FAIRY TAIL 〜夢幻の竜を継ぐ少女〜   作:ことのはや

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妖精の進撃

【ルーシィ視点】

 

――ここはマグノリア病院の魔導士専用の入院施設。

その一室には、先日襲撃されたシャドウギアの三人が横たわっていた。

 

ベッドの上で意識もなく、時折苦しげに顔を歪めるジェットとドロイ。

そして、その傍で――

 

レビィは虚ろな表情のまま、天井を見つめていた。

 

乾いた唇が微かに動く。

 

「あ……あ……」

 

意味を成さない言葉を、ただ小さく呟き続けていた。

 

――魂が抜けたみたい。

 

胸が、ぎゅっと締めつけられる。

 

そばにいた医者が、重苦しい声で説明する。

 

「外傷は後遺症なく治療できました。しかし、問題は中身です……」

「何らかの魔法の影響により、精神が抜け落ちたような状態になっている」

 

一瞬、思考が止まった。

 

「……それって、どういうことですか?」

 

医者は険しい表情で、静かに続ける。

 

「こういう症例は、過去にもいくつか報告されています」

「他の街でも、レビィさんたちと同じような症状で倒れた魔導士がいました……」

 

「――いずれも、最終的には物言わぬ廃人となった、と」

 

心臓が跳ねた。

 

「は……廃人に……?」

 

思わず拳を握りしめる。

 

――そんなの、嫌だよ。

 

ルーシィは唇を噛み締める。

 

そして、ふと昨夜のエルザの言葉が脳裏をよぎった。

 

「ファントムの滅竜魔導士……夢竜のネム、か……」

 

エルザの言っていた、“双竜”。

ガジルという鉄の滅竜魔導士が来ていたのなら、ネムも来ていた可能性は高い。

そして、昨夜エルザが言っていた特徴と、レビィたちの状態が一致する。

 

――きっと、そいつの仕業だろう。

 

歯噛みしながら、震える手でレビィの手をそっと握った。

「ドロイ……ジェット……レビィちゃん……」

 

いつも明るく笑っていた仲間が、こんなにも傷ついている。

「酷いことするんだなぁ……ファントムって……」

 

視線を落とすと、握ったレビィの手がかすかに震えていた。

その頼りない温もりが、余計に胸を締めつける。

 

この少女は、自分がギルドに入ったばかりの頃、「小説が好きなんだ!」と笑顔で話しかけてくれた子だった。

 

「いつかルーちゃんの小説の読者第一号になるから!」

――そんな約束をした友達が、今は、虚ろな目をしたまま、弱々しく息を乱している。

 

窓の外に目をやると、そこには、鉄柱が無数に突き刺さったギルドの姿があった。

かつて仲間たちの笑顔が溢れていた場所が、無惨に傷つけられ、痛々しい姿を晒している。

 

ルーシィは、震える唇を噛み締めた。

 

「こんなの……許せないよ……アイツら……!」

 

怒りと悲しみで滲んだ声が、病室に小さく響いた。

 

「また来るね、レビィちゃん……」

 

友の手を名残惜しそうに撫でると、ルーシィはゆっくりと病室を後にした。

 

 

外に出ると、空は鈍色の雲に覆われ、冷たい雨粒が頬を打った。

それに混じって、うっすらと霧が立ち込めている。

 

「……少し、冷えてきたかな?」

 

ギルドへと続く道を歩きながら、ルーシィは小さく息を吐いた。

 

――今頃、みんなは幽鬼の支配者(ファントムロード)に報復へ向かっている。

自分はまだ足手まといだから、ミラとともに留守番を任されている。

 

「……みんな、強いし……大丈夫だよね?」

 

そう不安を抱きながら、ルーシィはギルドへと歩みを進める。

 

これから自分に起こる悲劇を知る由もなく――。

 

 

 

 

 

 

 

ーーーここは、オークの街にある幽鬼の支配者(ファントムロード)の支部。

 

荒々しい笑い声と酒の匂いが充満する広間では、ギルドの魔導士たちが豪快に酒をあおりながら、昨夜の妖精の尻尾(フェアリーテイル)襲撃を肴にしていた。

 

「だっはー!!最高だぜ!!」

妖精(ようせい)尻尾(ケツ)はボロボロだってよ!!」

「双竜の奴ら、そのうえ三人もやったらしいぜ! 今じゃ廃人同然だってよ! ギャハハハハ!!」

「ヒュー! ざまぁねぇぜ!!」

 

そう笑いながら、次々と酒を煽り、盃を打ち鳴らす。

 

その中の三人が立ち上がった。

 

「あ! いけね、こんな時間だ」

「女かよ?」

「まあな。依頼人だけど、脅したら報酬を二倍にしてくれてよぉ! ギャハハハハッ!!」

「俺なら三倍までいけたぜ!」

「言ってろよタコ」

「ギャハハハハ!」

「帰りに俺たちも妖精の羽をむしってくるか?」

「いいねぇ!!」

 

くだらない笑いを交えながら、彼らが支部の扉に手をかけた――その瞬間。

 

ゴッ!!!!!!!

