生存報告として、こちらをお届け致します。
多分に下品な表現があります。苦手な方はこのままブラウザバックしてください。
それでは、どうぞ。
♢
それは、私の小学校の修学旅行での事だった。私達は一路目的地を目指しバスに乗り込んだ。私の隣に座ったのは……本人の名誉の為、仮にYとしておこう。修学旅行という事もあり、少しテンションの高すぎる彼に閉口しながらも、バスの旅は快調に進んで行った……。
しかし、バスに乗って1時間が過ぎた頃、Yはさっきまでのテンションがウソだったかのように静かになり、何か神妙な顔つきになっていた。そのただならぬ様子に、私は彼に声を掛けた。
「車酔いか?Y君」
「うん、ちょっと酔ったみたい」
「先生に報告するか?」
「いや、大丈夫、言わないで」
「そうか、また気分悪くなったら遠慮なく言いたまえ」
「うん」
まぁ彼が大丈夫だと言うのだから、それ以上のしようはない。私も彼の車酔いにつきあって、折角の楽しい修学旅行を台無しにするつもりは毛頭なく、彼を放って友人らとの会話を楽しんでいた。
「先生、Wさんが気分悪いって」
突然後方の女子らの席から逆流警告が先生に報告された。しかし警告された所で、先生にできるのは「大丈夫?」とのお決まりの台詞とエチケット袋を装着したバケツを渡す事ぐらいだ。
こうなってくると、私にとって非常に由々しき事態である。ここでWさんが逆流すれば、隣のYが彼女の逆流の余波を受けて『連鎖逆流』を引き起こすという非常事態に突入する危険性が大なのだ。しかし、Wさんは車酔いに耐えてよく頑張った!私は感動した!かくして非常事態は去ったかに思えた……。
バスは予定通りに快調に進み、高速道路へと突入した。高速道路はカーブも信号も無いので、酔いが悪化する事は無い。私は安堵し、また友人らとのバカ話に花を咲かせようとしたまさにその時、私の隣のY爆弾がポツリと火花を上げた。
「……うんこしたい」
車酔いではなかったのだ。彼は一心不乱に、今にも括約筋の束縛を振り切って生まれ落ちんとする『アレ』との熱いバトルを孤独に繰り広げていたのである。
しかし、そんな事を告白されても私にはどうしようもなかった。勿論バスにはトイレは無かったし、高速道路に乗ったばかりで次のトイレ休憩はまだまだ先だったからだ。
「Y君、大丈夫か?先生に報告は?」
「いや、言わないで」
蚊の鳴くような声で彼は弱弱しく訴えた。そうなのだ。小学生にとって『アレ』という行為は、イスラム教徒が豚を食うに等しいタブーだったのだ。しかし、彼の様子を見ていると、そんな事を言っている場合ではなさそうなのがわかった。
(このままでは『ウンコマン』が『おもらしマン』にクラスアップするだけだ!)
そう考えた私は、彼の制止を振り切り、先生に「Y君が『アレ』したいって言ってます」と伝えた。わざわざ先生に接近して、小声で伝えたのは私なりの彼の名誉への気遣いであった。しかし、先生はそんな私の気遣いに気付かず「Y君、我慢できそう?もう出ちゃいそう?」とバス中に響き渡る大声で彼に問い掛けた。Yの恨みがましい視線が私に突き刺さる。一瞬で車内には静寂が訪れ、皆の注意は『アレがもれそうなY』に集まった。
先生が彼の隣の席へと移動したので、隣だった私は先生の席へと移動が出来た。
(爆心地は避けられた!よし!)
