FAIRY TAIL 〜夢幻の竜を継ぐ少女〜   作:ことのはや

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お久しぶりです。ほんっっっとうに久しぶりの投稿になってしまいました。

仕事やらゲームやらで、しばらく更新が止まってしまっていて……
気づけばだいぶ間が空いてしまい、「もう続きを待ってくれてる人いないんじゃ……」と内心ヒヤヒヤしています。




開戦
戦火のはじまり


 

妖精の尻尾(フェアリーテイル)ギルド、地下の仮設酒場には、どこか陰りの漂う空気が満ちていた。

負傷者たちの呻き声や、悔しさを滲ませた呟きが、あちこちから漏れ聞こえてくる。

 

「痛てて……」

「……あーーークソッ!!」

「まさか俺たちが撤退する羽目になるとは……」

「悔しいぜ……」

「ギルドも、レビィたちの仇も取れてねぇ……」

「ちっくしょう……!」

 

傷だらけの体を引きずりながら、それでも多くの仲間たちは立ち上がろうとしていた。

その視線の先には、一枚の地図。幽鬼の支配者(ファントムロード)の本拠地が赤く記されていた。

誰かがそれを囲み、次の策を練っている。

 

「奴らの本部はここだ」

「南西の高台から、遠距離魔法で狙撃すれば……」

 

どれだけボロボロになっても、誰も再起を諦めていない。

 

別の一角では、声を荒げる者たちもいた。

 

「今度は爆弾魔水晶(ラクラマ)ありったけ持っていくぞ!!」

所持(ホルダー)系魔導士用の強力な魔法書を倉庫から持ってこい!!」

 

その場の誰もが、報復の機会を今か今かと待ち構えていた。

――ただひとり、ルーシィを除いて。

 

彼女は俯きながら、賑わいから背を向け、ひとり静かに座っていた。

 

その様子に気づいたグレイが、静かに声をかける。

 

「……どーした? まだ不安か?」

 

ルーシィは、ほんの少しだけ首を振った。

 

「……ううん、そういうのじゃないんだ。……なんか……ごめん……」

 

その言葉に、エルフマンが急に声を張る。

 

「まあ、お金持ちのお嬢様は狙われる運命よ! そして、それを守るのが……漢!!」

 

「……そういうこと言うんじゃねぇよ」

 

呆れたように、グレイがいつもの調子でツッコミを入れる。

そんなやりとりに、ハッピーがぽつりと疑問を投げかけた。

 

「でもオイラ、ちょっとびっくりしたよ。ルーシィ、なんで黙ってたの?」

 

ルーシィは少し目を伏せ、ゆっくりと口を開いた。

 

「隠してたわけじゃないんだけど……家出中だったから……あんまり、話す気にもなれなくて……」

 

言葉を選ぶように、ぽつぽつと続ける。

 

「一年も家出してたのに、ずっとほったらかしだったくせに……急に連れ戻そうとするなんて、勝手すぎるよ……

パパがあたしを連れ戻すためにこんなことしたんだ……ほんと、最低……」

 

しばらく、誰も何も言わなかった。

 

ナツは黙ったまま、ただルーシィの言葉を聞いていた。

 

「……でも、元はと言えば……私が家出なんかしたせいなんだよね……」

 

その声は、自分を責めるように小さかった。

 

すると、エルフマンが慌てて声を上げる。

 

「そ、それは違うだろ!! 悪いのはパパ――」

 

「バカ」

 

グレイの一喝が飛ぶ。

 

エルフマンはビクッとしながら言い直した。

 

「あ……いや、ファントムだ!!」

 

それでもルーシィはうつむいたまま、ぽつりと呟く。

 

「私の勝手な行動で……みんなに迷惑かけちゃって……

ほんとにごめん……私が家に戻れば、全部済むことなのに……」

 

その時だった。

 

ナツが、ポツリと呟いた。

 

「そーかなあ」

 

ルーシィが顔を上げると、ナツはニッと笑っていた。

 

「“お嬢様”っての、似合わねぇよな」

 

「……え?」

 

ナツは、汚れたテーブルに肘をつきながら言葉を紡いだ。

 

「この汚ねー酒場で、騒ぎながら冒険してる方が、ルーシィって感じだ」

 

