 

 ヒフミがトリニティにおける生徒会、つまりティーパーティーに報告する旨の発言をするがそれに待ったをかけたのがルパンだ。

 

「言わねえ方がいい、というよりはカイザーがゴート札刷ってんじゃねえかってのは三大校のお偉い方は薄々勘づいてると思うぜ?連邦生徒会の人間だって馬鹿じゃねえしな」

 

「勘付いてた上で見逃してるって事?なんでそんな事を……」

 

 ルパンの指摘に対して疑問符を浮かべたのはシロコである。

 

“……成程、これを明るみにしたら現経済全てが崩壊するから誰も言わないし言えないんだ”

 

「その通り、このゴート札は幸運にもまだキヴォトスには流通してねえ、と言っても銀行に納められてた辺り流通直前ではあるみたいだがな、要するにだ、キヴォトスに数ある企業の中でもトップクラスの大企業のカイザーが偽札作ってたなんて世間に知られてみろ、カイザーの株が底値になって潰れるだけならまだマシ、下手すりゃさっき言った三大校の悲劇がキヴォトス全域にて再現されるぜ、そうなりゃ今の貨幣経済は終わりだ、何せ偽金が混ざってるかもしれないという疑念が浮かび上がっちまった以上もう紙幣が使えなくなる訳だからな」

 

“加えて、各々の学校の思想や教育理念は様々で異なる、だけど組織を運営するためのお金は共通だからね、そもそも貨幣経済ってのは物凄く簡単に言うと発行されてるお金に信用されてるから成り立つ物でそのお金たら紙幣が一切の信用が出来ないとなったら経済は根幹から破綻する、そうなればキヴォトスでは現在のお金は使えなくなる訳だから……”

 

「それを避ける為に敢えて公表してない訳ですね」

 

「そゆこと、にしてもまぁなぁんでこんなことしでかしてるんだか、自分の首閉めてるって気づくぜ?普通」

 

「でも一時は出回ってたんでしょ?それはどうしたの?」

 

「そりゃ各校のお偉いさん方々が必死になってかき集めて処分したさ、だが根本的に処理しねえとまた流通し始める、延々とイタチごっこて訳よ」

 

 ルパンの言うとおり、一旦出回った物を全て処理したとしてもその根幹を抑えられている限り延々と偽札は流通し続ける、全てを絶つには根本を止めねばならないのだ。

 

「そういう訳なんでこの一件は俺に任されて欲しいんだわ、流石に大人の世界のさらに闇深い部分になんも関係のないアンタ等を巻き込む訳にゃいかねえ」

 

「いやー、ここまで聞かされて今更無関係ですってのは無理があるでしょ」

 

「正確に言うなら無関係を貫いてくれた方が俺が動きやすい、あとこの件に首を突っ込んだらこの学校はマジに終わる、俺がここの問題のことを知らねえとでも思ってんのか?カイザーからの馬鹿でかい借金に加えてこの件にまで首を突っ込もう物ならそれこそ向こうは経済力に物言わせてここを潰しに来るぜ、だからこれは警告してやってんのさ、素人が首突っ込むなってよ」

 

 ホシノとルパンが数秒睨み合う、どちらも決して譲れない物があり、どちらも護らねばならない物もある、それ故のぶつかり合いでもあった。

 

“まぁこの一件はルパンに任せてみよう、私達は本来ならこの件には無関係だった人間だ、元々の目的もゴート札じゃないし明らかに1自治区の生徒が抱え込む問題にしては事がデカすぎる”

 

「流石先生、物分かりが良いやな、そうこの問題は自治区に縛られる生徒じゃ持て余すなんて代物じゃない、んだもんでどの自治区に縛られず何処へだろうと自由自在に侵入出来る俺が適切なのよ、何より……お前達堅気の人間をこれ以上巻き込みたくねえ、わかってくれ……頼む」

 

「……分かったよ私としても可愛い後輩達を巻き込みたい訳じゃないからね」

 

 ルパンの懇願するかのような申し出に流石のホシノも退かざるをえない、というよりは納得と自分の中での落とし所をつけたに過ぎない、しかし今はそれで良い。

 仮にホシノが一人であれば否が応でも首を突っ込んだだろう、しかし今のホシノには護るべき後輩達が居る、護る物が存在する者は時として並々ならぬ力を発揮する、我が子を身を挺して守護する親が鬼気迫る迫力を待つように、しかしそれは裏を返せば弱点にも繋がる、どれ程強力であろうと要を抑えられては力を発揮する事はできない、電源を抑えられた機械がうんともすんとも言わないのと同じ事、小鳥遊ホシノにとってシロコ達とはそういう存在なのだ。

 

 そう言ってルパンは札束が入った鞄を背負いそそくさと学校を後にした。

 




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