 

轟音とともに、扉が爆発した。

 

「ぐぼっ!?」「ゲハッ!?」「な、なんだァ!?」

 

吹き飛ばされた三人は、そのまま背後にいたファントムのメンバーや机、椅子を薙ぎ倒しながら、壁までぶち当たる。

驚愕と混乱が広がる中、砂煙がゆっくりと晴れていく。

 

そこには――

 

妖精の尻尾(フェアリーテイル)じゃあああっ!!!!」

 

怒りを乗せた声とともに、桜髪に鱗のようなマフラーを巻いた少年が、拳を振り下ろしていた。

その背後には、怒気を纏う老人、そしてギルドの仲間たちが並んでいる。

 

「な、なっ……!?」

 

突然の襲撃に、ファントムの魔導士たちは動揺し、思考が追いつかない。

だが、そんな隙を――ナツ・ドラグニルは見逃さない。

 

「誰でもいい!! かかってこいやぁ!!」

 

怒りに燃える妖精の尻尾(フェアリーテイル)のメンバーたちは、一気に突撃。

怒りの拳を、魔法を、鉄槌を――幽鬼の支配者(ファントムロード)の魔導士たちへと叩き込んでいった。

 

マカロフ・ドレアーは巨大化し、ファントムの魔導士たちを押し潰していく。

潰された男たちは、「バッ……化け物……」と怯えた声を漏らした。

だが、マカロフは怒気に満ちた声で言い放つ。

 

「貴様らはその化け物のガキに手ェ出したんじゃ……!」

 

「人間の法律で自分(てめえ)を守れるなどと、夢々思うなよ!!」

 

ファントムの魔導士たちは戦慄する。

 

「つ、強ェ!!」

「兵隊どももハンパじゃねえ! コイツらメチャクチャだ!!」

 

 

「ジョゼーーーッ!! 出てこんかァッ!!!!」

 

マカロフの怒号が響き渡る。

 

エルザもまた、怒りに燃えながら敵を蹴散らし、ファントムの幹部たちを探していた。

一撃で敵を薙ぎ払いながら、目を光らせる。

 

「どこだ……双竜、そしてエレメント4……!」

 

 

 

 

その頃――

 

高みから見下ろす男がいた。

ギルドの天井に佇み、戦況を眺める影。

 

双竜の片割れ、鉄の滅竜魔導士(ドラゴンスレイヤー)、ガジル・レッドフォックス。

 

「あれが妖精女王(ティターニア)のエルザ……」

 

戦場を駆ける赤い髪の女戦士を見下ろし、ガジルは鼻を鳴らす。

 

「ギルダーツにラクサス、ミストガンは参戦せず……か。舐めやがって」

 

不敵に笑いながら、腕を組む。

 

「だがしかし……これほどまでにマスタージョゼの計画通りにことが進むとはな……」

 

燃え上がる戦場を、まるで無関係のように見渡し――

 

「アイツも標的を確保している頃か……」

 

静かに呟くと、ゆっくりと視線を下へ落とす。

 

「せいぜい暴れ回れ……クズどもが……」

 

冷たく吐き捨てた。

 

――そして、戦場はさらなる狂乱へと飲み込まれていく。

 

 

 

――――

 

妖精の尻尾(フェアリーテイル)の進撃は依然として優勢。

 

そんな中――

 

「エルザ!! ここはお前たちに任せる!!」

 

激戦の最中、巨躯の老人が歩み出る。

 

マスターマカロフ

 

「ジョゼはおそらく最上階……ワシが息の根を止めてくる!!」

 

「……お気をつけて!!」

 

エルザは背中を見送りながら、マカロフの背に静かな敬意を込めた。

マカロフは前を向いたまま拳を握りしめ、一気に駆け出す。

 

