異世界転々忍法戦記   作:濁酒三十六

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メイドのアンは忌み嫌う?

「タアアアアアッ!!」

 

 屈強な身体の騎士が木剣を左腰に居合い抜きの構えをした牙神獣兵衛に木剣を振り上げて突進。獣兵衛は騎士をギリギリまで引きつけて振り下ろされた木剣を回避。その瞬間、騎士の腹部を木剣の柄で打突、騎士は海老反りになり、獣兵衛にもたれ込み地面に倒れ込んだ。

 それを見ていたカタリナとアンは声も出ず、ソラは他の騎士達と一緒になって“オオッ!!”と歓声を上げていた。騎士と獣兵衛の小競り合いは何故か一人ずつ対戦する形で行われていた。そんな中で獣兵衛は既に八人抜きを決めており、残りは後二十人近くいた。

 

「流石ジュウベエさんだ、八人全員一撃だぜ!」

 

 こんなに素を出してはしゃぐソラをカタリナは見た事なく、そんな姿を見て思わず笑顔になり一緒になって声を上げた。

 

「獣兵衛さん頑張れえっ!」

 

 しかし横にいたアンが普段見せない険しい顔で主人であるカタリナを窘める。

 

「おやめ下さいカタリナ様、あれは…ジュウベエ・キバガミは、人殺し(・・・)です。

本来なら貴女様の様な高貴な御方が関わるべき男ではありません。」

「アン…?」

 

 アンが獣兵衛を見る目もまた初めて見る軽蔑の眼差しであり、単純に殺人への嫌悪で彼の人間性を軽んじていた。すると後ろから彼女を諌める言葉が投げかけられた。

 

「その様な事は言わないで下さい、アンさん。」

 

 声は美園愛良であった。共にいたのはマリアとエリザベス、初めて会うユーリ・ドレヴェスであった。

 

「あの時、獣兵衛さんがいなければ私達はどうなっていたのか分かりません。」

「事は既にカタリナ様が納めていました。そんな中であの男は要らぬ殺生をされたと聞いています。その様な者と…」

「私も、三人殺めました(・・・・・・・)。」

 

 アンはハッとして口に手をあてた。愛良はアシュレイ邸襲撃時、聖を守る為に咄嗟に魔法を使い、敵を殺してしまっていた。

 獣兵衛も結果、敵を殺めた事で一緒にいたアルベルトを守った。

 

「人を殺す事は嫌悪するべき所業です。仕方なかったとも言いません。ですが、助ける為に手を汚した方を貶める様な言動は言って欲しくありません!」

 

 愛良の言葉はアンへの強い怒りが込められ、アンも下を向いてしまい…落ち込む。確かに襲撃への一番の功労者はカタリナかも知れない。しかし獣兵衛がいなければ、彼なしで駆けつけたアルベルトはどうなっていたか…。聖もまた攫われていた可能性もあっただろう。

 それを聞いていたエリザベスは愛良を心配して彼女に寄り添い、しかしアンに険しい憤りを露わにして睨む。アンもそれに気付いて青褪めてしまう。

 

「申し訳ありません、私の浅はかな言動でした。どうか、お許し下さい…。」

 

 アンはそう言って愛良達に深く頭を下げ、カタリナもまた深く頭を下げた。ソラも急に始まった諍いにビックリしてやはり頭を下げる。その状況を離れた場所で見ていた獣兵衛は何故か呆れた顔で見ており、木剣でトントン…と肩を叩きなが声で呟いた。

 

「勝手に人の事で騒いでんじゃねえっつうの。…おらっ、次はどいつだ!」

「お願い致します!」

 

 獣兵衛と騎士達の諍いはまるで稽古でもつけるかの様に一人ずつ、次々と騎士達は挑んで獣兵衛に負かされ…終わった時には第二騎士団の方から全員が謝罪し、握手まで求められてしまっていた。

 

「強過ぎだ、正しく剣聖と言いたい。

…どうだろう、スランタニア騎士団専属の剣術指南役を…」

「やめてくれ、俺の剣技はお前達と違って確実に邪剣だ。卑怯な手は進んで使うし、後ろから斬る騙して殺すなんぞ当たり前にする外道さ。

そんな奴に頼るなんざ、お前等終わってるぜ?」

「…そうか、残念だよ。」

 

 そこで会話は終わり、此方に獣兵衛が歩いて来る。カタリナは暗い表情のアンを優しく促し、彼女は戸惑いながら獣兵衛に歩み寄る。獣兵衛は怪訝そうな顔をして袂に手を突っ込みカリカリ胸元を搔き、アンは上目遣いで彼を見上げた。

 

「ジュウベエ様…。先程からの不敬な態度と言動…真に申し訳ありませんでした。

貴方の事を理解しようとせずにあの様な…」

「謝る事じゃねぇし、全部あんたの言う通りだ。言い訳すんなら、忍者は敵同士出会えば殺す殺されるしかねぇんだよ。

…まぁ、そんな落ち込むな。」

 

 そう言うと、アンの頭をクシャクシャと撫で回し、頭のヘッドドレスが落ちてしまう。「おっ、おやめください。あっ!?」とアンから声が出ると、獣兵衛が即座に受け止めて付け直してあげる。

 

(わり)い悪い、ほらよ。」

 

 ガサツな直し方でヘッドドレスはズレており、アンは固まって下を向く。獣兵衛はそのまま何処かへ行ってしまうが、下を向いたままのアンの頬が少し赤く染めており、カタリナとマリアは何故か“きゃあああ…。”…と、小さな悲鳴を笑顔で洩らしていた。

 

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