FAIRY TAIL 〜夢幻の竜を継ぐ少女〜   作:ことのはや

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沈黙する影

 

最初に飛び出したのは――ジェットだった。

 

「そちらから来るのは好都合だぜ!」

 

瞬時に魔法を発動し、霧の中を駆け抜ける。

 

神足(ハイスピード)!」

 

風を裂く音と共に、ジェットの姿が一閃。

狙いはただ一つ――

 

目の前に立つ、黒衣の男。

 

隼天翔(はやぶさてんしょう)!!」

 

鋭く突き出された一撃が、男の顔面を正確に捉える――

 

――はずだった。

 

「……っ!?」

 

手応えが、ない。

まるで空を蹴ったかのような感触に、ジェットの目が驚愕に見開かれる。

 

「くらいやがれ! ナックルプラント!」

 

続いてドロイが地面に種をばら撒く。

瞬時に芽吹いた拳型のツタが、黒衣の男めがけて殴りかかる。

 

しかし――

 

ズバッ! スカッ! スカスカッ!

 

拳が霧を裂くだけで、男の体を掠めることすらできない。

 

「あ……当たらねぇ……!?」

 

拳の一撃すら、男の体をすり抜けていく。

 

「ど……どうなってんだこりゃ……」

「何の魔法だ……!?」

 

焦るジェットとドロイ。

だが、ただ一人――レビィは違和感の正体に気づいていた。

 

(幻……? 霧と併せて、視覚を誤魔化してる……!)

 

ならば、と息を吸い、魔法を展開する。

 

立体文字(ソリッドスクリプト)! (ウィンド)!」

 

WINDの文字が宙に浮かび、光を放つ。

 

ゴォォォッ!!

 

そこから巻き起こった突風が、周囲の霧を一気に吹き飛ばした。

視界が開けた――その瞬間。

 

「ギヒ、やるじゃねぇか!」

「っ!?」

 

頭上から声が響く。

咄嗟に見上げると、ギラついた笑みを浮かべた黒衣の男が、こちら目がけて急降下していた。

 

「――鉄竜棍!!」

 

その拳が鋼鉄の棍と化し、唸りを上げてレビィへと振り下ろされる。

 

「くっ……! 立体文字(ソリッドスクリプト)! (シールド)!」

 

SHIELDの文字がレビィの前に浮かび上がる。

 

――ガキィィィンッ!!

 

盾の文字が拳を受け止めた。だが――

 

「甘ぇんだよ!!」

 

バキィィンッ!!

 

黒衣の男が力任せに振り抜いたその瞬間、盾の魔法は音を立てて粉々に砕け散る。

 

「嘘……きゃあ!!」

 

まるで鉄槌を食らったような衝撃が全身を駆け抜ける。

吹き飛ばされる感覚とともに、視界がぐるりと回った。

 

ドガッ! ガキンッ――!

 

地面を転がりながら、崩れ落ちる盾の文字が視界の隅に映る。

細かい文字の破片が宙を舞い、儚く光を散らしながら消えていく。

 

「くっ…!」

 

何とか踏みとどまるも、両腕が痺れるように痛む。

今の一撃は、ただの鉄拳ではない。ただの「硬さ」ではなく、圧倒的な破壊力が込められていた。

 

カラン……

 

耳元で、小さな音が響いた。

顔を上げると、黒衣の男が、砕けた(シールド)の文字の破片を拾い上げていた。

 

「……」

 

男はそれをしげしげと眺め――

 

バキンッ!

 

何のためらいもなく、歯で噛み砕く。

ゴリッ、ゴリ……音を立てて咀嚼し、ゆっくりと飲み込んだ。

 

「……悪くねえ鉄だ」

「……っ!?」

 

衝撃が走る。

鋼鉄に変わるだけじゃない、鉄を“喰う”魔導士――

まさか、こいつが……

 

「……幽鬼の支配者の“双竜”の一人――

鉄竜(くろがね)のガジル……!!」

 

……ということは、もう一人の“双竜”も、この近くに――!?

