転生者の打算的日常   作:名無しの読み専

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#101 再戦、双子鷹

 2週間前−−

「では、編成を発表する」

 国連軍IS特務部隊『火消し屋(プリベンター)』のウィンド隊長がそう言うと、作戦室のボード型ディスプレイにチームメンバーと攻撃目標が表示された。

 

 チームウィンド(亡国機業本部)ウィンド、村雲九十九、布仏本音、シャルロット・デュノア

 チームファイヤ(PMC『ピースキーパー』本社ビル)ファイヤ、織斑一夏、ラウラ・ボーデヴィッヒ

 チームウォーター(『エル・ビアンコ』アジト)ウォーター、凰鈴音、セシリア・オルコット

 チームサンド(『ゾルケイン』麻薬工場)サンド、更織簪、更織楯無

 チームクロス(『ギャラルホルン』駐屯地)クロス、篠ノ之箒、山田真耶

 チームパウダー(『王貿易商会』本社)パウダー、アイリス・トワイライト・ルクーゼンブルク、ジブリル・エミュレール

 チームバブル(ノヴェンバーの研究所)バブル、ルイズ・ヴァリエール・平賀、キュルケ・ツェルプストー

 

「以上が今回の編成よ。各員はチームごとに集合して顔合わせをしておいて。連携戦闘訓練は1時間後から開始するわ」

「「「了解」」」

 隊長の言葉に全員が力強く返事……を……って、んんっ⁉

「ルイズさんとキュルケさんの名がある⁉なんで⁉」

「そりゃあ、ラグナロク(うち)主導の作戦なんだ。うちからも戦力を出さなくてどうするんだって話だろう?」

 からからと笑いながら私の疑問に答える社長。なお、ここにいないのは既にアリーナで訓練の準備を進めているからだそう。

「ちなみに、他の拠点については各国軍の生き残ったISを掻き集めてチームを編成、事に当たる事になっている。と言っても、我々が当たる拠点に比べて防御が薄いと思われる所のみだが」

 『コード・カタストロフィ』の効果によって篠ノ之束の影響下に入ったISは決して少なくない。私に襲い掛かってきた合計60近い暴走ISのうち、パイロットを捨てて離脱したのが約半数。撃墜したのも約半数。撃墜したISは、修理すれば再度暴走する恐れがあるとして完全に手つかずのまま学園のIS倉庫に放り込まれている。そしてそのIS達は、各国が威信を賭けて生み出した傑作機・最新鋭機ばかりである。各国のIS戦力がガタ落ちしているのは言うまでもない。

 だがだからといって、「亡国機業が世界に打って出ようとしているので、その前に俺らで潰します。おたくらは力が落ちてるんだから、黙って見ていろ」と言われて「はい、そうですか」とはいかないだろう。そんな事をすればそれこそ国の威信や為政者の民からの信用度といったものが地に堕ちる。そこで、生き残ったISの存在する−−といっても第2世代ISが大多数−−国達が「せめてこれ位は」と総力を結集。『プリベンター』と『ラグナロク』の戦力では埋め切れない穴を埋めるべく立ったのだ。

「……面子を守るのも、大変なんですね」

「だが、重要さ。さて、それじゃあチームも決まった事だし、早速それぞれ訓練に入ってくれ」

 パンパンと手を叩く社長に促され、私達は各チーム分かれてウィンド隊長曰く「死ぬ程辛い」訓練に臨んだのだが……。

 

 

「本当に死ぬかと思った……。いや、死んでないけども」

「うん……」

「あ、思い出すと震えが〜……」

 亡国機業の本部へ向かう輸送機の中で『非常に濃い』準備期間の事を思い出して、私達は揃って背中を煤けさせていた。これで何回目だ?訓練でトラウマ作ったの。

「シャキッとしなさい!!作戦空域に入るまでにもう1度作戦を確認するわよ!」

「「「は、はいっ!」」」

 隊長の喝にビクッとしつつも気を取り直し、作戦の再確認を行うべく輸送機の中央のテーブルに近づく私達。

 作戦はこうだ。この輸送機の飛行限界高度(15000m)から作戦空域に突入、そこからISを装備した私達が降下、直上から強襲を仕掛ける。防衛戦力は本音の『プルウィルス』による広範囲雷撃で逐次殲滅しつつ本部施設内に突入。そこに居るだろう最高幹部の身柄を確保する。不測の事態が発生した場合、臨機応変に対応する。

