東の空から太陽が出てくる時間帯。太陽と重なって1機の
長い長い夜の哨戒から帰って来た。
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格納庫前にエンジンを止めてから風防を開けるパイロット。それこそノリッジ野戦基地の総司令官であり、『魔術師』と言われた元リベリオン海軍大尉・ガウディ。偽りの空気を吸っては吐く。
ふと管制塔を見ると、燻るような焼け跡が残っている。管制塔だけじゃない。基地全体が燻っているのだ。灰となった草木。火薬類が充満とした倉庫。消火に追われる兵士。
唯一、マトモなのが滑走路のみ。これでは”彼女たち”を迎え入れることができない。こういった原因は、昨晩の連盟空軍による空襲だ。未だにロンドンの総司令部を焼き払ったことを憤慨しているらしい。
元と言えば、連盟空軍のリスクマネジメントが出来ない無茶苦茶な統制と指令が原因で離反しただけであって、こちらは粛々と兵力を蓄えては各戦線に戦力投射していた。要は連盟空軍は、
「ウィッチの為に100回撃たれてから死ね」
って言われたから離反しているだけであって、こっちから手を出したわけではない。離反者を匿い続けた結果、連盟空軍の堪忍袋の緒が切れて殴られたのだ。殴られた恩をロンドンにある連盟空軍の総司令部を焼き払った事でことが済んだと思ったがーーー。
ガウディは思わず首を振る。連盟空軍や今回の損害よりもルミナスの事だけを考えればいい。今回の空襲は、ルミナスの依頼を取り下げる為にノリッジ野戦基地を攻撃した。
それだけのこと。あとはルミナスの為に宿を確保すればいい。ノリッジ野戦基地には彼女らを置けない。危険がすぎるのだ。亡命者の慰問とノリッジ大聖堂に民草の慰問さえあればそれでいいのだ。
燻る空の下で彼はこう呟いた。
「グレーシー、悪くは思わないでくれ。」
と。偶然にも昨晩にグレイスが思ったことを相反することを行ったガウディは赦しを斯うした。
そして彼は哨戒任務で得た情報を携えて自室へ向かった。
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その日のノリッジ野戦基地はてんやわんやしていた。消火が追いつかず武器庫が大爆発し、負傷兵のみならずノリッジの民家やノリッジを含むノーフォーク州全域に揺れが観測された。およそ1年半以上も戦える武器・弾薬が粉微塵になったのだ。
だが、基地司令であるガウディは楽観していた。あくまでも地上にある武器庫が爆発しただけで、地下貯蔵庫は幾らかは残っている。言わばダミーだ。敢えてその武器庫はノリッジ野戦基地の端にあり、図らずも兵舎からは程遠いところにある。ただ、負傷兵が出てしまったのは武器庫付近で防衛にあたった帰還兵らが勝手に判断した結果で、その対応に追われた。
基地司令室にはガウディの他に武器庫防衛に配備された兵卒、直掩として上がったアンナとウォーカー、マリーネの4人が居た。
「とりあえず座ってご苦労・・・と言いたいところだが、火薬庫の件はどうなっている?」
ガウディが哨戒任務で得た情報に目を通しながら言う。武器庫防衛に兵卒が慌てて言う。
「未だに消火が手に負えない状況下です!」
声が上ずる兵卒。そんなことで基地司令は怒らなかった。
「消火を辞めて、負傷兵の治療に専念しろ。下がっていい。」
「ハッ!失礼いたしました。」
と兵卒は基地司令室から飛び出していった。
「いいんですか?」
アンナが思わず口にする。
「何が?」
「ダミーとはいえ火薬庫を手放しにして、周辺住民の反感を買わない・・・かと。」
「それはウィッチたちの仕事だ。今バラッカたちにノーフォーク全域に情報を伝達している。ただアンナ、お前は残れ。」
「予備戦力として残すってことですか?」
「ウチの基地に予備戦力はない。ただ直掩として上がれる準備だけはしておけ。」
「分かりました。」
アンナは基地司令の座としてあるいは、肝が座っているガウディの言葉に頷く。直掩として上がった2人にも声を掛ける。
「ウォーカー、マリーネはどうだった?何か異常はあったか?」
2人はキョトンとして顔を合したもののマリーネが答える。
「特にないと言ったら嘘になるがー」
「負傷兵か?それとも中央の恐怖で怖気づいたか?」
「いや、前者だ。」
「ならいい。」
淡白な答えだ。いや、単に哨戒任務の情報ばかり目に行っていて、彼らの顔すら見ていない。
長い沈黙。紙をめくる音だけが響く。そしてー
トントン。
紙を整える音が室内に響渡る。
皆が皆、ガウディを見つめているが肝心のガウディは何も言わずに立ち上がる。そして窓際に歩み、愚痴を言い放つ。
「文句が山ほどあるが、今はそれどころじゃねぇ。」
ガウディの声は冷たいナイフのように沈黙の室内を切り裂く。
「アンナを筆頭にウォーカー、マリーネは直掩を交代でいいから上がれ。俺は、彼女たちの支度と負傷兵の治療に務める。以上、解散。」
「了解。」
「了解した。」
ウォーカーとマリーネは部屋から出ていったが、アンナは何かものを言いたさそうに口をもごもごしている。ガウディはアンナに振り向いて言う。
「アンナ、貴様はこの件についてどう思う?」
「彼女たちですか?それとも空襲ですか?」
「両方だ。」
アンナは少し間を置いてから言う。
「両方とも連盟空軍との密接に関係があるようです。特に連盟空軍はーーー」
アンナが話している内にガウディは椅子に腰を掛けた。
