メメント・モリ   作:阪本葵

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無理があるなあ……


第29話 亡国機業について語る

「もう、せっかくいいお酒を手に入れたのに」

 

「お前はアル中か」

 

マドカはスコールを呼び出し、すぐに来たのだが手には琥珀色の液体が入ったボトル片手に愚痴りだした。

全員がスコールを見てため息をついたが、密かに千冬はそのボトルを見て生唾を呑みこんだ。

 

マドカは早速スコールに亡国機業に在籍していたことが漏れていたことを言うと、スコールは先ほどまでのだらけた態度から一変、真面目な顔になった。

 

「どこからの情報? 更識かしら?」

 

「いや、一夏だ」

 

千冬がスコールの質問に答えると、スコールは目を細め一夏を見た。

背筋に悪寒が走ったような感覚が一夏を襲い、ぶるっと震える一夏。

だが、すぐに一夏に興味を無くしたのか、スコールは一夏から目を離し千冬を見てニコリと笑った。

 

「で?」

 

「ん?」

 

「私たちが亡国機業という秘密結社に在籍していたとして、それに何の問題が?」

 

スコールにそう言われると、千冬は何も言えなくなる。

亡国機業は確かに秘密結社ではあるのだが、それだけである。

生徒会長の更識楯無にも調べてもらったが、亡国機業という秘密結社自体はギリギリではあるが違法性のない集まりなのだそうだ。

ただ、そのメンバーが世界各国の要人が多く在籍していたこともあり、裏の世界では要注意とされていたらしい。

亡国機業の理念は『恒久的平和』であり、戦争など武力行使に反対の態度を取っている。

更識の情報網でも亡国機業が何か重大な違法的な事をしでかしたという情報は上がっていないという。

真実として、亡国機業は内部で二極派閥に割れており、その一派閥である過激派は様々な犯罪行為を起こしていたのだが、亡国機業の行動として認識されていなかったことが大きいだろう。

噂としては流れていたのだが、現在亡国機業は既にないため、もう確認のしようはない。

過激派に在籍していたスコール、オータム、マドカの三人も工作員として様々な汚れ仕事をこなしてきているが、逆に亡国機業として認識されていないことを逆手に取りやりたい放題だったのだが。

そんな亡国機業が突然壊滅した。

世界各国の亡国機業メンバーの要人が同じ日に次々暗殺や事故に遭った。

また、工作員など下位メンバーの元にも襲撃があり、ほとんどの亡国機業所属の者が死んだという。

いきなり亡国機業が壊滅してしまい実は後ろ暗い事をして恨みを買っていたのではと勘ぐってしまうが、すでに壊滅してしまった秘密結社でありその真相を確認することはできなかった。

千冬はこのこと自体にはさほど興味はない。

だが、確認したいことがあるのだ。

 

「第二回IS世界大会決勝戦、一夏が誘拐された」

 

千冬の言葉に、箒は驚く。

一夏が誘拐されたことがあるという事を知らなかったのだ。

 

「その時の実行犯が亡国機業であった疑いがある」

 

今度はスコールとマドカに驚きの顔を向ける。

これには照秋も驚いた。

だが、スコールとマドカは首を傾げる。

 

「知らんな」

 

「聞いたことがないわ」

 

二人は否定するが、今まで黙っていた一夏は好機と見たのか二人に噛み付く。

 

「嘘つけよ! オータムって奴が俺を監禁したんだ!」

 

「え?」

 

スコールは一夏の言葉に驚く。

 

「モンドグロッソの決勝戦よね?」

 

「そうだよ!」

 

一夏は自信満々にスコール相手に声を荒げるが、スコールは、うーんと首を傾げた。

 

「おかしいわね……」

 

「何がだよ!」

 

「モンドグロッソ決勝戦は私も覚えてるわ。織斑先生が決勝戦を辞退したのよね。……でもおかしいわね」

 

「だから、何がだよ!!」

 

「そのときオータムは私の隣で一緒にテレビ中継を見てたもの」

 

「えっ!?」

 

「しかも日本で」

 

「嘘つけよ!!」

 

スコールの否定に一夏は噛み付くが、しかしマドカも追い打ちをかける。

 

「私もその時は日本にいたな」

 

「お前ら仲間が話を合わせたって!」

 

「そもそもモンドグロッソの時には亡国機業はもう無くなってたし」

 

