カイスター城についたグレイス一行は城の庭園で駐車した。まずは、装甲車に乗っていた2人のパイロットが地面をならしつつ、グレイスとエリーの2人を呼ぶ。2人は互いに頷いて車から降りる。
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カイスター城は、城とは呼べないほど廃墟になっていた。庭園も外壁も。なにもかもが削られていたり、崩れていた。それでも”ここ”には誰かが居る。グレイスたちとは違う何かが・・・
庭園から先、門を潜り抜けた先で1人のパイロット、ファラウェイランド出身のブリタニア海軍中尉のジェームズ・”ウォーカー”・ホワイトが城の上層階に向かって叫んだ。
「司令!お迎えに来ました!」
ウォーカーが叫んだ数秒後、緑の彩光弾がカイスター城の上空に向かって打ち上げられた。もう1人のパイロット、ガリア陸軍少尉のジャン・”マリーネ”・ナヴァルが懐中時計を見つつ、グレイスたちに振り返って言う。
「ギリギリだったが間に合ったようだ。そろそろ隊長のお披露目だ。」
そう言われたグレイスは、不安と緊張でどんな顔をしていいかわからない。ダンケルク撤退戦から約4年。彼が最後に出撃の檄を飛ばしたのは空に上がる前だった。その檄は今でも覚えている。
「後世の為に生き残れ。それ以外は許されない。」
それ以降、彼を見ていない。何度も繰り返し出撃したなんて、当時は知りもしなかった。彼の台詞は、私達ウィッチが生き残る為に残した台詞だったかもしれない。
そして彼はリベリオン義勇軍上層部や連盟空軍の命令に背き、ダンケルクの上空で孤軍奮闘していたのも、ダンケルクからのウィッチから聞いて初めてわかった。ダンケルク撤退戦直後に彼の妹が第二陣としてやってきたが、別の分隊だった。でも、別れはすぐだった。彼女の分隊は彼女を残して全滅しており、その彼女もまた犠牲になった。私のせいで・・・
グレイスは不安と緊張、過去から蘇る恐怖で俯いた。震える肩とこらえる涙。その隣に居たエリーは、不安という荷物を一緒に背負う為にグレイスの左手を優しく握った。
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数分後。
グレイスの思惑を他所に、カイスター城の扉が重々しく開いた。肝心のグレイスは俯いたままだが、エリーはその姿に驚きを隠せない。
ヘルメットから垣間見る不衛生な包帯、ボロ切れのように生地が薄くなった野戦軍服、擦り切れて穴の空いた背嚢、なによりも驚いたのは空を征する軍人とは思えない痩せ細くなった身体。これがリベリオン海軍の唯一無二の存在の姿だった。彼は負傷して回復してなくても、まだ戦い続けている。それが彼だ。
そんな彼が口を開く。
「遅かったな。あと2分遅れていたら歩いて還るつもりだったのだが。」
その言葉にウォーカーとマリーネの2人が乾いた笑いをする。マリーネが言葉巧みに言う。
「そんな隊長にプレゼントがある。」
「ほう?それは楽しみだな。」
「こちらです。司令。」
ウォーカーは言葉に合わせて横に退き、グレイスとエリーの2人を彼に見せた。彼は2人を見て呆然と立ち尽くした。そして、頭を横に振って我に戻ったのか、俯くグレイスに駆け寄った。
「少佐!グレイス・メイトランド・スチュワード少佐ではないか!」
とグレイスの右手を取り上げるガウディ。加減が出来なかったのか、取り上げた手と同時にグレイスの顔も上がる。グレイスの顔を見たガウディは困っていた。
「どうしたんだその顔?俺を忘れたのか?」
忘れるわけが無い!嗚呼、神はいたずらにもこのような形で出会ってしまうのだろうか。そう思ってグレイスは泣き崩れた。
彼の顔は原形をとどめていたものの、血が付着した使いまわされた包帯に傷跡が大きく残る左目、欠落した左耳、なによりも彼が目の前で生きてること、全てのあらゆる事実が判明した時、感情のダムが決壊した瞬間だった。
その場に居たガウディ以外は、グレイスの姿を見て慌てふためいた。ただ、ガウディはこのような状況にも関わらず、状況を読むのが慣れているのか判断が素早かった。
「話はわかった。ウォーカーは少佐殿が運転してきた車で、マリーネは装甲車を頼む。」
「り、了解。」「了解。」
そして、ガウディはエリーに軽く会釈する。
「君は確か、エレオノール・ジョヴァンナ・ガション軍曹だね。お会いできて光栄だ。私はウェルトン・”ガウディ”・トリスコル大尉だ。」
「あ、ありがとうございます!」
突発的な判断力と挨拶にエリーは戸惑いを隠せなかった。ガウディは、泣きじゃくるグレイスを持ち上げてエリーに言う。
「積もる話は後だ。私が彼女を後部座席に運ぶから君も準備しなさい。」
その言葉を聞いて、不思議と体が動くエリー。彼女は思う。
(やはり”本物”だ。)
常に第一線の防衛を死守してきた紛れもなくエースパイロットがそこに居た。”魔術師”と”不死身”の2つ異名を持つパイロットは、一切名前負けせず、この異名は正真正銘且つ伊達ではないことを意味している。
【検閲】2人エースパイロットの安否について
ベルリン陥落直後、ネウロイは低地諸国への侵攻を開始。パイロットがことごとく散り、ダンケルクまで撤退する最中、ベルギガ上空では2人のパイロットが奮闘していた。エバン・エマール要塞とアル・ベール運河の防空戦のエースパイロットの2人が殿を務めていた。
・ファラウェイランド出身 ジェームズ・”ウォーカー”・ホワイト ブリタニア海軍中尉
・ガリア出身 ジャン・”マリーネ”・ナヴァル ガリア陸軍少尉
この2人がベルギガ上空で、極めて劣勢の中で最高の戦果をたたき出した。最終的に撃墜されるものの、陸戦ウィッチが回収を行い、ダンケルクからの撤退に成功した。しかしながら、ダンケルク撤退後の安否は不明。行方不明或いは直後の作戦で戦死したと思われる。追って参謀長に連絡を行うこと。
05/03/1940
ブリタニア連盟空軍参謀少佐
追記
06/11/1944
同連盟空軍参謀本部により緊急通達。本報告書は【検閲】書類として公にしないと決定。【検閲】とする理由は、以下の通り。
・彼らが生きていたこと
・連盟空軍非公認・ノリッジ野戦基地にて極秘裏に動いている
・ロンドン制空戦以降、最悪の空爆に参加していた
このような状況で2人を認知した上で、同連盟空軍参謀本部が行う。またこの2人は戦死として扱われるが、一般的に不名誉除隊として扱う。