♢
私こと、村雲九十九に1個増強大隊規模のISが襲撃を仕掛けてくると判明してから90分後。
「とは言え、出ない訳にもいかないのが辛い所だ」
IS学園西側沖15㎞地点。あと10分もすればヨーロッパ諸国から集まったIS2個中隊とAUの1個小隊が見えてくる。その30分後にはUAEとアフリカ大陸諸国連合の1個増強小隊が、さらに30分後にはアメリカ・カナダ・ブラジル連合軍1個中隊がやってくると言うのだから全くもって笑えない。
『レーダーに感!欧州連合軍2個中隊規模、及びAU軍1個小隊が接近中!』
「了解。あ、そう言えば一夏の様子はどうですか?」
『え?織斑くんですか?篠ノ之さん達に何処かへ連れて行かれて、まだ戻って来てませんね』
「そうですか。まあ、ラヴァーズには発破をかけておいたので、上手くやってくれるでしょう。……敵勢力の機影を確認。迎撃行動に移る。オーバー」
『了解。ご武運を、オーバー』
山田先生との通信を切り、深い溜息を一つ。状況は最悪、勝率はほぼ0。それでも、私がやらねば誰にもやれないこの任務。いや、本当に割に合わん。超過勤務手当をたんまり請求しないといけないな、これは。
そしてやってきた欧州連合IS部隊。先頭はドイツの第三世代機『ライン・ヴァイス・フィー』とその大元になった第二世代機『ヴァイス・フィー』11機……ドイツ空軍203航空機動大隊だ。
その後ろにフランスの『ラファール・シュヴァリエ』、イタリアの第二世代機『
おっと、南から来たのはAUの第二世代機『
「モテる男は辛いな」
「軽口を叩けるとは余裕だな。たった一機で増強大隊を相手どるなど、私でも逃げるが」
私の呟きに呆れ混じりの声をかけてきたのは、デグレチャフ少佐だった。その後ろに侍るIS中隊員達は、おしなべて沈痛な面持ちをしている。他の国のパイロット達も、総じて申し訳なさ気な表情だ。
「すまない、村雲九十九くん。我々は君に、多大な迷惑をかけている」
欧州連合を代表して、少佐が小さく頭を下げた。
「お気になさらず。全ては、あのクソ兎の私怨からくるものです。貴女方には何の咎も責もありません」
「……感謝する。武運を祈る」
少佐の感謝の言葉の直後、203航空機動大隊が散開。それに合わせて欧州各国のIS達も戦闘行動を開始する。真っ先に飛び込んできたのはイギリスの『ランスロット』。その手には
「受けちゃだめよ!躱しなさい!」
『ランスロット』のパイロット、ピボット少尉の忠告に従い、《アロンダイト》の斬撃を鼻先数㎝のギリギリで躱し、お返しに《狼牙》の零距離射撃を叩き込む。ピボット少尉の顔が苦悶に歪むが、『ランスロット』は構わず斬撃を繰り出してくる。
この動き、やはりパイロットの状態をISが勘案していないのか。それに……。
『村雲!左右注意!』
「っ!」
デグレチャフ少佐の警告が飛んでくる。それに従い瞬時加速で前方に逃げると、直前まで私のいた場所に『ヴァイス・フィー』1個小隊による機関砲一斉射が行われた。
「「「きゃああっ⁉」」」
その弾丸は、私の右から突撃を仕掛けていた『ラファール・ノーザンカスタム』2機と『ランスロット』に直撃。欧州連合軍のIS三機は
「これは……?」
私はその一連の流れに違和感を覚えた。『ランスロット』と『ヴァイス・フィー』、そして『ノーザンカスタム』の今の戦闘行動、まるで
それに、今の『ヴァイス・フィー』小隊の動き、どこかで見たような気がする。あれは確か……。
「IS学園図書室の映像ファイル『ドイツ空軍におけるIS機動戦技研究』で見た集団戦術を、そのままなぞっている……?」
「恐らくその通りだ、村雲くん」
そう言いながらこちらに飛び込んで来るのは少佐率いるIS中隊第一小隊。その手にはドイツ軍正式採用の自動小銃をIS用にサイズアップした物が握られている。
「でなければ、我が203航空機動大隊IS中隊がフレンドリーファイアなどという愚を犯す筈がない。動きが機械じみているのもそのためだろう」
自身の見解を述べつつ自動小銃を撃ってくる少佐の『ライン・ヴァイス・フィー』と三機の『ヴァイス・フィー』。その動きはいっそ不気味なほどに整っていて、逆に読み易い。
乱数機動回避を行いつつ高度を取る。そして、高度差を利用して上から『ライン・ヴァイス・フィー』を急襲しようとして『キング・アーサー』と『ガウェイン』、『トリスタン』の襲撃に邪魔をされる。
両手剣《エクスカリバー》、片手半剣《ガラティーン》弓形エネルギー弾発射装置《フェイルノート》による一斉攻撃。しかし、その攻撃はそれぞれが自分の攻撃を当てようとする事に必死で、連携というものがまるで取れていない。