「……え?」

 

一夏はスコールが何を言っているのかわからなかった。

 

「そちらの情報通さんに確認を取ればいいわ」

 

「しばし待て」

 

千冬は急いで携帯電話を取り出し電話をかける。

相手は更識楯無だろう。

すると、突然コンコンとドアをノックする音が。

千冬は確認もせずドアを開けると、そこにはIS学園の生徒会長、更識楯無が「労働外時間」と書かれた扇子で口元を隠し立っていた。

 

「人使いが荒いですね織斑先生」

 

「すまない。だが情報が錯綜していて私には手に負えんのだ」

 

更識は部屋に集まるメンツを確認すると、なるほどと頷く。

そして、一夏達にニコリと微笑んだ。

美少女といっても過言ではない美貌に青い髪、そしてモデルのような体だが、その佇まいは隙がない。

 

「はじめまして、かしら。私はIS学園生徒会長、更識楯無よ。よろしくね」

 

一夏は、更識が現れ、味方が増えたことと、その美貌を間近で見たことにより喜んだ。

 

(コイツもいずれ俺のハーレム要員になるのか。良い体してるぜゲヘヘ!)

 

そんなゲスい事を考えながらも、表情はさわやかな好青年の笑みを張り付ける。

そして青い髪の女性というものを初めて見た照秋はというと、とても失礼なことを考えていた。

 

(日本人だから髪を染めてるのか……色を抜いたのか……とにかく不良だなあ。箒やマドカみたいな黒髪の方が綺麗なのに。それになんか色のチョイスがオバさんくさい)

 

美人なのに残念な人だ。

照秋は更識を残念美人に認定した。

……とか照秋ならそんなことを考えているだろうなあ……と、照秋の思考が分かっている箒、マドカ、スコールは更識に憐憫の目を向けた。

 

「……なんで私は初対面の後輩にそんな憐憫の目を向けられるのかしら?」

 

更識は照秋たちの視線に戸惑い、扇子には『何故?』と書かれていた。

 

「別に、日本人なのに青い髪に染めて不良だなあ、残念だなあ、馬鹿じゃねえのとか、ババアくせえ色の髪だなあとか、そのでかい胸が忌々しい抉れてしまえばいいのにとか思ってねえよ?」

 

マドカが照秋が思っていることと自分が思っていることをズバッと言う。

特に胸の事は完全に逆恨みだ。

それに過敏に反応する更識は『心外!!』と書かれた扇子をパンッと広げる。

 

「声に出てるわよ結淵マドカさん! 何最後の私怨は!? それにこれは染めたんじゃなくて地毛よ!!」

 

「え? もはや日本人ですらないのか!? あんた異世界人か!?」

 

至極真面目な顔でツッコむマドカ。

照秋も同じ考えだったようで、ものすごくびっくりしていた。

 

「地球人で地毛が青とかありえねーだろー。 そんなもん改造人間か異世界人くらいだろ? ……いや宇宙人? いやいや、むしろ生物ですらないのか?」

 

「私は地球人だし日本人なの! この地毛は更識家特有の遺伝なの!!」

 

「ということは、アンタの先祖には異星人か異世界人がいてその血が……」

 

「ちがーう! 生粋の日本人! 地球人! 混じりっ気なしの純度100パーセント日本人!! ――ってそこ! 織斑照秋君! 『え? 違うの?』って顔で私を見ないの!!」

 

マドカにいいようにからかわれ、手玉に取られる更識を見て、千冬は大きくため息を吐いたのだった。

 

 

 

「……それで、亡国機業関連の話ですか?」

 

さんざん弄られながらもなんとか平静を取り戻した更識は、自分が呼ばれた理由を千冬に聞く。

千冬は更識の問いに無言で頷いた。

千冬は更識にスコールとマドカの話していたことを説明する。

 

「たしかに、私たちの入手した情報では亡国機業はモンドグロッソ開催以前に壊滅されたとあります」

 

「そ、そんな!?」

 

更識が味方になるかと思っていたが、更識の持ってきた情報は一夏の原作知識を否定する答えだった。

あまりにも原作と剥離している状況に、一夏は混乱する。

 

「亡国機業は秘密結社であるが故に、様々な憶測や噂がありました。やれ、亡国機業に篠ノ之束博士が関与しているとか、世界征服を企んでいたとか、ISを全て破壊させる計画があったとか」

 

まあ、どれもこれも噂だけど、と付け加える更識。

 

「そもそも、亡国機業がどこの組織に壊滅されたのかすら不明なんです」

 

裏の世界ですら『恒久的平和』を掲げる秘密結社が何故壊滅したのか? 

