転生者の打算的日常   作:名無しの読み専

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#EX 続・ラグナロクの愉快な仲間たち

「疲れた……特に精神が」

「あ~、たのしかった〜!」

「うん。またいいもの見られたよ」

 ラグナロク・コーポレーション本社ビル5階、大食堂。その一角に、精神的に疲労困憊してグッタリとテーブルに突っ伏す私と、どこかホクホクした笑みを浮かべるシャルと本音がいた。

 ボビー店長に捕まり、新ブランドのカタログ写真(モデルは私)を撮り続ける事3時間。写真の出来が余程良かったのか、ボビー店長は満足そうな顔で「ありがとね、九十九ちゃん♡」と謝礼金代わりに食券1万円分をくれたが、そんな物で私の精神的疲労が癒えるはずもない。

「というか、君達もノリノリだったよな……?」

「つくもんが女の子の恰好が似合うのがいけないんだよ〜」

「ついあれこれ着せてみたくなっちゃうよね」

「やめてくれ……」

 非難を含めた視線を向けてもどこ吹く風。寧ろもっとやりたかったと言わんばかりの発言に、もう何を言っても無駄かもしれないと思う私だった。

「災難だったみたいだねぇ、九十九ちゃん。ほら、これ食べて元気だしな!」

 ドンッ、と目の前に置かれたのは特盛カツ丼。持ってきてくれたのは、恰幅のいい体を割烹着で包んだ、元気の良い笑顔が特徴の中年女性。ラグナロク・コーポレーション大食堂長、厨野大葉(くりやの おおば)さん。通称『食堂のオバちゃん』だ。

「ありがとう、オバちゃん。ちょっと元気出た」

「そりゃあ良かった。さ、美味しいうちに食べな。お残しは許しまへんで!」

「いただきます」

 私の返事にオバちゃんは鷹揚に頷いて厨房へと戻って行った。その際、新入社員の土井さんが蒲鉾を残そうとしているのをオバちゃんが目敏く見つけて睨みつけ、圧に負けた土井さんがいやいや蒲鉾を食べる。という一幕があった。

 あの人、何であんなに練り物が苦手なんだろう?謎だ。

 

「ハーイ、ツクモ。久し振り」

 特盛カツ丼を食べていると、後ろから声をかけられた。

 振り返ると、そこには燃えるような赤毛に褐色の肌、豊満な体つきを露出の多い服で惜しげもなく晒す、匂い立つような色気を放つ女性が立っている。彼女は私同様、IS開発部門所属のパイロットで−−

「あ~っ!この人知ってる〜!」

「元ドイツ代表候補生序列一位、『灼熱(ヒート)』のキュルケ・ツェルプストー!」

 驚きの声を上げるシャルと本音に気を良くしたのか、自慢の赤毛をフワリと掻き上げてポーズを取るキュルケさん。

「あら、私の事を知ってるのね」

「まあ、貴方は有名人ですからね。良くも悪くも」

 ドイツのツェルプストーと言えば、その苛烈で情熱的な攻めと高温溶断兵装(ヒートウェポン)を好んで使う戦闘スタイルも有名だが、それ以上に有名なのがその『熱し易く冷め易い性格』だ。

事実、彼女はドイツ軍を不名誉除隊する事になったのだが、その原因というのが配属先の男性の一割を、キュルケさんが『食べた』からだ。

 その『食べられた』男達の中に基地司令の息子(当時18)がいた事で司令の怒りを買い、追い出される形で軍を辞める事になったのである。

「今思えば、全部いい思い出よねー」

 もっとも、当の本人は「オホホ」と楽しそうに笑うだけ。本当にイイ性格してるよな、この人。

「それで、態々のお越しなんですから何か御用でしょう?キュルケさん」

「あなたの未来の奥さん達の顔を見にね。……ふーん、あなた達が……」

 キュルケさんはシャルと本音をマジマジと見つめたあと、私にヘッドロックを仕掛けてきた。

「い~い子達じゃないの!ツクモ、絶対幸せにしなさい!」

「ちょっ、キュルケさん痛い!というか当たってる!途轍もなく弾力に富んだ『ボール』が顔に当たってるから!」

「当ててんのよ!おねえさんからのちょっと早い結婚祝いよ!ありがたく受け取りなさい!」

 私の苦情を意に介さず、キュルケさんはヘッドロックの力を更に強める。ギリギリと締め付けられる頭の痛みとは裏腹の、顔に当たる柔らかい『ボール』の感触。天国と地獄を同時に味わうとこうなるのか。

 ひとしきりヘッドロックを仕掛けて満足したのか、キュルケさんは「じゃあね~」と上機嫌で去って行った。

「あの人は何がしたかったんだ……?」

「「さあ……?」」

 キュルケさんの謎の行動に、私達は揃って首をひねるのだった。

 

 