戦場は、さらに混沌とした。

マカロフが姿を消した後も、戦闘は激化の一途を辿っていた。

妖精の尻尾(フェアリーテイル)のメンバーたちは怒りに燃えながら、次々と幽鬼の支配者(ファントムロード)の魔導士たちを蹴散らしていく。

 

だが――

 

ゴォォォ……

 

突如、辺り一帯を黒い霧が包み込んだ。

 

「な、何だこの霧は……!?」

「視界が……っ!」

 

妖精の尻尾(フェアリーテイル )のメンバーたちが戸惑いの声を上げる。

一方、幽鬼の支配者(ファントムロード)のメンバーたちは――

 

「こ、これは……!? 逃げろォォォ!!!」

 

悲鳴を上げ、蜘蛛の子を散らすように逃げ出した。

 

「……?」

 

あまりの狼狽ぶりに、妖精の尻尾(フェアリーテイル)のメンバーは戸惑いながらも、戦闘態勢を維持する。

 

そして――

 

シュルルル……

 

黒い霧が渦を巻くように収束し、無数の黒い剣が浮かび上がった。

 

「何……!?」

 

エルザが目を細める。

 

次の瞬間――

 

鉄竜砂刃(てつりゅうさじん)!!!」

 

無数の黒い剣が弾丸のように降り注ぐ。

 

「ぐっ……!!」

「うわああっ!!!」

 

妖精の尻尾のメンバーたちは一斉に散開し、身を守る。

 

しかし――

 

「換装―― 天輪の鎧!!!」

 

鋼の閃光が瞬時に迸り、エルザの鎧が一瞬で切り替わる。

彼女の背後に、無数の剣が展開されていく。

 

「剣たちよ!!!」

 

彼女の号令と共に、無数の剣が一斉に射出され、降り注ぐ黒い剣と激突した。

 

ガキンッ! ガキィン!!!

 

宙で火花を散らしながら、次々と相殺されていく。

 

 

 

「やるじゃねえか、妖精女王(ティターニア)のエルザさんよォ」

 

不気味な笑い声が響いた。

 

エルザが顔を上げると――

 

天井の梁に、逆さの状態で張り付き、こちらを見下ろしている影があった。

 

そして――

 

「ギッヒヒヒヒヒ!!!」

 

ガジル・レッドフォックスが、狩人のような鋭い笑みを浮かべながら降下する。

 

「ならコイツはどうだ?」

 

ガジルが拳を振り上げ、鋭く振り下ろした瞬間――

 

鉄竜棍(てつりゅうこん)!!!」

 

鉄柱へと変化した拳が、エルザ目掛けて一直線に伸びる。

エルザは即座に二本の剣で受け止めようとした。

 

しかし――

 

ズシッ……

 

刹那、異常なほどの重みを感じ、剣を支えきれずに膝が沈む。

 

何かが――おかしい。

 

「な……!? これは……!!」

 

ガジルが薄く笑った。

 

「竜の砂鉄は、あらゆる金属を蝕む……!」

 

エルザの剣の刃が、黒い霧――砂鉄に侵食され、周囲に漂う磁力に引かれて重くなり、まともに振るうことすらできなくなっていた。

 

「何ボーッと突っ立ってんだ!!」

 

ドゴッ!!!

 

その隙を突かれ、ガジルの鉄柱の拳がエルザを真正面から打ち据える。

 

ドシャアッ!!!

 

エルザは吹き飛ばされ、凄まじい衝撃とともに瓦礫の山へと激突した。

 

「エルザ!!」

 

妖精の尻尾(フェアリーテイル)の仲間たちが声を上げる。

 

ガジルが砂鉄を纏う黒い靴音を響かせながら悠然と降り立つ。

 

その姿を睨みつけるように、エルザが瓦礫の中で微かに動く。

 

しかし、エルザが体勢を立て直すよりも早く――

 

彼女を助けようと、アルザックとビスカが咄嗟に動いた。

二人は素早く距離を詰め、ガジルの背後を狙い、魔導拳銃を構える。

 

銃弾魔法(ガンズマジック)台風弾(トルネードショット)!」

銃弾魔法(ガンズマジック)! ホーミングシュート!」

 

二人は迷わず引き金を引く――しかし。

 

カチッ、カチッ……

 

「なっ!? 撃てない……!!?」

 

二人は焦りながら何度もトリガーを引くが、全く反応しない。

 

「クズが……甘ぇんだよ」

 

ガジルが余裕の笑みを浮かべる。

 

「竜の砂鉄はなァ、武器なんざ無力化しちまう……テメェらみてぇに小道具に頼らなきゃ戦えねぇヤツは、そもそも俺様と拳を交える資格すらねぇんだよ」

 

黒い霧が微かに渦を巻く。

 

次の瞬間――

 

鉄竜砂弾(てつりゅうさだん)!!!」

 

周囲の砂鉄が弾丸状に変形し、アルザックとビスカを飲み込むように襲いかかる。

 

ドゴォォォン!!!

