シュプール・アイレンテールと名乗った男は第二騎士団の一人を殺害し、牙神獣兵衛だけをジッと睨んでいた。獣兵衛は確信した様に顎をクイッと動かすと、何とシュプールに背を見せ踵を返して森の奥へと駆け出してしまった。
「「逃げた!?」」
アランとメアリの非難の叫びを重ねるが、それと同じにシュプリームがタッと獣兵衛を追い掛けて走り去る。
そこでニコルとジオルドは獣兵衛の意図を理解し、キースがアラン、メアリに伝えた。
「二人とも、あの人は逃げたんじゃない。あの襲撃者を引き受けてくれたんだ。
キースはそう言っていつでも魔法行使出来る様に警戒。ジオルドとニコルも同じく神経を集中して腰の剣を抜く。護衛の第二騎士団は既に抜剣し、隊長の号令でカタリナ達を囲んで円陣を組み、隊長はユーリ・ドレヴェスに指示を。仰ぐ。
「ドレヴェス師団長。」
「私は戦闘が始まったら遊撃に入ります。貴方が第二騎士団の指揮をして下さい。」
隊長はユーリに頭を下げ、部下達カタリナ達を中心とした密集陣形を指示。そしてカタリナ達も周囲を警戒し、マリアは更に闇の魔力が強まるのを感じた。
「カタリナ様、直ぐ近くにいます。」
ジオルドは納得が出来ない気持ちを素直に吐露。彼女は表情を曇らせた。
「カタリナ、私には教えてもらいたかった。」
「ごめんなさい、ジオルド様。」
「皆さん、
険しい面立ちのユーリが皆に促す。すると前方…木々の奥から人影が近付いてきた。長くストレートの黒髪、瞬きをしない気味の悪い少女であった。
「お久し振りね、カタリナ・クラエス。」
「サラ、何しに来たの?」
「貴女にも歓迎されてないのね。そうね、敢えて言うなら…貴女を殺しに来たわ。」
二人は互いに見つめ合うが、カタリナの影からポチが彼女の前に飛び出してサラと呼ばれた少女に唸る。メアリとソフィアもポチに並び立ち構える。
「カタリナ様には指一本触れさせませんわ!」
「私達だって戦えます、貴女の好きにはさせません!」
二人の前口上にサラは目を見開いたままニタリと嗤い、その笑みにメアリとソフィアは背筋に冷たいものを感じた。
「勇ましいわ。…でも、貴女達が
サラはそう言ってシュプールの殺した騎士の死体を指差した。メアリは「ひっ!?」と小さな悲鳴を洩らし戦意が揺れ、ソフィアも思わずカタリナにしがみついて死体が見えぬ様に彼女に顔を埋めてしまう。そんな二人をカタリナは肩に手を回し抱き寄せた。
「「カタリナ様!?」」
「二人共、私から離れないで。」
二人は「「はい!!」」と返事をしてカタリナにしがみつき、その様を見てサラはケラケラと笑い出す。
「何そのあからさまな足手まとい、足枷そのまんまよ!」
「違うわ!メアリもソフィアも、ニコル様もアラン様もキースもジオルド様も、いつも私に力を与えてくれるわっ!!」
普段では見せないカタリナのサラに向ける敵意に呼応したかの様にポチの小さな体が巨大な…カタリナを軽く跨いでしまう程の黒い狼の姿へと膨れ上がり凄まじい闇の魔力を噴き上がらせた。
その威嚇は咆哮となり、サラに激しくぶつけ、その威圧に彼女は怯み、後ろにいたマリアも恐怖してしまう。
(あんな大きい闇の魔力は初めて、カタリナ様はあまり魔力は強くないのに…!?)
ポチはカタリナを傷つけたりはしないのは理解してはいるが、本当に彼女に負担はないのであろうかとマリアは心配してしまう。其れ程に今のポチは恐ろしい魔獣と化していた。
「本当にもったいなかったわ、こんなにも素晴らしい使い魔に成長するなんて!」
「サラ、二度は言わない。退いてちょうだい。」
「随分好戦的ね、ポチの力に引き摺られているのかしら?」
「分からないわ。でもこれだけは理解出来る、私がみんなを守る!!」
カタリナの叫びに応え、ポチがサラに大きな顎で襲い掛かった。サラはポチの牙を苦もなく回避すると、何と宙を浮いて高い木の枝に着地した。
「殺気がないわ、強がってもまだ手を汚すのを嫌がっているのね。…なら、貴女の大切な人達を全員殺しましょう!」
サラの瞳に紅い灯火が灯ると、周囲全体から瘴気が噴き上がり、無数の紅い光がカタリナ達を取り囲んだ。
「さぁ、この人間達を全て食い殺しなさい。」