異世界転々忍法戦記   作:濁酒三十六

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裏ボス、国外へと飛び立つ…前編。

 次の日、パトリック・アッシュバトンは王宮の庭園…芝の広い敷地に立っていた。空を仰ぎ見て何かを待っている様だ。すると空から大きく羽ばたく様な音がして風が吹き荒れる。空には巨大な影…黒い竜(ドラゴン)が着地しようとし、パトリックは着地しやすい様に少し離れる。

 ドスンと地に足を降ろす竜をパトリックが見上げるとその背中の上からユミエラが両脇にマリアと愛良を抱えて飛び降りた。

 

「「きゃああああああああっ!!!!」」

 

 二人の重なった悲鳴が地面に近付くが、マリアの悲鳴が若干楽しげに聞こえ、スタッとスタイリッシュにユミエラが着地するが「「ぐへっ!?!?」」…と、同時に海老反りになった二人の悲鳴がパトリックの耳に届いた。ユミエラは二人を静かに降ろしてあげるがマリアも愛良も四つん這いで虫の息である。

 しかしマリアの方が早く立ち上がる。

 

「素晴らしい経験でしたユミエラさん、ドラゴンの背に乗ったのなんて初めてです!また機会があれば乗せてください!」

「勿論ですマリアさん、いつでも“リュー”の背に乗って上げて下さい。」

 

 意気投合する二人の足元でまだ四つん這いの愛良が息を整え、パトリックは二人を心配して声をかける。因みにリューとは黒い竜(ドラゴン)の名前である。

 

「大丈夫…かい、マリア嬢、アイラ嬢?」

 

 愛良はやっと立ち上がり、返事を返してマリアはけろりとして元気に返した。

 

「はい、着地の時はビックリしましたがこの通りです。」

 

 ニッコリと微笑むマリアに愛良は少し引いてしまった。

 

「マリアさんって、意外とアグレッシブですね…。」

 

 パトリックはユミエラを“乱暴”だと叱りつけ、四人は王宮…そして王城へ。王の間へ赴くと既にジェフリー、ジオルド、ラーナ、そしてカイルが左側へ。右側にはバルシャイン王国王子エドウィンと聖女となったアリシア・エンライト。ウィリアム、オズワルドと並んだ。

 ユミエラ、パトリック、マリア、愛良と並んで玉座に座る国王と王妃に跪く。

 

「ユミエラ、パトリック、まだ非公式ではあるが我がバルシャイン王国はソルシエ、スランタニア、そしてパレッティアの三国同盟に加わる事となった。それに付き、そなた達にパレッティアへ向かって欲しい。」

「パレッティア王国へ…ですか?」

 

 パトリックは思わず聞き返すがそれは仕方なく彼は事情は全く知らないのだが、ユミエラは昨日のパジャマパーティーで愛良、マリアから聞いていた。国王が大まかに説明をする。

 

「今、鬼門衆なる謎の集団が各国を股にかけ、暗躍をしている。その悪意に対して同盟が結成され、バルシャインも同調し協力を決めたのだ。それ故の派遣だ。」

 

 パトリックとしては腑に落ちず、何より平穏を好むユミエラが承諾するとは思えなかった。国王もまたそれは理解していた。

 

「分かりました。このユミエラ・ドルクネス、パトリック・アッシュバトン、その勅命お受け致します。」

 

 まだ返事をしていないパトリックの分まで応えるユミエラはパトリックの方を向いて微笑む。その笑顔に彼は胸がときめく。

 

「いいよね、パトリック?」

「良いも何も、その笑顔はズルいぞユミエラ。良いに決まってるじゃないか。」

 

 何とも恋人の様な受け返しに女性陣が黄色い歓声を上げた。王は即答でユミエラが受けてくれた事に違和感が残ったが、今は聞かずに感謝をしてこの後の会議で同盟を公式に告げる事を皆に宣言して謁見を終えた。王城を出る前にユミエラとパトリックはアリシアとエドウィン達とで集まっていた。

 

「まさかユミエラ嬢が他国への出兵要員の要請を受けるとは思わなかったよ。」

 

 エドウィンが話を切り出し、アリシアが心配そうにユミエラに尋ねる。 

 

「本当に行くんですか、パレッティアって遠いですよ。馬車で二十日以上掛かりますよ!」

「下手したら一ヶ月だ。」

「馬を使い潰す可能性がありますね。」

 

 ウィリアムとオズワルドが付け加えた。

 

「大丈夫です、パレッティアまでリューで空路を行きますから…二十日かからないと思います。」

 

 それを聞いた四人は青褪めて同時にパトリックに視線を注ぐ。

 

「空路…。」

「リュー君で…。」

「二十日間近くをか?」

「パトリックが不憫でしかない…。」

 

 パトリックは青い顔で隣のユミエラを見る。

 

「本気か、ユミエラ?」

「…休みながら飛んで二十日掛からないって事、夜はちゃんと寝るわ。」

 

 …と、冗談はさておき、アリシアが一番心配している事があった。

 

「ユミエラさん、その敵は…魔物…なんですよね?」

 

 そこで四人はユミエラに目を向けた。パトリックの表情も固くなり、代わりに彼が答えた。

 

「相手は人間だ。しかもかなりの手練れらしい。既にスランタニアの騎士団に甚大な死傷者が出ているそうだ。」

 

 エドウィン達は顔を強張らせ、アリシアは青白い顔になり口元を両手で隠した。アリシアは学園時代、ユミエラの事が禍々しい黒い塊にしか見えなかったらしい。しかし彼女と深く関わり、魔王を倒してからはハッキリと彼女の姿を認識出来る様になったそうだ。

 

「心配しないで、アリシアさん。私に勝てる人、いると思う?」

 

 アリシアは頭を横にブンブンと横に振る。ユミエラは首を痛めそうな振り方が反対に心配してしまい苦笑するが、その強い首振りが彼女の心配する心なのだろう。

 ユミエラは心配を露わにしてくれる彼女に感謝をして泣き出しそうなアリシアの頭を撫でた。

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