森の中は一気に暗くなり、幾つも光る赤い灯火とそして幾つも聴こえる獣の息遣いに第二騎士団の騎士達はかつて同じ状況を経験して来た事を思い出した。各領地への魔物討伐、その時に確実に感じた死の予感。騎士団隊長は号令する。
「第二騎士団の騎士達よ、敵は魔物の群れだ!ソルシエ王国王族貴族の方々を命を賭して守り抜けえ!!」
隊長の号令に騎士達は雄々しく猛り、戦闘態勢をなると紅い灯火は魔物の姿となって一気に騎士団へ襲い掛かった。
いや、それだけではない。スランタニアホーク領に現れたアンデッドモンスターまで群れに混ざっていた。
「アイスブリット!!」
御園愛良が両掌を突き出して
そして巨大なヘラジカの突進をキースの土塊で錬成したゴーレムが防ぎ叩き潰す。
「姉さん!」
キースは姉であるカタリナに加勢しようと彼女の元へ行こうとするが魔物達がそれを阻む。しかしキースに襲い掛かった魔物はアランによって斬り捨てられた。
「大丈夫かキース!」
「ありがとう、アラン。」
二人は互いに背を預け、応戦を続ける。ニコルの風が暴風となり黒狼を吹き飛ばし、メアリは宙に水を創り出し水の矢として飛ばし新たに現れたスライムを射抜いた。
火蜥蜴の炎はソフィアの風の盾で防がれてその隙にジオルドの剣が火蜥蜴を真っ二つにした。
その戦いぶりを見てユーリは感嘆する。
(無詠唱であれだけの魔法効果を出せるとは、ソルシエ王国…侮れないな。)
そんな中、フワフワと…しかし素早く木々を抜いポチの攻撃を避けるサラ。ポチはまるで狂獣の如く暴れ回り、逃げるサラを追った。
「ポチ、無理しないで!」
次の瞬間、ポチの巨体が吹き飛ぶ。“ぎゃうんっ!”と悲鳴を上げるポチ。カタリナはポチの元へと駆けつけてポチを吹き飛ばした怪物がいるであろう森の奥を睨んだ。
漂い始めた死臭が鼻につき、重い足音が近づいて来た。漂う腐臭を身に纏い、破れた羽根…、剥き出しの肋骨、大きくも腐れた身体。かつてスランタニア王国ホーク領の洞窟で第三騎士団、アルベルト、聖が遭遇した巨大な魔物…
カタリナはその醜悪な姿を見上げて脂汗が滲み出、鼻を摘んで叫んだ。
「臭い!!臭いわサラ、何てモノを連れて来たのよ!!」
気付けばサラの姿は巨大な腐死竜の角先より高い空の上にあった。恐らくはあれが死竜の臭いの届かない高さなのだろう。戦っている皆が顔をしかめている。
「フフフ、喜んでくれて嬉しいわカタリナ。でもその臭いに惑わされて直ぐ死んだりしないでね、拍子抜けするから。」
腐死竜は腐臭と溶ろけた腐肉を撒き散らしてポチに向けて吼える。ポチも立ち上がり、腐死竜に向けて飛び掛かった。二対の巨獣が森で大暴れをして木々を薙ぎ倒して他の魔物が下敷きとなり周りは大混乱をしていた。ジオルド達と騎士達は倒れる木を避けながら魔物と戦い、愛良は戦いながらも魔物達や腐死竜の出現で浮かんだ疑問をユーリに尋ねようとした。
「ドレウェス様。」
「分かっています。あの死竜の臭いですね、あれにはセイ様も悲鳴を上げて私も鼻が曲がりました。」
「臭いは取り敢えずどうでもいいです。問題はあの少女がスランタニアで猛威を振るっていた魔物達を何故喚び出せたのかです。」
「スランタニアの魔物達はかつてこの地に住んでいた魔物達です。伝承では其れ等は瘴気に呑まれた残滓と伝わっています。
憶測ではありますがセイ様が浄化する以前に何者かがこの国に潜入して瘴気の中にある記憶の様なものを回収していたのかも知れません。」
「瘴気の記憶を回収なんて…出来るのですか?」
「現にあの少女は強い瘴気を纏うだけでなくこの国で出現浄化された筈の魔物を喚び出した。…それが事実ですよ、愛良様。」
そう言ってユーリはグランドスピアを唱えて魔物達を屠り続けた。