転生者の打算的日常   作:名無しの読み専

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#94 崩壊之序曲

「おはようじゃ。九十九、シャルロット、本音」

「ああ、おはようアイリス」

「おはよう」

「おはよ〜アイちゃん」

 アイリスと閣下……ジブリルさんがIS学園に留学生として入学してから3日が経った。

 この頃になると、元々順応性が高い一年一組生徒諸君もアイリスの事を『ルクーゼンブルク公国第七王女のアイリス』ではなく『飛び級してきたクラスメイトのアイリス』として見るようになり、教室で挨拶を交わしたり、雑談に興じるくらいの事は普通にできるようになっていた。のだが……。

「お、おはよう」

「あ、お、おはようございます。えっと、ジブリル……さん」

「おはようございます」

 ジブリルさんの事となると、流石に『同級生(タメ)』として見るのは厳しいらしく、どこかよそよそしい……というより、距離感を掴みかねているようだった。

「まあ、自分より5つは年上の同級生だし、扱いに困るのは仕方がないが……」

「だよね……」

「そこは言わない約束だよ〜」

 いっそ『留年し(ダブっ)た先輩』と見る事が出来ればいいが、ジブリルさんは山田先生の同期。つまり、一度IS学園を卒業しているのだ。『再入学してきた卒業生』とか、どう扱えと?

 ちなみにジブリルさんが着ている制服だが、彼女が卒業してルクーゼンブルク公国に帰る時、山田先生に処分を任せた物を先生が保管していた物なのだとか。

 当人曰く『いつか返す時のために取っておきました』との事だが、どこまで本気なのだろう?

「はーい、皆さん。ホームルームを始めますよー。席に着いてくださーい」

 と、思っていたら山田先生がやって来た。先生は一瞬ジブリルさんの方を見てニコッと……いや、どちらかと言うとニマッと笑みを浮かべた。なんだろう?どこか楽しんでいる風にも見えるのは、私の気のせいだろうか?

 

 

「なるほど……。つまり、『白式』はエネルギー効率が大幅に上がった代わりに、以前と同様の近接特化型になった。と」

「まあ、そういう事」

 私の言葉に頷く一夏。

 この前日、楯無さん、簪さん、山田先生の三人によって行われた『白式』の第三形態(サード・フォーム)、『ホワイトテイル』の調査結果によると、現在の『白式』は内部構造が様変わりし過ぎてシステムの殆どがブラックボックス化。日常点検すらままならない程になっているらしい。

 武装面も《雪片弐型》を残して全てオミット。代わりに《零落白夜》と同質のエネルギーウィングをほぼ常時展開できるようになった。

 また、新たに目覚めた単一仕様特殊能力(ワンオフ・アビリティー)《夕凪燈夜》の性能も規格外だ。『全てのISを初期化(記憶喪失に)する能力』など、危険過ぎて使い道がない。

 加えて、各関節部に展開装甲と同等の物が組み込まれているという。まるで……。

「今までに出会ったISの機能を吸収したかのような構造だな」

「あ、それ山田先生も言ってたぜ。あと、『白式』から多分「こう呼べ」って名前が出されてさ」

「ほう。その名は?」

「王理。『白式・王理』」

「『フェンリル』同様、お前のISも自らを『王』と名乗るか。私達の相棒は、どうも揃って大層な自信家らしい」

 『フェンリル・ルプスレクス』……ラテン語で『狼王』の意味を持つその名を、彼女は堂々と名乗っている。ちなみに『レギナ(女王)』を名乗らなかったのは、主人()の性別に合わせたからだと『フェンリル』が言っていた。

 

 閑話休題(それはそれとして)

 

「で、データ分析のために模擬戦しようって事になったんだけど、相手がいなくてさ」

「なんだ、ならうってつけがいるぞ。丁度、第三アリーナでシャルが新型パッケージの慣熟訓練をしているからな」

 

 所変わって、第三アリーナ西側ピット。そこでは、シャルが機嫌良く歌いながら新型パッケージの調整をしていた。

「. J'aime l'oignon frît à l'huile,J'aime l'oignon quand il est bon,J'aime l'oignon frît à l'huile,J'aime l'oignon, j'aime l'oignon♪」

