メメント・モリ   作:阪本葵

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第4話 千冬の罪

今日は照秋の学校の卒業式である。

卒業式といっても規律が厳しいと有名な男子校であるため、伝説の木の下で告白やら卒業前に寄せ書きノートを書いてきゃいきゃいはしゃぐやらの可愛らしいイベントなんかあるはずもなく、厳粛な空気の中、粛々と式が進められた。

この日は生徒の父兄が学校に入場出来る数少ないイベントであり、また息子の成長した姿を見る一大イベントでもある。

だからこの学校の卒業式にはほとんどの生徒の父兄が参加する。

 

照秋の姉である織斑千冬も例に漏れず、忙しい仕事の中なんとか時間を作り照秋の卒業式に参列していた。

だが、弟の照秋に声をかけることもなく、また見つからないように体育館の隅で少し隠れて、であるが。

壇上には、一人ひとりが校長から卒業証書を受け取っている。

現在照秋の前のクラスが終わり、生徒の名前を読み上げる担任の先生が変わる。

もうすぐで照秋の番だ。

なにせ織斑という苗字だから、すぐに呼ばれるだろう。

するろ、担任の先生が生徒の名前を読み上げて三人目、はいっと大きな声と共に壇上に上がる我が弟。

三年ぶりに見る弟は、たくましく育っていた。

参列者からカメラのフラッシュが一層焚かれる。

照秋は一部では有名人だ。

ずっと剣道に打ち込み、三年生で個人、団体ともに全国優勝、さらに最優秀賞という成績を残し、剣道界では赫々剣将などと呼ばれる逸材として取り上げられている。

雑誌や新聞の写真で見るよりたくましく、凛々しく見える弟。

今の、バイトに明け暮れている一夏とは比べるまでもなく、制服を着ていてもわかる鍛え上げられた肉体、滲み出る強者の覇気、佇まいに、千冬は目頭が熱くなった。

……よくぞ、よくぞここまで成長してくれた。

流石は私の弟だ、と褒め称える。

何故千冬が体育館の隅に隠れるように見るなどという、奇妙な態度で弟の卒業式に参列したのかというと、千冬には照秋に対し負い目を感じているのである。

思い返す度にその時の自分を殴り飛ばしたい気持ちになる、あの最悪の選択。

 

 

 

千冬はあの日、自身が教師として働いているIS学園の職員室で書類整理を行っていた。

そんな時、自分の携帯電話に見知らぬ電話番号から通知が来ていたのだ。

千冬は良くも悪くも世界で最も有名な女性である。

第一回IS世界大会覇者である最強の称号『ブリュンヒルデ』を持つ最強の女性。

ISによって歪んだ世界の理、女尊男卑の代表格ともとれる世間の認識、それが今の織斑千冬である。

だから、どこから嗅ぎ付けたのか千冬の生活パターンに割り込み、スートーカーまがいの変な輩や他国の勧誘、女尊男卑反対派やらが接触してくる事象が多々あった。

知らない電話番号、非通知からの電話なんて日常茶飯事だったのだ。

そんなときは無視する。

放っておけば勝手に向こうが切る。

だが、この日の電話はいつまでたっても止まなかった。

 

もしかしたら知人の電話番号が変わり、その電話からかけてきたのかもしれない、そう思い、千冬は電話に出た。

 

「もしもし」

 

『……ちっ、やっと出やがったか。お前、織斑千冬だな』

 

「ああ、そうだが貴様は誰だ」

 

相手は知らない声の男だった。

しかも言葉遣いが乱暴だ。

また女尊男卑の文句でも言いに来たのかとため息を吐いたが、今回はそれより性質が悪かった。

 

『てめえの弟、織斑照秋は預かっている。返してほしければこちらが指定した場所へ来い』

 

また来た。

家族の狂言誘拐だ。

これで何回目の狂言誘拐電話だろうか、十回目から数えていない。

実際、以前もう一人の弟、一夏は誘拐された。

その時はドイツからの協力情報により助けることが出来たが、これは自分のふがいなさが原因であると自覚しているし、もうさせないと誓ったのだ。

その出来事以降、いつどのような状況にも対応できるように家族のスケジュールを把握するようにしているし、密かに日本政府の人間に護衛も頼んでいた。

それは照秋も例外ではなく、全寮制であるから残念ながら護衛は叶わなかったが、キッチリスケジュールは把握済みだ。

千冬自身、最低週一回は必ず家に帰り一夏の状態を確認しているし、照秋とも連絡を取るようにしている。

たしか今日は修学旅行で、京都に行っているはずだ。

何かあればすぐに電話するように学校側にもお願いをしている。

そして、学校から緊急の電話はかかってきていない。

つまり、これは狂言誘拐、いたずら電話だと判断した。

 

「私に織斑照秋などという弟はいない。ふざけた電話をする暇があるな真っ当な職でも探すんだな」

 

一方的に電話を切り、着信拒否設定をする。

はあ、とため息をつき、冷めたコーヒーを一気に流し込んだ。

 

――その二時間後、学校側から緊急の電話があった。

照秋君が何者かに拉致され、すぐに保護したが負傷し現在病院に搬送していると――

 