世界中の要人が幹部を務める組織を全員抹殺できる力を持ち、尚且つ正体を明かさずに迅速に行える隠密性という特異性に、そんな組織が思い当たらないのである。

 

「亡国機業を壊滅したのは篠ノ之束博士だ」

 

「……っ!?」

 

マドカの衝撃の告白に、千冬と更識は驚きに声も出なかった。

照秋と箒も驚いていた。

 

「私とマドカ、オータムのスリーマンセルで紛争地帯の任務……一般市民への救援物資配布をこなしてるとき、篠ノ之束博士が乱入してきたのよ」

 

本当は救援物資配布なんかじゃなくてISでの武力介入なんだけど、とスコールは心の中でつぶやいた。

 

「私たちは所詮機業では下っ端の工作員だからな、篠ノ之束博士が何故亡国機業を壊滅させたのかは知らん。それに別に企業が壊滅されようが知ったことではないからな」

 

マドカのあまりの言いざまに、スコールは苦笑する。

二人とも本当は何故亡国機業を壊滅させたのかという理由を知っているし、さらにスコールはマドカの出生の秘密を知っているため、マドカが機業をよく思っていないこともわかっている。

だから、あえて何も言わない。

 

「まあ、それで私たちは路頭に迷ってるところを、篠ノ之束博士が就職先を斡旋してくれたのが、ワールドエンブリオってわけね」

 

「職を斡旋って……」

 

事実は小説よりも奇なりというが、篠ノ之束という人間をよく知る千冬は、束がまさか他人に対して世話をする姿が想像できないでいた。

 

「姉さん……やっと真人間の心を手に入れたんですね……!」

 

そしてよくわからない感動をしている箒。

 

「私たち発信の情報を信じる信じないは勝手だが、これが真実でありこれ以上の事は知らんぞ」

 

「では、どこの組織が一夏を……」

 

千冬が顎に手を当て考え込む。

 

「知らんな。そんなビビりが誰にさらわれようが私たちの関知するところではない。だが、テルを誘拐した組織は判明している」

 

「……なに!?」

 

千冬は驚き、同時にしまったと顔を歪めた。

千冬は恐る恐る一夏の顔を見る。

そこには、驚き口を開けている一夏の顔があった。

 

「……誘拐? 照秋が? 知らねえぞ俺」

 

「……織斑千冬、貴様まだこのビビりに言ってなかったのか。ということはまだテルの事で話し合いもしてないんだな。意気地なしでバカかお前は」

 

呆れ顔のマドカ。

そんなマドカの罵倒に何も言い返さず俯く千冬。

照秋も呆れ顔で千冬を見ているが、そんな顔を怖くて見れない千冬は俯くばかりである。

 

「まあ貴様らの家庭内のゴタゴタは今はどうでもいいさ。とにかく、テルを誘拐した組織は[クラッシュ・ドーン(衝撃の夜明け)]とかいう組織だ」

 

「クラッシュ・ドーンですって?」

 

更識が反応する。

マドカの言うクラッシュ・ドーンという組織の名前に聞き覚えがあるのだ。

 

「クラッシュ・ドーンってあの超武闘派組織の?」

 

クラッシュ・ドーンはまだ若い秘密組織だった。

この組織は紛争地帯のゲリラに加担し兵器や傭兵等を補強していた。

しかもこの組織、資金源が不明なのに途方もない資金を有すると言われていた。

何故なら、いちゲリラ組織に対し無担保で人材と兵器を大量に投入させていたからだ。

更にその兵器が最新式で、傭兵にしても歴戦の優秀な兵士が多く投入されていた。

噂では兵器開発企業が裏で糸を引き自社の試作兵器の実験とも、傭兵たちの戦場を求める狂気とも言われているが確証が取れていない。

取れてはいないのだが、しかしだ。

 

「まあ、そのクラッシュ・ドーンも篠ノ之束博士がぶっ潰したがな」

 

