FAIRY TAIL 〜夢幻の竜を継ぐ少女〜 作:ことのはや
今回は本編とは関係ない、幕間エピソード になります。
戦いが激化する前に、幽鬼の支配者メンバーの日常を描けるタイミングはこの瞬間しかありませんでした。
ネムの 「初めての一人依頼」 を見守る(?)彼らの奮闘をお楽しみください!
夢竜の小さな冒険【前編】
これは、ネムが
ギルドに入って数年。
今では、ガジルとコンビを組んで仕事をこなすのが当たり前になっていた。
だが、今回の依頼は違う。
ーー初めての、一人での任務。
「……え、ホントに1人で行かせるんですか?」
ジュビアが驚いたように言う。
「ま、たまにはいいんじゃねえのか?」
ガジルは腕を組みながらそう言ったが――
内心、微妙に落ち着かない。
(……大丈夫か、アイツ)
いつも隣にいる相棒がいない。
それだけで、どこかソワソワしていた。
……だが、それを素直に認めるわけにはいかない。
「アイツももう立派な魔導士だ。そろそろ一人で依頼をこなすべきだろ」
そう言いながらも、なぜか視線がやたらとネムの方をチラチラと追ってしまう。
「とはいえ……」
アリアは神妙な面持ちで口を開く。
「心配ですねぇ……」
ソルも顎に手を当てながら、渋い顔をする。
「えぇ……なにぶんネム嬢はマイペースなところがありますから……」
「心配しすぎだろ、お前ら」
兎兎丸が呆れたようにツッコミを入れるが――
彼の目も、不安そうにネムを追っていた。
(まぁ、確かにちょっと抜けてるとこあるしな……)
全員が内心で「大丈夫か?」と思い始めていた。
そして、すでに この場にいる全員の心は決まっていた。
(((((……ついていくしかない!!)))))
こうして、過保護の権化となったエレメント4+ガジルは、
ネムの初めての一人依頼をこっそり監視することに決めたのだった。
— ✧ — ✧ —
ネムが出発してから数時間後ーー
目的地へと向かう電車の中で、ネムは早々にーーー
「すぴぴぴぴ〜……」
幸せそうな表情で寝入っていた。
その寝息を聞きながら、ガジルは大きくため息をつく。
「……やっぱりな。こうなると思ったぜ……」
「ど、どうしますか?もう目的地に着いちゃいますよ…」
ジュビアが焦った様子でネムを見て、ソルも渋い顔をする。
「しかし……ネム嬢は一度眠りに入ると、起こすのは至難の業ですよ?」
アリアが慎重な顔持ちで言う。
「いや、方法がないわけではない……」
アリアは静かに続けた。
「方法は2つ。一つは――無理やり叩き起こすこと。しかしこれはネムを本気で怒らせることになり、この辺り一帯が死屍累々の地獄と化すでしょう……悲しすぎる……」
「……で、もう一つの方法とは?」
ジュビアが恐る恐る聞く。
「………」
だが、アリアは何故か言葉を濁した。
「あるなら早く言ってくれ!もう目的地に着いてしまうぞ!」
兎兎丸が焦って詰め寄るとーー
「……キ……ル……」
ガジルがボソッと呟いた。
「え? 何か言いました? ガジルくん」
ジュビアが聞き返す。
「……アイツの頬にキスすりゃ起きるぜ……」
「「「「………………は?」」」」
場が凍りついた。
アリアは冷静に頷いた。
「……ガジルの言う通り。彼女の頬にキスすることで、被害なく起こすことが可能です」
「……ちょっと待って。ガジルくん、何でそれ知ってるんです?」
ジュビアが驚愕の表情で問い詰める。
「……余計な詮索すんじゃねえ」
ガジルは舌打ちしながら、あからさまに話を打ち切ろうとする。
しかし、ジュビアの 「説明してください!!」 という強い視線と、兎兎丸達の 「これは面白い話が聞けそうだ」 という期待の眼差しが、一斉にガジルへ向く。
(……くそが……)
ガジルは ものすごく嫌そうな顔 をするが、その瞬間ーー
「……ああ、それは昔のことですね……」
アリアが 静かに語り出した。
— ✧ — ✧ —
ガジルとネムがまだ小さかった頃ーー。
ある日のこと。
「……ネム、いい加減起きろ」
仕事の準備を終えたガジルが、ギルドの広場へと向かうとーー
そこにいたのは、ソファの上で丸くなり、布団に包まりながら眠るネムの姿だった。
「……おい」
ガジルは呆れたように眉をひそめる。
声をかけても反応なし。布団を軽く引っ張ってみるが、ネムはピクリとも動かない。
それどころか、幸せそうに寝息を立てていた。
「すぴぴぴ……むにゃあ……」
「……ハァ、どんだけ寝んだよ」
ため息をつきつつ、何度かゆさゆさと揺さぶるが、やはり目を覚ます気配はない。
無理やり布団を剥がそうとしても、まるで頑丈な防御壁のようにガッチリと包まっている。
(……これじゃ、仕事に遅れちまう)
仕方なく、ガジルは顔を近づけーー
「おい、ネム、起きろってーー」
その瞬間だった。
「むにゃ……うぅん……」
ゴロン。
寝返りを打った拍子に、ネムの顔がぐいっとこちらへ寄ってきた。
「ーーッ!?」
ふわっ
ガジルの唇が、ネムの頬にかすかに触れた。
(ーーやべぇ!!!)
