牙神獣兵衛、クッキー頬張る。
聖達がクラウスナーを発ってから数日程、スランタニア王都…国王ジークフリートにカイルからの伝書が届いた。ジークフリートはそれを読んで表情を曇らせる。
そこには予測通り、鬼門衆の襲撃に加え、新たな敵…魔界転生衆の出現にクラウスナー城、騎士団に甚大な被害死傷者が出た事。予定通りの三国冒険書サミットが行えなかった事等が書かれていた。
「カイル殿下の伝書には何と…?」
傍らの宰相から尋ねられて国王は答える。
「予測通りに鬼門衆からの襲撃が起きた事、襲撃からは聖女を死守出来た様だ。…だが、被害は甚大。
しかし味方も新たに増え、パレッティア女王、王姉殿下が同盟交渉の為にこの王都に来られるそうだ。」
「パレッティア女王!?
ぼ、冒険者ギルドの名簿には…ありませんでしたが…!?」
「そこらの事情はカイルが戻った時に分かるだろう。
時にカタリナ嬢やキバガミ殿はどうしている?」
「カタリナ・クラエス様はアシュレイ侯爵令嬢の庇護下ではありますが、王宮での生活に窮屈を感じている様です。
ジュウベエ・キバガミ様も王宮にはあまり居らず、騎士達の訓練場か、城下…しかも貧民街に足を伸ばしている模様です。」
「そうか。キバガミ殿には王宮暮らしは合わぬ様だが…、カタリナ嬢には申し訳ないが今は王宮からは出て欲しくない。せめてソルシエ王国の使者が来るまで我慢して貰おう。キバガミ殿への監視も怠るな。」
宰相は国王の言いつけに「はいっ。」…と、返事を返した。その頃、カタリナ・クラエスは王宮の暮らしに…意外と楽しみを見出し始めていた。本日は訓練所で訓練着に着替え、そして白手袋をはめて…素振りをしていた。何処ぞの王姉殿下と違いスカートではなくちゃんとタイツズボンを履いている。
「15…16…17…。」
壁越しではマリアとソラにアンがカタリナを見守り、牙神獣兵衛がクッキーを山にしたお皿の前に横に寝て三枚程口に放り込んでボリボリ食べていた。周りで訓練している騎士達はあまり良い気分ではないのか、寝転がりながらクッキーを頬張る獣兵衛に痛い視線が幾つも突き刺していた。
カタリナも“ぷ〜っ”、と頬を膨らませて素振りを止めて獣兵衛を眼下に置いて仁王立ちになった。
「ちょっと獣兵衛さん、いつまで素振りすればいいんですか!?試合とかそーゆーのしたいです!」
文句を言うカタリナを見上げながら獣兵衛はクッキーを数枚頬張るとまだ半分程残っているクッキーの皿をカタリナの前に置いた。
「何カリカリしてんだ。ほら、甘いもんでも食え。」
「…いただきます。」
そう応えて眉をつり上げながら地べたにペタンと座ってクッキーをカリカリと食べ出し、「美味しい♪」…と一言洩らして笑顔になった。
「…っ!、じゃっなくて、私に稽古つけてくれる約束だったじゃないですか!」
「してねえよ、素振りは見てやるっつったんだ。大体素振りだって百回も出来てねぇだろ。」
「百回なんて出来ないわ!」
「お前な…、素振りは剣の基本だ。それは日本だろうが
ブウッと膨れるカタリナは口いっぱいにクッキーを詰め込み、バリボリと音を立てて食べ、素振りを再開した。獣兵衛が改めてクッキーの皿に手を伸ばすが…其処に皿はなく、頭の傍らにはアンがクッキーの皿を持って怖い顔して獣兵衛を見下ろしていた。
「おい、返せよ。」
「キバガミ様、カタリナ様は仮にもソルシエ王国公爵令嬢。そして王国第三王子ジオルド様の御婚約者で御座います。不敬な態度は慎み願います!」
獣兵衛は面倒臭いとばかりにボリボリと頭を掻く。ボサボサの天然パーマでちゃんと洗ってはいた…というか洗わされている。しかしアンはその頭を掻き毟る行為に不快感を露わにして眉間をいつも以上に寄せた。
「俺の態度は
そう言って一枚の用紙をアンに見せた。確かに国王ジークフリートの直筆に国王印まで押された本物である。アンは忌々しいと口に出そうな顔で獣兵衛を睨む。すると見てられなくなったソラがアンを窘めた。
「アンさん、それ以上は無理。君とは完全に水と油だよ、この御人。ジュウベエ殿も、あまりこの人をイジメないでくれます?」
ソラが間に入って、アンは獣兵衛にクッキーの皿を返し、珍しく膨れっ面のまま引いて獣兵衛は返してもらったクッキーを一枚摘んで口の中に
「ジュウベエ殿、少し宜しいか?」
するとまた彼に声を掛ける者がいた。