鬼門八人衆…
「先生、現場の者が捜査の最中に先生宛でランドリドさんからの手紙を受け取ったそうです。」
ベリルはアリューシアから手紙を受け取り読むと、内容はやはりモルデアの訃報であり、それが死合に負けた結果である事。死合の相手の名がミヤモトムサシと名乗った事が書かれていた。
ベリルの母フレンは死合の全てを見ており、宮本武蔵を名乗った老剣士は二刀を両手に構えたが隙だらけでモルデアが深々と即死して間違いない一太刀を浴びせたが宮本武蔵は倒れず、モルデアは驚いたせいか動けずに、胴を両断されたと手紙に書かれていた。
その後は宮本武蔵は何も言わずに立ち去り、駆けつけたランドリドの妻が放心状態のフレンを介抱したとの事であった。
「まさか…モルデア殿が…。」
ヘンブリッツもショックは隠せず、ベリルの教え子であり騎士団員、そしてビデン村を故郷のクルニも嗚咽して大泣きしていた。
「先生、パレッティアよりミュイさんと一緒にビデン村へ行かれては…。」
ベリルは国王の使命による魔法師団の護衛のパレッティアへ行かねばならないが、肉親の死を前にアリューシアには強制する事が出来ずにいた。彼はビデン村への帰省に首を振る。
「いや、予定通りアリューシア達と一緒にパレッティアに行くよ。恐らくそちらでも何か起きると思うんだ。」
「先生はミヤモトムサシなる男を知っておられるのですか?」
アリューシアの問いにベリルは首を横に振る。
「…知らない。…だが確実にミヤモトムサシは“魔人”には違いない。親父を知ったのも俺を調べた結果なんだろう。」
しかしミュイがベリルの服を強く引っ張る。
「駄目だオッサン、ビデン村へ帰ろうぜ。モルデアさんが待ってる、ちゃんとお別れ、しないと。」
訴えかける目からは涙が流れている。ミュイはあの時に自分に見せた彼の涙が脳裏に焼き付き離れずにいた。ベリルはミュイの涙をハンカチで拭いてあげる。
「ミュイ、村にはミュイが行って代わりに親父にお別れを言って来てくれ。それにお袋の事をミュイに頼みたい、きっと落ち込んでるから。でも“孫”が帰ってきたなら多少は元気を出してくれると思うんだ。」
孫、その一言でミュイの胸の内が熱くなった。
「あたし、言って…モルデアさんを、“おじいさん”って…言えてない!」
それを聞いたベリルはミュイの肩に両手を置く。
「そんなの関係ないさ。ミュイはもう家族なんだ、親父も待っていてくれてる。
反対に俺が帰ったら、
その日はミュイをアリューシアの家に預け、ベリルは魔法師団団長であり、魔術師学院院長であるルーシー・ダイヤモンドの屋敷を訪れた。普段よりも落ち込んだ顔でいた理由を聞いた彼女も暗い表情となる。
「そうか…、父親殿が亡くなられたのか。ご冥福を祈らせて頂くよ。」
「ありがとう、ルーシー。」
「それでミュイはどうするのだ?」
「明日、クルニと二人の騎士を護衛に帰省させる。当分学院には行かせられない。」
「授業は遅れるが、仕方あるまい。お前は帰らないのか?」
ルーシーにも聞かれ、ベリルは共に行く事を伝える。
「まだ勘でしかないが、パレッティアでは一悶着起きると思っている。」
「可能性は高いな、…イブロイから少々無視出来ぬ情報が入ってな。スフェンドヤードバニアのスフェン教教皇派の動きが活発になって来ておるそうだ。パレッティア王国は宗教とは行かずも貴族達は国独自の精霊信仰を持っている。その歴史はスフェン教よりも遥かに長く深い。意外とそれを気に入らない奴等が絡むやも知れん。」
イブロイと言う人物はスフェン教レベルスバルドレーン支部の司教である。スフェン教穏健派に属している。今スフェン教は教皇派閥と穏健…言ってしまえば王権派閥の二つに別れてしまっており、教皇派は国の発言力をより強固にしたいのである。
「スフェン教か…。彼等と鬼門衆と魔人が繋がっている可能性も考えるのか。」
「…だとするなら拗れに拗れるぞ。あながち
そこまで言い切ってルーシーは“しまった!”と思った。何をわざわざベリルを煽る馬鹿がいるかと心中で自身を罵倒し、彼の目を見て心の底から後悔…、眉間を寄せてベリルを睨みつけた。
「お主…、その様な“目”をアリューシアやミュイには
そうルーシーに諌められ、ベリルはハッとして顔を掌で隠す。彼女の見た時のベリルの目は深い憎しみと殺意に満ちた復讐者のものであった。