ガジルの背筋が凍りつく。
「……んっ……?」
パチッ!!
ネムの目がぱっと開く。
そしてーー
「〜〜〜〜〜〜〜〜〜!!!」
顔を真っ赤に染めたネムが、勢いよく振りかぶった。
バチィィィンッ!!!
「がはっ!? な、何しやがる!!?」
「し、知らない!! ガジルなんて知らない!!!///」
目にうるっと涙をため、ネムは布団に潜り込んでしまう。
一方、頬を押さえながら転がったガジルは、唖然としながら呻いた。
「……意味わかんねぇ……」
納得いかない表情のまま、じんじんと痛む頬をさすった。
— ✧ — ✧ —
「……という過去があったのです」
アリアが淡々と語り終えると、場が静まり返った。
一瞬の沈黙。
そしてーー
「……え、なにそれ、めっちゃ青春じゃない?」
兎兎丸がニヤニヤしながら肩を揺らす。
「貴方たち、そんな微笑ましい関係だったんですね」
ソルが頷きながら、妙に優しい微笑みを浮かべる。
「ガジルくん……それ、ある意味 初キス では……?」
ジュビアが、顔を赤らめながら控えめに問いかけた。
「……ちげぇよ!!!///」
即座に真っ赤になって反論するガジル。
「つーかテメェ!! 余計なこと言うんじゃねえ!!!」
怒りの矛先は、淡々と過去を語ったアリアへと向く。
しかしアリアは動じることなく、静かに首を傾げる。
「……しかし、事実を述べただけです。」
「クソが……!」
ガジルは舌打ちし、深く息を吐いた。
「つーわけで、おい雨女」
バキッと指を鳴らしながら、今度はジュビアに視線を向ける。
「同性のお前なら問題ねぇだろ。 当然お前がやるべきだよな?」
ジュビアの表情が、一瞬で固まる。
「な、な、な、なにを言ってるんですか!!?」
顔を真っ赤に染め、慌てふためく。
その動揺は激しく、体が ぐにゃぐにゃと波打つように形を崩しかけている。
「お、お、女同士だからって……こ、こ、こ、こんな人前で、キ、キスなんて……!!! ジュビア恥ずかしい!!!」
ブクブクと泡立つように揺れるジュビアの姿に、兎兎丸が引き気味に呟く。
「……なんか、物理的に溶けかけてないか?」
「……雨女は除外だな」
ガジルは ジュビアの水蒸気状態を見て、即判断する。
「……じゃあ、てめぇらやれ」
次の瞬間。
「「「無理」」」
兎兎丸、ソル、アリアが即答した。
「俺たちの年齢でそれやったら犯罪だろ?」
兎兎丸が呆れたように言い、
「その通り。ここは 相方である貴方がやるべきだ」
アリアが真顔で涙を流しながら言い、
「ノンノンノン、寝ている淑女にキスをするなど、私の紳士としてのプライドが許しません。
……ということで、ここは ガジル様にお譲りします 」
ソルが 最高の笑顔 でガジルに視線を向けた。
ガジルの拳が、ゴキリと鳴る。
血管が浮き上がるほど強く握られた拳から、今にも雷が落ちそうな勢いだった。
「て、てめぇら……!!!」
今すぐ3人まとめてぶっ飛ばしてやりてぇ……!!
だが、そんなことをしている間にも、電車は目的地へと近づいていく。
ガジルは 「クソが……!」 と舌打ちし、仕方なく覚悟を決めた。
— ✧ — ✧ —
結局、ガジルがやることになった。
「クソが……!!!」
これ以上ないほど不満を露わにしながら、ガジルは目出し帽を深くかぶる。
まるで犯罪者のような出で立ちで、寝ているネムの前に立つ。
(……やってらんねぇ……)
ただでさえ嫌なのに、相手は同じ
うだうだしていると 匂いでバレる 危険すらある。
(……さっさと終わらせるしかねぇ……!)
ガジルは 素早く距離を詰め、一瞬の隙を突いて 軽く頬に触れるだけのキスをーー
ーー その瞬間。
「むにゃ……?」
「!!?」
ネムが寝返りを打つ。
ガジルの心臓がバクンッ!!と跳ねる。
(ヤベェ、バレる……!!!)
