2つの異名を持つガウディ大尉と出会ったグレイスとエリー。だが、大尉との出会いはグレイスにとって嬉しさよりも哀しみが多く、感情のダムが決壊するほどの出会いだった。カイスター城から帰り道にて、ハイウェイでノリッジの野戦航空基地に戻るまでの間、エリーは常にグレイスのそばにいた。たが、グレイスは涙が止まらず車内は常に悲壮感を漂っていた。代行で運転していた”おしゃべり野郎”の異名を持つファラウェイランド出身のウォーカーでさえーーー。ずっと沈黙を保った。
ウォーカー自身も”大尉が特異点”という異常事態なのがすぐわかった。だから下手に話せない。無論、大尉自身があんまりにも身の上を話さないのも事実だ。だからと言って、それで解決できるとは到底思えない。野戦航空基地に着くまでの間は、ウォーカーはひたすら沈黙を貫き通した。
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ノリッジの野戦航空基地に到着し、基地の中枢である司令本部まで通された。しかし、いくら中枢とはいえ所々にネウロイから攻撃を受けたであろう傷跡が至る箇所にあった。本当に・・・傷だらけのままで治療もなしに戦い続けた証拠がエリーの目の前に飛び込んでくる。
カイスター城もしかり、大尉もしかり。ここに居る誰もが。あるいは全てが未だに癒しきれていない。グレイスもまた、そのうちの1人だ。エリーもアイラすら知らない秘めた内側を持っていた。
そんなグレイスはガウディ大尉の魔法?で泣き止み、グレイスを抱え、エリーと共に基地司令室に居る。基地司令室は驚くほど清潔だった。大尉曰く、
「私が倒れても次の司令を招き入れる準備だけは常に欠かせないよ。」
と笑って誤魔化した。
エリーは笑えなかった。グレイスがそんなことを聞いたら、このパイロットはどう責任を取るつもりだろうか?そんな大尉だがグレイスをソファに降ろしては、温かそうな新品同様の毛皮のパイロット服を何着かを丁寧に被せた。エリーには、
「好きなところに座っても構わない。」
と言っていた。
エリーは、大尉の予想を上回る紳士的な行動に驚きを隠し切れず急いで座った。ちょうど基地司令の席との直線上に居る。
大尉は、装備を片付けながらエリーに問う。
「エレオノール・ジョヴァンナ・ガション軍曹殿。何か飲むかい?アッサムの紅茶しか用意できないが。」
「いえ、大丈夫です。あと私のことはエリーでお願いします。”ダンケルクの英雄”さん。」
エリーの答えに彼は動きを止めて呟く。
「英雄・・・か。英雄は”死んだ英雄こそ人類に望まれる宿命”。」
そう呟いて、また片付け始める。エリーはなんのことだがさっぱりわからなかった。
彼は古びたリベリオン海軍のパイロット服を羽織り、基地司令の席に座った。大きなため息を吐いては、エリーにとあることを言う。
「エリーお嬢、あの作戦で私は死ぬ運命だった。覚悟もあった。老兵は去るべきだってね。だが、神は赦ゆるしてくれず、今はここでひっそりと戦いに勤しんでいる。」
「・・・失礼も承知の上ですが、ご年齢は?」
「わからない。ただ、妹より10歳ほど離れているのは覚えている。」
彼の答えにエリーは考えた。たしかグレイスは20代前半と言っていた。彼の妹もグレイス同様に同年とも聞いていた。
となると彼、ガウディ大尉は30代前半だろう。エリーは考えをやめると、彼は慎重なおもむきでエリーに言う。
「エリーお嬢・・・頼みがあるのだが・・・無理ならば独り言だと思って欲しい。」
「いえ、聞きます。」
エリーは首を振って、彼の頼みを聞くことにした。人種や国境を超えて戦い抜いたパイロットの頼みを無碍に出来なかった。彼は顔色を変えずに言う。
「私が義勇軍に居ない間、なにがあったのかはグレイス少佐殿から全部聞く。代わりにお嬢には、『
エリーは頷いた。それ見た彼は、少しだけ安らかな表情に変わった。
「あとはもう1つ・・・だ。」
彼は少しためらう様な仕草をした。それでも黙って拝聴するエリー。
「恥ずかしながら、私はグレイス少佐殿に恋をした。してしまったんだ。」
驚きの連発だ。今日だけで何回の驚いたのだろうか?エリーが考える暇を与えずに、彼は話を続けた。
「だが、この年老いた老兵よりも、もっと若い人物の方が相応しいだろう。そう思わないかい?」
突然、質問を投げられたエリーは戸惑った。
「ええっと・・・」
「エリーお嬢。すまないね。私の悪い癖だ。」
と彼は椅子を回して、エリーを背にして外を見上げた。そして・・・寂しく呟く。
「彼女は、私の妹に似ていてね・・・父が亡くなった後、妹がいる遠縁の親戚に拾われてからは、妹のことが好きでたまらなくなって、ずっと一緒に過ごしていたんだ。軍に入るまではね。」
発言の中には涙をこらえ、僅かに混じりの音が出ていた。それでも彼は話を続ける。
「あの子が軍に行かないように、私が進んで志願したんだ。亡き父も魔術師だったからね。旧式機体を好んで誰にも負けない状態になるまでは、負け続きの万年ローテク大尉だった。だが、亡き父が残した遺作を基にネウロイ用の教本を完成させた。それが義勇軍の招集の半年前だった。」
再び、椅子を回して枯れそうな涙を流していた彼は、エリーを見つめた。エリーはそんな彼を見て、彼もまたグレイス同様に葛藤がある人生を歩んでいた。そんな風に聞こえる。
彼の発言は1つ1つ重みを感じる。グレイスのことが好きなのは、大好きな妹と描写しているからだろうか?彼の妹は亡くなっていることを知っているが、口に出せる状態じゃない・・・
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聞けば聞くほど彼は『グレイス=妹』になり、それが戦友から片想いに切り替わったという。でも最後には、
「少佐殿には絶対に黙ってほしい。」
と釘を刺してきた。なぜなんだろう?と思うエリーはこの後すぐに理解した。
「私が生きていること自体、あり得ないことだからだ。だから下手に少佐殿を愛してるなんて言った終いには、君たちの元から離れることだって十分にあり得るのだから。」