FAIRY TAIL 〜夢幻の竜を継ぐ少女〜 作:ことのはや
空気が揺らぎ、アリアが包帯を解いた瞬間、少女の周囲に漂っていた蝶が一斉に霧散する。
だが、それと同時に――
霧が、一気に広がった。
この辺りを包み込む霧は、外のそれとは比べ物にならないほど濃く、部屋中が真っ白に覆い尽くされた。右も左もわからないほどだ。
「……ふむ、これは……」
その時、アリアの視界が一瞬、歪んだ。
床が溶けるように揺れ、足元が消え去るかのような錯覚に襲われる。視界が霞み、身体の感覚まで鈍くなる。
(……魔力を解放して、この威力……外の霧とは比べ物にならない……)
アリアは冷徹な表情を崩さず、だがその心中で一瞬、警戒を強めた。
――眠りへと誘う霧。
おそらく、この霧は単に視界を遮るだけでなく、他にも精神に作用する効果を持っているだろう。それに、視界だけでなく、先ほどの少女の気配すら感じられない。視覚や探知魔法を遮断する力が働いているようだ。
まずは、この霧を何とかしなければ……
アリアは軽く息を吐き、右手を掲げる。
「空域・絶」
その言葉と共に、周囲に空域が形成され、霧をかき消していく。
しかし――
シュルルルル…
消しても消しても、消えたところから新たに霧が発生する。
「嗚呼……なんとも、厄介な霧だ……」
その瞬間――
ゴウッ!!
突如、霧の中から巨大な影が現れ、アリアに向かって猛然と迫る。
「くっ……!」
アリアは冷徹な目でその動きを捉え、直撃寸前で後方へ跳び、ギリギリ回避する。
バキャアッ!!
巨大な影が床を抉る音と共に衝撃を広げ、小屋を吹き飛ばす。
その影が直撃した箇所には、まるで巨人の拳で叩きつけられたかのような跡が残っていた。
アリアの目がわずかに細められ、深く息を吐く。
「……だが、それ以上に、厄介なのはこの少女か……」
アリアはその場にとどまるのは危険と判断し、すぐさま走り出すが、その動きに合わせて、先ほどの巨大な拳のような影が再びアリアを襲う。
まるで、形を持った敵意だけが、意識を持たずに襲いかかってくるかのように――。
次の瞬間、霧が蠢く。
シュバッ!!
虚空から、突如として先ほどの少女が現れ、爪のような朧げな幻影を纏わせた手で、アリアに向けて鋭い一閃を放つ。
アリアは右手をかざし、その一撃を受け止める。攻撃を仕掛けた少女は再度、霧の中へと紛れる。
服と少し皮膚が切れた程度だが、アリアの内心に警戒の念が走る。
(なんだ……腕の感覚が妙に鈍い……)
内側から感じる痛み――もしかして、この少女の攻撃は霧と同様に、精神にも作用しているのか?
(このままでは少々マズいな……いくら私でも、長時間霧の中に居続けるのは危険だ…)
アリアは静かに息を吐き、決意を固める。
「……仕方ない……」
ゆっくりと指を閉じる。
「少女に使用するのはいささか気が引けるが……」
低く呟いたその瞬間、アリアの手のひらから力強い魔力が放たれる。
「死の空域・零、発動!」
不吉な風が辺りを包み込み、霧の揺らぎが僅かに動き出す。
「この空域は、全ての命を食い尽くす。貴女に耐えられるかな?」
「………う……」
すると霧の中から少女の姿がゆっくりと浮かび上がり、苦しげな表情を浮かべている。
「……見えた」
アリアはすかさず少女の元へ駆け寄る。
「空域・滅、その魔力は空になる」
少女を包み込む空域が、その魔力を削り取っていく。
「………あ……う………」
少女の体から力が抜け、まるで糸が切れた人形のように倒れた。それをアリアはすぐに抱え上げる。
完全な沈黙。
アリアは少女の様子をじっと見つめ、やがて静かに息をついた。
「……嗚呼、悲しい……。 この幼き者が、自らの力に飲み込まれるとは……」
アリアは少女に歩み寄り、静かに抱き上げる。少女の顔は穏やかで、まるでただ眠っているように見える。
「……末恐ろしい少女だ……あともう少し、この力を制御できていればと思うとゾッとしますね……」
その冷徹な目が少女の無垢な顔に一瞬止まり、アリアはため息をついた。
「さて……帰るといたしましょう」
アリアは静かに呟き、ゆっくりと小屋の扉を開けた。
霧は、すでに晴れ始めていた。
続く――。
ここまで読んでいただき、ありがとうございます!
アリアがほぼ無傷で勝利できた理由について少し触れさせていただきます。今回の戦いでアリアが勝利したのは、単純に少女が無意識のうちに戦っていたこと、そしてその力が未熟で完全に制御されていなかったからです。もし彼女が自分の力を十分に扱えるようになっていたなら、アリアであってもこのように簡単に事が進まなかったかもしれません。しかし、今回はその未熟さが逆にアリアにとって有利に働きました。