「どうやら“巣”に隠していた“皆”は無事な様じゃな。さぁ、
蟲蔵の背中の巣から溢れ出た雀蜂の群れが耳障りな羽音を打ち付けながら聖と愛良目掛け飛んでいく。聖は透かさず両掌を蟲蔵に向けて唱えた。
「リフレクトウォール!!」
聖の眼前に金色の魔法障壁が出現し、雀蜂の群れを防ぎ止めた。…だが
(大丈夫、魔力には充分余裕がある。…長時間防ぎ耐えれば騎士団が来てくれる筈!)
聖にはこれくらいなら三十分…一時間でも耐え続ける事は可能である。
(ほう、どんなに数はおっても所詮は蟲か。…じゃが長期戦には持ち込めぬよ、聖女。)
蟲蔵が残忍にほくそ笑む。
雀蜂との攻防は全くの膠着状態となり、聖達はスランタニアがアシュレイ邸の異常に気付いてくれる事を祈り、騎士団を向けてくれる事を願った。
(屋敷を覆い尽くす程の雀蜂の大群が現れたんだから絶対に気付いて来てくれる!…アルベルト様。)
金色の障壁は弱まる事なく雀蜂の郡を防いでいる。そして蟲蔵には一匹の雀蜂が耳元で奇妙な羽音をさせる。すると蟲蔵はニヤリと嗤った。
「下忍に伝えろ、長い黒髪の女は捕らえ、短い方は殺せ。」
そう呟くとその一匹は何処かへと飛び去る。
(流石に不味い。気付いた騎士とやらの救援が早いか…我等があの聖女を捕らえるのが早いか。)
短期戦が聖達にも蟲蔵にも望ましいが、恐らく蟲蔵が有利ではあった。何故なら…。
「聖さん、後ろから駆け足の音が!」
「えっ!?」
愛良が後ろを向き、聖は焦る。
(騎士団が来てくれた!?)
聖の期待は直ぐに裏切られる。後ろから現れたのは三人の忍装束を纏った侵入者…忍者であった。
「「忍者!?」」
二人はハモってしまうが三人の忍者は刀を構え切っ先を二人に向けて駆け出す。その時愛良は自分が動かねばと両掌を忍者達に向けた。
「アイシクルランス!!」
咄嗟の詠唱による愛良の氷結魔法廊下より無数の氷突角が突き出して三人一度に串刺しにする。
愛良は三人の突撃を止めて安堵の表情となるが、今一度目を向けてその顔が直ぐに強張り、彼女はペタリと座り込んでしまい串刺しとなった忍者達を凝視した。氷の突角は腹部から背中へと突き抜けており血が伝って覆面がドス黒く滲んでいた。
「死んだの…?わたしが、殺した!?」
「愛良ちゃん!?」
愛良が喉が張り裂けると思える程の悲鳴を上げ、聖は手が離せないまでも愛良に向いて落ち着かせようと声を投げ掛けた。
「落ち着いて、落ち着いて愛良ちゃん、私の所に来て!!」
愛良は頭を抱え蹲って動かない。聖の焦りが膨らむが魔法障壁展開への集中を切らさず、愛良からは目を離さずに力強く叫んだ。
「愛良しっかりして、来なさい!!」
その声を聞いた愛良はまるで縋る様に這って彼女の腹部に手を回すと聖は魔法障壁から左手を離し、愛良の頭を抱え込み目を覆い隠した。右手で
「私が、愛良ちゃんを守らなきゃ!」
決意が言葉となり無意識に口から飛び出し障壁に群がる雀蜂の群をキッと射抜く。すると雀蜂の群に穴が生じ始めた。群れが離れ出したのである。まるで逃げる様に蟲蔵の背中の巣へと戻り、彼も何が起こったの理解出来ずに混乱した。
「む、
既に障壁越しに慌てふためく蟲蔵の姿が見える程に雀蜂は離れてしまい、聖も何が起きたのか解らないが、一つだけ理解した。
「何故雀蜂が逃げてくれたかは分からないけど、もう
敵意とも哀れみともつかない視線を蟲蔵に投げかける聖。悔しがる蟲蔵は踵を返して逃走を図るが、聖は追いかけずに魔法障壁を解き、その場にへたり込むが両手で愛良は聖にしがみついたまま身体を小刻みに震えさせている。
彼女が魔法を放った背後に目をやる。…三人の忍者が広がる血の海にうつ伏せになり死んでいた。その惨状に聖は更に愛良を抱き締めて涙を流し、彼女に頬を擦り寄せた。
「…ごめん…、ごめんなさい、愛良ちゃん…。」