大国に潜む災厄。
ブラキルカ王国辺境の大森林にある巨大な…まるで剣山の様な牙城の中を天草四郎時貞、氷室弦馬は歩いていた。
「ブラキルカの王が“あれ”を見たいと言っているのか。ふっ、死にたいのか、あの老人は?」
弦馬は面長の強面で嗤い、四郎もほくそ笑む。
「今はかなり安定しているそうだが…、やはり“形”が出来るまで1年以上は掛かるそうだ。やはり早めに
二人が辿り着いたのは最深部のとんでもなく広い空間、其処には20m程のヒビ割れた肉塊…ヒビからは赤い血が滲み、
四郎はその二人を見据える。
「
防護服の一人が恐れを見せながら答える。
「げ、現在は325
つまりは防護服なしだと身体に高い確率で害となる濃度…、この肉塊から高い放射能が漏れ出しているのである。すると精密機器のモニターのスピーカーより男の声がした。
《ブラキルカ王を此処に連れて来るのかい?…防護服なしなら高い確率で“癌”になるよ?》
癌…悪性腫瘍は壊れた細胞が増殖して死に至る病、この世界では文字通り不治の病である。高い放射能を浴び続ければ健康を害し、運が悪ければ癌が出来…死に至る。
しかし魔人には放射能は効かず、弦馬の身体にもまた効かない。…この巨大な肉塊は脈打ち、ドクンドクン…、と鼓動を打っていた。
「私達に放射能の事は分からない。癌?…そんなものは知らないな。」
四郎はまたほくそ笑む。弦馬もククク…と嗤う。…と、一人の男が背後に現れる。黒い毬栗の様な短髪に髷を持ち、鼻から顎までを覆面で隠した殺意が形を帯びた様な男であった。
「何だ、又右衛門?」
「宮本武蔵殿が勝手に動いたぁ。…襲撃予定のビデン村で剣聖の親父を斬り殺したそうだぁ。」
「そうか。問題ない、予定通りにビデンは滅ぼせ。」
弦馬は一国の村一つにこだわった天草四郎が少し気になり尋ねた。
「剣聖の故郷など、わざわざ潰す意味はあるのか?」
「なに、四つ裂きにされた仕返しだ。」
四郎はクラウスナーでベリルとスレナと戦ってスレナの十字斬りでそのまま四つ裂きにされていた。…しかし彼にとってはそれだけではない。ビデン村のガーデナント家の家系を調べ、四郎は武蔵に剣聖の
(さて、ベリル・ガーデナントの剣…。武蔵殿にどれだけ通じるのか、楽しみだな、
ビデン村は二日前にモルデアの葬儀を終えたばかりだったが、次の日の午後に村人が集まる騒ぎが起きていた。
黒装束を纏い、地面に手を付いて座り込み顔を大きく腫らしたザンバラ髪の青年と筋肉隆々に褐色肌、黒の
「
「旦那〜っ!」
地べたに座り込み傍らに赤い着物の女性が走り寄り、筋肉男の傍らにはとぼけた顔のゴブリンが走って来た。
「勝負ありました、ここでどうか手打ちを。」
着物の女性が頭を下げ許しを請うが、ゴブリンは怒り心頭でイキりまくし立ててきた。
「何ダト、村人ガ“ゴブリン”一匹程度デ騒イデ其処ノ餓鬼ガ“小鬼如キ成敗シテクレル!”トカぶっコイテシャシャリ出テ来タンダロウガ、生殺与奪ハ旦那二アルンダヨ、ごっ!?」
…まで言ったらゴブリンは筋肉おさげ男に蹴り飛ばされた。
「
女性は絶句するが小四郎と呼ばれた青年は彼女の肩に手を添え、筋肉男を前に正座をして頭を下げた。
「いや、彼女の言う通りだ。俺は負けを認める、貴方の勝ちだ。」
すると、金髪、鼻の上に一文字傷のある背の高い男性が数人の若い男女が引き連れて此方に駆け寄り、持っていた木剣を向ける。
「一体何の騒ぎだ、貴方達は何者だ!?」
すると筋肉男は向こう傷の男性と向き合い右手を拳にして指先を揃えた左掌にあてて一礼をする。
「
次に彼の相手をした青年と赤い着物の女性が彼に頭を下げる。
「御騒がせ申した、まことに申し訳ない。拙者の名はちく…、小四郎・筑摩と申す。」
「朱絹と申します。」
小四郎と名乗った男は少し仏頂面だが誠意は感じさせ、朱絹と名乗った女性は物腰よく女性らしい色香を持っていた。
金髪一文字傷の男は木剣を引く。
「此方こそ、私はビデン村剣道場師範…ランドリド・パトルロックと申します。宜しければこの騒ぎの成り行きをお教え願いたい。」