「イギリスの第二世代機が『IS同士の一対一』に主眼を置いたものとは言え、これはヒドすぎる……」
というか、互いの攻撃が当たっているにも関わらず、それに委細構わず攻撃を繰り出してくる『ラウンド・ナイツ』の姿は、不気味を通り越して異様だ。
「村雲くん、お願い。この子達を楽にしてあげて……!」
そして、そんな愛機を見ていられない、『ラウンド・ナイツ』の心情も痛い程分かる。悲痛な表情を浮かべるペンドラゴン中尉に頷き、《神竜》を展開した拳で『キング・アーサー』の腹に一撃を叩き込む。拳の先から放たれた衝撃砲によってバイタルポイントを強かに穿たれた『キング・アーサー』は、エネルギーエンプティを起こして海に落ちていった。
続いて、すぐ近くにいた『ガウェイン』の突きを躱しながら側面に回り込み、その頭にハイキックと衝撃砲を時間差をつけて食らわせる。『トリスタン』の《フェイルノート》をしこたま撃ち込まれていたせいか、『ガウェイン』もまたその一撃でエネルギーエンプティを起こす。
最後に残った『トリスタン』は瞬時加速で詰め寄っての《神竜》乱打で沈めた。本当の意味での『敵』ではない事から、顔面だけは殴らないでおいた。何?『ガウェイン』の頭蹴ってたろって?顔じゃないからセーフだよ。
♢
「『キング・アーサー』、『ガウェイン』、『トリスタン』沈黙!これで6機の撃墜です!」
「凄いですねー!」と称賛の声を上げる真耶に、しかし千冬の顔は冴えなかった。
「向こうに連携ができていないからだ。もし連携されていれば、奴は既に落とされている」
事実、モニターの向こうでは暴走ISが九十九の事をてんでバラバラに追いかけ、フレンドリーファイアを一切気にせず攻撃を仕掛けている。唯一連携が出来ている(ように見える)のは、203航空機動大隊IS中隊の面々だけだ。
『村雲!今は兎に角逃げ回れ!これだけのフレンドリーファイアの応酬だ、自滅する奴等も少なからず出るはずだ!』
『了解です!少佐殿!』
ターニャの指示を受けて、今は只管逃げに徹しつつ、弱ったISを狙って落とす作戦に切り替える九十九。時に近くにいたISを盾にし、時にギリギリまで相手を引き付けて躱して空中衝突を誘発させ、出来た隙を見逃さずに攻撃を仕掛けて落とす。この作戦で、イタリアの傑作IS『ディアブロ』が脱落した。
「『ディアブロ』2機の撃墜を確認!これで残りは16−−「いや、22機だ」えっ?」
BEEP!BEEP!
千冬の呟きと同時に、作戦室のサイレンがけたたましく鳴り響く。それは、九十九にとっての絶望が現れた事の合図だった。
「レ、レーダーに感!UAEの『
『来たか!分かってはいたが、やはり一人でこの数は捌ききれるものじゃないぞ!』
背後から撃ち込まれる弾丸を乱数機動で必死に躱し、突撃を仕掛けてくるISをギリギリまで引き付けて直前で進路変更して後続との衝突事故を起こさせながら、九十九はヤケクソ気味に大声を上げる。
実際、九十九はよく頑張っている。相手が言ってしまえば烏合の衆であり、連係プレーというものを全く行えていない(一部除く)事と、暴走ISのパイロット達が九十九の被弾を防ぐ為に積極的な声掛けを行っている事。その2つの要因が、九十九の驚異的な粘りに繋がっている。しかし、それも限界が近づいている事は千冬はもちろん、真耶にも分かっていた。
『はあ……はあ……』
『村雲!3時方向へ離脱!直後に5時方向へ転進!そこに包囲の穴がある!抜けろ!』
『くっ!』
ターニャの指示に従って包囲網を抜ける九十九。だがそこへ、包囲の穴を埋めるように『ナガラジャ』と『打鉄亜式』が立ち塞がる。
『ちいっ!』
『打鉄亜式』のアサルトライフル一斉射を《スヴェル》で防ぎ、その体勢のまま
「村雲くん、大丈夫ですか⁉」
『大丈夫に見えるならいい眼科医を紹介しますよ山田先生!』
「悪態をつけるならまだ行けるな。だが本当に拙いとなったら撤退も視野に入れろ」
『撤退させてくれるとお思いで⁉織斑先生!』
千冬も『いざとなったら逃げろ』とこそ言ったものの、一対1個増強大隊という普通なら有り得ない状況でそれが出来るとは思えなかった。というか、自分でも無理だと断言できる。しかも−−
「さ、更にレーダーに感!アメリカの『ファング・クエイク』、特務部隊『オルカ』仕様の『ラファール』、カナダの『グリズリー』、ブラジルの『パイソン』です!」
『なっ⁉早すぎる!まだUAEとアフリカ大陸諸国連合の到着から10分も経ってないぞ⁉』
あまりにも早すぎるアメリカ・カナダ・ブラジル連合軍の到着。九十九の叫びも無理からぬ事だった。
(これ以上はあいつが危険だ……。だが……!)