即座に身を翻し、 ほぼ音もなく離脱。
目出し帽を引き剥がし、何食わぬ顔で後方へと戻る。
その様子を、
兎兎丸、ソル、アリアは生暖かい目で見守っておりーー
ジュビアは顔を真っ赤にして両手で顔を覆いつつ、指の隙間からしっかりとチラ見していた。
「……んー……?」
ネムが 目をこすりながら、ゆっくりと起き上がる。
眠そうな目で周囲を見回し、ぼんやりと呟いた。
「いま、誰かいた……?」
「……」
ガジルが顔を背ける。
「……あ、もうそろそろ着きそう…」
窓の外に目をやり、そう呟くネム。
のそっと立ち上がり、降りる準備を始める。
その様子を、後方からじっと見守る4人とーー
「……ったく、イカれてるぜ……」
と文句を言いながらも、どこか安堵したような表情でネムを見守るガジルの姿があった。
— ✧ — ✧ —
電車が目的地に到着した。
ネムが降りる。
それを少し距離を置いて追いかける、ガジルたち。
その時だった。
――ガシッ!!!
「……あ?」
突然、ガジルの両腕がガッチリと掴まれる。
駅員と警備員の2人。
「……は?」
状況が掴めず、ガジルが目を瞬かせた次の瞬間ーー
「電車内で通報があってね」
駅員が淡々と説明を始めた。
「眠っている少女の顔にキスをした不埒な輩がいる と……」
「顔は隠れてたらしいが……その服装、通報にあった特徴と一致する」
「ちょっと 事務所の方まで来てもらおうか」
「……はぁ!? ちょ……ちょっと待てテメェら!! これには深いワケが――」
「はいはい、話は事務所で聞くからねー」
グイッ!
「うぉぉぉぉい!!!!」
そのまま、ガジルは完全に連行された。
「「「「…………」」」」
目の前で繰り広げられた予想外すぎる光景に、エレメント4+ジュビアは固まる。
完全なる無言。
「……これ、ちょっとマズいんじゃ……」
ジュビアの呟きが、沈黙を破る。
「マズいどころじゃないでしょう、これ……」
兎兎丸が額に手を当てながら、心底呆れたように言った。
「とはいえ、このまま放置するのは いささか ナンセンスですよ……」
ソルが渋い顔をしながら腕を組む。
「悲しい……色々な意味で悲しすぎる……」
アリアが涙を流しながら、天を仰いだ。
「……で、どうする?」
兎兎丸が、現実的な問題を提起する。
「ジュビアは……ガジルくんを助けに行ったほうがいい気がするんですが……」
「いやいやいや、待て待て待て!!」
兎兎丸が全力で手を振る。
「ガジルのやつを助けに行ってる間に、ネムのやつを見失ったら元も子もねぇぞ!!」
「でも、ガジルくんをこのままにしておくのも……」
ジュビアが視線を泳がせながら呟く。
数秒の沈黙。
「……兎兎丸は、ネムを追ってください」
アリアが冷静に言いながら、布で覆われた瞼の奥から兎兎丸へと意識を向ける。
「了解した……」
兎兎丸は短く応えると、すぐさまネムの後を追って駆け出した。
「私とソル、ジュビアの3人は、ガジルの救出へ向かいましょう」
アリアは静かに言いながら、腕を組み、わずかに顔を伏せる。
「……悠長に構えている場合ではありませんね」
ソルは静かに言いながら、モノクルを押し上げる。
「優雅に振る舞うのが信条ですが……今回は、迅速に動かねばなりませんね」
「……やれやれ、俺たちは一体何をしてるんだか……」
兎兎丸は頭をガシガシとかきながら、ネムの後を追う。
その一方でーー
「誤解を解かねばなりませんねぇ……」
「……全く、こんなことで時間を取られるとは」
アリア、ジュビア、ソルの3人は、連行されたガジルの誤解を解くべく、駅の事務所へと足早に向かっていった。
こうして、ネムの初めての単独任務を「見守る」はずだったエレメント4+ガジルは、開始早々に予想外の事態へと巻き込まれることとなったーー。
⸻後半へ続く。
ちなみに、アリアが 「ガジルがネムにキスした過去」 を知っていたのは、
その現場がギルドの広場であり、アリアを含め何人かが目撃していたからです。
当然ながら、その瞬間を目撃した者たちは 口外しないはずもなく、
幽鬼の支配者の一部メンバーの間では 密かに語り継がれていたとか、いないとか……。
さて、ガジルが予想外のトラブルに巻き込まれた今回の幕間ですが、
ネムの 「一人旅(予定)」 は、無事に遂行できるのでしょうか……?
次回 【後編】 もお楽しみに!