異世界転々忍法戦記   作:濁酒三十六

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魔界の闇が口を開けた。

 森の奥へとシュプールは獣兵衛を追う。遠くだが獣兵衛の背を肉眼で捕らえていたが、獣兵衛の背が視界より消え、シュプールは咄嗟に足を止め身構える。辺りは薄暗い木々に囲まれた場所、既に剣は抜いており神経を研ぎ澄まし気配を探る。

 

(気配はあるが場所までは分からないか。)

 

 シュプールはピクリとも動かず、獣兵衛の出方を待つ。…と、背後より殺気、シュプールは右へと体を避けると何と躱し損ねた左腕が肘から切断、地に落ちた。

 十兵衛の居合…見えない斬撃だ。この“技”で鬼門八人衆の一人、蟲蔵の首を中距離の間合いから飛ばしている。見えない斬撃はまたもシュプールを襲う。二撃目、三撃目をシュプールは難なく回避。そして瞬時に反撃に転じ突進。其処にいた獣兵衛に刺突するが彼も難なく身を反らして回避、シュプールに上段斬りを振り下ろす。これをシュプールは躱した。

 

「やるじゃねえか、この異世界(せかい)でなかなかに強い奴に遭うのは初めてだ。」

 

 余裕を見せてほくそ笑む獣兵衛だが、シュプールの斬り落とした筈の左腕を見て笑みが消える。左腕の傷口が盛り上がり出し、指が生えて来ていた。彼の宿敵氷室弦馬ほ斬り落とされた腕をくっつけ再生はしたが傷口から新たに腕を生やす事はしなかった。

 

「何だそりゃ、この世界の秘術か?」

「…お前の異世界(せかい)の秘術だよ。」

「何だと!?」

 

 言うが早き、シュプールは獣兵衛との間合いを一気に詰めて横薙ぎ一閃、これを獣兵衛は紙一重で躱し後方へ飛び退く。

 

「俺の日本(せかい)のだあ?馬鹿言ってんじゃねえよ。」

 

 両雄、剣を構え直し互いを睨むと利き足を擦り、同時に突進した。

 

 ポチと腐死竜(アンデットドラゴン)の攻防は凄まじく周りの被害を顧みず互いに爪で皮膚を切裂き、肉を噛み千切り、尾で叩き付ける。その激しい対決にカタリナは今にも泣き出しそうな顔をして両手を握りながら見続けた。

 

「ポチ、頑張って…。」

 

 巨獣同士のぶつかり合いを空から見降ろすサラは特に何も感じていない様で薄ら笑いが消えていた。

 

(やっぱり残穢程度じゃ、あの使い魔(・・・)には勝てないわね。)

 

 端から見たら力は互角にも見える。そこで腐死竜がポチに向けて炎を吐いた。炎の勢いに押され仰け反るポチ。

 

「ポチイイッ!!」

 

 腐死竜に火を浴びせられるポチに駆け寄ろうとするカタリナをメアリとソフィア二人で押さえつけた。

 

「いけませんカタリナ様!」

「今ポチが私達を竜の炎から守ってくれています、ポチを信じて下さい!」

 

 ソフィアに諌めされるカタリナは自分の無力さに歯を食い縛る。

 

(私がポチをけしかけたのに何も出来ないなんて…!)

 

 そこでカタリナは騎士団に火を吹く火蜥蜴(サラマンダー)を見た。騎士団は火蜥蜴の火を上手く避けて倒す場面に何かを思いついたかの様に唇を引き締めた。

 

「騎士団の皆さん、ポチの所にサラマンダーを追い立てて下さい!」

 

 カタリナの指示に第二騎士団は彼女の言う通りに火蜥蜴をポチの方へと追い立てた。

 

「ポチ、ソイツをパクッと食べちゃいなさい(・・・・・・・・)!」

 

 するとポチはカタリナの言う通りに自分の近くに追い立てられた火蜥蜴をガブリと食い捕まえると一気に呑み込んでしまった。

 ジオルド達は一体どんな策なのか分からないでいたが、愛良は“まさか”とRPG(ゲーム)の能力を思い浮かべた。

 ポチはグッと頭を仰け反らせると噛み合わせた牙の間から火を迸らせ、突然激しい炎を腐死竜に吐き噴いた。

 

「もしかしてラーニング(・・・・・)!?」

 

 習得能力(ラーニング)。RPGではおなじみのキャラ能力(スキル)で敵を倒し、習得する力である。カタリナはポチならと土壇場で思いついたのだ。その能力を目の当たりにしたサラは再びニタリと不気味な笑みを浮かべる。

 

(まさか闇の使い魔にそんな力があるなんて、本当に手に入れられなかった事が惜しいわ。)

 

 サラがそんな事を考えている間も腐死竜(アンデッドドラゴン)はポチの吐く炎に押され続け、腐り乾いた肉に引火。激しく燃え盛り消滅した。それを確認したサラは地上へ降り、二度カタリナと対峙する。

 

「サラ、私を殺したいのはソルシエで会った時からなの?」

「いいえ、さっきは只の出任せ。貴女がどれだけポチを操れるかを見てみたかったの。…そして今は“彼”の妨げになると確信したから…本当に殺すと決めたわ。」

「“彼”…、て、誰?」

 

 カタリナが尋ね、皆は黙って聞き耳を立てた。すると何故かサラの視線が御園愛良に向いて笑う。

 

天草四郎(・・・・)時貞(・・)。」

 

 そう答えたサラの表情は年頃の少女の笑顔に見えた。カタリナは呼び止めようと手を伸ばして前に出るが、彼女の姿は森の暗がりに溶け込んで消えた。

 

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