甚大な被害をもたらす系魔法少女の弟子になりました。 作:ヴィヴィオプロペータ
「はぁ……」
学校へ行く途中、昨日のことを思い返してしまう。
あまりの事に、夜もあんまり眠れなかった。
一晩中、起こったことをぐるぐるぐるぐる考え続けて、気が付いたら朝。
結局答えは何一つとして出てくれなかった。
今もずっと考えてる。
すると、不意に後ろから背中を叩かれた。
「うわっ」
「ため息なんて吐いちゃうと、幸せが逃げるよ、
「
「おはよう!」
叩いてきたのは、小学校からの付き合いの友達、美嘉だった。
私とは違って元気溌剌としてて羨ましい。きっと昨晩もいっぱい眠れたのだろう。
「なんか顔色悪いね、どうかしたの?」
「ちょっと寝不足で……」
「寝不足、心配事でもあった?」
「昨日、ちょっと色々あってさ」
詳しいことはもちろん言えない。
魔法少女は敵に狙われているから。もし、正体がどこからか敵にバレてしまえば、親しい人も巻き込んでしまう。
だから、魔法少女は魔法少女であることを明かさない。一部の例外はいるけれど……彼女たちは、トップもトップの実力を持つ子たちばかりだ。全てを守るつもりでいるに違いない。
「ふうん。じゃあ、昨日の魔法少女ニュースも見てないね?」
「見てない、かな。何かあったの」
「よくぞ聞いてくれました! なんと、この近辺で二人目の魔法少女が出てきてくれたの!」
そう言いながら、制服のポケットからスマホを取り出し、するするとスライドすると瞬く間に昨日の事件の記事にたどり着いた。
「昨日ね、ほら、隣の市のショッピングモールで怪物が現れたの」
「どれどれ……」
記事について見せてくれるので、体を寄せて読んで見る。
「『新しい魔法少女、ヴィヴィオプロペータ。素早い動きで怪物を翻弄』……?」
「ね? 新しい魔法少女。家族は深緑の服装が地味めだっていうんだけれど、私は司書モチーフって聞いてからそれもまた可愛いって思ったんだ!」
「そ、そうじゃなくて。これだけ?」
「うん? 変な事が書かれてた?」
「そうじゃないけれど……」
記事を読むと、ヴィヴィオプロペータがあの狼男を仕留めたことになっていた。
彼女については、一切どこにも触れられていない。
――まさか?
私が自分のスマホを取り出し、SNSで昨日のことを検索する。
ない。ない。ない。あんなにも目立つ彼女なのに、どこにも彼女についての情報が書かれていない。
「いやー。まさかこの近隣でフリージタ以外の魔法少女が来てくれるなんて」
「そうだね」
「フリージタもまさに氷! って感じでかっこいいけれど。新しい子はほんと可愛い!」
「あはは」
笑ってごまかす。自分の事をどうかなんて、とてもじゃないけど言えないよ。
……話題を変えるためにも、聞いてみていいかな。
「ねぇ、美嘉はアヴィオシータスって魔法少女、知ってる?」
「アヴィオシータス? うーん、ちょっとすぐには出てこないかも。何かあったの?」
「ううん。気にしないで」
やっぱり、都市伝説ぐらいの彼女は一般には知られてない。魔法少女大好きならともかく、美嘉ぐらいの追っかけ具合だと知らないみたい。
……あんなに目立つのに?
今の今まで、名前は囁かれてたのに目撃情報がないなんて、そんなことがある?
ひょっとして、わざと表に出ないようにされているんだとしたら?
ヒヤリとする。思ったより、私はまずい相手と関わってしまったのかもしれない。
「それよりもさ、それよりもさ!」
学校につくまで、私は美嘉の魔法少女トークに付き合わされた。
私は若干笑いながら、ずっと付き合っていた。
学校についてからも、魔法少女の話題は終わらない。
朝のホームルームが始まる前の教室内でも、話題の中心は昨日の事件についてだ。
ホームルームが始まった後も――。
「えー、昨日となりの市のショッピングモール付近にて、敵が現れました」
先生からの連絡事項も、当然昨日の事件についてだった。
「こちらは魔法少女により無事討伐されましたが、最近は敵の出現情報が非常に多くなっております。皆さん、何かあった際には避難場所に速やかな避難をするように。決して、魔法少女の戦いを見ようと現場に居続けてはいけませんよ」
そういえば、昨日はそう言ったやじ馬はいなかったのだろうか。
歓声とか聞こえた気がするから、若干残ってた人はいたのかも……?
いいや、いなかったんだと思う。いたとすれば、彼女の話題が全くないのが不自然だから。
それとも……?