不謹慎だが私のその時の素直な心境はそうだ。最早私に出来る事は祈るだけだったが、「Yがアレを我慢できますように」などと祈ろうものなら神に怒られそうだったのでやめた。大人しく事の成り行きを見守る事にした。
先生は「我慢できそう?」とまだ問うていた。Yは半泣き状態で答えようとしない。
私は考えていた。もし「もう我慢できません」と彼が答えたら先生はどうするのだろうかと。幼い私の出したベストの答えは『バスを停車して道の端にアレを放出する』というものだ。それ以外に考え付かなかったという事もあるが。一休禅師でもそう答えるであろうベストの回答を、もしその時が来れば先生も選択するだろうと思っていた……。
Time is come---そして時は来たれり
先生の「我慢できる?」の問いに、遂に彼が首を『横』に振った。
『WARNING WARNING 爆発秒読み開始乗組員は速やかに退避せよ』
緊急コールが脳内に鳴り響く。しかし我々には逃げ場は無かった。モーゼに縋る民草のように我々は先生の決断を待った。モーゼの口から決断の言葉が吐かれる
「Y君は一番前の席へ、前の席の人達は後ろの座席へ下がって!」
意外なモーゼの言葉に私は呆然とした。席を移動して何の解決になるのだろうかと。しかしその疑問はモーゼの手にしたものによって一瞬で掻き消えた。モーゼの手にあったもの……それは『バケツ』だった。
そう、『エチケットバケツ』として搭載されていたあのバケツである。流石にモーゼがそのバケツを何に使用せんとしているかは理解できた。モーゼは海を割る代わりに『エチケットバケツ』を『簡易トイレ』へと変身させようとしているのだと。
モーゼの導きにより、民族大移動は終了した。しかし、それで終わりではない、いや、地獄はこれからなのだ。
皆が顔を見合わせる。何を喋ればいいのかわからない。来るべき地獄の時を皆が、最大級の静寂という最悪の状況で迎えようとしたいた。
ピブッ
静寂の車内についにサタンが産声を上げた。悪魔の母は嗚咽をあげていた。
ブピッ! ブパパパパパパ!! ブシャッ!! ビッ! ピピブブツ!! プシャシャシャシャシャシャーーーーー ビッ!!
サタンがあらん限りの雄叫びをあげた!!雄叫びと共に、車内に地獄の臭気が蔓延する!!
この極限の状況に耐えられず、Tが笑い声を上げはじめた!するとそれにつられて我慢していた者達も一斉に大笑いを始めた。
ブプビチチッ ワーープッーーーハハブピッピツハッブリブリブリハッハッ!!ワハハハブリブリッハハッハッハビチチプチッハハハーーーーハハハプゥッ
サタンの雄叫びと臭気と子羊達の笑い声で車内は更なる地獄へと変わった。その瘴気に当てられたのは、車に酔っていたWさんだった。頼みの綱のエチケットバケツは、既にバス前方でYの菊門錬金術により簡易トイレへとクラスチェンジしていた。
耐え切れなくなったWさんの口から溶解液が勢いよく放たれた。前門の狼、後門の虎とはよく言うが、『前門の脱糞、後門の嘔吐』とは古代中国の文人も考えもしなかったであろう。
車内は便臭と吐瀉物臭が入り混じり、アレの放たれる爆音と気の触れんばかりの爆笑がうずまき、泣き出す女子や連鎖逆流をする者達も現れた。
フゲロオエップ゙プビチチッ ワーウッッープッーーーハハブピッピツハッブリブリブリハッハッ!!ワハハハゲェェッハハゲロゲロハブリリリハハハ ゲロ ブリブリワハハハゲロゲオエッエッ ビプッ ゲロオペッハハハハエーン ワハハハブリブリッハシクシクハッハッハビチチッハブピゲロッロロハハーーーーハハハプゥッ
脱糞、嘔吐、嗚咽、爆笑、激臭を乗せた地獄のバスは速度を緩める事なく目的地へと向かった。
♢
「と、まあそんな事があってからこっち、高速バスは若干のトラウマなんだ」
「「あー、それはまあ……うん、だよね」」
ラグナロク・コーポレーション野外演習場に向かうバスの中で昔語りをした私に、シャルと本音が苦笑いを浮かべた。もし自分が同じ状況に置かれたら。と考えて、何と言っていいか分からなくなったのだろう。
「ただ、私が当時一番怖かったのは……」
「「怖かったのは?」」
二人のオウム返し的質問に、私は神妙な面持ちで告げた。
「それだけのカオス空間にも関わらず、一切表情を変えずに淡々とバスを運転していた運転手さんだ」
「「何それ、怖い……」」
なんて会話をしながら、バスは一路野外演習場へと向かった。
本編も書いています……が、どうにも展開がとっ散らかって上手く書けず……。
年内には更新するつもりですので、どうかお見捨てにならぬよう、伏してお願い申し上げます。