背筋を冷たいものが走る。

私は焦りと共に、思わず周囲を見回した。

 

その様子を見て、ガジルがニヤリと口角を上げる。

 

「頭の回転は悪くねぇな……お前の予想通り、アイツも来てるぜ」

 

ガジルは、顎でそっと自分の背後を示した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――「真後ろにな」

 

ゾクリ――。

 

背後に、冷たい悪寒が走る。

突如――

 

「なん……がっ!?」

「ジェット!? がっ……!」

 

立て続けに背後から悲鳴が上がる。

振り返った瞬間、目に飛び込んできたのは――

 

苦悶の表情を浮かべ、その場に倒れ込むジェットとドロイの姿。

 

「……っ!?」

 

二人の顔色は異様に青白く、体をガタガタと震わせながら、うめくような声を漏らしていた。

 

「……やめろ……う、うわぁぁっ……!」

「ひっ…く……来るな……いやだ、来るなっ……!」

 

額には冷や汗が浮かび、顔は恐怖に引きつっている。

 

――まるで、悪夢に囚われているかのようだった。

 

「な……なに……?」

 

異様な光景に、私は息を飲んだ。

 

倒れ伏すジェットとドロイ。そのすぐ傍らに、ひときわ目を引く“影”が立っていた。

白いローブをまとい、身に白い霧を纏わせた少女――無表情のその顔を見た瞬間、全身が一気に凍りついたような感覚に襲われる。

 

彼女の足首には、はっきりと刻まれたギルドの紋章。

 

――幽鬼の支配者。

 

「……まさか……貴女が……もう一人の“双竜”……夢幻の滅竜魔導士――

夢竜(ゆめくい)のネム……!!」

 

その名を口にした瞬間、少女――ネムがゆっくりと、無感情にこちらへと視線を向ける。

 

私は、喉が引き攣るのを感じながら、恐る恐る問いかけた。

 

「二人に……何をしたの……!?」

 

ネムは、その言葉に反応するように、ゆっくりと倒れた二人へ視線を落とす。

そして、無表情のまま、ぽつりと呟いた。

 

「……夢を見てるの」

「……え?」

 

その声は、どこか幼く、楽しげで――けれど、底知れぬ不気味さがあった。

 

「とっても……とっても、怖い夢を――」

 

ゾクリ、と背筋を冷たいものが這い上がる。

 

「お姉ちゃんも……その夢に、ご招待してあげるね」

 

ニィ……と、不気味な笑みを浮かべたネム。

 

そして次の瞬間――その姿は霧に溶けるように掻き消えた。

 

「――ッ!?」

 

……気づいた時には、すでに目の前にいた。

 

「くっ……! 立体文字(ソリッドスクリプト)! (ファイア)!」

 

FIRE の文字が宙に浮かび、瞬時に燃え上がる。

その炎を纏った文字を、迎撃としてネムに向けて放つ――

 

だが、

 

ボシュッ!!

 

着弾の寸前、黒い塊が横から飛び出し、炎をかき消した。

赤々と燃えていたFIREの文字は、音もなく霧散する。

 

「……!?」

「ギヒッ!」

 

目を向ければ、ネムの背後にガジルの姿。

鋼鉄に変わった腕からは、まだ微かに煙が立ち上っていた――おそらく、さっきの攻撃は彼が防いだのだ。

 

そして――

 

炎を消された一瞬の動揺。

 

そこを逃さず、白い霧を纏ったネムの手が、音もなく私へと伸びてきた――。

 

「――っ!」

 

この手に触れたらマズい。逃げなきゃ……!

そう思っても、身体が動かない。

 

「……いただきます」

 

次の瞬間、指先が私の肌に触れた。

 

その手は小さいのに――まるで、巨大なドラゴンの口のようだった。

私は、ちっぽけな存在として、それに“喰われる”感覚に囚われる。

 

視界が一気に闇に沈み、恐怖が這い上がってくる。

 

(……ごめん、みんな……)

 

薄れゆく意識の中で、ただそれだけを心の中で呟いた。

 

――意識が、静かに闇に呑まれていく。

 

 

――続く。

 




今回の話では、ガジルとネムがシャドウ・ギアを襲撃しましたが、ネム自身の戦闘は奇襲のみで終わりました。本格的な戦闘シーンは、もう少し後になります。

彼女がどんな戦い方をするのか、そして「夢幻の滅竜魔導士」としての本領を発揮する瞬間を、ぜひ楽しみにしていてください。
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