宿屋の二階で黒ジャージ黒狐の面を被る律花は苦無を喉元に突き付け、後ろで獣兵衛が質問した。
しかし律花がいつの間に赤から黒へと上着を着替えたかは分からないが、彼女は忍者なのでその技量によるものと一人納得する。
「是なら頷いて否なら首を横に振れ、お前はシャルトルーズって野郎の手下か?」
男は頷く。もう一つ、獣兵衛が質問した。
「もう一つ聞く。この国に“裏切り者”はいるか?」
この質問に対し、律花は少し懸念の視線を獣兵衛に向けるが何と男は頷く。
「その裏切り者をお前は知ってるか?」
男は首を横に振る。すると獣兵衛は律花に言う。
「用は済んだ、行くぞ。」
しかし律花は苦無を首に更に押し付け、血が流れると男は涙を溜めながら叫び、獣兵衛の肩のモモンガ…マダラが焦る。
「リリィ!?」
「ほほんとに知らないんだ、貴族と繋がってるとしかっ!」
喉の傷が深くなると獣兵衛が彼女を止めた。
「そこまでにしとけ、戻んぞ。」
律花は彼の言う通りにして苦無を仕舞う。すると男は立ち上がり部屋から逃げ出した。
「逃がして良いの?」
「無駄な殺生なんざ何の得もなんねえよ。」
律花の獣兵衛のイメージが少し変わる。江戸時代の忍者は人の命を簡単に奪うと思っていたが…、彼は非情な忍びとは違うと理解するが、反対に獣兵衛は律花に対し、殺しに対する危さを感じていた。必要なら自分の心を圧し殺して簡単に人の命を奪いかねない。
(コイツは人を殺めちまった時、その命の重さに耐えられるのか?)
すると、彼の足元で“チュー”と鼠の鳴き声が聞こえた。…と同時に微かな火薬の匂いが鼻を掠める。彼が足元を見るとひっくり返った鼠があった。その鼠が見せた腹には縫い目があり細い煙を上げた。
瞬間、獣兵衛は青醒めて律花を左脇に力強く抱えて二階部屋から向かいの建物の屋根に飛び上がった。
「ちょっ、獣うっ!?」
その時、後ろの二階建ての宿屋が光り、大爆発を起こした。爆炎を広げ、爆煙を立ち上げる。下では人が騒ぎ逃げ惑う。騒ぎで集まる人と大混乱となった。
向かいの屋根に逃げた獣兵衛は左に抱えていた律花を無造作に降ろし後ろを振り返った。眼下は阿鼻叫喚で溢れ、宿屋だった建物は大きく崩され燃え盛っていた。律花とマダラも唖然として炎を見つめる。
「宿屋…私達以外にも人いた…、いたよね…。」
「リリィ、此処を離れないと。」
マダラが彼女を促し、獣兵衛もマダラに賛同した。
「そうだな、もう此処に用はねぇ。」
「そんな言い方、アソコには関係ない人がっ!」
「スランタニアで言ったぜ、
「…まさか、鬼門衆!?」
獣兵衛は無言で頷いた。
「確か、名前は
二人がその場から離れるとそれを騒ぎの街中で目で追う者がいた。頭に平たい蓑笠、両肩を大きな鳥の羽を各五枚程で飾り、赤いマントを纏ったおかっぱの髪型をした女は二つの影が離れると何事もない様に悠々と歩き去る。
その女の顔を騒ぎから逃げる母親に連れられた幼女がたまたま覗き見る。その顔には左頬に大きな縫い傷があり、残忍な嘲笑を貼り付けた醜女で彼女は幼女の視線に気付いてその視線を幼女に向けたのであった。
離宮には直ぐにマダラからオボロへと知らせが入り、ユフィリア、アニスは直ぐ様王宮…魔法省へと急ぐ。聖が二人に助成を名乗り出る。
「ユフィリア様、アニス様、一緒に行きます!」
「駄目、聖さんは離宮を出ちゃ駄目、爆発で獣兵衛さんが負傷したみたいだから戻ったらお願い!」
「セイ様、我が魔法省にも治癒魔法を使える者はいます。此処は任せて下さい。」
そう言って不安げな聖を残してユフィリアがアニスを抱え、二人は王宮へと飛んで行った。
爆発による火災は魔法省と騎士団により数十分後に消し止められた。近隣の建物には移りはしなかったが死傷者は凡そ6人程で二階にいた二名は爆発に巻き込まれて死亡、一階の者も瓦礫の下敷き等で死傷した。二階から逃げた男は後日に一階にて死亡した事が確認された。