 

「ぐぁっ!!!」

「きゃっ……!!!」

 

二人は悲鳴を上げ、そのまま後方へと吹き飛ばされた。

巻き添えをくらったファントムのメンバーも、爆風に飲まれ、全員吹き飛ぶ。

 

「アルザック! ビスカ!」

 

グレイたちが駆け寄ろうとするが、砂鉄の霧が行く手を阻む。

 

「アイツ……仲間ごと……!」

 

エルフマンが拳を握りしめ、怒りを滲ませる。

そんな仲間たちをよそに、ガジルは降り立ち、不敵に笑った。

 

妖精女王(ティターニア)も案外呆気なかったなァ」

 

エルザが瓦礫を押しのけながら、苦々しく睨みつける。

 

「貴様が鉄の滅竜魔導士(ドラゴンスレイヤー)……鉄竜(くろがね)のガジルか……!?」

 

「おうよ。……そんじゃま、トドメといくか?」

 

ガジルが再び手を掲げる。

 

「鉄竜砂弾!!!」

 

黒い霧が無数の弾丸となり、エルザ目掛けて放たれた――。

 

しかし、その瞬間――

 

「ガジルゥゥゥゥ!!!!!」

 

ゴォォォォ!!!

 

轟音とともに、燃え上がる炎が、ガジルの砂鉄を焼き尽くした。

無数の砂鉄の弾丸が炎に包まれ、一瞬で黒煙となって消え去る。

 

その炎の中――

 

「火竜の鉄拳!!!」

 

燃え盛る拳が、ガジルの顔面を正面から打ち抜いた。

 

ドガァァァン!!!

 

ガジルは勢いよく吹き飛ばされ、瓦礫へと激突する。

立ち込める砂煙の中、桜髪の少年が燃え盛る拳を掲げ、吠えた。

 

「オレが妖精の尻尾(フェアリーテイル)滅竜魔導士(ドラゴンスレイヤー)だぁ!!!!」

 

轟々と燃え上がる炎が、戦場の空気を熱く染める。

 

だが――

 

その熱をものともせず、瓦礫の中から黒い影がゆらりと立ち上がる。

ナツが拳を握りしめ、再び声を張り上げようとした瞬間――

 

「テメェが火竜(サラマンダー)か……」

 

低く唸るような声が響く。

獣のような鋭い眼差しが、ナツを捉えていた。

 

ガジルは顔についた焦げ跡を軽く払うと、唇の端を吊り上げ、獰猛な笑みを浮かべた。

 

「チッ……暑苦しい野郎だぜ」

 

ナツは拳を握りしめ、睨みつける。

 

その瞬間――

 

ゴォッ……!!

 

ガジルの周囲に漂う黒い砂鉄が、微かにうねり始める。

 

「なら、コイツはどうだ?」

 

ガジルが不敵に笑いながら拳を振り上げる。

 

鉄竜磁轟(てつりゅうじごう)!!!」

 

ドォォォン!!!

 

ギルド中に散らばる鉄片や武器の破片が、一気にガジルの手元へと集束する。

まるで鉄そのものが意思を持ち、彼に吸い寄せられていくかのように――。

 

「喰らってみろよ、火竜(サラマンダー)ォ!!!鉄竜磁衝(てつりゅうじしょう)!!!」

 

ガジルが拳を振り抜くと、圧縮された鉄塊が凄まじい勢いでナツへと放たれた。

鉄同士が強烈な磁場を生み出し、反発するように弾き飛ばされた鉄塊は、弾丸のごとき速さでナツへと襲いかかる。

 

「ッ……!!!」

 

ナツは咄嗟に両腕でガシッと受け止めたが、その勢いが強烈すぎる。

 

ズシィィィン!!!