ナツは、肘をテーブルにつきながら、どこか照れくさそうに笑う。けれどその目は、真っすぐだった。

 

「ここにいたいって言ったろ? 戻りたくねぇ場所に戻って、何があんだよ?」

 

ルーシィは、思わず顔を上げてナツを見つめる。その視線に、戸惑いと――安心の色が混じっていた。

 

「“妖精の尻尾(フェアリーテイル)”のルーシィだろ? ここが、お前の帰る場所だ」

 

その言葉に、ルーシィの目からぽろりと涙がこぼれた。

 

グレイは苦笑しながら、そっと言った。

 

「泣くなよ、らしくねぇぞ」

 

エルフマンも慌てて叫ぶ。

 

「そ、そうだ!! 漢は……涙に弱い!!!」

 

その言葉に、場にいた誰もがふっと笑みを漏らし、

仮設の酒場の空気が、少しだけ柔らかくなった。

 

そんなやり取りのあと、グレイがナツの方に目を向け、ふと呟いた。

 

「にしてもナツ、お前がボロボロの状態でルーシィを抱えて帰ってきた時は……何事かと思ったぜ」

 

その視線には、いつもの軽口ではない、わずかな重みがあった。

 

「……で、どうだったんだよ? “双竜”のネムって奴は」

 

続けて、エルフマンが興味深げに身を乗り出す。

 

「お前でも勝てなかったのか?」

 

ナツは少し視線を落とし、霧の中での戦いを思い出すように目を細めた。

 

「そんなことねーよ……あんな奴に、負けたつもりは――」

 

そこで言葉が止まる。歯の奥を噛みながら、ぽつりと続けた。

 

「……いや、正直……かなり厄介だったな。パワーだけなら、俺のほうが上だ。けど――」

 

拳を握る音が、静かに響いた。

 

「あの霧のせいで、攻撃が全然当たんねぇんだ。気配もねぇし、匂いも消えてる。……そこにいるのに、手が届かねぇ。マジで、掴みどころがねぇって感じだった」

 

言いながら、ナツの眉がわずかに歪む。

 

「……しかも、あの中に居続けると、頭がぼやけてきて……考えるのも難しくなっちまう」

 

張りつめた空気の中、グレイが低く唸る。

 

「……そりゃまた、とんでもなく厄介な相手だな」

 

「情けねぇぞナツ!」

 

エルフマンが拳を握って声を張る。

 

「漢なら霧なんて気合で吹き飛ばしてやれ!!」

 

その言葉に、ハッピーがぼそりと冷静に返す。

 

「いや、気合でどうにかなるもんじゃなかったと思うよ……」

 

ナツは顔を少し曇らせたまま、拳を握り直す。

 

「それと、厄介なのは霧だけじゃねえ。アイツの魔法は肉体だけじゃなくて、精神まで削ってくる。攻撃を防いでも、心の奥がジワジワやられていく感じだった」

 

その言葉に、グレイが険しい表情で息を吐く。

 

「精神干渉系の魔法か……レビィたちの容体を見る限り、あの3人をやったのは、ネムで間違いねぇな」

 

エルフマンもむすっとした顔で腕を組む。

 

「フン、霧に隠れて奇襲なんて……そんなの、漢のやることじゃねえな」

 

少し間を置いて、ハッピーがぽつりと口を開いた。

 

「……ネム、女の子だけどね?」

 

言葉に詰まるエルフマンを尻目に、グレイが静かに言葉を継ぐ。

 

「ま、とりあえず……まともにぶつかりゃヤベーってことだけは分かったな。俺もナツも……特にお前にとっては、相性最悪だろうよ」

 

「むぅ……」

 

エルフマンが唸るように低くうなった――その、次の瞬間。

 

 

 

ガシャンッ!!!

