異世界転々忍法戦記   作:濁酒三十六

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惨劇終哀…

 剣を天草四郎に向けて身構えるベリル。四郎の瘴気が一層濃く広がり、灰色の長髪もまるで獲物を捕らえるが如く広がり、ベリルへと伸び迫った。…しかし髪の毛はベリルへは届かず悉く斬り払われ、ベリルの前には最高位冒険者(ブラックランク)スレナ・リサンデラが双剣を構え四郎を睨む。

 

「スレナ。」

「すみません先生、あまりの惨状に出遅れました。しかし此処からは共に戦います!」

「分かった。しかし死合に身を投げ出た以上は絶対に動揺はするな。」

 

 スレナの方が修羅場の経験は豊富であろうが恩師からの激励にスレナは気持ちを引き締め、「ハイッ!」と強く返事を返し、襲い来る触手の様に伸びてくる灰髪を無造作にベリルとスレナは断ち切る。断ち切られた髪の毛はひらひらと宙を舞い二人の疾走がそれを吹き飛ばした。

 二人の剣撃が息を吐かせぬ速さで四郎を斬りつけるが、四郎はまるで当たらずスレナには焦りが見えてしまう。ベリルは四郎の動きを見切ろうとし、連撃を続ける。

 

(地面のスリから見て僅かな動きで避けているな、縮地か。)

 

 縮地。必要最低限の動作で最大の効果を見せる歩法、この異世界でも達人技として伝わる技法である。しかし攻撃のない四郎の表情からあまり余裕ではない事が読み取れ、ベリルは勝機(チャンス)と取った。ベリルは一瞬スレナに任せてゼノ・グレイブルの剣を逆手にし、四郎の足の甲に剣を突き貫いて地面と縫いつけた。

 スレナはその隙を逃さずに双剣を交差(クロス)、十字斬りを天草四郎にぶつけた。胴体がバツの字に断ち斬られ、止めとばかりにスレナは四郎の首を天高く斬り飛ばした。勝利を確信したスレナに笑みが零れた時。

 

「スレナ、回避だ!!」

 

 ベリルの掛け声でスレナは“ハッ!”とし後方へ飛び退く。ベリルも同じタイミングで回避、舞い飛ぶ天草四郎の首はカッと目を見開き口を大きく開いた。

 

灼熱魔砲(ヒートブラスト)!!”

 

 火炎魔力が収束された魔法砲撃が炸裂して地面を大きく貫いた。爆風で騎士達の肉片鮮血が飛び散り、地面にはまるで井戸でも掘ったかの様な深い大穴が空いた。回避したベリルとスレナは斬殺した筈の四郎の身体を探すが見当たらず、彼の声が辺りに響いた。

 

“これは油断した、胤舜の事は嗤えんな。此処は大人しく退くとしよう。また次の機会には聖女を戴くとするよ。”

 

 声は直ぐに聴こえなくなり、暫く皆が周囲を警戒するが…何も起きずに時が過ぎ、静寂が天草四郎が去った事を告げた。

 

 数刻過ぎて聖は町の高級宿で目を覚ました。どうやらベッドで寝かされている様であった。

 

「ここ…どこ?」

 

 天井を見つめ、起き上がろうとすると傍らで声が聞こえた。

 

「起きたのかい、もう少し寝ていてもいいんだよ。」

 

 優しく響く男性の声、聖が横を向くとそこにはアルベルト・ホークが椅子に座り、彼女の手を握り締めていた。

 

「アルベルト様…、あの…天草…。」

「その事はいい、ゆっくり体を休めなさい。」

 

 いつもなら握られた手に恥ずかしくなり、振り払ってしまうかも知れなかったが…今は握り締められた手の温もりがとても心地良く安心させてくれた。

 

「はい。」

 

 聖はまた頭を枕に預け、目を瞑るとそのまま意識を失う様に眠ってしまった。アルベルトは彼女の寝顔を暫く見て顔を近付けて唇にそっと口吻をする。…其処で“きぃ…”とドアの開く音がした。

 アルベルトは慌てずにドアの方に目を向けるとそこには伊賀のくノ一、蛍火が水桶と手拭いを用意して立ち尽くしていた。少しだけバツを悪くした顔を赤らめている。

 

「…申し訳ありません。宿の食堂で会議をされるとの事でホーク様を呼ぶ様、カイル王子殿下から仰せつかりました。」

「分かった、ホタルビだったな。私がいない間、セイの事を頼めるか?」

「はい、聖様の事は朧様からも承っております。」

「そうか、ありがとう。」

 

 そう彼女と会話してアルベルトは部屋を離れた。蛍火はドアを閉め、テーブルに水桶を置いて手拭いを絞る。そして聖が起きない様に静かに顔と首元を拭いてあげる。そしてふと、アルベルトが寝ていた彼女に口吻をする姿を思い出し、前世で自分が愛しい男と逢瀬を交わす光景を重ねた。

 

(妬ましい…。でも…あの様な想い(・・・・・・)をこの女がする事には…。それに自分の為に多くの者が死んだのだから、精神的に追い詰められているだろう。)

 

 蛍火は伊賀甲賀の江戸幕府の思惑による忍法合戦で恋人である夜叉丸を死に、自身もまた殺されていた。

 今の聖の思いを計り知ろうとは蛍火は思わない。だが彼女と先程までいたアルベルトとの関係は理解し、妬みは感じても壊してしまおうとまでは考えなかった。

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