「なあ、九十九。あの歌なんだ?」

Le Chanson d'oignon(ル・シャンソン・ドニョン)。日本語だと『玉葱の歌』だな。フランスの童謡で軍歌の一曲。要約すると『玉葱最高!油で揚げた奴超美味え!これがあれば俺達はライオンになれるぜ!だがオーストリア人、お前に食わせる玉葱はねえ!』という歌だ」

「へー、勇ましいんだか可愛いんだか、よく分かんねえ歌だな」

「え?……うわあっ!?」

 私達の会話が耳に入ったのか、こちらに振り向いて驚きの声を上げるシャル。

「い、いつから……?」

「君が楽しげに『玉葱の歌』を歌っていた辺りから」

「最初からじゃない!もう!もう!」

 真っ赤な顔で私の胸板をポカポカ叩いて抗議するシャル。可愛い。カメラないか?カメラ。写真撮りたいんだが。

「まあ、それはさておいて。実はなシャル−−」

 

 ーーー村雲九十九説明中ーーー

 

「という訳で、一夏の相手をしてやってくれ。()()のコンセプトも似た感じなのだし、丁度いいだろう」

 言って、親指で後ろを指す。そこに鎮座していたのは、新型パッケージを装備した『ラファール・カレイドスコープ』だ。

 

 突撃戦用パッケージ『孤狼(ベオウルフ)』。

 その外見は『赤いカブトムシ』と言うとしっくり来るだろう。

 頭部のブレードホーン、左腕にチェーンガン、両肩のウェポンラックには、ベアリング弾を撃ち出す指向性爆弾(クレイモア)を満載している。そして、最も目を引くのが右腕の大型射突式徹甲杭(パイルバンカー)《グレンデルバスター》だ。

 デカい。とにかくデカイ。あまりの大きさ故にボディバランスが悪く、おまけに反動もデカイため、《グレンデルバスター》にバランサー兼反動相殺用のPICが搭載された程だ。

 背中と脚に搭載されたスラスターは、同世代機と比べても圧倒的な直線での加速力を持っている。

 『多少の被弾をモノともせずに突っ込んで、相手のドテッ腹をブチ抜く』という、単純明快なコンセプトを、極限まで突き詰めたパッケージ。それが『ベオウルフ』である。

 

「うん、いいよ。丁度誰かに声を掛けようとしてた所だし」

「よし、決まりだな」

 こうして、シャルと一夏の模擬戦が開始の運びとなった。

 

 −−そして、一瞬で終わった。

「…………」

「…………」

「…………(チーン)」

 今、私の目の前には白目を剥いて完全に気絶している一夏と、モウモウと湯気を上げる《グレンデルバスター》を呆然と見つめるシャルがいる。

 どうしてこうなったのか?それを説明するには、時計を少し巻き戻す必要がある。

 

「それではこれより、シャル対一夏の模擬戦を開始する。双方、準備は?」

「いつでもいいぜ」

「僕もオッケーだよ」

「よろしい、では……始め!」

 私の開始の合図と共に、一夏がシャルに突っ込む。と同時にシャルもまた一夏に突撃する。その圧倒的加速力で、一瞬にして一夏の懐に潜り込むシャルに、一夏がギョッとして動きを止めてしまう。その隙を逃すようなシャルではない。

「えい!」

 一夏の腹に《グレンデルバスター》を押し当てるシャル。危険を感じた一夏が慌てて下がろうとするが、シャルが引金を引く方が一瞬早かった。

「《グレンデルバスター》、ファイア!」

 

ズドォン!!