 その後も、行く先々で我が社の名物社員と出会う事になるのだが、全部詳細に描くととんでもない量になるのでダイジェストにする事を許して欲しい。

 

「よ、久し振りだな九十九」

 改めて受付前の案内板を見ながらどこへ行くか三人で話していると、薄い青の髪を赤い紐でポニーテールに纏めた、女性と見紛うばかりの美しい顔立ちをした男性が声を掛けてきた。

「つくもん、この人は〜?」

「ラグナロク・コーポレーション警備部、要人警護専門官の早乙女有人(さおとめ あると)さんだ。お久しぶりですね、あの二人とは相変わらずで?ラグナロクの三角関係野郎(トライアングラー)さん?」

「お前に言われたくねえよ!IS学園のトライアングラーが!」

 三角関係野郎呼ばわりに憤慨する有人さん。が、言われても仕方が無いという点もある。

 何せこの人、総務部秘書課の李蘭華(リー・ランファ)さんと濃霧詩愛理(こいきり しえり)さんの間を行ったり来たりしているどっち付かず男なのだからして。

「私はもう覚悟を決めてます。それに、『例の法案』がありますし。大体、私などまだマシな方ですよ?」

「なに?」

「もう一人の方、織斑一夏は……六角関係野郎(ヘキサグラマー)です」

「……そいつ、いつか後ろから刺されない……よな?」

「……無い、とは言い切れないのが辛い所ですね……」

 あいつの前途の多難さを思い、私達と有人さんはそっと溜息をつくのだった。

 

 有人さんに別れを告げ、やってきたのは広報部。そこでは丁度、社外向け情報誌『季刊ラグナロク・コーポレーション』の制作会議が行われていた。

「そういう訳で、あなた達からも何かアイデアが欲しいの。協力してくれるかしら?」

「「「はあ……」」」

 会議室のテーブルに私達を無理矢理座らせた張本人、畑蘭子(はた らんこ)さんによると、大まかな内容は決まったものの細かい肉付けをどうするかで悩んでいるのだという。

「で、何か無いかしら?」

「そうですね……。ベタですけど、名物社員のインタビュー記事……とか?」

「そうね、時間も無いしそれで行きましょうか。じゃあ、村雲くん。早速だけどインタビューいいかしら?」

「私!?」

「言い出しっぺなんだし、それぐらいは協力して頂戴。謝礼に食券1万円分あげるから」

「まあ、仕方無いですね。いいでしょう、受けます」

「そうこなくちゃ。じゃあまずは−−」

 こうして、私は畑さんからインタビューを受ける事になった。ごく一般的な質問から少し踏み込んだものまで、その質問は多岐に渡った。

「じゃあ、最後の質問。好きな女の子のタイプは?」

「『好きになった女性が好きなタイプ』という考えに則れば、私の好きなタイプはこの二人です」

 畑さんの質問に、シャルと本音を抱き寄せる事で答える。それに、畑さんが「ほうほう」と言いながら頷いた。

「村雲くんは金髪と小柄巨乳がタイプ……と」

「「えっ!?」」

 そして、ちょっと曲解が混じった回答をメモに書き付けた。否定はしないが、記事にされるのは御免被りたいな。ならば−−

「畑さん」

「はい?」

「それ、記事にしないで下さいね?(ニッコリ)」

「アッ、ハイ。ワカリマシタ」

 誠心誠意込めたお願いに、畑さんはカクカクと頷いて応えてくれた。これならまあ、大丈夫だろう。

 

 次にやってきたのは社長室横にある秘書課の事務所。

 ノックをし、「失礼します」と声をかけてドアを開けた瞬間、そこは修羅場だった。

「有人くん、有人くんの次のお休みいつかな?一緒に遊園地行かない?」

「有人、今度の休みに私と買い物に行きましょう。拒否は許さないわ」

「お、おい二人とも。ちょっと待ってくれ」

「詩愛理さん、この前の休みに有人くんとデートしてましたよね?なら次は私の番じゃないですか?」

「あなたこそ、昨日有人とアフター5デートしたんでしょ?なら、私に権利があると思わない?」

「「ぐぬぬぬぬ……」」

 そこでは、有人さんを挟んで『秘書課の二枚看板(ダブルフェイス)』こと、李蘭華さんと濃霧詩愛理さんが睨み合いを繰り広げていた。二人を中心に、空気が歪んでいるような気がする。間に挟まれている有人さんは堪ったものではないだろう。

 ちなみに、他の秘書課の人達は『我関せず』とばかりに机に座って自分の仕事をしている。肝が太いのか、それとももう慣れたのか、この状況に顔色一つ変えてないのは素直に凄いと思う。

