FAIRY TAIL 〜夢幻の竜を継ぐ少女〜 作:ことのはや
とある 「夢幻を操る滅竜魔導士」 の物語が、ここから始まります。
行き場のない少女が、あるギルドと出会い、運命が動き出す——。
どんな物語になるのか、ぜひ楽しんでください!それでは、本編へどうぞ。
〜プロローグ〜親を探す竜の子
少女は、独りぼっちだった。
かつては、決して孤独ではなかった。
この世界でたった一匹——けれど、何よりも大切な存在が、いつもそばにいてくれた。
銀白の鱗と螺旋の双角を持ち、翼には星々が瞬く。
夢と宇宙をその身に宿す、幻想の竜——イルシオン。
それが、彼女の「父親」だった。
昔から、ずっと一緒だった。
目を覚ませば、いつもその温もりがそばにあった。
大きな翼に包まれて眠るのが、私は何よりも好きだった。
ゆったりと動く胸の上で聞く鼓動と、喉の奥から響く低い唸りは、私にとって世界で一番優しい子守唄。
その時間が、私の安らぎであり、安心であり、そして――全てだった。
けれど——
「おとーさん…どこ?」
目が覚めた時、そこにいたはずの父親の姿はなかった。
白くてふわふわした翼も、煌めく星のような毛並みも、どこにも見当たらない。
ただ、冷たい夜の空気と、深い霧が広がる景色だけが広がっている。
(なんで…)
少女は不安に駆られた。
おとーさんはいつもそばにいた。彼の体に寄り添って眠れば、怖い夢を見ることなんてなかったのに。
それが、いなくなった。
怖い。
たまらなく怖い。
少女は、震える足で父親と共に過ごした霧の森を後にし、転びながらも、息を切らしながらも、ひたすらに歩き続けた。
そして、辿り着いたのは、朽ち果てた廃屋だった。
⸻
廃屋の前で、少女は立ち止まった。
崩れかけた扉の向こうから、かすかに声が聞こえる。
——もしかして、おとーさん…?
胸の奥で小さな希望が灯る。
少女は恐る恐る、古びた扉に手を掛けた。
「ギィィ……」という軋む音が静寂を裂く。
中には、三人の男たちがいた。
知らない人たち。おとーさんじゃない。
見たこともない、けれど自分と同じ“人間”の姿をした男たち。
急に視線を感じて、少女は立ちすくんだ。
男たちは一斉にこちらを見た。
ひそひそと何かを囁き合い、すぐに“何か”を決めたように、にじり寄ってくる。
一人の男の手が、少女に向かって伸びる。
(ちがう……ちがう、おとーさんじゃない……)
(怖い、怖い、怖い!)
おとーさんの翼の中で眠っていた頃の、あの温もりが恋しい。
この場所は、落ち着かない。何もかもが怖い。
心臓が痛いほどに打ち鳴らされ、耳の奥がキーンと鳴る。
男の手が、もうすぐそこまで来た——
「やめて……!」
震える声が悲鳴になった瞬間、視界がぐらりと揺れ、
少女の意識は闇に飲み込まれていった。
⸻
(男の視点)
ここはオボロ山の中間地点にある、古びた山小屋。
俺たちは、山のふもとにある小さな集落――オボロ村の村長から、とある討伐依頼を受け、この山に入った。
そして今、今日の依頼を終え、しけた廃屋でひと休み……という名の、不満ぶちまけ大会の真っ最中だった。
「ったくよォ……割に合わねぇ仕事だったぜ……!」
ドカッと椅子に腰を下ろした男が、苛立ったように靴を脱ぎ捨てる。
「マジでな、何が”軽い山の掃除”だよ、話がちげーっつーの。あれ、普通のバルカンじゃなかったろ」
俺たちが受けたのは、山に現れたバルカンの群れの討伐依頼だった。
「バルカンって元から頭いいとはいえよ、あいつら明らかに異常だったぜ」
「動きも妙にキレてたし、こっちの動き見てから来やがった」
「俺なんか武器狙い撃ちされてよ、あやうく素手で戦う羽目になるとこだったわ!」
「しかも群れで連携して来やがってな。一瞬、どっかのギルドの連中かと思ったぜ、まじで」
「チッ、クソが……ま、とにかく、帰ったらあのヘタレ村長から追加でブン取ってやろうぜ」
「“討伐対象が強化個体だった”っつってな、あいつビビりだからすぐ財布緩めんだろ」
「それにな……俺らに逆らったらどうなるか、あの村長も分かってんだろうよ」
3人はニタニタと笑いながら、テーブルを囲って肩を揺らして笑い合う。
「ハッ、まずは一杯だな。このクソ寒ぃ夜には、熱い酒と女に限るってな」
ガラガラッ!
そのとき、不意に扉が開いた。
凍てつく風が吹き込んで、男たちの笑い声がピタリと止まる——。
見慣れない、白いローブを着たちっこいガキが、廃屋の入り口に立っていた。
その大きな目が、まっすぐにこっちを見据えてる――けど、震えてる。怯えてる。
「……子供か?」
仲間の一人が呟いた。
見たところ、村の子じゃなさそうだ。
ローブも妙に上等だし、どっかの裕福なお嬢様か? にしちゃ、随分な場所に迷い込んだもんだ。
「おい、このチビ、どうするよ」
俺の言葉に、仲間たちが顔を見合わせた。
「は? どうするも何も、こんなとこにガキがいる時点でヤベーだろ」
「親の顔見てぇな……ってか、もしかして捨てられたんじゃねえのか?」
「おいおい、こんな山奥にか? それこそおかしいだろ」
「ってかこれ、誘拐されたとか、どっかの貴族の娘でしたってオチじゃねぇよな……? 面倒はゴメンだぞ」
「……あーもう、街にでも連れてって兵士に突き出しゃいいだろ。俺たちが面倒見る筋合いねぇし」
誰も進んで関わろうとはせず、適当に押しつけ合いながらも、どこか目を逸らすように口を噤んでいた。
「……まあ、ほっとくのも後味悪いしな。とりあえず保護ってことで」
「チッ、仕事終わってようやく休めると思ったのによ」
「ったく、どいつもこいつも手ぇかかるぜ……」
文句を垂れながらも、俺たちは足を踏み出した。
白いローブを着た少女は、その場でじっと震えていた。
「おい、お前、名前は?」
軽い気持ちで声をかけながら一歩近づくと、少女はビクリと肩を震わせ、怯えたように後ずさった。
(おいおい、そんなに怖がられるようなツラしてねぇだろ……?)
そう思った瞬間だった。
少女の足元から、ふわりと白い霧が立ちのぼった。
「……なんだ?」
(煙か? いや、違う……これ、魔力の気配……?)
「おい、何する気だ。おい小娘、やめ——」
「来ないでッ!!!」
叫びと同時に、霧が一気に広がった。
視界が白に染まり、音すらも遠ざかっていく。
「チッ……なんだこの霧……!」
後退しようと足を動かすが、体が鉛のように重い。
立っているのがやっとだ。
(……眠い? いや、違う、これは——)
感覚が鈍っていく中で、背後にいたはずの仲間の気配も遠のいていった。
誰かが何かを叫んでいた気がするが、もう聞こえない。
(……やばい……)
最後に浮かんだのは、少女の怯えた瞳。
そして、俺の意識は静かに、闇に沈んだ。
続く——。
ここまで読んでいただき、ありがとうございます!
まだ始まったばかりですが、ここから徐々に物語が動き出します。この少女がどんな運命をたどるのか、ぜひ見守っていただければ嬉しいです。
次回もお楽しみに!