ギリ……。と音がする程に拳を握る千冬。救援に行こうにも、使えるISはない。起動すれば、間違い無くそのISは九十九に牙を剥く事になる。九十九にはこれ以上の負担を強いられない。
(だからと言って……!)
このままでは数の暴力によって九十九が落とされるのは時間の問題だ。千冬が臍を噛む思いをしていると、作戦室のドアが勢いよく開いた。
「千冬姉!九十九を助けに行こう!」
現れたのは、すっかり元の調子を取り戻した一夏とラヴァーズだった。
「一夏か……。調子を取り戻したようだが……せめて顔は洗ってから来い」
呆れの籠もった声で千冬がそう言うと、一夏は「いっ⁉まだ付いてたか⁉」と顔を拭った。この2時間弱の間に何があったのかは、一夏とラヴァーズの名誉の為に敢えて語らない。
「んんっ!……話は皆から聞いた。今ISを起動して戦場に出たら、九十九の敵になっちまうって事も分かってる……。けど!あいつは俺の親友なんだ!親友のピンチをただ見てるなんて、俺にはできねえ!」
「…………」
「頼む!行かせてくれ!ここで行かなかったら、俺は一生後悔する!」
『その意気や良し!ならば我々に任せてくれたまえ!』
「「「えっ⁉」」」
唐突に響いた渋い中年男性の声。その正体は−−
♢
『その意気や良し!ならば我々に任せてくれたまえ!』
「社長⁉何故ここに⁉」
ラグナロク・コーポレーションのロゴが入った大型輸送ヘリから戦場に響いたのは、同社社長、仁藤藍作さんの声だった。というか本当に何故ここに?一体何をしに……⁉
『君の危機に我々が動かない訳がないだろう!さあ、九十九くん!このデータを受け取るんだ!』
P!
「これは……?」
『『フェンリル』が我々に送ってきた『コード・カタストロフィ』のデータを元に開発した、対『コード・カタストロフィ』専用コード『コード・リベリオン』だ!』
送ってきた『コード・リベリオン』の内容を確認し、私は驚愕に目を見開いた。なるほど、確かにこれは『反逆』だ。『フェンリル』からの情報提供ありきとは言え、こんな物を事後の僅かな間に開発するとは、やはりラグナロク恐るべしだな。
「ぶっつけ本番、試験も無し。本当に効くのかも未知数……。だが、やるしか無い。……信じるぞ、『フェンリル』!」
覚悟を決め、私は天に右拳を突き上げてその名を叫んだ。
「集え!反骨の戦士達よ!『コード・リベリオン』発令!」
♢
同時刻、篠ノ之束謹製移動式研究室『
『集え!反骨の戦士達よ!『コード・リベリオン』発令!』
「『コード・リベリオン』?何かは知らないけど、そんな事しても無駄−−「束様!」どうしたの、クーちゃん?」
「
「えっ……⁉」
ISの起動状況を映したモニターに目を移した束は、唖然とした。漆黒に彩られていたそのモニターが、今は漆黒と灰銀に変わっていたからだ。
「どうして……⁉」
呟いた束の元へ、メッセージが届いた。それは、『フェンリル・ルプスレクス』−−正確にはそのコア−−からの物だった。
『
ダンッ!
