メメント・モリ   作:阪本葵

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第20話 クラス代表パーティと凰鈴音

趙の言うとおり中国代表候補生の凰鈴音が二組に転入し、マドカの言うとおり代表候補生が凰に代わっていた。

一体どれだけ行動力があるのかと感心するスピードである。

趙は鳳の事が苦手らしい。

 

「なんか、いつも自信満々で何でも簡単に出来る子だから、出来ない子を馬鹿にするのよ」

 

中国でのIS合同訓練で初めて会い、課せられた訓練を凰はなんでもすぐにこなして行ったそうだ。

そこで、周囲の出来ない人間、そこには趙も含まれて居たそうだが、その子らにこう言ったらしい。

 

「こんなことも出来ないの? あんたらもう辞めたら?」

 

これで中国のIS操縦同期の大半を敵に回したそうだが、彼女は現中国の国家代表に気に入られていたそうで、それを盾にして言いたい放題。

その代表も凰には軽く注意し、周囲の人間には大目に見てやってくれと擁護する始末。

そんな感じで凰は同期の中で孤立していくが、実力は確かで、ついに代表候補生に大抜擢、さらに凰が増長し、仲の良い国家代表の女性も手が付けられなくなった。

それ程増長したからこそIS学園に入学しろという中国政府の命令も拒否するという暴挙に出れるのだろう。

そこで趙や他数名に授業料や生活費免除という特典をちらつかせIS学園に入学するよう命令、見事努力の甲斐あって趙はIS学園に入学できた。

さらに代表候補生に格上げされ、家族の生活保障までしてくれたので万々歳だ。

 

それを聞いた箒はぽろぽろ涙を流していた。

 

「おまえ……! 苦労したな……!」

 

エエ話や……エエ話や……! とつぶやく箒。

どうやら保護プログラムで転々と移転を繰り返していた箒は関西に住んでいたこともあるようで、たまに関西弁が出る。

周囲で趙の話を聞いていたクラスメイト達も趙に同情の目を向け、慰めはじめた。

 

「いやいやいや、たしかに凰さんは苦手だけど、私そんなに苦労したと思ってないし、むしろラッキーって思ってるし?」

 

趙の強がりと聞こえる言葉に、さらにクラスメイトは同情の目を向けた。

趙・雪蓮、代表候補生なのに、まったく代表候補生らしくない苦労人だった。

 

「というか、凰のその態度はまんま織斑一夏だな」

 

マドカは腕を組んでため息をつく。

もしかしたら転校するまでの数年で相当自信を付けたのか、それとも一夏をリスペクトして同じように振る舞っているのだろうか?

どちらにしても面倒臭い性格には変わりない。

 

「本当にうるさい方でしたわ」

 

はふぅと頬に手を添えため息をつくセシリア。

HRが始まる前に一組に宣戦布告という形で凰が乗り込んで来た。

そして嬉しそうに一夏と話す凰は、織斑千冬の登場によって拳骨強制退場という形で二組に帰って行った。

そこでやたらギャーギャー騒ぐ凰をみたセシリアは、どれだけ天才だろうがこんな淑女足り得ない女に負けたくないと心に誓ったのだそうだ。

そして休み時間になり三組にきてそれを愚痴るセシリア。

 

「おまえ何気に頻繁に三組にいるが、一組に友達居ないのか?」

 

「いますわよ! 失礼ですわね!!」

 

断固否定するが、そんなセシリアを、マドカは生暖かい目で見ていた。

 

「ああ、お前の脳内だけだろう? たぶん、そう思っているのはお前だけなんだろうな。うん、私はわかってるから、もう何も言うな。な?」

 

「ああもう!! 何故あなたはそう人を馬鹿にするんですのマドカさん!!」

 

「いいさ、私にその怒りをぶつけてストレス発散してくれ。さあ、バッチ来い」

 

「きいいいぃぃーーーっ!!」

 

セシリアも大概やかましい。

淑女はどうしたと言いたい。

 

「実力はどうなんだろう?」

 

照秋は凰の戦力が気になるようだ。

それを聞いたクラスメイトや箒、マドカ、セシリアは、「コイツ本当に脳筋だな……」とか思っていた。

 

「まず中国は人口も多く代表候補予備軍がかなりの数いるから、競争率は世界でトップだ。そんな国で一年で大抜擢、さらに専用機持ちだ。実力はかなり高いと見ていいだろう」

 

後で資料と映像を見て研究しよう、とマドカが言い、照秋は頷く。

 

「マドカさんも大概ですわねえ」

 

セシリアは呆れる。

それに同意するクラスメイト達。

マドカは、そんな周囲の反応にムッとした。

 

「なんだ、今度のクラス対抗戦で照秋を優勝させるためには、いやそもそも戦いには情報が最重要なんだぞ。おまえら、食堂のデザート半年フリーパスいらないのか?」

 

「欲しいです!」

 