「失礼しました」

「ちょっと待ってくれ、九十九!」

 巻き込まれては堪らないとドアを閉めようとした矢先、有人さんが私を見つけて声を掛けてきた。間に合わなかったか。

「頼む、助けてくれ!お前ならなんとかできるだろ!?」

「無理」

「そこを何とか!そ、そうだ!食堂のランチ、2回奢ったぞ!恩を返してくれ!」

「私は13回奢らされました。恩なら返していると言えるでしょうね。自分で何とかしてください。それでは。行くぞ、二人共」

「「う、うん」」

「待って!マジで待っ−−」

 

パタン

 

「さ、次どこ行こうか?いや、時間的に検査が終わった頃かな。一回地下1階に戻ろうか」

「いいけど……あの人大丈夫?」

「大丈夫だ、死にはしない……と思う」

 扉の向こうで今日もドッタンバッタン大騒ぎしているだろう三人の先行きに不安を感じつつ、私達は地下1階に戻るのだった。

 

 

「あ、九十九くん。丁度良かった。『フェンリル』の検査が終わりましたので、最終稼働試験に参加をお願いします」

「はい。シャル、本音。すぐ終わらせて来るから、ここで待っていてくれ」

「「うん」」

 研究員に連れられてIS開発部のある地下四階に向かう九十九を姿が見えなくなるまで見送ってから、シャルロットと本音は揃ってテーブルに突っ伏した。

「「はあぁぁぁ……」」

 漏れたのは疲労感からくる溜息。九十九に「真面目な人ほどツッコミ疲れる事になる」と言われはしたし、「ラグナロクだから仕方無い」と思うようにもしていたが、想像以上の『変人の巣』っぷりに精神的に色々限界だったのは否めない。

 何せ、前述の人達以外にも「お出かけですか?」が口癖の中年男性(清掃部長)にやたらと駄菓子の知識が豊富なテンション高い女性(食品部菓子類開発課長)、九十九に「また美味しそうになったね」とねっとりとした視線を這わせる、変人というより『変態』と言った方が良さそうな空気を纏ったピエロメイクの男性(外部協力者)など、上げていけば切りがないほど数多くの変人に遭遇したのだから。

「やあ、シャルロットくん、本音くん」

 ぐったりとする二人に声をかけてきたのはこの『変人の巣』の主、ラグナロク・コーポレーション社長の仁籐藍作だった。

「どうだったかな?我が社は。楽しんで貰えたかい?」

「ええ、まあ」

「面白いところだな~とは思います〜。でも……」

「ん?でも?」

 藍作が続きを促すと、シャルロットと本音は声を揃えてこう言った。

「「もう二度と来たくありません。すっごく疲れるし」」

 二人のげんなりとした顔を見て、藍作は内心でまあそうだろうなぁ。と思うのだった。

 何せここはラグナロク・コーポレーション。真面目であればあるほど精神的疲労が溜まる『変人の巣』なのだから。

 

 

「すう……」

「むにゃむにゃ〜……」

 帰りの車の中で、私に体を預けて眠るシャルと本音。余程疲れたのだろう。車が走り出すと一瞬で夢の国に旅立っていった。

「大分お疲れだったみたいだね」

「無理もありませんよ。ラグナロクは良くも悪くも『濃い』。言ってみれば、下戸にウィスキーをストレートで飲ませるようなものです」

「それはかなりキツいねぇ」

 まあ、よくわかる表現だけど。と言って苦笑する社長。私はそれに同じく苦笑で返す。

「だが参ったな。二人がこれでは『アレ』は次の機会だな」

「うん?何かこの後予定があったのかい?」

「足代わりにして申し訳無いとは思いますが、帰りにある所へ寄って貰うつもりでした。二人が起きていれば、でしたが」

「そのある所って?」

 社長が興味深げに聞いてくる。私は気恥ずかしさに頬をかきながら、その場所の名を口にした。

「ラグナロク・コーポレーション宝飾部直営店、『フノッサ』」

「……ああ、なるほど。そういう事か」

 店の名前だけで、社長は私が何故そこに行こうとしていたのかを正確に理解した。

 そう、これこそが今日のデートの隠しておいた目論見。もし今日普通にデート出来ていれば、「最後に行きたい所がある」と言って二人を『フノッサ』に連れていき、一緒に『将来夫婦になる証』を選んで作るつもりだったのだ。

「君はもう、それ程の覚悟を決めているんだね。九十九くん」

「ええ。この二人を私が幸せにする。この役目、誰にも渡すつもりはありません」

「いい意気だ。頑張りたまえよ、九十九くん」

「はい」

 社長の激を受け、二人の頭を撫でる私。二人の顔がやけに赤く見えたのは、きっと夕日の光が当たっているからだろう。

 

 ちなみにその夜、二人が私の部屋にやってきて一緒に『愛を確かめ合った』のだが、この夜の二人はいつもより一段も二段も激しかった。その為、翌日三人揃って登校不能になったのは甚だ余談だろう。




ラグナロク編は以上で完結です。
またしばらく短編は休止する事になりますが、本編も鋭意製作中ですので気長にお待ち下さいますようお願いします。
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