フフン、とドヤ顔のマドカの言葉に驚く楯無。

確かに、クラッシュ・ドーンも1年前に壊滅したという情報は入っているし、確認も取れている。

クラッシュ・ドーンの本部とされる、イスラエルの山間部にある岩山を切り開いた、とある場所が人や岩はおろか、草すら生えない更地を化していたという。

そんな所業を篠ノ之束が行ったという事実に、ブルリと震える楯無。

しかし、楯無はそれ以前の情報が気になった。

 

「クラッシュ・ドーンが日本に潜伏してたなんて情報は……」

 

「更識の情報網もたかが知れてるな」

 

マドカの馬鹿にするような口調にムッとする更識。

事実、更識はワールドエンブリオの真実にたどり着いていないし、亡国機業の内紛や壊滅の真実についても知らない。

マドカ達が亡国機業に在籍してたことすら千冬に連絡を受けるまで知らなかったのだから、言われて当然だろう。

 

「クラッシュ・ドーンはこのISで狂った世界を修正すると明言していたからな。その急先鋒である織斑千冬をどうにかしようとテルが誘拐され、結果篠ノ之束博士の怒りを買い返り討ちに遭ったわけだが」

 

「そういう意味では、もしかしたら一夏君もクラッシュ・ドーンによって誘拐されたのかもしれないわね」

 

スコールの推測に、フムと考える更識と千冬。

 

「まあどうでもいいさ。こんなビビりが死のうがな」

 

マドカの辛辣な言葉に、千冬は眉を顰め、更識も口をへの字にしてマドカを見た。

そして、暴言を吐かれた当の一夏も、怒り心頭で顔を真っ赤にしているが、マドカはそんな一夏を睨みつけ無理やり黙らせる。

 

「それよりもだ。ビビリのお前が亡国機業の事を知っていたことの方が興味あるな」

 

ドキリと心臓が跳ね上がるような感覚に陥る一夏。

 

「なぜお前は私たちが亡国機業に所属していたことを知っていた? 何故オータムの名前を知っている?」

 

――なぜ一般人のお前が亡国機業の存在を知っている?

 

マドカとスコールの突き刺さるような視線が一夏へとんでもない重圧を与える。

 

――しまった。

 

一夏は全く言い訳を考えていなかった。

興奮して裏付けの事を全く考えず喋ってしまった。

今ここで原作知識なんだとか言っても精神病棟にでも放り込まれるかもしれない。

どうしよう、どうしようどうしよう……

大量に噴き出す汗、震える唇。

高鳴る心音。

苦し紛れにつぶやいた言葉、それは――

 

「……ゆ、誘拐されたときは、たしかにそう言っていたんだ……」

 

苦しい言い訳である。

だが、そう言ってしまえば裏付けを取ることはできない。

何故なら誘拐されていた時の状況を知っているのは一夏本人だけなのだから。

しかし語るに落ちたとはこの事である。

まさかそんな苦し紛れの言い訳と取れるような言葉が通じると思っているのだろうか?

流石の千冬や楯無も深いため息つく。

だが、マドカとスコールはフンと鼻を鳴らしとんでもないことを言った。

 

「まあ、もしかしたら亡国機業の生き残りがいて束博士への復讐として親友である織斑千冬のIS世界大会を邪魔したかったという可能性もないではないな」

 

「そうねえ、亡国機業を問答無用で壊滅されたんだから恨む人もいたでしょうし、何人かは生き残っていても不思議ではないわねえ」

 

「え?」

 

まさかのマドカとスコールの肯定的意見に間抜けな声を上げる。

 

「ま、こんなビビりが言っている情報は所詮壊滅した組織の古い情報だし、少し調べればわかるようなものだ。何の役にも立たないクソ情報ってことだな」

 

肯定的意見で見方をしたのかと思ったら思いっきり落とすような罵詈雑言。

 

そんなマドカと一夏のやり取りを眺めながらも、楯無と千冬は情報を整理する。

そう、マドカの言うとおり、壊滅した組織の3年前の情報など何の役にも立たない。

マドカもスコールも、一夏が亡国機業の情報を知っていた事については何とも思っていない。

しょせん過去の情報だし、ネットではそういった都市伝説が流れている。

事実、亡国機業の都市伝説はネットに流れているのである。

曰く、世界征服を目論んでいる。

曰く、キリストの子孫を託っている。

曰く、IS委員会の裏の顔。

曰く、宇宙からの使者。

嘘ばかりの内容だが、しかし亡国機業という名前だけは真実であった。

一夏も、ネットからの情報と、誘拐された時の誤った記憶、さらにマドカやスコールたちワールドエンブリオに組する人間を逆恨みする気持ちから混同し、こんな事を言った可能性もあると考える。