「タダという悪魔の契約!!」

 

「スイーツという甘美な名前!!」

 

「おいしゃーす!!」

 

「わかればいいんだ」

 

突如一斉にマドカと照秋に頭を下げるクラスメイト達に、セシリアはビクッとした。

 

「デザート半年フリーパス……わたくしも一組のために織斑一夏を鍛えようかしら……」

 

「ああ、あんなヘタレの勘違い野郎に優勝は無理だ。潔く諦めろ」

 

「……ですわよねえ……」

 

セシリアの希望的観測をバッサリ真っ二つにするマドカ。

だが、セシリアも理解はしているので反論することなく、ため息をつくのだった。

 

 

さて、授業も終わり、照秋と箒は今日は剣道部の部活に参加した。

とはいえ、今日は夜から三組クラス代表就任パーティーがあるため早めに切り上げることになる。

そんな練習時間が減ることにものすごく残念そうな表情の照秋が何ともいえずかわいかったのだそうだ。

誰が言ったかはご想像におまかせする。

 

 

夕食を食べ終え一旦部屋に帰り明日の授業の準備をし、改めてパーティーに参加するため照秋と箒、マドカは食堂へ向かった。

途中でセシリアと会い、セシリアもパーティーに参加すると言い出した。

 

「昨日の一組のパーティーにも他のクラスの方が参加してましたわ」

 

まあ、あまり娯楽がない学園だから、こういったイベントに参加したいという気持ちはわかる箒とマドカは、特に反論することなくセシリアも連れて食堂へ向かう。

そんな途中で、再び照秋たちの前に生徒が現れた。

その生徒は身長が女児平均より少し低く、全体的に小柄だった。

栗色の挑発をツーテールにし、制服も肩の部分を見せるような改造を施している。

勝気な表情で、八重歯が見える不敵な笑みを浮かべ、自信満々といった感じで胸を張って照秋たちの進路をふさぐ。

 

「何の用だ、二組の転入生、凰鈴音」

 

マドカがわずかに体を移動し、照秋をいつでも庇えるように構える。

箒は、コイツが凰鈴音かとジッと観察し、セシリアは眉を顰めていた。

 

「あんたらには用は無いわ。用があるのは照秋によ」

 

ビシッと照秋を指さす凰に、少し驚く照秋。

だが、照秋は小学生のとき凰とほとんど話をしたことが無い。

いきなり用があると言われても心当たりが思いつかない。

悩んでいると、不敵な笑みから一転、ニコリと微笑む凰。

 

「久しぶりね、照秋」

 

「あ、はい、そうですね。お久しぶりです」

 

とりあえずビッと姿勢正しく会釈をする照秋。

 

「やだ、なんで敬語なのよ。それに久しぶりに会ったんだから、もっと喜びなさいよ」

 

「はあ……」

 

かなりフレンドリーに話しかけてくる凰に、照秋は戸惑う。

先程も記述したが、照秋は凰とほとんど話をしたことが無い。

友達かと問われると、そこまで親しい間柄だとは言えないだろう。

 

「昔話に花を咲かせたいのだろうが、我々は急ぎでな、また今度にしてくれるか」

 

箒が食堂へ行くよう促すと、凰は箒を一瞥して「あたしも付いていく」と言い出した。

セシリアがいる手前、他のクラスの人間はダメとは言えず、一緒に食堂に行くことになった。

その間、凰は照秋にマシンガンかと思うほど話しかけていた。

 

「中学はどんなだったの?」

 

「剣道続けてるの? え、全国大会優勝!すごいじゃない!!」

 

「友達できたの? そう、よかったわね」

 

等々。

照秋は適当とは言わないが、簡素に応え、それに満足そうに頷く凰。

結局、食堂に付くまで凰はずっと照秋を質問攻めにした。

 

 

「それでは、織斑照秋君! 三組クラス代表就任おめでとー!」

 

「おめでとー」

 

皆一斉にソフトドリンクの入ったグラスを持ち上げる。

そして各々持ち寄った菓子をテーブルにぶちまけ、ワイワイと楽しみ始めた。

結局、照秋をダシにして彼女たちは騒ぎたかったのだろう。

食堂にはクラスの人数以上の人間がいた。

本当に他のクラスの子もいるようだ。

 

照秋は中央のテーブル、いわゆる「お誕生日席」に座り、チビチビソフトドリンクを飲んでいた。

右には箒、左には何故か一組のセシリアが座り、マドカは照秋の近くで菓子を食いながら照秋を見張る。

 

照秋もこういったみんなでワイワイ楽しむことは好きなのだが、如何せん今までの付き合いは男ばかりだった。

色々な香水の匂いが立ち込め、きゃいきゃい甲高い声が響くイベントには免疫などないのだ。

照秋からすれば、異空間である。

だから、どう対応すればいいのかわからず、とりあえず大人しく飲み物と目の前の菓子を口に入れることに専念した。

頻繁に照秋に近寄り話しかけてくるクラスメイトや、少しでもお近づきになりたいと思っている他のクラスの子にしっかり対応するのだが、それを横で見ている箒とセシリアはだんだん不機嫌になってくる。

