スランタニア王国クラウスナー領。その城の正門では甲賀弦之介と伊賀の朧、お供の如月左衛門に蛍火がパレッティアへと向かう支度をしていた。
馬車を1台用意して貰い、左衛門が御者となり後は三人が乗り込むだけであった。最初は徒歩の旅を考えていた弦之介だったが日本内を歩くのと国から国となると朧の安全も考えて馬車にした。見送りには傭兵団団長のレオンハルト、薬師のコリンナ、領主のダニエル・クラウスナーがいた。
「ゲンノスケ殿、本当に助かった。短い時間で亡くなった者を手厚く葬れたのは
「いえ、拙者達は貴方方に命を助けられ、とても世話になり申した。此方こそかたじけのうございます。我等伊賀甲賀、この恩は一生忘れは致しませぬ。」
弦之介が領主に挨拶をすると蛍火はあからさまに不快な顔をしてみせ、朧がそれを叱りつけた。
「何故弦之介が我等の代表の様に振る舞っておるのだ。」
「これ蛍火、口を挟んではいけません。」
…と、そこへコリンナが朧にフワリとマフラーを首に掛けてやる。
「町で買ったものだよ、旅路は冷えるかも知れない。巻いときな。」
「ありがとうございます、コリンナ様。」
二人は微笑み合い、別れを惜しんだ。レオは以前に頼まれていた烈海王のスランタニア内の動向の最終報告を伝える。
「ゲンノスケ、烈海王なんだが…傭兵仲間の話じゃあ二〜三日前にゴブリン連れた褐色肌の筋肉男がこの国を出たらしい。スランタニアにゃあ、あの御仁を唸らせる強者はいなかったんだろうな。」
「そうか、かたじけない。そうすると烈海王殿はレビオスへ向かった可能性もあるな。」
「あぁ、あの片田舎の剣聖とやり合いたそうだったからな。…ならレビオスに行くかい?」
「いや、カイル殿下、ユフィリア女王との約束通りにパレッティアに向かう。」
「そうか、じゃあ達者でな。ゲンノスケ。」
「うむ、お達者で、レオンハルト殿。」
弦之介達が馬車へと乗り込み、クラウスナー城を出発した。
「弦之介様、パレッティアに着きましたらお城とやらを探すのですか?」
「いや、城ではなく離宮とやらへ行く様、アニスフィア殿下が言っておられた。そこに居る侍女に預かった書状を見せよとの事だ。」
「そうですか。…ふふ。」
すると、朧はとても楽しげに笑う。
「どうした、朧?」
「弦之介様、不謹慎なのは理解しておりますが…今とても心が弾んでおります。
「そうか、そうだな。」
朧の話を聞いた隣の蛍火は不快に顔を歪めるが、弦之介も思いは同じで朧に微笑みかける。馬車は馬に任せ、揺られ進んでいた。
レビオス王国、バルトレーンを首都として馬車で一日程の距離で行けるビデン村。片田舎の剣聖と言われるベリル・ガーデナントの故郷である。ベリルの実家は剣の道場をやっており、今は元冒険者であるランドリドが指南役として継いでいた。
「頼もう!」
昼時、ベリルの実家の玄関にしわがれた声が響いた。ベリルの母親であるフレン・ガーテナントが返事をして玄関を開けて対応する。
「ハイ、どなた?」
そこに立っていたのは編笠を被った仙人の様な御老人がおり、手入れのしていない白いぼさぼさの口髭が目立っていた。
編笠を取ると同じ様にぼうぼうに伸びた白い後頭部で纏めただけの手入れのしていない長いざんばら髪が広がり、その腰には左右に刀を携え、その目は鋭くどこかベリルの父…モルデア・ガーデナントに似ていた。
「貴女の亭主…モルデア・ガーデナントは居られるか?」
油断出来ない気配にフレンは戸惑うが、後ろから家長であるモルデアが現れた。
「俺がモルデアだ、何の用だ?」
「拙者、
「ほう、初めてでいきなり儂と
フレンに不吉な予感がよぎり、後ろに立つ夫に目を向ける。
「あなた…。」
「フレン、剣を持って来い。」
「…はい。」
妻に剣を頼んでさがらせるモルデア。武蔵は背を向ける彼女を見て笑みを零す。
「暫し待っていてくれ、ミヤモトムサシとやら。」
「構わぬよ、しかしなかなか出来た奥方だな。これから貴様の命を奪うのが少々忍びない。」
「もう勝った気でいるのか、こちとら久々に相手を斬らなきゃ行けねえんだ。老骨には厳しいぜ。」
「老骨か、老いとは恐ろしいものよ。」
「これが人の行き着く先だ、お前さんは
モルデアの瞳に殺気が宿り、武蔵もまた殺気を滲ませ、その目は黒く瘴気を帯びて瞳を光らせ邪悪な笑みを見せた。