「以上が今回の作戦の概要よ。とは言っても……」

「『戦場の霧』は払い切れない。何が起きても不思議ではないと思え。でしょう?ウィンド隊長」

 私に向かって頷く隊長。この2週間『あらゆる事態を想定しなさい。そして、現実はその上を行くと思いなさい』と何度も言われて来たからな。

「分かっているなら良いわ。目標地点まではまだ時間があるから−−」

 

ガクンッ!

 

「「「っ⁉」」」

 隊長が何かを言おうとした瞬間、輸送機が大きく揺れた。乱気流にでも入ったか?

「機長、どうした?」

 隊長が輸送機の機長に問うと、機長から焦った声で返信してきた。

『攻撃です!2機のISが当機に攻撃を……くっ!緊急回避します!何かに掴まって!』

 

グオンッ!

 

 再び大きく傾く輸送機。機長の指示に従って、手近にあったポールを掴んで耐える。シャルと本音はシートに跳び乗って転がらないように耐えていた。

「くっ……!」

「こちらの動きが読まれていたか……!やむを得ないわ。迎撃行動に移ります。総員、ISを装着して発進!機長は私達の発進を確認後、即時離脱。襲撃者を撃破、ないし撤退させ、そのまま作戦空域に突入。その後は作戦通りに。行くわよ、貴方達!」

「「「了解!」」」

『了解!ハッチを開きます!ご武運を!』

 開かれた後部ハッチから吹き込む強風に耐えながらISを展開。そのまま一斉に飛び出す。すると、センサーにこちらに急速接近するISの反応が2つ。

「ライブラリ照合……『告死天使(アズライール)』と『告命天使(スルーシ)』!あの双子か⁉」

 反応のする方へ全員で向き直ると、『アズライール』と『スルーシ』を纏ったあの時の双子が、長い銀髪を風に靡かせながら接近して来ていた。それに対して、私達は武装を呼び出(コール)して臨戦態勢を取る。

「まさか1回目で当たりなんて。ツイているわね、姉さま」

「ええ。それも大当たりよ。久しぶり、村雲九十九。こんな所で会うなんて奇遇ね」

 嫣然と微笑む双子。しかし、向こうもまたそれぞれの得物を構えて油断無くこちらを見据えている。いつ戦端が開かれてもおかしくない緊張状態。そんな中、私は敢えて挑発的に双子に話し掛けた。

「こちらも、こんな所で貴女達に会うとは思っていなかったよ。そんな貴女達に一言……そこを退け」

「……何ですって?」

「再戦は折を見てこちらから申し出る。今は貴女達の相手をしていられる程の時間的余裕が無い。だから……そこを退け」

「……それで『はい、そうですか』とはいかないのよ。こっちも上役から『本部に近づく連中は、誰であろうと死んででも止めろ。出来なければ私が殺す』って言われててね。命懸けなのよ、私達も」

「だから、どうしてもこの先に行きたいと言うなら……」

「「私達の屍を越えて行きなさい!」」

 吠えると同時に『アズライール』が接近、『スルーシ』が後退して専用BARを構えて乱射。こちらの陣形を崩しに来る。

「私は……!私達は、こんな所で立ち止まってなどいられないんだ!退かんと言うなら押し通る!」

「何やら因縁があるようだけど、指示には従って貰うわよ!フォーメーション『クロスボウ』!」

「「「了解!」」」

 隊長の指示に従い、陣形を整え直す。フォーメーション『クロスボウ』は隊長を前衛に、中衛として左右後方に私とシャル、後衛に本音が着く、上から見ると丁度十字架の形になっているのと、この陣形での主な攻撃手段が射撃である事から来ている。

「この『七片花盾(ローアイアス)』の防御力を甘く見ると、怪我では済まないわよ!亡国機業!」

 ウィンド隊長のIS『ローアイアス』は『セブンシールド』の異名を持つ、近接防御型の機体だ。機体と盾の堅牢さと隊長自身の防御能力の高さが相まって、その被弾率は0に等しいという。

