スランタニア王国城下町…この国にも貧しい民はいる。そしてその街にある酒場にはガラの悪い輩が集まる。酒場で働く娘に絡み、身体を撫で回す酔っ払いの行為がが行き過ぎて冗談が本気になる。
「いや、やめて!!」
胸を鷲掴みにしてスカートを
「うるせえ、女なんか何年も抱いてねえ。ムラムラすっから久々にやりてえんだよ!!」
娘の頬を舐めようとした男だが、突然木製のフォークが飛んで来て舌先にぶっ刺さった。
「ぷぎゃああっ!?」
フォークが飛ばされた先に皆の視線が一斉に向く。
「おい、うるせぇよ。俺は静かに飯が食いたい。」
少しのハムが入った素のパスタが置かれたテーブルの席にざんばら黒髪に見窄らしい異国の服を着た男が酔っ払いを睨んでいた。
「おい給仕、新しい突き匙。」
イタズラされていた給仕にざんばら髪の男がフォークを要求し、娘は酔っ払いから逃げて衣服を直して「はっ、はい!」と新しいフォークを用意した。
「ありがとうございます。」
フォークを渡す時に少し頬を染める給仕の娘。すると先程の酔っ払いが舌に刺さったフォークを抜いて大きく振り上げて襲い掛かって来た。
「
異国服の男は座ったまま右腕で娘を強引に抱き寄せて庇い、左手で酔っ払いの右逆手で振り下ろしたフォークを受け止めた。
酔っ払いは掴まれたフォークを握る右腕をそのまま握り絞められフォークを落とす。
「
男は酔っ払いの腕は放さずに抱き寄せた娘を放すと酔っ払いを店の外へと蹴り捨ててパスタをズルズル食べて店を後にした。
数日後、貧民街の路地裏で乱暴された給仕の娘の死体が見つかった。この案件解決は王国第三騎士団が名乗りを上げた。
本来であるなら騎士団が貧民街で起きた事件を請け負うなどあり得ないのだが、若い娘が乱暴された末に殺されてしまった事実が最近婚約した第三騎士団団長の怒りに大きく触れた結果であった。
「数日前に娘は仕事中に酔っ払いに絡まれ、異国の服を纏う男に助けられたそうです。」
部下の報告にアルベルトは尋ねる。
「二人の特徴は分かるか?」
酔っ払いはよく酒場の迷惑客で直ぐに身元が割れたが異国の服の男は服は薄汚れ黒いざんばら髪以外は分からなかった。
「ざんばら…
事件とは関係ないであろう事柄だが妙に黒髪が心に引っ掛かった。何故ならこの国で黒髪の人物は二人しかいない筈なのである。
(アイラ嬢とセイと…関係ある人物なのか?)
数日の聞き込みで酒場の酔っ払いの居場所は割れたが、そこで事件が大きく動いた。何と貧民街の第三騎士仮詰所の扉前に暴行を受けた容疑者の身が棄てられていたのだ。容疑者の酔っ払いは未だ酒臭く無惨な姿にされる前まで飲んでいた様である。
それこそ虫の息で放っておけば死んでしまうレベルであった。
「治癒魔導師を呼べ、この男は法で裁く!!」
ボロボロの容疑者を詰所へ引き込み、扉を閉めようとした時、アルベルトの視界に遠くから此方を見ていた男が入った。
赤い鞘に入れた少し反った剣を左肩に背負った薄汚い異国服、頭には編笠を乗せ、その下から覗く前髪は知っている女性と同じく黒髪だった。
編笠を被った男はアルベルトと目が合うと目を逸らしてその場から離れた。
「待ってくれ、貴方は…“ニホンジン”なのか!?」
確証はない、感だけである。しかし気付けば口走っていたその単語は男の足を止めるには充分であった。
「テメエ、何で日本人を知ってやがる?」
彼の名は牙神獣兵衛、その男の声には怒気…殺意すら見え隠れしていた。