甚大な被害をもたらす系魔法少女の弟子になりました。   作:ヴィヴィオプロペータ

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第5話:死を知る

 殺してやろうかと思った。いいや、殺してやりたい。

 ヴィヴィオプロペータに対する、インヴィデーラパルペブラの今の包み隠さぬ本音だ。

 今は黙々と後ろをついてくる少女。

 

「学校は?」

 

 などとほざき、さぼれと言われて不服を明らかにした少女。

 何も知らないくせに、何もわからないくせに、アヴィオシータスの計画を邪魔し、彼女の思いを踏みにじった。

 それだけにとどまらず、お前は間違っているなどという思い違いも甚だしい言葉を彼女に吐きつけやがった。

 

 殺す。殺して四肢を全てもぎ取り敵の前に置き去りにしてもなお足りない。

 

 パルペブラは人類の事などどうでもいい。

 ただ、同胞である魔法少女の事は大切に思っている。

 とりわけシータスの事は大切に。いいや、大切というのも烏滸がましい、崇拝している。

 彼女の言う事ならば、なんだってする。死ねと言えば死ぬ。己の眼球をくり抜けと言われれば迷いなく差し出す。

 そのぐらい、パルペブラにとってシータスは絶対的な存在だ。

 

 本人に口止めされていなければ、今すぐ彼女の思いを全ての魔法少女に共有している。

 彼女の苦痛を、苦労を、葛藤を、わからぬものがいるなら命に代えても殺しつくすと心の底から思っている。

 シータスが報われぬ世界ならば滅んでしまえとどこまでも純粋に願えている。

 

 魔法少女は性質上、死の間際、他の魔法少女に救われた人や、そもそも限界まで生存本能が高まることで覚醒を起こしやすい。

 パルペブラは前者だった。誰も助けてくれない中、一人で敵を殺し続けた。

 魔法少女は敵にとって、厄介な戦士であると同時に良質な餌でもある。故に、積極的に狙われる。狙われるから殺すしかない。

 さて、果たして一般の人々は敵をおびき寄せるとわかった存在に寛容でいられるだろうか?

 答えは、否だった。

 

 魔法少女が広く受け入れられるまで、彼女たちの待遇は凄惨なものだった。

 

 “始まりの大侵攻”と呼ばれる、十年前に起きた敵による人類の大虐殺を魔法少女が食い止めたのにも関わらず、人々は魔法少女を排斥した。

 大侵攻によって生まれた魔法少女を、魔法少女がいたから大侵攻が起きたのだと、誰かが誤情報を流したためだ。

 

 故に、パルペブラは人類を救おうとは思わない。

 愚かな連中は救われる価値がないと思っているからだ。

 同胞たる魔法少女のみ救われればいいと思っている。

 誰かを献身的に救おうとし、恐怖に立ち向かった彼女たちは尊いものだから。

 

 魔法少女が身を削ってまで救う価値は人類にない。

 真実から誰もが目をそらしているいいや、大多数の意見という妄言で魔法少女たちを縛り付けている。

 解放しなければならない。パルペブラは、常にそう思っていた。

 口では人類の為と言うが、腹の底ではシータスも同じことを思ってくれていると信じていた。

 

 だからこそ、信じられなかった。

 これまでの行いを、信念を、正面から間違っていると吐き捨てられたのに。

 シータスは――どうしてあんなにも嬉しそうだったのか。

 あんなにも裏切られ踏みにじられ身を引き裂いてなお何一つ報いぬ人類に、まだ忠義を尽くすつもりなのかと。

 

 現実を受け入れてほしいと、願わずにはいられなかった。

 

 ◇ ◇ ◇

 

 たどり着いた場所は、どこにでもありそうな住宅街の一軒家だった。

 

「入れ」

 

 シータスが先導し、玄関の扉を開けて中に入る。

 ――瞬間、その姿が掻き消える。

 続いて、パルペブラさんが入って行った。

 同じように、姿が消えた。

 

 ……もう一度、建物の様子を見る。

 どこにでもあるような一軒家だ。昨日今日建てられた真新しさはどこにも見当たらないし、不自然なところも何一つとしてない。

 魔法を使って調べてなお、違和感一つ見当たらない。完璧な民家だ。

 庭と面している窓を見れば、誰もいないリビングの様子すら窺える。

 

 ならば、彼女たちはどこへ消えたのだろうか。きっと、後を追えばわかるのだと思う。

 追って大丈夫だろうか? 本当に、これでいいのだろうか?

 逃げるならばこれが最後だという直感が頭によぎり――弱音を振り切るように建物の中へと飛び込んだ。

 

 敷居を越えた瞬間、世界が変わる。

 目の前に広がるのは広大な草原。その向こうには黒き城がそびえ立っている。空は昼なのに夜空が広がっていて、星々が白く輝いている。

 まるで、ファンタジーな世界に迷い込んでしまったかのような感覚になってしまう。

 

「ようこそ、我らが拠点。【アルカトラズ】へ」

 

 目の前には、シータスだけがいた。

 草原に立つゴシックドレスの少女は、幻想的な雰囲気をより増させている。

 

 少し見渡す。

 一緒に入ったはずの、パルペブラさんはどこにも見えない。

 

「パルペブラは少しばかり用事を任せた。お前を鍛えるのに、必要もないからな」

「これは……魔法ですか……?」

「そうだ。仲間の一人によって維持されている疑似空間だな」

 

 疑似空間? こんなにも広い空間が、たった一人の手によって?