 その防御力に任せて隊長が前衛壁職(タンク)を担い、その後方から『阿修羅(アースラ)』を装備したシャルの『ラファール・カレイドスコープ』と私の『フェンリル・ルプスレクス』が弾幕を形成して行動を阻害、トドメに最後方から本音の『プルウィルス』が最大最速の一撃−−《エル・トール》による雷撃−−を放つ。というのが、フォーメーション『クロスボウ』の基本戦術だ。

「先に『アズライール』を落とすわ!行くわよ、貴方達!」

 両手に大盾を構えて『アズライール』に接近する隊長。応じるように『アズライール』も隊長の懐に飛び込んで行く。

 

ガイインッ!

 

 『ローアイアス』の大盾と『アズライール』の斧がぶつかり、激しく火花を散らす。そのまま押し込み合う両者。ガリガリという互いの得物を削り合う異音が響く。結果として、『アズライール』の脚が止まっている。この隙は逃せない。

「シャル!」

「はい!」

 隊長と鍔迫り合い状態にある『アズライール』に、互いの射線に入らないように位置取りをしたシャルの6丁のサブマシンガン《レイン・オブ・サタデー》と私のマシンピストル《狼爪》による銃弾の雨を浴びせる。

「ちいっ!」

 舌打ちと共に隊長の盾を蹴って射線上から退避する『アズライール』。それでも、彼女にはいくらかのダメージは入ったようだ。が、そこで手を緩めるほど、私は甘くない。

「本音!」

「りょ〜かい!やるよ!《ユピテル》!」

『了。目標に雷撃を投射します』

 《ユピテル》の宣言と同時に『アズライール』の頭上に黒雲が一瞬で湧き出す。そして次の瞬間。

 

ピッシャアアンッ‼

 

 轟音が耳を劈き、閃光が網膜を焼く。強烈な雷光は狙い違わず『アズライール』を撃ち据えた。

「ぐううっ!」

 苦悶の声を上げる『アズライール』。だが、機体自体へのダメージはそれほど大きくないようだ。やはり、事前に耐電コーティングを施してあるか。

「やってくれたわね……!お返しはさせて貰うわ!姉さま!」

「ええ、見せてやりましょう。私達のIS『アズライール』と『スルーシ』の真価を!」

 そう言うと、双子は大きく後退。私達から距離を取って横並びになる。その姿に、私の背筋がチリついた。

「ジャケットアーマー、パージ!ウィング展開、ドライブ全開!」

 爆発ボルトの破裂音と共に、『アズライール』の胸、両前腕、両脛、両脹脛から装甲の一部が吹き飛び、重装甲で鈍重そうな見た目から一気にシェイプアップした。更に。

「……信じるわよ、博士。テスラ・ドライブ、出力最大!」

 『スルーシ』のウィングスラスターがその形状を大きく変え、ウィング全体からエメラルドグリーンの光が溢れ出す。

「行くわよ」

「ええ」

 互いに見合って頷く双子。次の瞬間、その姿は本音の前にあった。莫迦な!一瞬であの距離を詰めただと⁉

「えっ……⁉」

 突然目の前に現れた双子に、本音は呆気に取られる。その隙を逃す程、『アズライール』も甘くない。

「貴女がこの作戦の要と見たわ。残念だけど、サヨナラ」

「させるかあっ!」

 『フェンリル』のスラスターを全開にし、今まさに斧を振り下ろそうとしている『アズライール』にタックルを仕掛けて本音から引き剥がす。

「今の内に退け!本音!」

「は、はい「逃がさないわ」っ!」

 後ろに下がろうとする本音にBARを乱射しながら距離を詰める『スルーシ』。薄緑の光の尾を引きながら飛ぶその様はいっそ美しくすらあるが、それが本音を狙っているというなら見過ごせない。

「う……おおおおっ!」

 『アズライール』に組み付いたまま、スラスターを全開にして『スルーシ』のいる方へ飛ぼうとするが、そうはさせじと『アズライール』もスラスターを吹かしてくる。両者の推力はほぼ互角……いや、若干『アズライール』の方が分がいいか。だったら!

