「…本気で言っているのか、ラーナ。」
ジェフリーは頭を抱え、隣に座るラーナ・スミスを非難した。今、ジェフリーとラーナはソラを護衛につけて国王の書斎でジークフリード国王、レイン王子と宰相で今後と聖女達一行が帰還した際の話し合いをしていたのだが、ラーナがカタリナの外出許可を提案したのである。
「表向きは彼女のストレス発散、友との久し振りの交流だ。」
「裏は…?」
「カタリナ嬢がどれだけ敵に
これに今回も警護の為に壁際に座っていた獣兵衛が口を挟む。
「…“餌”か。」
その言葉にジークフリード、レインは険しい顔となり、ジェフリーはラーナを睨んだ。
「ラーナ。」
「お前が怒るのは分かってたよ。だがカタリナ嬢をソルシエにこのまま連れ帰るのはあまりにも危険、ハッキリさせねばならない問題だ。」
「だが…、外出を許せばジオルド達もついて行く。」
「仕方ない。ソルシエで襲われるよりは対処が早い筈だ。」
今、ラーナはカタリナ達への情を切り離し、ソルシエ王国魔法省部署長として話していた。
「スミス女史の言わんとするのは解る。しかし外…つまりは城下までしか外出は認められない。襲われた時の戦場は町の中だ。町民へ被害が出るかも知れない。」
「なら王城内で敵を待ちますか?
我々がスランタニアに到着するまで何もなかった様に、我々がソルシエに帰るまで何もなければ良いですがもし、その前にまた…或いは我々が帰省中に襲撃されればアシュレイ邸での話を聞く分には誰一人死者を出さないのは難しいのでは?
そして我々が襲われ王家の者の誰かが死ねばソルシエとの関係も悪くなりますよ?」
「…なら、森の散策はどうでしょう父上?」
国王の座る席の傍らに立っていたレインが提案した。
「王都近くの森なら危険はあまりないですし、魔物はもういません。護衛には騎士団とキバガミ殿に着いてもらう。…なら王城城下にも被害は出ません。」
「森…か…。成る程、しかしカタリナ嬢はそれで…」
「あの娘は木登りが大得意だとアランに聞いた事があるな」
…と、ジェフリーがボソリと呟き、ラーナが「そうなのか。」と聞き返す。ジークフリードはアシュレイ嬢が話してくれたお茶会でカタリナが木を登ろうとして叱りつけた話を思い出してクスリと笑う。
「あの娘は貴族としては奔放過ぎるな。」
…しかしその笑顔も直ぐに消えてジークフリードは決断した。敵のカタリナ・クラエスへの認識が何れ程のものなのかを彼女自身を囮にして探る。
もし聖女一行の帰還してからパレッティアとの会談が終わるまで何事もなければ彼女は皆と共にソルシエ王国へ帰れる。しかし敵…鬼門衆がカタリナを狙っているなら、ソルシエ王家は…。
ジェフリーの心はジオルド、アラン弟達への申し訳なさで一杯となる。そしてラーナはある危険な人物がカタリナに強く関わって来る可能性を感じていた。
スランタニア王国王都城下町、賑わう通りを長い黒髪の少女とフードと兜面で顔を隠した傭兵の様な男が並び歩いていた。少女は道の両端に並ぶ露店を笑顔で眺め、牛の串焼きを兜面の男にねだって買ってもらう。露店の主は串焼きを渡す。微笑ましく少女の顔を見ていたが…パッチリと見開いた大きな目は一度も瞬きをする事がなく、ふと目が合うと瞬きしない少女は不気味にニタリと嘲笑を浮かべた。
「ぁ…え、あぁ…」
露天の主は小さく呻いてその場で卒倒。辺りは騒然となるが少女と男は何事もなかった様に歩き去る。
「何をした?」
「フフ…、何もしてないわ。牛のお肉が美味しかったからその喜びを分けてあげただけよ。」
それ以上、兜面の男は何も聞かなかった。少女はやはり瞬きをせず主が倒れた露店を振り返る。それは彼女にとっては意図したものではなく、彼女から漏れ出た