 

「ぐへえっ!!」

 轟音と共に放たれた鋼鉄の杭は『白式』のエネルギーシールドを食い破り、絶対防御を発動させる。結果として一夏に怪我一つないが、その衝撃力までは抑え切れず、肺から全ての空気を無理矢理吐き出させられた一夏は、そのまま意識を失った。

 

「…………」

「…………」

 試合時間、僅か5秒の決着。あまりの呆気なさに二人揃って呆然としてしまう。

「使い所を誤らなければ、これ程強力な得物は無い。が……」

「データ取りにすらならなかったよ。《グレンデルバスター(コレ)》の威力がバカだって事は分かったけど……」

「…………(チーン)」

 その場には、大した成果を得られなかった事に嘆息するシャルと、時折痙攣する一夏。そして、やはりラグナロクってトンデモないと、額に青線効果を浮かべる私が残された。

 

 

 未だ目を覚まさない一夏を保健室に放り込み、ラヴァーズに看病を任せて自室に戻ると、部屋の中が砂糖の焼ける甘く香ばしい香りに満ちていた。

「ただいま。本音、菓子でも作ったのか?」

 キッチンの方に声をかけると、本音がひょこっと顔を出した。が、その上下にそれぞれ別の顔が引っ付いていた。アイリスとジブリルさんだ。

「おかえり〜、つくも」

「お帰りじゃ」

「邪魔をしているぞ、村雲九十九」

 輝くような笑顔のアイリスといつもの固い表情のジブリルさん。何故ここに?

「うむ。今日は九十九に菓子でも作って、日頃の労いをしてやろうかと思ったのじゃが……。わらわ、よく考えたら料理なぞした事が無かったのじゃ!」

「それで私に訊きに来られたのだが、私も料理には疎くてな……。二人揃ってどうするか?と思案していた所に本音が現れて」

『それじゃ〜、わたしが教えてあげるよ〜』

「−−と言ってくれたのじゃ。ほれ、初めてにしては良う出来たと思うぞ。食うてみよ」

 ニコニコしながら皿を差し出すアイリス。載っていたのはクッキー。初心者のアイリスに合わせてか、簡単に作れるプレーンとココアだ。

「折角だ、いただくよ」

 アイリスの好意を無駄にする訳にはいかない。プレーンクッキーを1つ摘んで、口に放り込む。

「うん……うん……。初めてにしては良く出来てる。指導役の本音の教えを忠実に守ったのだろうね。ただ……」

「ただ、なんじゃ?」

「初心者ゆえの手際の悪さと、菓子作りにおいて大敵である『迷い』が出たな。少し粉っぽいし、バター感にムラもある。要精進、だな」

「つくも、得点は〜?」

「35点。ギリギリ赤点回避といった所かな」

「むむむ……。九十九よ、ちと辛くないか?」

「ちなみに、以前セシリアがこれと同じ物を作った時の評価は15点。赤点でないだけ有情だぞ、アイリス」

「さ、さようか……」

「殿……ア、アイリス、要は練習あるのみです」

 分かりやすく落ち込むアイリスに、励ましの言葉をかけるジブリルさん。だが、『殿下』と言いかけている辺り、主従ではなく友人としてアイリスに接する事にまだ慣れが無いのが見て取れる。がんばれ、ジブリルさん。

 

 「次は100点を取ってみせるからの!」と言ってアイリス達が部屋を出て行ったのと入れ替わりに、今度は千冬さんがやって来た。その顔は何処か憔悴……というより『散々甘い物食わされてウンザリしている』という表情だった。

「単刀直入に言う。今晩だけでいい、ここに泊めてくれないか?」

「「「はい?」」」

 急な発言にキョトンとする私達に、千冬さんは理由を語った。まあ、要約すれば『スコール&オータムの醸し出す甘い空気が原因で、自分の部屋の筈なのにメッチャ居心地悪い』との事だ。