 

 

 『フェンリル』を徐々に押し込みながら、『アズライール』は自身の機体を強化改修したノヴェンバー……ニコラス・テスラに感謝の意を内心で示した。

 亡国機業所属の第3世代ISに優先的に搭載された、ニコラス・テスラ謹製の推進装置。それがテスラ・ドライブだ。

 

 テスラ・ドライブは、重力制御と慣性質量を個別に変動させる事が出来る装置だ。ただし、ニコラスの当初の想定は『戦闘機の機動性能を極限まで向上する』ために開発していたものであり、ISの登場があと5年遅ければ、テスラ・ドライブはISより先に空中戦の既存概念を覆していただろう。この辺りに彼の『致命的な運と間の悪さ』が伺える。

 だが、そこで諦めてしまわないのがニコラスである。ならばと『ISに搭載出来るまでダウンサイジングする』方へ舵を切り、出来上がったのがほんの半月前。十全な慣熟も出来ぬままの実戦投入は不安ではあったが、ニコラスの『ドライブの仕上がりは完璧だ。これで理論上は第4世代型ISと互角の推力を得る』という自信満々な態度に、双子はとりあえず頷いておいた。

 

(……のだけど、博士の言葉に嘘はなかったようね)

 自身の機体が『フェンリル』−−第4世代型相当機−−を推力で上回っている。自分に押されてじりじりと後退する『フェンリル』の姿を見ながら、『アズライール』は内心でニコラスの評価を上げた。

 チラと目をやれば、姉の駆る『スルーシ』がどこか戦場にそぐわない雰囲気の少女の纏うISに肉迫しているのが映った。

(前情報と実体験で、あの機体が単純火力最強なのは明白。ここで潰すのは、戦術的にも戦略的にも最優先。相手チーム最速の『フェンリル』は私が抑えてる。残る二人は距離的にフォローが間に合わない。この戦い……)

「『勝った!』とでも思ったか?」

 

コツン

 

「えっ……?」

 九十九が言うと同時、自分の顎に拳を当てる。瞬間−−

 

ズンッ!

 

「かっ……⁉」

 真下からウォーハンマーでぶん殴られたかのような衝撃を感じた『アズライール』は、突然の事に反応できず、九十九と自分の意識の両方を手放した。消え入りそうになる意識の中で彼女が最後に見たのは、展開した腕部装甲から()()()()()()()()九十九が、自分に目もくれずに姉の−−正確にはその標的の−−元へと飛び去って行く姿だった。

 

 

「本音ぇっ!」

 『フェンリル』流衝撃砲《神竜(シェンロン)》を『アズライール』の顎先に最大出力で放った事で、どうにかその拘束を逃れた私は、『スルーシ』に追い立てられ、近づかせまいと必死に攻撃をする本音の元へと急いだ。

「こ、来ないでっ!来ないでよ〜!」

 もはや絶叫に近い悲鳴を上げ、涙目になりながら抵抗を続ける本音。だが、拳大の雹の乱射は尽く回避され、直進する竜巻も彼女の足を僅かに鈍らせるに留まっている。

 それもそのはず。なんと『スルーシ』は()()()()()()()()()()()()()()()()()という、ISの機体剛性から考えれば自壊待ったなしの方法で本音の攻撃を躱しているのだから。

 何という無茶苦茶……!テスラ・ドライブとかいう何かは、それを可能にするだけの性能があるというのか⁉もっと早くこれが世に出ていれば、世界の戦闘機の性能はある一面でISを凌駕していたに違いないぞ……なんて考察をしている場合じゃあない!

