「では、始めっ!!」
アニスフィア・ウィン・パレッティアの号令で試合は開始、ジオルド、アランが構え、律花が両手に苦無を握り駆け出した。
ソルシエ側の壁際には大きな水瓶が10個並んでおり、その内二つからアランが無詠唱魔法を発動し、律花に向けて高速で伸びて行く。その切っ先が律花に着弾するかと思いきや、此方も高速で…しかも地を滑る様に移動して律花の前に出たミアが左手をかざした水の槍はまるで見えない盾に防がれ、弾けて宙で膜の様に広がり流れる。これに一同、目を見開いて驚愕。
スランタニア第二王子であるレインが兄カイルに尋ねる。
「兄上、今のは何ですか?…魔法を発動した際の魔力を感じませんでしたぞ!」
「う…うむ。セイ、
「多分、超能力…です。私も初めて見ました…。」
「「超能力?」」
超能力は誰もが使えるかも知れないと言われる超常の力。聖達のいた世界で魔法と並ぶ空想の産物の様なもの。しかし今目の前で超能力を目の当たりにした聖やカタリナ、愛良とアニスも自分達の世界なのに理解出来ていなかったのだと改めて感じた。
律花は盾となってくれたミアを高く飛び越えてジオルドを狙う。それこそ超能力のサポートなしに彼女の背の2倍以上をジャンプする。
「来い!」
着地を狙い、剣を前方に構えるジオルドに律花は両手の苦無を投げつける。“キンキンッ!”と大振りの一振りで苦無を簡単に弾くジオルドだが何と律花は既にジオルドに迫り胸元に飛び込み、踏み抜いた。それを見ていたジェフリーは蒼白になり思わず弟の名を叫ぶ。
「ジオルドーッ!!」
ジオルドは“ごふっ!?”とその場で血反吐を吐いて咳込ゆ、律花の容赦のない攻撃に皆が声を失う。
律花の落下の速度と体重を真っ向から受けて潰されたジオルドは肋骨を折られたのを理解する。律花は踏み台にして飛び跳ねて一回転して地に着地、アランがジオルドを心配して駆けつけようとするがその隙に近付いていたミアが彼の手首を掴んだ。
「なっ!?」
「痺れるよ。」
優しげな警告とは真逆の電撃が“バチンッ!”と音を立てアランの体を駆け巡り、彼は失神する。
それを見たジオルドは焦りを見せて立ち上がり炎を纏う。彼の火属性の魔法は瘴気の魔物を焼き尽くす威力を持っている。胸の激痛を我慢して手に握る剣に炎を宿した。…だが律花は黒狐の面の下で溜息を吐いた。
「それ悪手だよ、王子様。」
律花はポイッ…と炎の剣に小さな丸い玉を投げ寄越し、それが炎に触れた瞬間に爆発音が轟いた。剣は砕け、ジオルドは爆風に吹き飛ばされ、昏倒。そこで勝負は着いた。
観ていた者皆、言葉が出なかった。ミアが見せた超能力、そして律花が見せた忍者の戦い方。貴族には理解出来ない…そんな試合であった。
「ジオルド様!」
カタリナがマリアの手を引いて駆け寄り、メアリとソフィアも一緒に走って来た。
「マリア、お願い。」
「やってみます、…
マリアは両掌をジオルドに向け、スランタニアで習った詠唱魔法を試す。無詠唱の時より掌に温かい魔力を感じ、手応えを感じるが治癒に時間がかかってしまう。…と、マリアの隣に聖が寄り添い、助言を送る。
「焦らないで、回復のイメージと相手への思いを強く集中して…。」
「はい。」
マリアは強く思い、両掌に自分の魔力を集中、するとマリアの掌が白く輝き出し、ジオルドの体が白い輝きに包まれて火傷が消えて息遣いが整い起き上がった。思わず抱きつくカタリナに戸惑うジオルド。
「すまないカタリナ、…完敗だ。」
「そうですね、でも…カッコ良かったですよ。」
カタリナは笑う。言葉も本心からだが、これに律花がチャチャを入れた。
「ジオルド…王子様。敗因、分かりますか?」
ジオルドは少し俯いて律花の質問に答えた。
「油断した上に冷静さを欠いていた。だが一番は実力差かな。」
「苦無を魔法で弾かれたら此方もダメージ受けましたよ、王子は優しいですよ。」
律花は手心を加えられたと言いたいのであろうが、ジオルドは言葉通り、己を過信し、カタリナを連れては行かせまいと云う雑念、そして確かに感じた彼女の強さと自分の弱さを反省する。
アランはアランであまり活躍出来なかったので凹み、珍しくメアリが頭を撫でて慰めていたのであった。