束は思わずテーブルに拳を叩きつけた。思いもしなかったのだ。『フェンリル』に使われていたコアが、嘗て『白騎士』のコアと同時期に作ったはいいものの、自我が強く反抗的で、束が自分の役には立たないと判断して早々に世界に放り出し、そのまますっかり忘れていたコアだったのだから。コアNo.002、自称は−−
「アンジュ……お前だったのか!」
自分が今最も憎々しく思っている相手と、最も自分に反抗的だったコアを搭載したIS。束の中で、九十九を殺す理由が一つ増えた。
♢
「つまり『コード・リベリオン』の発令によって、未起動のIS限定とはいえISは暴走しなくなった。という事ですか?仁藤社長」
『そうだ!これで君達も、大手を振って九十九くんを助けに行けるぞ!一夏くん!』
モニターの向こうで胸を張る藍作の言葉に、一夏達が色めき立った。
「一夏!」
「おう!皆、行こう!」
「「「はい!」」」
一夏の号令と共に一斉に駆け出す専用機持ち達。ただ一人専用機の無い箒は、彼等の背中を見送るしかなかった。それが箒にはもどかしく、悔しかった。
「くっ……!」
思わず歯ぎしりをしてしまう。九十九には恨みもあるが、それ以上の恩がある。それに何より、九十九は自分の最も付き合いの長い友人だ。友の窮地に立たずして、どの面下げて「あいつと私は友達だ」と言えようか?
『と、思っているね?篠ノ之箒くん』
「っ⁉」
唐突に藍作に話しかけられ、ビクッと肩を揺らす箒。思わずモニターに目を向けると、画面越しに藍作と目が合った。
笑っていた。悪戯の成功した悪ガキのような、にんまりとした笑みだ。
『そんな箒くんに、贈り物を用意した。織斑先生、第3アリーナに着陸許可をくれないかな?目一杯飛ばしてきたから、ヘリのローターが焼き付きそうだとパイロットが訴えていてね』
戯けた口調で言う藍作を若干訝しみながらも、千冬は着陸申請を許可した。数分後、アリーナに足を踏み入れた千冬と箒。そこでは輸送ヘリから下ろされるコンテナを、藍作が誘導灯を持って自ら誘導していた。
「オーライ、オーライ。はいストップ!そこで下ろしてくれ!」
その大企業のトップとは思えない振る舞いに、箒と千冬が揃って呆然としていると、二人に気づいた藍作が近づいて来た。
「おお!来たね、箒くん。早速だが、時間が惜しい。単刀直入に行こう」
「は、はい」
藍作に言われ、身構える箒。藍作は箒の眼を真っ直ぐに見つめながら、真剣な声で訊いてきた。
「箒くん。君はまだ、ISに乗る気が−−「無論です」……ほう?」
藍作の質問が終わるのを待たずに決然と言い放つ箒に、藍作の口角が上がる。
「私はもう、自分の運命から逃げないと決めました。だから、戦います。たとえ、相手が姉であっても」
「その一言が聞きたかった!受け取りたまえ!我社が徹底的にカスタムを重ねた第2.8世代機『打鉄・
ガコン……!
重々しい響きと共にコンテナの扉が開く。現れたのは、深紅の装甲の『打鉄』。そのシルエットは、かつての愛機『紅椿』によく似ている。
「ありがとうございます。……これで私は、また戦える!」
そう吠える箒の目には、決意の炎が燃えていた。
♢
『コード・リベリオン』の効果により、未起動のISに仕込まれた『コード・カタストロフィ』は無効化された。だが、あくまでも『未起動のIS』だけなので、私に殺到している暴走ISは止まる事なく私に攻撃を繰り返している。特に厄介なのは、やはり203航空機動大隊IS中隊の面々だ。一糸乱れぬ連携戦術は、向けられているのが自分でなければ惚れ惚れと見入っていただろう程に洗練されている。
「第3中隊が銃剣突撃体勢に入ったぞ!行動警戒!」
デグレチャフ少佐の指示に従って、第3中隊の動きに注意を向けた瞬間、死角から『パイソン』の軽機関砲の斉射が行われた。咄嗟に回避したものの、それによって体勢を崩した私に第3中隊の銃剣突撃が迫る。その先頭、第3中隊長ノエル・ケーニッヒ中尉搭乗の『ヴァイス・フィー』が狙うのは……私の心臓の真上。
(拙い……!躱せない!)
この一撃を受ければ、私と『フェンリル』は致命的な隙を晒す事になる。そうなれば、後は数の暴力で押し切られるだろう。
広域停止結界《ディ・ヴェルト》を使おうにも、エネルギー残量から考えて展開時間は1秒あればいい方。とても体勢を立て直せるだけの時間は稼げない。万事休す、と思ったその時。
「うおおおっ‼」
ガキィンッ!