 

 

 

乾いた、そして鋭い破壊音が空気を裂いた。

 

全員が反射的にその方向へ顔を向ける。

 

視線の先。砕け散った通信魔水晶(ラクリマ)の前で――

ミラジェーンが、肩を震わせていた。

 

握りしめた拳の横に、涙がぽつりと落ちる。

 

「ミラ!?」

「ミラ!どうした!!」

「姉ちゃん!!」

 

ナツ、グレイ、エルフマンがすぐさま駆け寄る。

その様子を黙って見ていたカナが、ため息まじりにぽつりと呟く。

 

「……ミラ、さっきまでずっとラクサスに連絡取ってたのよ。応援に来てくれないかって……」

 

そして、ほんの少しだけ視線を伏せる。

 

「……無駄だったけどね」

「……チッ、やっぱ来ねぇよな……」

 

グレイは眉間に皺を寄せつつも、どこか諦めたように舌打ちした。

 

「それと、私の方でもミストガンの居場所を占ってみたけど……全然ダメだったわ」

 

カナは眉をひそめ、肩をすくめた。

 

「マスターは不在。ラクサスも来ない。ミストガンの所在も掴めない。

対して向こうは、マスタージョゼに双竜、エレメント4……精鋭が全員揃ってる。

――ハッキリ言って、かなりまずい状況よ」

 

「……つまり、俺たちでやるしかねぇってわけだ」

 

エルフマンが腕を組み直し、低く呟いた。

 

――そのとき。

 

「……なら、次は私も戦う!!」

 

突如、涙を流したままミラジェーンが声を上げる。

 

「な……何言ってんのよ!?」

「そうだぜ姉ちゃん! ファントムなんて俺たちが何とかするから、姉ちゃんは――!」

 

カナとエルフマンが慌てて声を返すが、

ミラはその言葉を遮るように叫んだ。

 

「だって……! 私がいたのに、ルーシィは攫われちゃったのよ……!」

 

震える声とともに、頬を伝う涙が床に落ちる。

 

その肩に、カナがそっと手を置く。

 

「……ダメよ。今のアンタじゃ足手まといになる。たとえ、元S級魔導士でもね」

 

「…………」

 

ミラは唇を噛みしめ、黙ってうつむいていた。

 

ナツがニッと笑って声をかける。

 

「心配すんな、ミラ! ファントムなんざ、俺たちでぶっ潰す! だからお前は――ルーシィを守っててくれ!」

 

ミラが少し顔を上げる。

 

「ナツ……」

 

その様子を見ながら、グレイが肩をすくめて、へっと笑う。

 

「双竜の片割れとやり合って、ボロボロだったくせに……よく言うぜ」

 

ナツはニッとしたまま、あっさり返す。

 

「今回は、ちょっとした作戦があんだよ」

 

「ホントかよ……?」

 

エルフマンが半信半疑のように言いながらも、どこか期待するような目でナツを見つめた。

 

ナツの笑顔とその口ぶりに、場の空気が少しだけ緩む。

沈んでいた仲間たちにも、わずかな希望の色が宿り始めた――

 

その瞬間――

 

 

 

ズゥゥゥゥン!!

 

 

 

仮設の酒場が、地の底から響くような音とともに揺れた。

 

「今の……地鳴りか?」

 

皆が一斉に顔を上げる。

 

次の瞬間――

 

「外だーーーっ!!」

 

階段を駆け下りてきたのは、血相を変えたアルザックだった。

 

その顔は蒼白で、息を切らしながらも必死に叫ぶ。

 

 

 

 

 

 

— ✧ — ✧ —

 

全員がギルドの外、地鳴りの響いた裏手へと駆け出す。

そして、彼らの目に映ったのは――

 

湖を渡り、こちらへと迫ってくる“建造物”。

 

「な……なんだ、ありゃ……」

「お、おい!! あのマーク……まさか!?」

 

6本の巨大な脚でゆっくりと大地を踏みしめながら進む、異様な城塞。

その頂に翻るのは、見慣れたギルドの紋章――幽鬼の支配者(ファントムロード)

 

「ファントム…か!?」

「ギ……ギルドが……歩いてる……!?」

 

呆然とした声が、ざわめきに変わり始める。

 

その異形の巨城は目前で動きを止め、中央部の壁がゴゴゴ……と音を立てて開いた。

現れたのは――

 

「な、なんだ……ありゃ……!?」

「でっけえ……砲身……!?」

 

「まさか……!」

 

エルザの目が見開かれる。

次の瞬間、あの名を思い出す。

 

「……魔導収束砲“ジュピター”……!」

 

同時に、砲口には信じがたいほどの魔力が収束され始めていた。

 

「――マズい!! 全員ふせろーーーーーっ!!!」

 