 

床がひび割れ、ナツの足が沈み込む。

 

「うがああああ!!」

 

全身に響く衝撃に耐えながらも、ナツの怒りは燃え上がる。

 

「……こいつが……ギルドやレビィ達を……!!!」

 

その怒りに呼応するように、ナツの体から炎が吹き上がった。

 

燃え盛る炎の熱は、ガジルが放った鉄塊すら歪ませ、赤熱化させるほどだった。

 

ジュゥゥゥゥゥ……!!!

 

「なっ……!?」

 

ガジルの目がわずかに見開かれる。

 

圧縮された鉄塊が、ナツの放つ異常な熱に晒され、みるみるうちに真っ赤に焼けただれ、表面がぐにゃりと歪む。

鉄特有の鋭い硬質な輪郭は崩れ、粘土のように溶け始めていた。

 

「チッ……なかなかの熱量だな……」

 

ガジルは内心で舌を巻きながらも、不敵な笑みを浮かべる。

だが、次の瞬間――

 

「くたばれぇっ!!!」

 

ナツが怒りのままに、溶けた鉄塊を拳に纏い、ガジルへと投げつけた。

 

「チッ……!」

 

ガジルは素早く拳を鉄に変え、飛来する鉄塊を強打する。

 

バギィィィン!!!

 

巨大な鉄塊は粉々に砕け、鋭い破片が周囲へと飛び散った――その刹那。

 

「火竜の鉄拳!!!」

 

突如、炎が舞う。

 

砕けた鉄塊の間をすり抜け、ナツが猛然と突っ込んできた。

 

「なっ……!?」

 

ドガァァァン!!!

 

炎を纏った拳がガジルの顔面を強かに捉え、衝撃とともに彼の体が弾き飛ばされる。

 

「チィ……!」

 

しかし、ガジルは空中で素早く身を翻し、逆さまの状態で両脚の裏に鉄の刃を生み出す。

次の瞬間、それを天井の(はり)へと突き立て、揺るぎない姿勢で静かに着地した。

 

顔についた焦げ跡を払うと、ガジルは唇を吊り上げ、獰猛に嗤う。

 

「……やるじゃねえか、火竜(サラマンダー)。噂通りのパワーだ、(アチ)(アチ)い」

 

余裕すら感じさせる態度で、ナツを挑発するように指を鳴らした。

 

「で、それが本気か? 火竜(サラマンダー)

 

ナツの拳がギュッと握り締められ、怒りに呼応するように熱を帯びる。

 

「安心しろよ……」

 

低く、静かに吐き出された言葉。

次の瞬間、ドォン!!と爆ぜるように炎が燃え上がる。

 

「ただの挨拶だ……竜の喧嘩の前のなぁ!!!」

 

轟々と燃え盛る炎がナツの体を包み込み、辺りの空気を一気に震わせる。

 

対するガジルは、不敵に笑いながら拳を握る。

鉄の質感が変わり、拳を覆うように分厚い鉄の鱗が浮かび上がる。

まるで竜の前脚そのものを再現したかのような、頑強な鉄の拳。

 

その瞬間――

 

「火竜の鉄拳!!」

 

「鉄竜の剛拳!!」

 

ゴッ!!!!

 

轟音が響き、炎と鋼鉄の拳が正面から激突する。

ナツの燃え盛る炎が、ガジルの鉄拳を熱し、鉄の拳がその灼熱を弾き返す。

 

しかし――

 

ズシリとした衝撃が腕に伝わる。

 

「ぐっ……!!?」

 

信じられないほどの重圧がのしかかり、ナツの拳がじりじりと押し返されていく。

 

「ッ!? なんだ、こいつの拳……重てぇ……!!!」

 

ギギギギギ……!!!

 

ぶつかり合う拳が火花を散らし、鉄と炎の力が拮抗する。

ナツは歯を食いしばり、全身の力を込める。

 

だが――

 

「軽ェなァ!!!」

 

ガジルが嗤った瞬間、ゴンッ!!!と鉄拳の圧が一気に弾けた。

 

ガギィィン!!!

 

ナツの拳が弾き飛ばされ、勢いに押されてバランスを崩す。

 

「なーーー!?!?」

 

「ギヒィ!!!」

 

刹那――

 

ズドォォン!!!!

 

ガジルの鉄拳が、ナツの腹部を貫くように叩き込まれる。

 

「ぐあっ……!!!?」

 

轟音とともに衝撃が全身を駆け抜け、ナツの目が一瞬、カッと見開く。

 

「ガッ……!!!」

 

息が詰まり、苦痛に顔を歪めた瞬間、圧倒的な衝撃が内臓を揺さぶる。

ナツの体はくの字に折れ、そのまま凄まじい勢いで吹き飛ばされた。

 

ドガシャァァン!!!