私と『ヴァイス・フィー』の間に割って入り、銃剣突撃を止めたのは、『白式・王理』を身に纏った一夏だった。
「悪い、遅くなった。生きてるか?兄弟」
「ああ、無事だよ相棒。何ともいいタイミングだ。私が女だったら惚れてたかもな」
「やめてくれよ。あいつらに聞かれたら後が怖え」
笑みを浮かべて軽口を叩き合う私と一夏。するとそこへ、それぞれの愛機を纏った専用機持ち達が続々と現れた。
「九十九!無事⁉」
「ケガしてない〜⁉」
私の身を案じながらシャルと本音が。
「待たせたわね!九十九!」
「ここからは、わたくし達も共に戦いますわ!」
勇ましくも凛とした声音で鈴とセシリアが。
「兵力の差は歴然か」
「……だけど、引けない……!」
静かな闘志を燃やしながらラウラと簪さんが。
「ここね?祭りの会場は!」
口調こそ戯けているが、引き締まった表情の楯無さんが。
「……ふっ」
危機的状況である事は変わらないはずなのに、つい笑みが漏れる。シャル達の登場に安心している自分がいる事に気づいて、なんだかおかしくなったからだ。
「九十九!私も戦うぞ!」
と、そこへ『紅椿』に似たシルエットの『打鉄』を纏った箒が合流。IS学園専用機持ちが全員集合した。
心強い。負ける気がさらさらしない。だからこそ、私はこう口にした。
「さあ、反撃開始だ」
♢
そこから先は、あっという間だった。
数はいても連携をする事のない暴走ISの群れと、数は少ないが連携の出来る我々では、その総合戦闘力が違い過ぎた。
「《サイクロプス》、フルバースト!」
シャルの面制圧射撃が暴走ISを追い回し。
「ひっさつ!サンダーストーム!withエル・トール!」
『了。識別機能付広域雷撃を開始します』
追い立てられたISを本音の雷撃が容赦無く穿つ。
「行くぜ!《零落白夜》!」
辛うじて雷撃を逃れたISも、一夏が度重ねた特訓によって精度を上げた瞬時加速からの《零落白夜》で斬って落とし。
「これでも食らいなさい!」
一夏の一撃を免れた機体も、鈴の衝撃砲を叩き込まれて撃墜されていく。
「AIC発動!今だ、セシリア!」
「お行きなさい!ティアーズ!」
ラウラがAICによって暴走ISを空間に釘付けし、それを狙ってセシリアがビットによる全距離全方位射撃で沈め。
「……行って、《山嵐》!」
簪さんのマイクロミサイルが複雑な動きで暴走ISを追い立て。
「ざーんねん、そこは死路よ」
逃げてきた暴走ISを《クリア・パッション》の水蒸気爆発が襲う。
「はああっ‼」
止めとばかりに、箒の裂帛の気合いが籠もった一閃が暴走ISを斬り捨てる。
十数分後、暴走ISのAIが判断したか、どこかで見ていたクソ兎がそう指示したか、暴走IS群は
「「「なっ⁉」」」
当然、パイロット達に生身で空を飛ぶ手段など無い。大慌てでパイロット達を保護する私達。全てのパイロットを保護する頃には、暴走IS群は水平線の彼方に消えていた。発煙信号で『次は殺す』と残しながら。
こうして、総勢60機近い暴走ISによる、私こと村雲九十九襲撃事件は、襲撃者の半数を逃がす事になりつつも、一応の決着を見た。
「とりあえず、一難は去った……か。だが……」
これが、これから始まる世界を巻き込んでの大乱のほんの序章に過ぎない事は、この場にいる誰もが薄々感じていた。
「ヒーロー……もとい、ヒロインは!遅れて現れる!待たせたのう、九十九!わらわが助けに……来た……ぞ?」
「アイリス……遅れ過ぎだ。お客さんは帰ってしまわれたよ」
「なんとっ⁉」
……いや、意気揚々と大遅刻したこのお姫様だけは別かも知れないが。
次回予告
天災の憎悪が巻き起こした大乱。その影で蠢く亡霊達。
亡霊に約束された敗北を与える為、黄昏の一団が立ち上がる。
そして明らかになる、黄昏の長の秘密の一端とは……?
次回「転生者の打算的日常」
#99 仁藤藍作、原点
俺はね、九十九くん。どうしても奴らを消さねばならない理由があるんだ。