「確かに、いきなり村の真ん中に
「…だが烈殿程の使い手が主人なら必要なかった。」
ランドリドの家に招かれた烈達は外も暗いので夕食をふるまわれ、小四郎は騒ぎの話を理解してくれたランドリドに自嘲気味に笑う。朱絹も同じ様に笑うが少し安堵が混じる。
「何ガ騒ギダ。ゴブリン一匹程度、人間ハ肝ッ玉ガ小セエンダヨ。」
横でゴブリンは飯をガツガツ食べながら文句を垂れるが小四郎がギッとゴブリンを睨見つけるとゴブリンは小さくなってビビリ、チョビチョビとスープをスプーンで啜った。
そして烈が待ち切れないとばかりに自分の目的を切り出す。
「…して、ベリル殿を剣聖にまで育て上げたモルデア・ガーデナントにお会いしたいのですが、宜しければ…」
「その事ですが…、モルデア殿はもう居られません。一週間近く前に、ある人物との果たし合いを受け…死合に敗れ亡くなりました。葬儀を二日前程に終わらせた所で、その際はコシロウさんとアケギヌさんが手伝ってくれました。」
「そうでしたか、お悔み申し上げる。…して、そのモルデア殿を倒された者の名は?」
烈の問いにランドリドは少し息継ぎして平静を保ち、答えた。
「ミヤモト…ムサシ、と名乗ったそうです。」
その名を聞いて烈の強面が強張り、小四郎と朱絹も表情を凍りつかせた。
「宮本…武蔵、だと?この村に来たのか!?…何が目的だ、剣聖を探しに来たか!?」
「宮本武蔵殿も…
「小四郎、私達の目的を優先するなら無理に関わる必要はないでしょう。」
少し冷たいが朱絹は合理的に考えて自分の考えを話すと、烈は彼女に思いがけない事を尋ねて来た。
「つかぬ事を尋ねるが、君達は忍者…ではないか?」
二人は答えない代わりに烈を睨み付ける。周囲の空気が変わり、ランドリドもそれに気付いて赤ん坊をあやしていた妻を別の部屋へ避難させる。小四郎からは殺気が滲み出た。
「烈殿、それ以上は口にしないでくれ。此処で殺し合いはしたくない。」
「落ち着いて欲しい。私はお前達と同じ日本より来た忍者の男女を知っている。」
「何ですって、貴方は私達以外の忍者に会ったとおっしゃるのですか!?」
朱絹が詰め寄ると小四郎は身に付けた片手鎌に手を伸ばす。
「御二人は
伊賀甲賀、ランドリドには分からない話だがゴブリンは「アッ、成程ネ。」…と理解した。二人は警戒しながらも頷く。
「私は一ヶ月以上前にスランタニア王国で
小四郎、朱絹の表情に希望が滲み出るが小四郎は眉間を寄せて弦之介の事を聞いた。
「朧様は…弦之介と共におるのか?」
「あぁ、伊賀甲賀に確執があるのは知っているが、
「貴様…。」
「小四郎、そこまでにして下さい。」
小四郎の敵意が深まるかと思ったが、意外にも朱絹が彼を諌めた。
「烈様、その…朧様は笑って…おられましたでしょうか?」
「あまり話してはいないが、彼の傍らで嬉しげに笑ってはいたよ。」
「そうですか。」
彼女はその妖艶な顔を綻ばせて微笑む。それだけ朧の事を心配していたのだろう。二人の話を聞くと朧に関してはもしかしたら…と言った不確かな気持ちで探していた様だ。
二人には如月左衛門と蛍火の事も話した。蛍火がいる事には二人は喜んだのだが、如月左衛門と聞くとあからさまに敵意が剥き出しになる。どうやら二人は伊賀者なのだと烈は確信した。
「話を宮本武蔵に話を戻したい。ランドリド殿、
小四郎と朱絹は烈が何を言っているのか解らず、話の流れに耳を澄ませると、ランドリドは首を横に振った。
「勝負の一部始終を見ていたのはモルデア殿の奥方のフレンさんなのですが、ミヤモトムサシはモルデア殿の一太刀を浴びても微動だにせず、動きを止めてしまったモルデア殿を二刀で斬り伏せた…と、聞きました。」
「一太刀浴びて、死ななかった?」
小四郎は絶句する。伊賀でかつて自身の面倒を見てくれた薬師寺天膳もまた不死の身体をしていたが、斬られてしまえば一時的にも動けなくなり復活に時間がかかっていた。
「そうか、やはり
烈は残念そうに言葉を洩らし、朱絹は烈海王に違和感を感じる。そこで烈と小四郎が異様な気配を外に感じ、烈は家のドアを開けた。ランドリドも何かを感じたのか、険しい表情となる。
「ランドリド殿、モルデア殿の奥方は御一人か?」
「いや、今は王都からベリル先生が後見人になっている娘ミュイさんと護衛にクルニと二人の騎士が居ます。」
「ならランドリド殿は自身の奥方の傍に。私はモルデア殿の家に向かい様子を見に行こう。」
「私も行きましょう、妻と子を道場に避難させたい。」
「俺と朱絹は周辺を見よう、何者かは知らぬが確実に“敵”は来るぞ。」
「旦那、俺ハ旦那二付イテ行キマスゼ。」
「好きにしろ。」
烈達はランドリドの家を出、烈は道を聞いてゴブリンと一緒にベリルの実家となるモルデアの家へと走り、小四郎と朱絹は人の気配を多く感じる方へと向かった。
崖よりビデン村をある一団が見降ろす。紺の忍装束に身を包んだ忍者の集団。二十人程はいるだろうか、その先頭に毬栗短髪に髷、鼻から顎まで覆面で隠した男…荒木又右衛門が忍者の集団に指示を出した。
「細かい事は言わねぇ、皆殺しだぁ。」