聖はカイル率いるスランタニア王国第一騎士団とアルベルトの第三騎士団について再びクラウザー領を訪れた。アルベルトは団長として第一騎士団団長と共に騎士団行進の指揮を務め、領に着くと彼は聖の乗る馬車へと行き彼女の手を取った。
「足元に気を付けて、セイ。」
「ありがとうございます、アルベルト様。」
彼女は手を引かれ馬車から降りると其処には数人の侍女と一人の老婆が二人を迎えてくれた。
「いらっしゃい。久し振りだね、セイ。」
老婆が聖に挨拶をし、聖は微笑んで彼女に歩み寄り両手で彼女の手を握る。
「お久し振りです、コリンナさん。」
「婚約したと聞いたよ、早いもんだね。…と言うか氷の貴公子様と婚約とは、予想してた通りだ。」
「予想通りですか、ははは…。」
コリンナは後ろのアルベルトに視線を向けて聖は自分の分かり易さに恥ずかしくなり顔を赤らめた。
「お久し振りですコリンナ殿。本日よりギルド会議の間、宜しくお願いします。」
「こちらこそ、氷の貴公子様。セイ、あんたに会わせたい娘がいるんだ。
落ち着いたら、時間をおくれ?」
「えっ、はい…。」
そう言ってコリンナは二人をクラウスナーの城へと案内した。
カイルの方にはクラウスナー領主が直に迎えていた。
「ようこそおいで下さいました、カイル王子殿下。私クラウスナー領主は領民を代表致しまして深く歓迎させて戴きます。」
領主は深々と頭を下げ、カイルも応える様に頷く。
「会議が終わるまでの間、宜しく頼むクラウスナー卿。…して、“連絡”にあったニホンと云う国から来たと言う二人は?」
「現在、娘の方は我が領の薬師コリンナの元におります。男の方は後に傭兵団長が連れて来ます。」
「そうか。二人に怪しい所はなかったか?」
「はい、特には。娘は道のわずかな凹凸だけで転ぶ程抜けておりますがかなりの器量良し。男は傭兵団長と並ぶ程の剣の使い手で御座います。」
領主はコリンナと話した娘の瞳に関しては話さなかった。薬師であるコリンナが少し気になるだけなので下手に此方から打ち明けても聞かれた所で答えられないので流れに任せる事とした。
しかし領主は“ニホン”と云う言葉がかなり気になり、カイル殿下に聞いてみた。。
「カイル殿下、ニホンと言う国に何か心当たりがあられますか?」
「ニホン…か、クラウスナー卿は二人からは何も聞いていないか?」
「ハイ、二人はニホンと言う国から来た…と、コリンナからは聞いております。」
カイルは領主に聞いた後に考え込み、小さく溜息を吐いた。
「領主よ、その娘と男を別々の部屋へ軟禁せよ。後に
カイルは領主に冷徹な視線を向け、城へと入り、領主も慌てて王子殿下の後に付いた。
そしてクラウスナー領の端…深い森を背にして艶やかな紅い着物を着、簪を刺して長い黒髪を整えた妖艶な女が佇んでいた。スランタニア王都でアシュレイ邸にメイドとして潜み、蟲蔵達を引き入れた張本人紅里である。
その背後にはあの忍装束の者達がズラリと現れ並んだ。一人の忍装束が紅里の右手に立ち、彼女に報告する。
「鬼門衆下忍軍総勢六十、揃いまして御座います。」
「胤舜様は居られるか?」
「此処に居るぞ、紅里。」
いきなり紅里の左手より男の声が聞こえ報告に来た鬼門衆は思わず身構えてしまうが、紅里はその蛇に似た顔でニヤリと笑む。その声の主はくの字をした刃の槍を右手に持ち日本の坊主…顎髭を生やした巨漢の行脚僧が姿を現した
「来てくれましたか宝蔵院胤舜様、貴方が居てくれるだけで心強い。」
「なに、あれ程の麗しい女体を味わわせて貰えたのだから、
そう言って“がっはっはっは…!!”と豪快に笑う胤舜。紅里は口端が裂けるかの様に更に笑い口走る。
「既に弦馬殿…鬼門衆も四郎様の前に平伏した。この異世界に地獄が広がるのも間近となるでしょう!」
そして紅里が右腕を振り、総勢六十名の鬼門衆下忍が散開し、姿を消す。
「胤舜様、貴方は我らが切り札ですが好きな時に暴れて下さいませ。」
「そうしよう、鬼門衆の腕前見せて貰う。」
胤舜と会話して紅里もまたその場から姿を消すと胤舜は森の奥を見て嗤う。その奥深くで巨大な何かが“キュインッ”と奇妙な音を鳴らし蠢いた。
「切り札か。…実は儂ではなく
胤舜は嘲り、ちらりと明後日の方向を見てその姿を森の闇に隠した。するとその状況を見つめる紫色の忍装束が森奥の木の上から様子を見ていた。
(気付かれたが…見逃されたか?)
桃色の忍は小さな紙と筆を出して手紙をしたため、肩にいた梟に手紙を入れた小さな筒を持たせると梟は飛び立ち、紫色の忍はその場を離れた。