他の生徒よりもっと自分たちをかまえと顔に書いてある。

 

「人気者だな」

 

「本当に、楽しそうですわね」

 

皮肉を言う二人に、照秋はニコリと笑いかけ言った。

 

「みんな楽しそうにしてるからね。みんなが楽しいんならそれが一番だよ」

 

なんとも達観した返答をする照秋に、箒とセシリアはあきれ果てた。

 

「お疲れ様照秋」

 

人の波がひと段落したとき、凰がグラスを片手に持ち照秋に近寄ってきた。

 

「クラス代表おめでとう」

 

グラスを突き出してきたので、照秋も自分のグラスを持ち上げ、チンとグラスを傾ける。

 

「ありがとうございます」

 

「だから、同い年なんだから敬語じゃなくていいって。……あのさ……」

 

苦笑する凰は、何か言おうと口を開いたとき、乱入者が現れた。

 

「はいはーい、新聞部でーす。話題の新入生、織斑照秋君に特別インタビューをしに来ました~!」

 

新聞部と名乗る生徒のリボンを見ると、色が違った。

上級生なのだろう。

 

「あ、私は二年の黛薫子(まゆずみかおるこ)。よろしくね。新聞部副部長やってまーす。はいこれ名刺」

 

照秋は黛と名乗る子から名刺を受取る。

画数の多い名前だなと思ったが、黛は間髪入れずに話をしてきた。

 

「では、ズバリ織斑照秋君! クラス代表になった感想をどうぞ!」

 

ボイスレコーダー片手に期待の目を向ける黛。

だが、照秋はそんな期待に応えれるボキャブラリーはない。

 

「精一杯頑張ります」

 

簡潔に応える照秋に、黛はこれ見よがしにため息を吐いた。

 

「は~。お兄さんの一夏君といい、君といい、なんでそんな無難な事しか言わないの?」

 

理不尽な不満である。

昨日は一組のクラス代表就任パーティーを開き、黛は取材に来た。

そして照秋同様の質問をしたが、同じような返答をされ、結果ねつ造すると言い出したのだ。

 

「確かこの方、昨日も同じようなことを織斑一夏に聞いて、最後にはねつ造するとか言ってましたわ」

 

セシリアはジト目で黛を見ると、黛はあははーとごまかし笑う。

そんな黛に対し、照秋はビシッと背筋を伸ばしまっすぐ答えた。

 

「精一杯頑張ります」

 

「あ、もうちょっと気の利いたセリフないかなー?」

 

「精一杯頑張ります」

 

「あのー、ね?」

 

「精一杯頑張ります」

 

「……はい、そう書きます。ねつ造もしません」

 

照秋が頑固一徹と一貫してしまい、取りつく島も無くなった黛はがっくり肩を落とし折れた。

そして、何故かそれを見てふふんと鼻高々な態度の箒とセシリア。

 

「そ、それじゃあ、照秋君とクラスの子たちで写真撮影しましょうか」

 

黛がそう言うと、マドカがこちらに近付き黛に拒否しようとするのがわかった。

企業に所属する照秋には肖像権というものがあって、マドカや箒は代表候補生であるし照秋に関しては世界で二人だけのIS男性操縦者だ。

各メディアはこぞって照秋を映そうと躍起になる。

そこでワールドエンブリオ社が許可を出さない限り撮影や取材はできないと発表。

当然だろう、照秋はワールドエンブリオにとって「商品」と同義なのだ。

もちろん社長である篠ノ之束が照秋を商品だとは思っていない。

そういう「表向きの理由」で世間を納得させ、過剰なマスコミ報道と取材をけん制したのだ。

マドカは照秋の事を思って行動を移そうとしたのはわかる。

だが、照秋はそれを軽く手を差し出し制した。

そんなことをして場の空気を悪くさせたくなかったのだ。

それを察したマドカは、小さく頷くと黛を通り過ぎ照秋の背後に立ち小声で言う。

 

「まったく、お前は周りに気を遣い過ぎだ」

 

「いいじゃないか、この学園内くらいは」

 

「ふっ、まあいいさ」

 

お互い見ることなく小声で会話を交わし、小さく笑う。

照秋の横でその会話を耳聡く聞いていたセシリアは、マドカが何をしようとして、照秋が何を止めたのかわかり、その寛大な処置にまた照秋への好感度が上がった。

反対側で箒だけがわけがわからず首を傾げていた。

 

にこやかに笑う照秋、そしてその周囲に集まる笑顔のクラスメイト達。

そんな光景を目を細め少し離れた距離で眺める凰は、何も言わず食堂を後にした。

 


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