「田宮、坊太郎…。」
聖がアニスに次いで呟き、少しの間沈黙が流れる。
「ごめんなさい、大まかな歴史は勉強したから知ってるけどそれ以外は…。」
「別にいいよ、わたしも知らないしね。」
申し訳なさ気に聖が言ってアニスも彼女と同じく知らなく、二人が弦之介と朧に目配せするが、弦之介も首を横に振り朧は困った顔で首を傾げた。
「田宮坊太郎はね、ある罪人の死体とその親族を攫ったの。」
「罪人だと?」
「死体…って。」
カイルが眉間を寄せ、聖も死体と聞いて青褪める。アニスもあまり思い出したくないのか、喉から無理矢理押し出す様な声で話す。
「奪われたのは斬首されたシャルトルーズ伯爵の体とその奥さんの身柄よ。」
斬首、と聞いたアルベルトが少し顔を歪める。彼は王都襲撃の前、牙神獣兵衛に出会った時の事件で貧民街の娘を殺した男を捕縛し、斬首刑の執行をしていた。死刑執行時はその光景からは目を離さずにその脳裏に強く焼きつかせている。
「その際に王国の衛兵19人が一瞬で小間切れにされた。わたしの目の前で…、そしてパレッティア騎士団団長が捨て身で相手をして敗れた。相手の腹部に傷を負わせたんだけど…治癒魔法も使わずに治癒した。
クラウスナー城を襲った“宝蔵院胤舜”と同じ様に。
因みに団長は深手を追ったけど生きてるよ。」
これには隣の烈も興味を示し、聖とアルベルト、カイルは信じられないといった顔になる。そこでまた弦之介も胤舜と戦った一人として話し出す。
「拙者の時代には胤舜なる男の名は聞かなかったが、あの十字槍を操る技は相当なものだ、生きた時代ではかなりの名を馳せていた筈。
そして何度我が瞳術を受けながらも絶命する事なく何度と復活していた。もしアニス殿が割り込まなければ拙者は十字槍に心の臓を貫かれたか首を飛ばされていたやも知れん。」
「わたしも同じだよ、わたしとの斬り合いは正直少しづつ押されてた。だから瞳術がまた効いて隙になって胤舜の頭を斬り割れたんだ。」
それを聞くや朧が泣きそうな顔で弦之介の袖にしがみついて放さず、彼は今にも泣き出しそうな彼女の肩を抱いて
「宝蔵院胤舜は知ってます。某漫画家さんの宮本武蔵漫画で対決してましたよね。」
「そう、○ガ○○ド!」
「何だと!?」
聖とアニスで日本の漫画の意気投合…かと思いきや、唐突に烈が大声を上げた。
「宮本武蔵と…同じ時代を、生きていた者がこの世界にいるのか?」
突然血相を変えて騒ぎ出した彼だが周りの驚いた反応に直ぐ我に返る。
「弦之介様、いかがされました!?」
「朧様っ!
この痴れ者があっ!!」
守衛の如月左衛門も書斎へ飛び入り、更には天井をぶち抜いて蛍火が過剰に反応して現れ、蛍火が苦無を烈に向けて襲い掛かった。瞬間、烈は蛍火の苦無を持つ手を取り彼女のこめかみをコツンと軽く小突いた。すると、蛍火は急に視点が震えて脱力し、倒れようとして烈に抱き止められる。
「蛍火、貴様あっ!?」
忍者刀を抜き烈に斬りかからんとする左衛門を弦之介が「
「左衛門、大丈夫だ。蛍火を頼む。」
「畏…まりました。」
左衛門は気を失っている蛍火を烈より受け、書斎を後にすると「弦之介様…。」と朧が弦之介を訴える様に見つめ、彼は「蛍火について上げなさい。」と彼女に言い、朧は二人について行く。
それを見ていた烈は意気消沈。
「スマン、話を続けてくれ。」
冷静さを取り戻し、席に座った。アニスは烈の言葉を借りて話を続ける。
「今、烈さんが言った通り…胤舜は二刀流の剣豪、宮本武蔵と同じ時代を生きてた。多分、田宮坊太郎も同じだと思うの。
そして今回、忍者と胤舜が手を組んでクラウスナー城を襲って来た事実から…、
…どうかなカイル殿下、“うち”と同盟…組まない?」
「
「ああ今、殿下から言質が欲しいの。此処にいる皆、うちの王族の重要機密、知っちゃったし。」
重要機密、それは彼女が異世界からの転生者と言う事実の事だろう。
(いや、その事実を聞かれもせず話したのアニス様ですよね。)
聖は心の中で突っ込みを呟いた。