宝蔵院胤舜の肋骨による罠に縫い付けられた烈は致命傷こそ受けなかったが完全に動きを封じられてしまい為す術がなかった。
(しくじったか、まさか自らの骨を武器に操るとは。…しかも人の骨が持つ硬度ではない!)
烈がどれだけ力を込めても彼の身体を突き捕らえた肋骨は食い込むばかりで抜け出す事が出来ない。そして胤舜には更に変化が出て来ていた。目玉が黒ずみ、黒い涙が流れ、血管も黒く浮き出て来ていた。
「身体に瘴気が満たされ、暴れているのか?」
「ほう、瘴気が分かるか。その通り、これが俺の最後の役目であり、最期の望みよ。敵の手練れを一人でも仕留める。それがあの武蔵をして“関ヶ原”と言わしめた男ならば正しく我が本懐!」
嬉しげに嗤う胤舜、瘴気を体内で暴走させ、自爆する気だ。烈は焦り顔を歪める。…そこで胤舜の表情が百八十度変わった。黒ずんだ目を見開き、苦しみの表情な変わって行く。
「何…者だ、小娘!?」
(小娘…?)
烈の背後から目を離さず、胤舜の漏らした言葉に彼は後ろを見た。背後にはレオンハルト、ゴブリン。…そしていつの間にか甲賀弦之介と…あのおっとりとした少女、伊賀の朧が凛とした佇まいでいつにない覚悟を滲ませた表情で此方を見つめその場にいた。そしてまた胤舜が弱々しく言葉が漏れる。
「見るな…、俺、を…見るな。」
胤舜は右手に握る十字槍逆手に掲げ、投げ槍の構えを取り、「みいるなああああっ!!」と叫び声を上げて朧に向けて投擲。十字槍は朧目掛けて飛んで行き、弦之介が彼女の盾となる為前に出るが、重ねて黒いフードコートの銀髪ショートの少女…ミアが立ちはだかり飛んできた槍を一睨みした。
十字槍はその勢いを急に止めて空中で停止、床に落下。間髪入れずにまた黒い影が飛び出して胤舜に向けて駆け走る。黒のジャージに黒い怒りの狐面、忍者刀を構え俊足で一気に捕らわれた烈の背後、胤舜の前に接近した。瞬間に烈にも折れずに捕らえていた肋骨を忍者刀で切断、忍者刀は砕けてしまった。
「逃げるよ!」
「承知!」
烈は謎の狐面に従い後方へと緊急回避する。その間も朧は胤舜を睨み続け、胤舜は再び血反吐を吐いて撒き散らした。その異変に烈は宝蔵院胤舜が再生していない事に気付く。
(何が起きている?弾け飛ぼうとしている瘴気も小さくなっている!?)
レオ、ゴブリン達の元まで戻り皆が警戒して構えを取るが、宝蔵院胤舜は虚ろに天を仰ぎ、血反吐を吐き続け、胸を突き破った肋骨も傷も再生しなかった。
「ああ…うぁ…。」
その呻きが最期となり、胤舜の身体が黒墨となり崩れて逝った。烈はふと、朧に目を向けると彼女の瞳は虹色に輝いていた。
「魔眼か…?」
それを聞いた弦之介が否定し答える。
「“破幻の瞳”、忍術や異能を無効にしてしまう朧殿が生まれ持った力でござる。彼女の視界に入れば敵味方関係なく全ての術が消え去る。」
それを聞いたミアが少し顔を青くして尋ねる。
「…わたし、朧さんの前で
ミアは念動力を操る超能力者である。その力で胤舜の投擲した十字槍を止めたのだ。
「さいこきねしす?…槍を止めた異能は
「視界…ですか?」
「それに朧殿は胤舜に集中していた、それだけの事だ。」
ミアは下手をすれば皆が十字槍の串刺しとなった光景を想像してしまい、膝から力が抜けてしまうが、それに気付いた弦之介が抱き止める。…と、同じく抱き止めようとして手を伸ばそうとしていた狐面が何故かサッと手を隠す。気付いた弦之介は自分の顔を指差して呟いた。
「もう面は取れ。」
狐面は慌てて面を取ると頭から浴びた胤舜の血反吐を拭いていた烈は少し驚いた。
「まだ年端もいかぬ娘とはな。…名は?」
「あっ、石動律花です。リリィでお願いします初めまして、烈海王…さん。」
「
お礼を言われ、律花は年相応の笑顔を烈に見せて笑った。その後は地獄絵図と化していた城内の隅でブラックアウトして機能停止していた齧歯類の様な姿のマダラを回収。合流したコリンナと生き残った傭兵達と共に負傷者の救出を手伝うが、そこで弦之介達はとんでもない話を聞いてしまう。
「まだ敵がこの城にいるだと!?コリンナ殿、それは
「あぁ、生き残った兵士達の話をまとめるとあと一人は確実にいるね。しかし城内からは出て行ったらしいよ。」
その話に朧は弦之介の袖を掴み、ガクガクと震え出した。
「もしそうなら、
弦之介も朧に同意して頷くと律花とミアを見た。
「リリィ、ミア、烈殿は見た目以上に傷は深くて動けず。儂と朧殿は城内の生存者を救わねばならん。…頼めるか」
「「ハイッ!」」
律花とミアは強く頷き、町へと急ぎ戻る。城を出ると一羽の白頭鷲が律花へと飛んで来て律花は鷲の足を掴んで空を行く。ミアも念動力を使い律花に次いで空を飛んだ。
「リリィ、町にいるオボロとメリッサに連絡しなきゃ!」
「分かってる。」
焦って強めに返事を返す律花はメリッサとオボロに連絡を入れた。
「メリッサ、オボロ、胤舜は倒したけど敵はもう一人いて町に向かっているかも知れない。気を付け…」
返事を返したのはメリッサの護衛に付いているオボロからだった。
《リリィ、その敵は既に来ている。…不味い状況だ!》
その返答に二人は焦り、町へと急ぐのであった。