今回の事件でアシュレイ公爵家は一旦使用人共々王宮へと避難し、カタリナ達ソルシエ王国一行も護衛騎士を含め王宮でジークフリートの名の下で保護される事となった。建前はやはり友好派遣魔導師ではあるが宮廷魔導師団との交流以外の自由が厳しくなった。しかしアシュレイ邸への襲撃から聖とカタリナの交流が深くなった。
現在宮廷魔導師宿舎で療養している愛良ともカタリナは足を運んでいた。エリザベスと聖で彼女の看病をし、主にエリザベスが愛良のカウンセリングを担当していた。
『えっ、冒険者ギルド開設?』
聖達はエリザベスの話に驚いて声が出てしまった。先日王の書斎で言っていたカイル王子の別件とは現在友好国として交易のあるレベリス王国とパレッティア王国王都にある冒険者ギルドのギルドマスターを呼び、この国に冒険者ギルドを運営するとしてギルドとはどういったものかを教えてもらおう…と云った会談である。
「そういえばソルシエにも冒険者ギルドってないわね。」
「はい、ソルシエ王国には冒険者ギルドはありません。ソルシエもスランタニアと同じで魔物討伐は騎士団或いは魔法省で請け負っていますから。」
「へえ、魔法省って魔物討伐もしてるんだ。」
…とカタリナにマリアが話して聖はスランタニアに冒険者ギルドがない事に首を傾げた。
「リズ、この国にも冒険者…じたいがいないけど、それって貴族しか魔法が使えない事と関係…あったりとかしない?」
「そうね、少しは関係してきますわ。魔法は貴族しか使えない。つまりは魔力は貴族しかないのが世界…いえ、この国の大まかな法則ですの。貴族はその血を絶やす事なく繋ぎ、国を守護するのが生業です。次に貴族は平民との交わりを禁じられております。」
「それは…男女の関係の事かな?」
聖がちょっと照れながら呟き、エリザベス…リズは扇で顔を隠した。
「そ、そうです。故に貴族は平民を雇う事はあっても妾…まして結婚などは国王の許可がない限りは出来ません。許可が降りればその平民を貴族として必ず家に迎え入れなければなりません。
そのまま認知せず平民として残せば魔力を持つ者が必ず出て来て色々なトラブルが起きる可能性が出て来ます。」
これはカタリナとマリアに重く感じられた。マリアは白の魔力に目覚め、その結果父親が姿を消しており、カタリナの義弟であるキースは貴族と平民の間に生まれクラエス家に引き取られるまで酷い扱いをされて来た。
「そして一番の理由は…平民に武力を持たせない事です。」
これには聖と愛良が“刀狩り”を思い出す。かつて豊臣秀吉が農民に強いた法が二人の頭をよぎった。
「日本ではそんな話は昔もなかったね〜。」
カタリナがそう呟いて聖と愛良は「「えっ?」」と声が重なる。
「カタリナ様、昔の日本にも刀狩りと言うのがありましたよ。」
「えっ?」
聖に言われてカタリナは二人の顔をマジマジと見るとえへへ~、と頭を掻いて照れ笑いをして誤魔化したので聖が話を戻した。刀狩りの事は頭の傍らに寄せて置く。
「でも今までの王様やクラウスナー領…ホーク領はとても豊かで関係もとても良かったわ。そんな反乱なんて…。」
「そうね。スランタニア王家は建国以来ずっと国民の為に…貴族もまた王家の為に尽くして来ました。そして民もまた彼等の剣となり盾となる王家貴族に尽くしてくれました。
そんな王国の関係を保つ為にも王族貴族で平民が不満を持たぬよう、守って行かなければなりませんでした。
…その為の聖女召喚だったのです。ですがカイル殿下はセイやアイラの様に異世界の方々に私達の問題を背負わせる事に強い疑問を持たれました。
後数百年もすればまた瘴気がこの国に色濃く溜まり、その度に聖女召喚を行うべきではないと…。その為には騎士団魔導師団だけでは足りないと考える様になりましたわ。」
それを聞いた愛良は初めて合わせた時のカイルの顔を思い出した。もう日本に帰れない。両親にもう会えない事実に彼女が涙を流した時にカイルは戸惑い、日本に帰る方法を探すと約束してくれたのだ。
「殿下は…とても不器用で優しい方ですものね。」
「えぇ。」
愛良とリズが微笑み合う。しかし聖の微笑みは少し引きつっていた。
(リズはともかく、愛良ちゃんのカイル殿下の評価がそんなに高いとは思わなかった…。)
未だカイルへの苦手意識が拭い切れない聖であった。