FAIRY TAIL 〜夢幻の竜を継ぐ少女〜 作:ことのはや
闇に生きる竜たち
――ファントムに入ってからの数年間は、常に死と隣り合わせだった。
“幽鬼の支配者”最強の魔導士――アリア。
私は彼から魔法の訓練や対人戦を叩き込まれた。どれも容赦がなく、毎日がボロボロだった。
ある程度戦えるようになった頃、マスタージョゼから依頼を任されるようになった。
そのほとんどが、実戦――戦いの中に身を投じるようなものばかりだった。
盗賊の鎮圧。
闇ギルドの壊滅。
魔獣の討伐――
最初のうちは
奴らは決まって、悍ましいほどの悪意と恐怖を撒き散らしてくる。
食べられないほど濁った夢。
泥のように不快な感情。
訓練で感じる
でも――あいつらは違う。
最初は耐えられなかった。
気分が悪くなって、吐きそうになることもあった。
……なのに、今は――何も感じない。
あれほど嫌だったはずなのに。
何度も依頼をこなすうちに、気づけば――
私は、それに慣れてしまっていた。
他のファントムのメンバーは、最初こそ私のことを「マスタージョゼのお気に入り」だと嘲り、面白半分に絡んできた。
だから私は、マスターの言葉通りに行動した。
「敵対する者は、徹底的に潰せ」――その教えを、ただ忠実に。
手を抜かず、容赦もせず。
相手が誰であろうと、私を侮った者は徹底的に喰らい尽くした。
そのたびに、
何度か繰り返すうちに、誰も私に軽口を叩かなくなった。
代わりに向けられるようになったのは――怯えた目だった
そういえば――
私がまだ“いびられていた”頃、一人だけ妙な奴がいた。
私より一日早く
私が絡まれている時、決まって何も言わずにそいつらを殴りに行く。
そのまま喧嘩になって、結局、周囲が黙る。
――そんなことが、何度かあった。
一度だけ、ガジルに聞いたことがある。
「……どうしていつも助けるの?」
「……くだらねえことしてるコイツらがムカついただけだ」
いつも返ってくるのは、その一言だけだった。
だから私も、そのうち何も聞かなくなった。
そして気づけば、
私たちは“コンビ”になっていた。
“
“
二人合わせて、“双竜”。
その名は、
やがて――国中に知れ渡るようになった。
今日もまた、
私はガジルと共に、任務に身を投じる。
— ✧ — ✧ —
ここは、闇ギルド《
――だった。ほんの、数時間前までは。
ギルドの建物は半壊し、瓦礫が無惨に転がっている。
焦げた鉄と血の匂いが入り混じった空気の中、
倒れ伏す魔導士たちの姿が、そこかしこにあった。
もはや、辺りに立っていられる者は誰ひとりいない。
荒れ果てた建物の向こう。
その残骸の中に、ひとりだけ震える男――
地面に這いつくばりながら、恐怖に引きつった顔でこちらを見上げている。
「う……嘘だ……俺たち
震える声が、瓦礫の静けさに虚しく溶ける。
そのすぐそばで――
白いローブの少女が、大きく背伸びをしながら、あくびをひとつ。
「ふわぁ〜あ……ん……眠気覚ましにもならなかった……」
その隣では、倒れた魔導士の背に腰をかけ、鉄片をバリバリと齧っている男がいた。
黒衣の男――
「ガリ…ガジ…ゴクン……ケッ、張り合いのねぇ連中だぜ」
ネムは、鉄を噛み砕く音を聞きながら、ふと思う。
「ねぇ……鉄って、美味しいの?」
「あぁ? じゃあ逆に聞くけどよ、夢って美味いのかよ?」
「……人による。美味しいのもあれば、美味しくないのもある」
私は、足元で震える男を見下ろしながら、ぽつりと呟く。
「ちなみに、こいつらの夢は最悪。食べられたもんじゃない」
ガジルは鼻で笑い、
「……俺も、同じようなもんだ」
と、短く返した。すると――
「ガリ……ゴクン……で? 次の仕事はなんだ?」
鉄を食べ終えたガジルが、立ち上がりながら尋ねる。
「マスタージョゼ曰く、大口の依頼……そのついでに、
「戦争か? ハッ、ずいぶんと派手にやる気じゃねぇか。余程気に食わねえことがあったらしいな」
「多分……依頼が来た時、マスターの気配、すごく荒れてた……」
「ギヒ、なるほどな……」
ガジルは口元を吊り上げて笑う。
その笑みの奥には、どこか楽しげな色が滲んでいた
「なら、とっとと仕事を終わらせるかね」
そう言ってガジルは、ネムの足元で這いつくばる男へと視線を向ける。
「ひっ……た、助けてくれ……! 俺だけでも……見逃してくれぇ……!」
泣き喚くような命乞いが、足元からいつまでも響く。
ネムはうんざりしたように視線を落とし、ぼそりと呟いた。
「……うるさいなぁ」
そのまましゃがみ込むと、冷ややかな目で男を見下ろし――
「――ガヒュッ!!」
無造作に男の頭を鷲掴みにする。
「……大人のくせに泣き喚いて、みっともない……そろそろ静かにしてくれる?」
「ひっ……いやだ……やめて……やめてくれぇ……!」
ネムはにっこりと微笑んだ。
「――いただきます」
掴んだ手が、まるで竜の牙のように指先を鋭く立て、そのまま男の頭へと深く突き立てる。
ズズッ……と嫌な音とともに、男の体から霞のような人型の“魂”が引きずり出される。
ネムはそのまま、指を噛みつくように握り込み――
ブチブチィッ!!
まるで噛み千切るかのように、それを容赦なく握り潰した。
「が……あ……!」
男の体はビクビクと痙攣し、やがてカクンと糸が切れたように崩れ落ちる。
虚ろな目を見開いたまま――完全に、抜け殻だった。
ネムは小さく手を合わせ、首を傾けながら呟いた。
「……ごちそうさまでした」
ガジルはその様子を見て、ギヒッと喉を鳴らしながら笑う。
「……相変わらず、えげつねえ魔法だぜ」
ネムは何も言わず、静かに立ち上がると、ガジルのもとへ歩み寄る。
「……じゃあ、行こっか」
「お、一眠りしていかなくていいのか?」
「……さすがに、これ以上のんびりしてたらマスターに怒られる……」
「ああ、そういやお前、出る前に釘刺されてたよなぁ」
「………」
ニヤリと笑うガジルに、ネムは小さく頷いた。
そして――
二匹の竜は、静かに“幽鬼の棲家”へと帰っていった。
夜の闇を裂きながら、静かに、確かに――
戦争の火は、その足音を近づけていた。
――続く。
次回より原作に関わっていきます。