「最大限こちらの妨害をしてくるでしょう。特に司令を制したい連盟空軍・・・私の立場でしたらそう考えます。」
「そうだな。なら、後方を叩こう。」
「それで止まりそうでしょうか?」
「止まれなかったらまた燃やせばいい。」
と、ガウディは電話のダイヤルを回して、とある番号に通話を開始した。
「ご機嫌よう、グレスリー女史。ーーーえぇ、娘さんの調子は?ーーー大逸れたことじゃないですよ。有人パイロットの使命でーーー」
と通話相手と談笑していた。
相手はブリタニア議会と連盟空軍とのコネクションがあるフェリシア・ルイ―ザ・グレスリー女史。ガウディの”後方を叩く”というのは、グレスリー女史の根回しでブリタニア議会と連盟空軍を黙らせる方法だった。ルミナスを招くには女史自身が持つコネクションが必要性が増した。
2つの組織を暗黙の了解を取るには必要。そのタイミングとチャンスは今しかない。
「ーーーえぇ、数年前の撤退戦のお代として議会と連盟空軍をーーー」
話がみるみる進む。既にルミナスウィッチーズによるプランニングや空襲を受けた際のリスクマネジメントが掌握しているかのようだ。アンナは思う。
(基地司令はほぼ全てのことを掌握している。おまけに連盟空軍を相手に1人で徹底抗戦した・・・。これが”基地司令”の強み。)
基地司令であるガウディの本性を現した目の前に、アンナはただただ呆然と見つめる他なかった。当の本人はニヤつきながら、最後の〆を言う。
「理解いただけて感謝します、グレスリー女史。」
と受話器を電話に戻してアンナに言った。
「歌姫たちを出迎える準備を始めよう。」
とアンナを引き連れて仕事を始める英傑の姿があった。
~うりふたつのパイロット~
時は1934年10月。
ブリタニアの首都、ロンドン。ガリア奪還に向けた準備とは裏腹に連盟空軍はとある作戦の準備を行っていた。そう亡命者が集うノリッジ野戦基地に向けての焦土作戦であった。様々な英傑と呼ばれたパイロットや、化け物と呼ばれたパイロット。天使と悪魔が入り混じった魔女と言った具合で連盟空軍のみならずブリタニア議会に対し、喉元にナイフを突き立てている。
このままでは埒が明かないと判断した結果、4個師団の地上戦力と12の航空隊、ウィッチも拵えて明日にはノリッジ野戦基地を占拠する”手筈だった”。この作戦は大失敗という結末になってしまった。そう、『魔術師』と『化け物』のうりふたつのパイロットによってウィッチ含む航空隊は壊滅。地上戦力はならず者の集団によって全滅。
ブリタニア各所に点在する司令部は、ほぼ同時刻によってノリッジ野戦基地所属兵士たちに焼き払われる始末。一番の過酷で厳しい戦場はロンドンだった。
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「何が起きている?」
「みりゃ解るだろ!”化け物”によってウィッチとその護衛の航空隊が堕ちたんだ!」
ロンドンの空を守るブリタニア防空網は最悪の転落に陥った。ブリタニア空軍も連盟空軍の連携があったのにも関わらず、たかが1個小隊によって防空網が破られたのだ。
みるみる落ちていく航空隊。旧式の複葉機が片っ端から食っていく。まるで地獄絵図さながらだった。この時、ブリタニア空軍配属の参謀を務めた第一次ブリタニア義勇軍元参謀長は後にこう語る。
「数時間以内には1個小隊によってノリッジへの賃金が無くなった。まるでロンドンが陥落したんじゃないか?ってぐらいだ。」
吸っていた葉巻をすり潰すと、大きくため息を吐く元参謀長。
「そして、それを率いていたのがまさか義勇軍元参謀で『魔術師』だなんてな・・・笑えない。」
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そう、相手はリベリオン海軍のACE or ACE『魔術師』『不死身』の異名を持つガウディ大尉率いる戦闘機隊だったのだ。たかが有人で魔力を持たない4機が3航空隊、しかもウィッチのみ編成された航空隊と護衛の各国を代表とする航空隊を撃墜させ、その後の援軍でさえ食っていく。このロンドン空爆によってあらゆる人々は彼をこう呼んだ。
『英傑と化け物』
と彼には”うりふたつの異名”をロンドンの人々はそう口々にしていたーーー。
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そして、時は戻って1944年末。復讐に燃えるブリタニア空軍ならびに連盟空軍はノリッジ野戦基地の焦土化作戦を実施。
しかし、またもやガウディの策略によって完全に焦土化出来ず、よりよって連盟空軍第72統合戦闘飛行隊航空魔法音楽小隊こと『ルミナスウィッチーズ』の支援者とブリタニア議会から手を引くこととなった。だが復讐に燻る将官は多く、再度攻撃を述べたが時すでに遅し。かの地に居る英傑らは『真の英雄』となったこと聞き、己の生き恥を晒し軍から降りることとなった。
あの地で何が起きたのかはブリタニア空軍・連盟空軍は不明。
ただ、解るのは『ノーフォークの守り手』としてノーフォークに住む住民らによって語られてることとなった。そして、『歌姫たちを救い、ロンドンに続く橋頭堡を守り抜いた』と。彼らが護っていた空は1945年になった今でも”空神十二頭”で支えられる。
その”空神十二頭”はベルリンにも奪還戦したというのは本当かどうか定かではない。