「まーた難しい顔してるよ」
「美嘉」
「何々、そんなに心配?」
考え事してたのが、昨日の事件を気にしてると思われたみたい。
間違いではないんだけれど。
「一限目の準備しないと間に合わないよ~?」
「そうだね。そう――」
ひとまず忘れて、勉強に集中しよう。
そう、意識を切り替えようとしたときの事だった。
けたたましい警報音が、学校中に鳴り響く。
この音は、火事じゃない。地震でもない。警報音の音は、何が起こったかによって違う。
小学校の時からやらされている避難訓練の時に、何度も聞いたこの音は……。
いち早く理解した子たちが悲鳴を上げる。遅れて、繰り返すようにもう一度悲鳴。
「皆さん! 学校の入り口に怪物たちが出現しました!」
先生が教室の扉を勢いよく開け放つ。
廊下の方から、悲鳴が聞こえてくる。教室内でも呆然とする人と、信じられず叫ぶ人に分かれてる。
私は、咄嗟の事に頭の中が真っ白になってしまった側だった。
「ねぇ、大丈夫だよね?」
「大丈夫だよ。だって、ほら、ニクスフリージタだっているし。昨日の新しい子だって……」
「すぐに来てくれるよな?」
「皆さん、落ち着いて! この体育館は頑丈に作られてますから!」
下手に逃げ回るよりも、一つの隠れ場所に集まった方がいい。
そういう定説が流れ始めたのはいつからだったっけ。
人類の敵たちは、人の体では到底食らいつけもしない尋常でない身体能力をしている。だから、逃げ回るのが意味がないと言われている。それならば、少しでも刺激したり見つかる危険性を下げつつ、魔法少女の到着を待つ。
生存人数を最大限にするために、必要なことだと。
「海老名……」
「美嘉」
体育館に無事集まれた生徒たちは、皆一様に顔色が悪い。美嘉も例外ではなく、元気に振舞おうとしているけれど震えが止まってないみたい。
「私達、大丈夫だよね?」
「……うん、大丈夫だよ」
ぎゅっと手を握って落ち着かせてあげる。
周囲を見回すと、普段見る先生たちが足りない。そして――生徒たちも、学校中から集めたにしては。
誰も触れない。想像したくないから。
自分たちは大丈夫だと思いたいから。
――でも、現実はとても非情で。
体育館の入り口の鉄扉が、勢いよく叩かれた。
「ひぃ!」
「きゃああああああ!」
「落ち着いて! 皆さん、落ち着いてください!」
先生たちが必死にみんなを落ち着かせようとするけれど、きっと無理だ。
扉は既に歪んでいて、今にも破壊されてもおかしくない。
みんな少しでも扉から遠ざかろうと、壇上へ登ろうとする。
「ヴィヴィオプロペータ、ニクスフリージタ! 助けて、お願いします……っ!」
隣で、親友が魔法少女に祈りを捧げてる。
……怖い。戦うのが、怖い。
昨日刻み付けられた死の恐怖が、私の心臓を鷲掴みにする。
ニクスフリージタは間に合うだろうか。多分、間に合わない。
アヴィオシータス、は? もしかしたら、また助けてくれるかも――。
ひと際大きな音が鳴った。扉が大きくひしゃげている。
駄目だ。もう一刻の猶予もない。
『やっぱりここに集まってやがったか』
――悲鳴が上がった。
扉が片方吹き飛ばされ、彼らの姿が露になった。
昨日現れた狼男と同種族。一回り小柄に見えるけれど、三体もいる。
『まったく、手間かけさせてくれやがって』
ずかずかと大きな足音を立てて、狼男たちが体育館に入ってくる。
『皆殺しでいいんだよな?』
『何人かは生け捕りにしろって話だ。何に使うのかは知らんが』
『しょうがねぇな』
悲鳴が大きくなる。混乱、混沌、どうしようもない。
人の波が集団を狂わせる。先生の声も聞こえない。
ああ、もう駄目だ。
先生が彼らを止めようと、さすまたで立ち向かっているのが見える。
あんなもので止められるはずがない。殺してくれと言っているのと一緒だ。
狼男が振りかぶる。先生はそれに立ち向かおうとしていたが、横から突撃してきた生徒によって吹き飛ばされた。
結果、爪は空を振る。
誰があんなことを? まさかとは思って隣を見ると、そこにいるはずの子がいない。
もう一度、視線を戻す。美嘉だ。美嘉、だった。
『どうやら、死にたい奴がいるみたいだな。望みどおりにしてやるよ』
「……どうせ、どうせ! あなたたちなんて魔法少女にやられちゃうんだから!」
『ほざいたなガキが!』
――行かなきゃ。
本能的に思考が止まると同時に、私はポケットから自分のスマホを取り出し、狼男の内の一人に投げつけていた。
狼男は飛んでくるそれを受け止め、握りつぶした。
ぎろりと、こちらをねめつけてくる。
『……どうしても一番最初に死にたい奴がいるみたいだな』
「海老名っ!」
「~~っ! 来なさい!」
どうしてやってしまったのか。こんなにも怖いのに。
死にたくない、怖い。体が震えている。刻み付けられた恐怖と、知ってしまった現実からは逃れられない。
でも、美嘉を死なせるのは死ぬ以上に怖いと思ってしまったから。
「変身!」
だから、他の事なんて一切考えず、私はその場で魔法少女へと変身を行った。