亡命軍にいる愛するあなたに   作:クマぴょん

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【死地に向かう思い】

 

 

 日が暮れて夜が訪れる。エリーは、唯一の電話がある基地通信室でルミナスウィッチーズの宿舎に電話をかけていた。

 

「ーということ。アイラ、あとはお願いできる?ーーーこっちも頃合いを見たらそっちに戻るから。ーーーわかった。ありがとう。」

 

と電話を切る。

 

「お電話の方は大丈夫そうでしたね。」

 

 エリーに声をかけるのは、この基地のウィッチ部隊長でベルギガ王国陸軍出身、ウィリアナ・”アンナ”・コッペン。彼女は哨戒任務中に、ノリッジ野戦基地独自の防空戦闘空域があるのを全く知らず、撃墜されたところを単独哨戒中のガウディ大尉に助けてもらった1人である。

 新米ウィッチだった彼女は、ガウディ大尉の対ネウロイ教本と戦闘経験を積ませて、叩き上げの尉官として基地司令であるガウディから授かった。

 

「はい。おかげさまで。」

 

エリーは、軽くお辞儀をした。アンナは慌てて、

 

「そんな滅相もない。あなた達に比べれば私は・・・ひよっこですから。」

 

とごまかす。エリーは、彼女の襟にある”中尉”の階級章を見て凝視する。

 

「ささっ、私たちウィッチたちの宿舎にご案内しますのでついてください。」

 

 アンナはぎこちない動きでエリーを案内した。この基地は、全て基地司令のもとに集まった部隊と同時に連盟空軍とは隔絶された軍隊だ。アンナが叩き上げで中尉になったのも、ノリッジの防空網形成も全て”基地司令”が全て行っている。

 彼しか出来なかったのか?いや、彼の安否を秘匿するぐらい・・・連盟空軍との対立?エリーは考えることでいっぱいだ。あとは、グレイスもそうだ。エリーは宿舎の一室を借りる一方で、グレイスは・・・

 

「彼と一緒じゃないと・・・」

 

と言葉を濁し、基地司令室に引きこもってしまった。基地司令である彼は、緊急出撃に備えて仮眠を取らなければならない。それでも彼女は彼に話したいことがあった。

 エリーは度々止まって振り返える。アンナも察しがついたのか、一緒に止まってくれる。

 

「ご一緒に来た隊長さんのことなら大丈夫ですよ。」

 

そうアンナは呟く。

『大丈夫』。

彼が生きていること自体が不思議なのに、どこにも安心できる要素が無い。そう思っているうちに、行き止まりについた。宿舎に向かっているはずが行き止まりの通路に止まるとは・・・

 アンナは胸の首飾りからある物を取り出した。それは銀の鍵だった。ある箇所に鍵を押し込めると、鍵穴が光り輝いては開き鍵を回す。アンナは笑顔で、

 

「基地司令が特別に作ってくれたんです。兵士が無断で入らないようにって。」

 

とニッコリ微笑んだ。彼なりの配慮だろうか?彼のことは全く読めない。そしてウィッチ専用の宿舎に入っていくアンナとエリーだった。

 

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 一方、基地司令室にて・・・静寂が包まれながらも、老兵はかつての部下である少女の言葉に耳を傾けていた。ぽつりと小さな言葉で囁く少女に老兵は優しく答えた。

 

「ーーーもう、怒ってない?私のせいだよね?」

 

グレイスがそう言うと、老兵は首を振った。それを見た彼女は安堵したのか、疲れがどっと出てきた。

 

「そっか・・・」

「疲れたのか?なら俺の部屋で寝な。」

 

そう言いつつ立ち上がり、彼個人が使っている寝室の扉を開けてくれた。グレイスは戸惑いを隠し切れず、まだ喋り足りなかった。

 

「全く。まだ喋りたいのか?」

「うん・・・」

「これで最後にしてくれよ。この後に哨戒任務に出なきゃならんからな。」

 

彼はため息つきつつも、グレイスのティーカップにアッサムのほのかな甘い匂いが注がれる。

 

「・・・ガリア。」

「ん?」

「ガリア迎撃戦はどうなったの?」

「その時か。」

 

 彼はそう言って部屋の隅に戻っては紅茶を温めなおす。部屋の隅で温度調節器を弄りながらしゃべる。

 

「ガリア解放戦の先駆けとして、迎撃戦が行われることを忌々しい連盟空軍の連中がやってきて、戦力提供しろと命じられた。」

 

彼の声は憤りを感じる。それぐらい連盟空軍が憎いんだろうか?グレイスが聞き直す。

 

「忌々しい?」

「そうだ。グレーシーのような幼い子供を前線に向かうなら、上層部が命を張ってでも赴くべきだと思ってね。将校だけじゃなく、政治家も向かわせるべきだと。」

 

 彼は部屋の隅に居て、グレイスから顔が見えない位置にいる。それでも憤りを通り越した何かを秘めた声だった。

 

「連中は、こっちで匿っているウィッチや亡命パイロットをよこせと言ってきたのに対して、俺だけで十分だと判断して、自ら志願した。潮時だと思ってね。」

「潮時?」

 

彼はグレイスに振り返った。彼の顔は憤りではなく、笑顔だった。

 

「最期の戦場にふさわしいと思ってね。死地に向かうには最適だって。」

 

それを聞いたグレイスは絶句した。涙がこみ上げて、なにも言い返せない。ダンケルクと同じように”命”を顧かえりみない行動。

 それが彼だ。グレイスは、まだ彼のことを知っているフリして、本当は”知らなかった”。何も知らないグレイス。後悔が募るばかりの時間が過ぎ去っていく。

 そんなグレイスを見て彼は、グレイスの横に座ってグレイスの手を握る。彼の手は温かく、まるで落ち着く魔法を宿しているかのように感じる。

 

「グレーシー・・・運命って解らないものだ。」

 

彼の言葉を重みがある。言葉の重みでグレイスは俯く。

 

「でも、こうやって生き残ったのは紛れもなくグレーシーのおかげなんだよ。」

 

彼の優しい言葉で顔を上げるグレイス。

 彼の顔は、悲しみでもなければ憤りでもなく、笑顔で傷だらけで昔のような原形もないパイロットだけど・・・彼は彼そのものであった。

 

「だから、生きてくれてありがとう。」

 

そう言って彼はグレイスを抱きしめる。抱きしめられながらグレイスは、再び涙がこぼれ落ちる。

 そんなグレイスに彼は、

 

「愛しき子よ。」

 

と泣き終わるまで慰めた。

 

 

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