異世界転々忍法戦記   作:濁酒三十六

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魔拳vs魔人

 十字槍が床の大理石を深々と突き通しただけでなくその中心から細かくヒビ割れまるで鉄球に打たれた様に凹む。烈は瞬時に頭上に気付いて背後に飛び退き回避。そして敵の状態を確かめる。

 胤舜の着ていた雲水がボロ雑巾と成り果て、その破れ箇所からは腹の肉からはみ出た腸がそこ箇所からはみ出、胸元からは折れた肋骨があちこちから胸を突き出ていた。“倒した”…レオとゴブリンはそう感じたが烈は全く構えを解かない。人であれば既に死亡レベルまで破壊された身体がみるみる再生する。

 胤舜は首が千切れかけても死なず再生してしまう化け物…魔人である。レオはその並外れた再生能力に頭の処理速度がついていかない。

 

「いや…、おかしいだろ。倒せんのかよ?」

「ヤレマスゼ、旦那ナラ。俺ハズット旦那ノ闘イ

ヲ見テルンダ、オーガもアンデットも神様ダッテ殴リ飛バシテンダ。今回ダッテ…」

 

 ゴブリンが拳法家烈海王を讃える。彼の言う通りに烈海王は様々な敵と闘い…死合に打ち勝っている。小鬼からの烈への信頼は絶大であった。

 再生し終えた胤舜の表情から先程までの嘲笑が消えていた。十字槍を縦から横に向け下段に構える。先程までの嘲り罵りも垂れ流さない、油断はもうない。槍を横に構えたのは素手で防御させない為だ。宝蔵院胤舜はその殺意を烈一点に注ぎ動く。

 槍衾。否、槍による壁、その向こうが見えない程の連突が烈を襲う。

 

(何と、鼠すら通れない程の十字槍の連突。ならば抉じ開ける(・・・・・)!)

 

 胤舜は目を疑う。連突による槍突きの壁が一瞬にして天井へ押し上げられたのだ。刃を横にした十字槍の槍衾壁の如くの一突き一突きを烈は身を低くし手の甲で刃を下から弾き飛ばしているのだ。

 

(俺の槍を見切っている!!…これが武蔵殿が褒めていた拳法家、烈海王か!)

 

 かつて活躍した前世の世界…母国である中国で彼はこう呼ばれた。…“魔拳”と。変幻自在の技に岩をも砕くその拳は魔拳と呼ばれるに相応しい異名であった。烈は下方より弾き、抉じ開けた槍衾の壁を瞬速で潜り抜けた。

 彼は再び胤舜の眼前に入り、身技が絶妙なタイミングの正拳突きを放つ。胤舜の胸にヒットした瞬間にその衝撃が胤舜の胸を大きく穴を空けて貫いた。剛体術。かつて彼の好敵手(ライバル)であった天才格闘家…範馬刃牙の技。標的へのインパクトの瞬間、使用全ての関節を固定、自身の体重を一点に乗せ威力を収束させる技である。

 彼は前世で聞き及んだだけの技だがその技を瞬時に理解し、この異世界…この土壇場にて実践、成功させた。その威力は最早人に放つものではなくなっていた。

 徹底的に肉体を破壊されようと胤舜の体は再生を繰り返し、もう一度烈は無呼吸乱舞を叩き込む。破壊、破壊、破壊…。

 烈にとってここまで人間の形をした肉体を破壊し続けるのは初めてだ。…だが何処までも再生する胤舜の身体に烈は畏怖を覚える。

 

(技量であれば宮本武蔵よりも下。だがこの尋常ならぬ再生能力はあまりに面倒か。)

 

 まるで烈の心労を読心したかの様に胤舜の顔に嘲笑が戻る。アニスとの戦いでは彼女の武具は魔剣であった。魔剣等の魔武具、そして魔法が彼等魔人にダメージを与えられる。しかし何の付与もない烈海王の拳では殺し切れないと胤舜は確信した。

 突然、胸板を内側から数本の肋骨が突き出て烈の肩を腕を腹を突き貫いた。

 

「何っ!?」

 

 致命傷ではない。しかし新たな肋骨が鉤爪の様に烈を突き刺し、両腕で羽交い締めにし動きを封じる。

 

「烈海王、良く魔人であるこの宝蔵院胤舜をここ迄追い詰めた。その礼に俺が地獄への案内人を務めてやろう。」

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