 一体どれだけの魔力があれば実現できるのだろうか。一体どれだけの実力がある魔法少女なのだろうか。

 

「パートルとは会ったと聞いたが?」

「パートル。あっ」

 

 あの、よくわからない部屋で机やお茶を出してくれた、あの魔法少女。

 姿は一回も見せてくれなかったけれど、これが彼女の魔法……?

 凄い。空間を作り出すなんて、聞いたこともない。

 

 でも、ここで一つ不安になる。

 

「あの、いいんですか」

「何がだ」

「私に、そんな彼女たちの魔法を教えてしまって」

 

 魔法少女の魔法は敵に対する切り札。

 バレないように細心の注意を払った方がいい。

 もちろん、バレても問題ないというか関係ない魔法の魔法少女もいるけれど、パルプベラさんの『隠匿』やパートルさんのこの空間魔法は隠していてこそ役に立つものだと思う。

 

 私の不安を、シータスは鼻で笑い飛ばす。

 

「構わん。どうせ、私たちの魔法は全て敵にはバレている。なら、最大限活用した方がいい」

「えっ!」

「私たちが何年敵と戦ってきたと? ――今お前が想像したものよりかは昔からだな」

 

 敵が現れてから、十年の歳月が経っている。

 想像よりも昔というと、七年ぐらいだろうか。

 魔法少女よりも、敵の襲撃の情報ばかりがニュースで流れてた時期。

 今みたいに、かっこよくてかわいい魔法少女の姿を、皆が素直に応援できていなかった時代だと聞いている。

 

 まあいいと、雑談を終了させられる。

 ――彼女の纏う雰囲気が変わる。

 

「さて、私はお前を鍛えてやると言った。お前はついてきた。その意思に間違いはないな?」

 

 頷く。

 私には力が必要だ。人々を守るための力が。

 悔しいけれど、この人は強い。かけられた圧が、殺気の濃さが、場数の違いを教えてくれていた。

 そして、昨日のあの魔法を使う敵との戦いも――何をしたのかさっぱりわからないまま敵を殺していた。

 強い、という言葉すら怪しい。だって、私ではその強さが何なのかがわからないのだから。

 

「私はお前に地獄を見せてやると言った。お前はついてきた。その意思に間違いはないな?」

「……はい」

「間違いだったと、今なら逃げ出す許可をやろう。これが、最後の通告だ」

 

 トントンとシータスは左かかとで地面を叩く。

 何かの準備に見えた私は、咄嗟に短剣を構えて戦闘態勢を整える。

 逃げ出す気はない。どんな戦闘訓練でも、耐えて見せる。

 この人の思い通りにはさせたくない。そう思い足に力を入れる。

 

「……何か勘違いしているみたいだな」

 

 勘違い、何をだろう。

 そう思い油断してシータスの方を見て後悔した。

 ただ自然体で立っているようにしか見えない。でも――。

 

「まずは、死ぬことからだ」

 

 彼女の宣言と同時に、私の首が胴体から落ちた。

 

 ――。

 

 ――――。

 

 ――――――。

 

「はっ!」

 

 呼吸を取り戻す。

 苦しい。酸素が足りない。

 どれだけの間意識を失っていただろう。体が自然と崩れ落ちる前だから、数秒も経っていないに違いない。

 でも、私にとっては永遠にも感じられた。

 呼吸が荒い。心臓がうるさい。生きていると叫んでいるのに、実感がわかない。

 

 震える手で、私は自分の首に指先を這わす。くっついている。切れてない。

 あんなにも鮮明に、逆さまになる世界を見たのに――。

 

「理解したか」

「……シータス」

「師匠と呼べ」

 

 彼女の言葉と同時に、右腕が宙を舞う。

 回転しながら飛ぶをそれを見て、私は恐怖に呑まれる。

 

「うわああああああああっ!」

 

 慌てて飛びずさろうとして……やはり、ついていることに気が付く。

 幻覚? なぜ、どうやって。

 何が起きているのかさっぱりわからない。

 

 彼女――アヴィオシータスは、一歩も最初の場所から動いていない。

 

「言っただろう? 地獄を見せてやると」

 

 全身が汗で濡れている。冷たい汗だ。

 呼吸が荒いまま止まらない。歯ががちがちと今にも火花を散らしそうなほど激しく鳴る。

 

「これからお前を、百回殺す」

 

 昨日も、今日も! まったく本気じゃなかった。

 殺気の意味を全く分かっていなかった。

 あの狼男に向けられた怒りを受け止めて、殺気をわかった気になってた。

 

 水桶に沈められたときよりも、はっきりと鮮明に感じる。

 これが本当の殺気。触れただけで、死を感じさせる絶対的な死の気配。

 これを百回? そんなの出来るはずがない。

 耐えられない。どうか勘弁してほしい。

 その願いを視線に乗せて彼女を見て――。

 

「せいぜい、気が狂わないことを祈る」

 

 ――容赦してくれないことを告げる言葉が、振り下ろされた。

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