エルザは、砲撃の直撃を防ぐべく、身構える。

 

そして、空気が震えた――。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

— ✧ — ✧ —

 

幽鬼の支配者(ファントムロード)本部】

 

――視点:ねむ

 

司令室の窓から見下ろした先。

そこには、重厚な鎧に換装した紅の髪の女騎士――エルザ・スカーレットが、こちらの砲撃を真正面から受け止める姿勢で立っていた。

 

ガジルが、口の端を歪めながら言う。

 

「へぇ……受け止めるつもりか」

 

「……あまりに無謀」

 

私は小さく呟いた。

 

ジュピターを受け止めるなど、正気の沙汰ではない。

文字通り、消し炭になるだけだ。

 

「消せ」

 

マスタージョゼが冷酷に命じる。

 

「はっ!」

 

応じた部下の声と同時に――

 

ドゴオオオオオ!!!

 

轟音とともに、ジュピターが発射された。

蒼白の魔力を纏った砲撃は、一直線に妖精の尻尾(フェアリーテイル)のギルドを目がけて放たれる。

 

ゴオオオオオオン!!!

 

地響きが大地を揺らし、轟音と土煙が周囲を覆い尽くす。

 

煙の帳が晴れた時――

そこにあったのは、砕け散った鎧とともに地に伏したエルザの姿、

そして――その背後で無事に立ち尽くす妖精の尻尾(フェアリーテイル)の魔導士たちと、傷つきながらも守られたギルドの建物だった。

 

私は、思わず息を呑む。

 

「……あれを、止めた……?」

 

信じられない光景だった。

 

だが、隣に立つガジルは冷静だった。

 

「……だが止めた代償は、デカかったようだな」

 

砕けた鎧と倒れ伏すエルザを見下ろしながら、低く呟く。

 

マスター・ジョゼは、にやりと口元を吊り上げ、魔法によって声を拡声した。

 

『マカロフ……そしてエルザも戦闘不能……』

 

低くドスの効いたその声が、湖を挟んだ妖精の尻尾(フェアリーテイル)の本拠地へと轟く。

 

『もう貴様らに凱歌は上がらねえ……ルーシィ・ハートフィリアを渡せ。今すぐにだ』

 

強圧的な宣告に、妖精の尻尾(フェアリーテイル)側から怒号が上がるのが見えた。

 

「ふざけんな!!」

「仲間を敵に差し出すギルドがどこにある!!」

「ルーシィは仲間なんだ!!」

「そーだそーだ!!」

「ルーシィは渡さねえ!!」

 

小さな体を奮わせながら、誰もが叫んでいる。

 

ジョゼは更に、苛立たしげに言葉を重ねた。

 

『渡せ』

 

その時だった。

 

砕けた鎧をまといながら、ボロボロの体で肘をつき、エルザが立ち上がる。

 

「仲間を売るくらいなら、死んだ方がマシだッ!!」

 

鋼のように強い声だった。

 

続けて、火竜(サラマンダー)――ナツ・ドラグニルも吼える。

 

「オレ達の答えは何があっても変わらねえッ!!

 お前らをぶっ潰してやる!!!」

 

燃え上がるような意志が、声となって空へ突き抜けた。

 

……これだけの戦力差を、見せつけられたというのに。

 

マスターマカロフの脱落。

妖精女王(ティターニア)のエルザも戦闘不能。

さらに、情報によればミストガンやラクサスといったS級の猛者たちは、未だ戦線に現れていない。

 

絶望すら与えられた状況。

それでもなお、彼らは屈しなかった。

 

私は、理解できなかった。

 

「……他人のために……どうしてそこまで……」

 

ファントムでは、ありえない光景だった。

利用し、蹴落とし、目的のためなら仲間すら切り捨てる。

それが当然の世界。

たとえ私自身も、失態を重ねれば、マスターに容赦なく切り捨てられると知っている。

 

そんな中、ガジルがぼそりと呟いた。

 

「……譲れねえもんがあるやつは、殺さねえ限り止まることはねえ」

 

「……? ガジル、何か言った?」

 

ガジルの方に顔を向け、問いかける。

だが彼はぷいっと顔を逸らし、

 

「何でもねえよ」

 

ぶっきらぼうに答えた。

 

……そういえば、ガジルはいつも皮肉ばかりだけど、

私が困っている時は、必ず助けてくれていた気がする。

 

……気のせい、かな?

