異世界転々忍法戦記   作:濁酒三十六

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カタリナの使い魔、ポチ。

「痛い、痛、いやああ、助けて!!」

 

 無数の雀蜂(キラービー)に囲まれ刺されながらも逃げ惑うメイド。

 

「あっち行け行っちまえ!うあ、うわあああ!?」

 

 庭箒を振り回し奮戦するも反対に呼び寄せてしまい群がられ断末魔を上げる執事。

 アシュレイ邸を覆い尽くす殺人蜂は使用人を阿鼻叫喚の地獄へと突き落とし誰一人と逃がさなかった。

 屋敷内には謎の集団が聖女を捕らえる為に侵入し、目に付く使用人は無惨に殺された。

 侵入した集団は黒いアサシン…忍装束に身を包み、無駄のない動きで何かを捜す様に屋敷内を駆け走り、目にした老若男女容赦なく斬り捨てた。

 

「待って、待ちなさいポオオチイッ!!」

 

 小さな黒い仔犬の姿形であるカタリナの使い魔…ポチは短い足でも追ってきたカタリナとアンの追随を許さずに屋敷の廊下を駆けていた。

 

「ポチったら速い、あんなに小さいのに…スゴイ仔!」

 

 追いつけないカタリナは何故か嬉しそうにしており、後ろを走るアンはもう既に息切れをしていた。

 

「も、申し訳ありません、私、もう走れない…。」

 

 アンとの距離が離れて来た時、前方に二つの影が見えたと思うとその二人は右手に剣…刀を握ってカタリナ達を見つけたのか、彼女達に向かって刀を構えて突進して来た。

 しかし次の瞬間ポチに異変が起き、瞬時に巨大化して刀を構えた侵入者を壁に叩きつけた。叩きつけられた壁は大きな穴が空き侵入者は破片に埋もれてしまった。

 

「ポチ…おっきい狼になっちゃった。…てか、ふっ飛ばされた人助けなきゃ!」

 

 そう言って壁の瓦礫を退かし始めた。

 

「カタリナ様、危険です!彼等から離れて…」

 

 …とアンが慌て止めようとするとカタリナが「ええっ!?」と驚愕の悲鳴を上げた。

 

「嘘、“忍者”…なんで!?」

「ニンジャ…とは一体何でございますか、カタリナ様?」

 

 驚いて呟くカタリナに尋ねるアンに彼女は答える。

 

「アン、私が日本からの転生者だって事は話したよね。」

 

 アンが頷き、カタリナは話を続ける。

 

「忍者は転生前の私の国で昔の時代の暗殺者みたいな存在なのよ。…この世界に忍者なんて…いる訳ないのに…?」

 

 瓦礫に埋もれていた忍装束に身を包んだ侵入者…忍者をカタリナは普段見せない真剣な顔で見下ろしていた。

 …と、そんな事はお構いなくカタリナ、アンの背丈をゆうに越す程の大きな狼となったポチはフサフサしたおっ尾を伸ばして二人を絡め取る。

 

「ポチ?」

「今度は何です…かぁあああっ!?」

 

 ポチはそのまま走り出すと何と壁に突進してぶち抜いてしまった。

 

「「イヤアアアアッ!!!!」」

 

 カタリナとアンは落ちると思い悲鳴を上げたがポチは外へ出た途端外壁に貼り付いて壁を駆け走った。外は使用人達の悲鳴とブンブンと耳障りな羽音を立てながら群れなし黒い霧と化していた雀蜂《キラービー》が蠢いていた。

 その恐ろしい光景にアンは更に悲鳴を上げて錯乱した。

 

「アン、大丈夫よ!ポチと私がついてる。大丈夫だから!」

 

 呼び掛けるカタリナを涙目で見るアンは息を整えようとした。カタリナもポチが何をしようとしているのかは解らないが自分の使い魔であるならこの屋敷の人達を助けようとしているのだと信じ、その身を委ねる。そしてポチはアシュレイ邸の屋根まで登り二人を屋根に降ろすと四肢を踏ん張り、キラービーの黒霧を睨み付けた。

 カタリナはポチの胸が大きく膨らんだ事に気付いた時、ポチはその大きな口を鋭い牙を剥き出して凄まじい遠吠えを解き放った。遠吠えは広範囲に轟き、周辺街にも聴こえる程であった。

 そして…羽音が一斉に止んだかと思えば雀蜂の黒霧はどんどん晴れていった。耳を押さえていたカタリナとアンはその光景に呆気に取られる。

 

「ポチってばスゴイ…。」

「今の遠吠えがキラービーを駆逐した?」

 

 雀蜂(キラービー)が次々と地面に落ちて行き黒霧は消えて周囲の景色が見えるようになった。アシュレイ邸は魔蟲の群から難を逃れたのである。

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