「−−という訳だ。頼む、今日だけでいい。あの極甘空間から逃げたいんだ」

 そう訴える千冬さんは、常の冷静にして傲岸不遜な態度が完全に鳴りを潜めた、一人のか弱い女性になっていた。しかし−−

「あの、千冬さん」

「織斑先生と……いや、今は放課後だし構わんか。何だ?」

「先程、スコタムの醸し出す甘い空気から逃げたい。とおっしゃいましたが……」

「ああ、言ったな」

「私達も似たようなもんだと思いますよ?あと、今は一夏の所も」

「……っ⁉」

 ガーン!という効果音が聞こえそうな程に驚愕に満ちた顔をする千冬さん。……この人、追い詰められすぎて私と一夏の現状が頭からすっぽり抜けていたようだ。

「な、ならば……。ならば私にどうしろと言うんだ⁉もう限界だ!このままでは生きたまま砂糖漬けになってしまう!助けろ!知恵を貸せ!」

 なりふり構わない千冬さんの懇願に、しかし私が言える事は……。

「…………強く生きてください」

「なっ⁉」

「その件について、私に出来る事は何もありません。ですので……強く生きてください」

 目を逸らして言う私に絶望したのか、そのままガックリと崩れ落ちる千冬さん。……本当に、強く生きてください。

 結局、この後千冬さんは山田先生に泣きついたらしく、今度は山田先生が「先輩の愚痴を聞かされて、間接的に砂糖漬けになりそうです。何とかしてくれませんか?」と私に言ってくるのは、その翌日の事だった。

 

 

 とまあ、そんなドタバタがあった数日後。事件は起きた。

「突然食堂に裁判所が現れた件」

「え、これどういう状況?」

「っていうか、どこから持ってきたの〜?」

 一体何があったのか?寮の食堂に裁判所のセットが設置されていて、しかも裁判にかけられているのがラウラなのだ。

 その周りには各々の得物をラウラに突き付けて、剣呑な雰囲気を醸し出す他のラヴァーズと、妙に申し訳なさげな一夏。そして、その様子をオロオロしながら見ている他の女子達。……いや、ホントにどういう状況?

「被告人、ラウラ・ボーデヴィッヒ。貴様は我々の間で交わされた淑女協定第3条1項『一夏の部屋への時間外訪問(夜這い)の禁止』に違反した。この事実に間違いは無いな?」

 厳格な口調でラウラのやった事を端的に述べる箒。というか、そんな相互協定があったのか。知らなかったな。

「確かに私は一夏の部屋に行った!だがそれは妙にリアルな怖い夢を見て、寝付けそうにないのを一夏に(電話で)相談した結果だ!『だったら、俺のトコに来いよ』一夏はそう言って、私を招き入れたのだ!」

「だそうですが?一夏さん。……キリキリ吐きやがれください」

 荒いんだか丁寧なんだか分からない口調で、セシリアが一夏を詰問する。

「あ、ああ。ラウラの言う通りだ。でも、お前らの間でそんな協定が出来てたとか俺知らなくてさ。あと、ほんとに一緒に寝ただけだぞ。いやらしい意味一切無しに」

「ラウラ、一夏の言ってる事に嘘は?」

 ラウラに問いかける鈴の声は、絶対零度の冷たさでラウラを襲う。ラウラは首を必死に縦に振って肯定した。

「では、皆さん。判決は?」

 元々少ない抑揚が更に少なくなった声で簪さんがラヴァーズに問う。全員が一斉に頷いて曰く。

「「「有罪。一夏への接触禁止、1週間」」」

「なっ⁉」

 一切の容赦の無い無慈悲な宣告にざわつく食堂。

「意義ありだ!部屋に誘ったのは俺だ!ラウラは悪くねえ!」

弁護人(一夏)の意見に同意する。ラウラに断ずるべき罪は一切無い。何故なら、ラウラは一夏本人によって入室を許されている。ラウラが無断で『単騎突撃』した訳ではないのだ。これは不当判決だ。裁判のやり直しを要求……伏せろ!」

「「「えっ⁉」」」

 ラウラの弁護の最中、急に背筋を襲った悪寒に、私は叫びながら床に伏せる。直後、高温の熱線が食堂を襲った。

「「「きゃああああっ!」」」

 突然の出来事にパニックに陥り逃げ惑う女子達と、ISを緊急展開して即応態勢を取る私達。他の生徒が全て避難した後、熱線が床を抉って舞い上がった粉塵が晴れた先にいたのは、見た事のない紅いISの群れだった。その数、軽く10以上。

「なっ⁉」

 目の前の異常事態に驚愕の声を上げたのは誰だったのか。無理もない。これだけの数の量産機が唐突に現れたのだから。

 しかも、乗っているのはマネキンのような機械人形。それが、この機体群の不気味さを際立てる。その中の一機が、何かを探すように首を動かして、その視線を箒に固定した。

『目標視認、捕獲開始』

「な、なにっ⁉」

 そして、それとは別に首を動かしていた機体が、私に目を向けた。

『最優先抹殺対象確認。攻撃開始』

「ちいっ!」

 直後、一斉に飛びかかってくる無人ISの群れ。3割が箒に、残りは全て私に向かってくる。食堂内(ここ)では退避も迎撃も狭すぎて出来ない。私は破壊された食堂の壁から外へ飛び出した。