 

瓦礫の山へと激突し、粉塵が舞い上がる。

 

「ナツ!!?」

 

エルザの叫びが響く。

グレイや妖精の尻尾の仲間たちも、息を呑んだ。

 

「ま、マジかよ……ナツが……!?」

「力で……押し負けた……!?」

「そんなバカな……!!」

 

倒れ伏したナツを見下ろしながら、ガジルが冷たく笑う。

 

「ギヒッ……火力が足りねえぞォ、火竜(サラマンダー)!」

 

その言葉が、ナツの耳に突き刺さる。

 

「ぐっ……」

 

瓦礫の中で倒れていたナツが、ギリギリと歯を食いしばりながら拳を握る。

その拳は、未だに炎を宿していた。

 

「……ッざけんなよ……」

 

ボロボロの体を引きずりながら、ナツはゆっくりと立ち上がる。

足元がふらつきながらも、闘志だけは決して折れない。

 

「まだ……終わっちゃいねぇぞ……!!」

 

傷だらけの顔を上げ、ナツはガジルを睨みつける。

その瞳には、消えない炎が燃えていた。

だが――

 

ゴゴゴゴゴ……!!!

 

突如、足元の大地が不気味に震え始める。

 

「「!!?」」

 

ナツもガジルも、一瞬、戦いの手を止める。

 

「……!? なんだ……?」

 

 ガジルが眉をひそめた瞬間、戦場全体が低く唸るように揺れた。

 

 妖精の尻尾のメンバーは顔を上げ、ファントムの魔導士たちは怯えながら周囲を見回す。

 

「な、なんだ……!?」

 

「じ、地震か……?」

 

ゴゴゴゴゴゴゴゴ……!!!!

 

――違う。

 

これは、ただの揺れじゃない。

空気が……ギルドそのものが……圧倒的な力に軋むように震えている。

 

妖精の尻尾(フェアリーテイル)のメンバーたちが、不敵な笑みを浮かべる。

 

「おいおい……」

 

「やべぇな……」

 

グレイが口元を拭いながら、呟いた。

 

「これは……やべぇぞ……」

 

「な、何がヤベェんだよ!?」

 

恐る恐る問いかけるファントムのメンバー。

 

その瞬間――

 

「これはマスターマカロフの”怒り”だ」

 

エルザが冷や汗を滲ませながら、静かに告げた。

 

「巨人の逆鱗……もはや、誰にも止められんぞ」

 

その言葉を聞いたファントムのメンバーたちの顔が、一瞬で恐怖に染まる。

 

「ひ……ひぃ……!?」

 

「ウソだろ!? ギルド全体が……震えて……!!」

 

「まさか……!!?」

 

エルフマンが拳を握りしめながら、ファントムのメンバーたちを睨みつける。

 

「それが(おとこ)、マスターマカロフだ!!」

「覚悟しろよ……マスターがいる限り、俺たちに負けはねぇ!!!」

 

ゴゴゴゴゴ……!!!!

 

幽鬼の支配者(ファントムロード)全体が、巨人の怒りに震撼していた。

 

――続く。

 




ちなみに、あの黒い霧の正体は、ガジルが操る**鉄竜砂(てつりゅうさ)**という砂鉄。微細な磁場を帯びており、武器や装備にまとわりついて銃器や剣の使用を封じるだけでなく、体表に付着することで動きを鈍らせ、関節を固める拘束効果を持つ。

この技は、相方である夢竜のネムが操る霧を参考に、自身の魔法に応用したもの。
ネムの霧が精神に作用するのに対し、ガジルの鉄竜砂は物理的に相手の動きを封じる点が特徴となっている。

また、原作にはないこの魔法――

◆ 鉄竜磁轟(てつりゅうじごう)
周囲に散らばる鉄屑や武器などの金属を一点に集約し、巨大な鉄塊を作り出す技。

◆ 鉄竜磁衝(てつりゅうじしょう)
「鉄竜磁轟」で圧縮した鉄塊を、一気に撃ち出す強力な射出技。

これらの技は、某海賊漫画の“磁力を操るキャプテン”の能力を参考にしつつ、ガジルらしい滅竜魔法としてアレンジしました。

また、原作よりも大幅にガジルを強化しています。より“鉄竜”らしい戦闘スタイルを意識し、鉄の特性を活かした立ち回りができるようにしています。
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