そもそも誘拐するという犯罪行為において、わざわざ人質の前で本名を喋る犯人もいまい。

おそらく、コードネームか、あだ名か、そんなところだろう。

そう考えると、犯人は4人、コードネームはスプリング、サマー、オータム、ウィンターといったところか。

そのオータムというコードネームがたまたまスコールたちの知り合いだったという事だ。

……ん? たしかオータムとは、スコールの恋人だったはずでは?

いや、そもそもそれ以前にオータムという名前に聞き覚えがある。

どこだったか……

千冬は先日の事を思い出しながら、さらに別の場所で聞いたことのある名前だと自身の記憶を掘り起こそうとしたが、楯無との情報の整理には関係ないことだと思い、思い出す作業を止めた。

 

「……あながち間違っていない、というところでしょうか」

 

「亡国機業と、一夏の誘拐犯の繋がりは不明だが、彼女たちは無関係、と考えた方がいいだろうな」

 

「そうですね」

 

結果、一夏の記憶と情報による亡国機業発言は、多聞の憶測と根拠のない誤情報であると結論付けられた。

そして楯無と千冬が話し合っているうちに、とうとう一夏がキレた。

一夏は我慢の限界がきて、目を剥く。

 

「なんなんだアンタは! さっきから俺の事馬鹿にして! それにビビりビビりって!! 俺は織斑一夏って名前がある!!」

 

「無人機のISを目の前にして逃げようとした奴にビビりと言って何が悪い」

 

マドカに指摘され、言葉が出ない一夏。

 

「あ、あれは……あんな数の無人機相手なんて無理だ。それに俺はつい最近までISも知らない一般人だったんだ! あんな戦争みたいなこと出来るわけがないだろう!?」

 

「テルは出来たぞ。しかもお前らが手も足も出ない相手を余裕で倒した」

 

「照秋はイカサマしてんだよ! こんなクズが俺より強いはずない! どうせ専用機で持ってるISがチートで照秋自身は昔のままだろうが!!」

 

一夏は照秋を指さし叫ぶ。

そんな一夏の暴言に、箒とマドカは一瞬で怒りに顔を染め一夏に殴りかかろうとした。

しかし、照秋が手で制したと同時に千冬が一夏の頭に拳骨を落とした。

ドゴンッと生身の肉体からあるまじき音が出る。

あまりの衝撃にうずくまり悶絶する一夏。

 

「弟をそんなふうに言うな馬鹿者」

 

「ぐおおぉぉっ……! ち、千冬姉?」

 

「照秋はお前より強い」

 

千冬の言葉に衝撃を受ける一夏。

照秋が俺より強い?

何を言ってるんだ千冬姉は?

そんな筈がないだろう!?

 

「ふざけんなよ! 俺がこんな奴に……」

 

そう言って照秋を睨んだ一夏は、それ以上言葉がでなかった。

照秋の目と合い、一夏は息を呑む。

照秋の目が、一夏を射抜くような視線が、一夏の体を硬直させた。

 

な、なんだこれ?

体が……なんだよこれ!?

なんで俺が照秋みたいなクズに見下されてるんだよ!?

 

しかし一夏は以前にも照秋にこの視線を向けられていることを覚えていない。

照秋に対し理不尽な八つ当たりをし、逆に絞められたという、つい最近の出来事を。

全く都合の良い脳みそである。

 

「一夏、お前も自分の部屋に帰れ」

 

千冬に冷たく退出命令される一夏だが、そんなことを素直に認める一夏ではない。

 

「なんでだよ! 俺はこいつらの悪事を暴露してやるんだ!!」

 

「いい加減にしろ!!」

 

千冬に一喝されヒッと小さく悲鳴を上げ委縮する一夏。

 

「出ていけ。ここから先はお前の出る幕はない」

 

ぴしゃりと千冬が言い放つ。

オオカミのような鋭い視線で睨まれた一夏は、何も言い返せずすごすごと部屋を出ていったのだった。


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