「本音から離れろ!」

「つくも!」

 私が来た事に喜色と安堵を顔に浮かべる本音。

「油断するな!二人で行くぞ!」

「っ!はい!」

 私の叱責に少し驚きながらも、意識と体勢を整える本音。ついで、シャルに指示を飛ばす。

「シャル、念の為だ。そいつにトドメを刺しておけ!」

 指を指すその先には、私に顎を強かに打ち抜かれて気絶し、海に向かって墜ちていく『アズライール』の姿。今は気を失っていても、墜落中に意識を取り戻せば間違い無く戻って来てしまうだろう。それを防ぐには、単純な破壊力で言えばチーム随一のそれを持つシャルが『アズライール』を完全にノックアウトするのが最善だ。

 私の意図を瞬時に悟ったシャルは『アズライール』へ急接近。パッケージを『アースラ』から『孤狼(ベオウルフ)』へと瞬時に変更。右腕の超大型射突式徹甲杭(パイルバンカー)《グレンデルバスター》の撃鉄を起こすと、いまだ気絶中で無防備な『アズライール』のどてっ腹に杭を押し当てた。そして。

「《グレンデルバスター》、ファイヤ!」

 

ズドォン!!

 

「かはっ⁉……あっ……」

 骨に響く轟音と共に放たれた一撃は『アズライール』の絶対防御を突き破り、その装甲ごと体を貫通する……などという事はないにせよ、強烈な衝撃を伴って彼女を撃ちつける。その激痛で目を覚ました『アズライール』は激痛が原因で再び気絶。が、それで「はい、おしまい」にしないのが、自称『九十九イズムに最も染まった女』シャルロット・デュノアである。

「ファイヤ!」

 

ズドォン!!

 

「げうっ!」

「ファイヤ!」

 

ズドォン!!

 

「ごほうっ!」

「もひとつオマケに、ファイヤ!」

 

ズドォン!!

 

「ぽ、ぽペ……」

 一切の容赦も情もない怒涛の《グレンデルバスター》4連発。『アズライール』は維持限界までシールドエネルギーを消費して完全に沈黙。搭乗者である双子の片割れ−−会話から恐らく妹−−もまた、いつ覚めるとも知れない眠りへと連れて行かれた。

 ……『アズライール』、シャルの《グレンデルバスター》連発により再起不能(リタイア)

 

 

「…………」

 シャルが放った《グレンデルバスター》の轟音に、つい足を止めてそちらを見ていた『スルーシ』は唖然とする。大口径・超火力のパイルバンカー……一撃受けただけで失神KO不可避のそれを、まさかの4連発。もはや『アズライール』は戻って来られない。よしんば戻って来た所で、機体と体に受けたダメージが原因でまともに動けもしないだろう。あまりと言えばあまりにも呆気ない決着。『スルーシ』が動きを止めてしまうのも、仕方のない事かも知れない。とは言え−−

「その隙を逃がすほど、私は甘くない!本音!」

「いくよ!サンダーブレーク!」

 

ピシャアアンッ!

 

「っ⁉」

 目の前で起きた妹の瞬殺劇に呆然としていた『スルーシ』を、本音の雷撃が襲う。続けて。

「シャル!」

「ええいっ!」

 圧倒的な直線加速力を活かし、シャルが『スルーシ』に頭突き……もとい、頭部ブレードホーンによる一撃を加える。更にそこから零距離で肩部大型クレイモア《大雪崩(アバランチ)》を発射する。

 一斉に放たれた大量のチタン製ベアリング弾が『スルーシ』を飲み込みつつ押し流す。『スルーシ』が流されて行く先……から少しずれた位置には、超高熱線砲《火神(アグニ)》の発射準備を整えた私が待ち構える。

「さっきも言ったが、こっちには時間が無い。雑に落とすが恨むなよ!《アグニ》、最大出力!」

 極太の熱線が『スルーシ』を襲う。声を上げる事も出来ぬままに橙色の光に喰われた『スルーシ』は完全に気絶。装甲の至る所から煙を上げながらひゅるひゅると落ちて行った。

「よし、戦闘終了。急ごう。他の場所ではもう作戦が始まっているはずだ。隊長!」

「ええ、急ぎましょう。総員、最大戦速!」

「「「了解!」」」

 最後に海に向かって墜ちていく双子を一瞥し、私はその場を去った。ISには、搭乗者が気絶して操縦ができない状態にあっても安全に着陸・着水出来る『搭乗者保護機能』があるし、ISスーツにも着用者が海に落ちても沈まないようにエアバッグが。さらに、遭難しても居場所がすぐに分かるようにGPSが内蔵されている。あの双子が死ぬ事は無いだろう。