 

そっとガジルを見つめながら、そんなことを考えた。

 

その時だった。

 

ダンッ!!

 

突然、司令室に鈍い音が鳴り響く。

 

ビクリと肩を震わせ、音の方へ顔を向けると――

 

怒りに満ちたマスター・ジョゼが、拳を震わせながら叫んでいた。

 

『ならば、更に特大のジュピターをくらわせてやる!!!

装填までの15分、恐怖の中であがけッ!!!』

 

轟く怒声が、重く、空気を震わせる。

 

これからさらに、破壊の嵐が降り注ぐ。

そして、この戦いは、決して後戻りできない場所へ向かおうとしていた――。

 

司令室に、再びマスター・ジョゼの声が響き渡った。

 

「――幽兵(シェイド)、奴らをなぶり殺せ」

 

淡々とした声とともに、彼の周囲に黒い魔力が渦巻いた。

次の瞬間、無数の影が蠢くように地上へと解き放たれる。

 

黒き影の兵士たち――幽兵(シェイド)が、湖畔のギルドへと怒涛のごとく襲いかかる。

 

その奔流の中には、ただの影とは異なるもの――

朧げに光を纏う、小さな蝶の姿もわずかに紛れ込んでいた。

 

『地獄を見ろ、妖精の尻尾(フェアリーテイル)……

貴様らに残された選択肢は二つだ。

我が兵に殺されるか、ジュピターで死ぬかだ!』

 

その声は空気を震わせ、戦場全体を覆い尽くした。

 

ネムは眼下に広がる影の波を見下ろしながら、静かに呟く。

 

「……無数の幽兵(シェイド)に、ジュピター……容赦ないねマスター……」

 

隣でガジルが肩を竦めた。

 

「こりゃ、俺たちの出番はなさそうだな」

 

戦場では、妖精の尻尾(フェアリーテイル)の魔導士たちが必死に幽兵(シェイド)たちを迎撃していた。

だが、あれは霊体――本体であるジョゼの魔力が尽きない限り消えることはない無敵の兵士だ。

この場にいる者たちだけでは、いずれ潰されるのも時間の問題だった。

 

ネムはふと問いかけた。

 

「……マスター、私たちは何をしたらいい? ギルドの防衛?」

 

ジョゼは微笑みながら首を振る。

 

「いえ、防衛はエレメント4の方々に任せます。お二人はルーシィ・ハートフィリアを捕えなさい。おそらく既にあの建物にはいないでしょうから」

 

ネムはそっと目を閉じる。

薄闇を漂う蝶たちを通して、彼女は静かに世界を覗いた。

すると頭の中に、幽兵(シェイド)を迎撃する妖精の尻尾(フェアリーテイル)の魔導士たち、ギルドの内部の光景が浮かび上がる。

 

「…………ホントだ。建物の中にルーシィはいないみたい。

 代わりに……ルーシィの見た目をした偽物がいるだけ」

 

ガジルが小さく眉をひそめる。

 

「お前、いつの間に蝶を飛ばしたんだよ」

「……さっき、マスターが幽兵(シェイド)を送り込んだ時」

 

そう、あの時――

私は鱗粉から、“幻翅蝶(げんしちょう)”を生み出し、そっと放っていた。

この蝶は、私と視覚を共有する小さな使い魔。

今も、妖精の尻尾側に放ったそれを通して、状況を覗いている。

 

ジョゼは満足げに頷き、静かに告げる。

 

「ホホホ……頼もしいですねぇ、さすがは我が幽鬼の支配者(ファントムロード)が誇る最強のコンビ“双竜”。

小娘はお二人に任せましたよ」

 

それに対して、二人は短く返す。

 

「ギヒ、了解」

「……了解」

 

次の瞬間。

 

ふわり、と。

 

白い霧が彼らの足元から立ち上り、ゆっくりと全身を包み込む。

 

そのまま、霧の中に溶けるように――二人の姿は、その場からすうっと掻き消えた。

 

 

 




※今回登場した「幻翅蝶(げんしちょう)」については、キャラ紹介に追記しています。
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