 

『抹殺せよ。抹殺せよ』

 呪詛のように無機質に呟きながら、腕に仕込まれたビームマシンガンを乱射してくる無人IS達。それを乱数機動で躱しながら、少しでも学園への被害を減らすために沖へ沖へと飛ぶ。

『抹殺せよ。抹殺せよ』

 ひたすらそれだけを繰り返し、執拗な攻撃を仕掛けながら追いかけてくる無人IS。

「ちっ!しつこい!」

 逃げながらも反撃の糸口を探すが、如何せん相手の数が多すぎる。こちらが僅かでも動きを鈍らせれば、それを見た連中が一斉に取り囲みに来る事は確定的だ。

 かと言って、このまま逃げて続けていたところで状況が好転などするはずもない。取れる選択肢は『ひたすら逃げて援軍が来るのを待つ』か『撃墜覚悟で突貫を仕掛ける』くらいしか……。

『……マスターよりのコマンドを受諾。突貫後、自壊する』

「何っ⁉」

 無人ISがそう口にした瞬間、全機が一斉にスピードを上げて私に殺到する。拙い、追い付かれる!

「くっ!」

 こちらも速度を上げて追撃を振り切ろうとするが、無人IS群は組織だった動きでこちらの逃げ道を徐々に封じていく。

「「九十九(つくも)!」」

 私を追って来ていたのだろうシャルと本音が、私を救けようと無人ISに攻撃を仕掛けようと得物を構えるが、それは僅かに遅かった。

『『『自爆シークエンス、開始』』』

 

ズドオオオン‼

 

「ぐわああああっ!」

 膨大な熱量と衝撃。そして大量の金属片をほぼ零距離で叩きつけられた私は、抵抗すら出来ずに海面に向けて堕ちた。

「九十九!大丈夫⁉」

「しっかりして〜!」

 海に叩きつけられるその直前、シャルと本音が私を抱えて助け上げてくれた。

「すまない、助かった」

「気にしないで。動ける?」

「どうにかな。《神を喰らう者(ゴッドイーター)》が間に合って、爆発のエネルギーを少しだけ吸収できたのが大きい」

 フラフラした動きではあるが、自力で飛んで学園に戻っていると、そこにセシリアがやって来た。その顔は青白く、浮かべているのは困惑と焦燥。余程慌てて飛んできたのか、その息は荒い。

「九十九さん!」

「どうしたセシリア。そっちで何があった?」

「箒さんが、襲って来た無人ISに……攫われました!ISの反応を辿ろうとしても、なぜか出来ず……九十九さん、わたくし達はどうすれば……⁉」

 息も絶え絶えに言うセシリア。だが、その証言により、私の中で散らばっていた点が急速に線で結ばれ始める。

 『紅椿』にどこか似た外見の量産型IS。攫われた箒。そして、私に対して異様な程に向けられた怨嗟の念と殺意。今回の計画を立て(絵を描い)たのは、他でもなく……!

「……ってくれたな」

 一度ならず二度までも、あの女は私の大切な者を傷つけた。

「やってくれたな……」

 どうやらあの女の脳内辞書には『懲りる』と『反省』と『学ぶ』という言葉が抜け落ちているらしい。

「やってくれたな!篠ノ之束ぇぇぇっ‼」

 私の怒りの咆哮は、今の心模様とは真逆のどこまでも青い空に響き渡った。

 

 この一件は、後に『TS事件』あるいは『篠ノ之束の乱』と呼ばれる、世界を巻き込んだ大事件のほんの序章に過ぎなかった。




次回予告

攫われた箒を救うべく動き出す専用機持ち達。
迎え撃つは無数の量産型『紅椿』と、自らを『赤月』と名乗る箒自身。
白き若武者の言葉と想いは、奇跡を起こせるか、否か。

次回「転生者の打算的日常」
#95 赤之月、白之陽。

箒!お前は、俺が絶対に……救ける!

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