 私達は遅れた分を取り戻すべく、最大戦速で亡国機業の本部……アメリカ・アリゾナ州フェニックスへと飛んだ。

 

 

 同時刻、アメリカ・アラスカ州アンカレッジ、PMC『ピースキーパー』本社ビル−−

「社長」

「……来たか。行くぞお前ら、楽しい楽しい戦争の時間だ!」

「「「イヤッハー!」」」

 

「攻撃目標を視認。お前達、相手は戦闘……戦争のプロだ。気を緩めるな」

「「はい!」」

 チームファイヤVSジャニュアリー&『ピースキーパー』、開戦間近。

 

 ブラジル・サンパウロ近郊、麻薬カルテル『エル・ビアンコ』アジト−−

「ボス!連中こっち来るぜ!」

「チッ!面倒くせえ。おいテメエら、連中の足止めしてろ。俺は逃げる」

「「「えーっ⁉」」」

 

「さーて、じゃあ行きますか。死ぬわよ〜。私の姿を見た奴はみーんな死ぬわよ〜!」

「ウォーターさん⁉殺害許可は出ておりませんわよ⁉」

「いや、ああいう気合の入れ方じゃないの?」

 チームウォーターVSセプテンバー&『エル・ビアンコ』、一触即発。

 

 ロシア・モスクワ州チェーホフ、製薬会社『ゾルケイン』秘密麻薬工場−−

「父上」

「やはり来るか……。ここは任せるぞ、息子よ」

「御意」

 

「では、参りましょう。準備はよろしいですか?」

「まさか亡国機業の幹部がロシアにも居たなんてね……。潰すわよ、簪ちゃん」

「う、うん。がんばる……!」

 チームサンドVS『ゾルケイン』、間もなく接敵。

 

 

 オーストラリア・南オーストラリア州、エディンバーグ空軍基地−−

「大佐!当基地に国連軍IS特務部隊(プリベンター)のISが接近しています!」

「慌てるな。戦闘準備を整えた者から順に進発しろ。この一戦で私達の力を示し、以って世界を変える礎とする。行くぞ!」

「「「はっ!大佐殿!」」」

 

「行くぞ、小娘共。……死ぬなよ」

「はい!」

「篠ノ之さんの事は、私が守ります!」

 チームクロスVSオクトーバー&『ギャラルホルン』、開幕直前。

 

 中国・広東省広州市、『王貿易商会』本社ビル−−

「お嬢様。『アズライール』と『スルーシ』は撃墜されたようです」

「……チッ。オーガストに恩を売れると思ったのに、使えないわね……!」

「『プリベンター』も近づいているようです。いかが致しますか?」

「蹴散らしなさい!出来ないなんて言わせないわ!」

「は……」

 

「では、始めましょう。殿下、閣下、よろしいですね?」

「うむ!亡国機業など軽く捻ってくれるわ!」

「アイリス、ご油断召されませんよう」

 チームパウダーVSフェブラリー&『王貿易商会』、衝突寸前。

 

 フィンランド・西スオミ州タンペレ、ノヴェンバーの研究施設−−

「所長!来ました!ラグナロクのISです!」

「分かりました。例の機体を出しなさい」

「はっ!」

「そろそろ、お互い決着を着けようじゃあないか。なあ、絵地村(エジソン)……!」

 

「うっしゃ!んじゃ、始めんぞ!付いてきな、お前ら!」

「ええ!ラグナロクの底力、見せてやるわ!」

「機体の性能差が戦力の差じゃあないって事、思い知らせてあげる!」

 チームバブルVSノヴェンバー&魔改造IS群、双方覚悟完了。

 

 今、それぞれの戦場で戦いの火蓋が切られようとしていた。




次回予告

軍人と傭兵。どちらも戦いを生業とする者。その違いはどこなのか?
戦争狂いの問いは白き騎士の心を揺らす。
黒き雨の少女が白き騎士に出す答えとは……?

次回「転生者の打算的日常」
#102 亡霊退治(壱)

お前も好きなんだろ⁉殺しが、壊しが、戦争が!

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