千冬はすぐさま搬送された京都の病院へ向かった。

病院に駆けつけ、弟の無事を確認しようと病室に向かったが、その入り口いた私服の警察官二人に止められた。

弟に会いに来たと警察に説明すると、とりあえず警察から経緯の説明を受けた。

修学旅行での自由行動中に、照秋は覆面の男数名に車に押し込められ拉致されたのだという。

その時、護衛任務を受けていた政府のSPは全く役目を果たさず呆然とし、同じグループの生徒がすぐに担任に連絡し、警察に通報、捜索が始まった。

見つかったのは、生徒から連絡を受けた一時間ほど経った頃、一般人の通報によってだった。

発見された現場は府内の廃工場、照秋は気絶し、全身数か所の打撲と肩に拳銃による負傷。

幸い銃弾は貫通し、障害が残るような傷ではないとのことだったが、れっきとした重傷だった。

犯人と思われるグループは全員で四名らしい。

全員が男だと思われ、全員が同じ廃工場で絶命していた。

その現場は、まるで爆心地のようだったそうだ。

何故先ほどから曖昧な表現が多いのかというと、犯人と思われるグループの死体が原形をとどめていなかったからだ。

なんとかバラバラになった肉片をかき集めわかった結果得た情報なのだという。

照秋の護衛任務に就いていたSPは即刻任務を外されたらしいが、千冬はそんな犯人やふがいない護衛の情報より、照秋の方が心配だった。

早く会わせてほしいと警察に言った。

だが、警察は面会を許さなかった。

 

「何故だ」

 

思わず殺気を込めて睨んでしまうが、家族が心配なのだから仕方のないことだろう。

しかし、警察はこう言った。

 

「本人が拒否している」

 

「織斑千冬には会いたくないと言っている」

 

千冬は目の前が真っ白になった。

守るべき家族に拒絶された。

たしかに、照秋が危険な目にあったのは千冬に原因がある。

あの犯人の電話に従えば、照秋はここまで重傷は負わなかっただろう。

だからこそ謝りたかったのだ。

それを、照秋は拒否した。

謝る機会すら与えてくれないのか。

 

「見たいものしか見ない。だから真実がわからない。愚かですね、織斑千冬」

 

呆然としていると、後ろから声をかけられた。

振り向くと、そこには眼鏡をかけた少女が立っていた。

少女は、おそらく一夏や照秋より2~3歳ほど年下に見える。

黒髪をナチュラルミディアムヘアに、軽くワンカールをかけているであろう、自然なスタイルに仕上げている。

服装はラフなニットワンピースにレギンスという簡素な出で立ちの少女は、眼鏡の奥から見る瞳に怒りを滲ませ千冬を睨んでいた。

しばらく二人でにらみ合っていると、警察が間に入り千冬に紹介した。

 

「ああ、彼女は織斑照秋君の第一発見者です」

 

「ワールドエンブリオ所属の結淵(ゆいぶち)マドカです。よろしく、ブリュンヒルデさん」

 

皮肉を込めてブリュンヒルデと言われ千冬は顔をしかめるが、彼女が弟の第一発見者であるなら失礼な態度はできない。

 

「……弟を助けていただき、感謝します」

 

「別にあなたのためじゃないです」

 

礼に対しそっけない返事を返されムッとする千冬。

なんなんだ、このエラそうな小娘は?

たしかワールドエンブリオ所属とか言っていたな?

ワールドエンブリオ……最近急成長をはじめISのOS開発に携わり、世界に名を轟かせた新進気鋭の企業だったはず。

しかし、この小娘の顔……一夏や照秋に似ているような……

 

「何?」

 

マドカと名乗る少女は眼鏡の蔓を掴み少し持ち上げ眉を寄せる。

どうやら千冬は結淵マドカを気付かぬうちに睨んでいたようで、そんな千冬に不快感を抱いたようだ。

失礼、と詫び目を伏せる千冬。

そんな千冬を見て、マドカはふんっと鼻を鳴らし、言っておくけど、と言葉を紡ぐ。

 

「照秋君があなたとの面会を拒否したのは今回の事だけではない。つまりは自業自得。今までのあなたと織斑一夏の行いが積み重なった結果ということ」

 

「……どういうことだ。何故一夏が出てくる」

 

「自分で考えなさいな世界最強のブリュンヒルデさん。その残念な脳みそでね」

 

それでは、と手をひらひら振りマドカは照秋の病室へ入ろうとしていた。

その行動を止めない警察。

それを見た千冬は驚く。

なぜ家族の自分が面会を拒否されて他人のマドカが面会出来るのだ?

 

「今回の事でワールドエンブリオ社は織斑照秋君を自社にて保護を行うとのことです」

 

「何を勝手に……単なるIT企業が保護とはどういうことだ」

 

「ワールドエンブリオ社はIS事業にも参入しているので護衛を任せる人材は確保できると言っていましたが」

 

「だからといって、そんな重要な事を……」

 

「日本政府も了承したとのことです」

 

「保護者である私の許可を得ずに!」

 

「身内の危険も守れない家族より、守れる他人の方が私情も挟まずミッションを遂行できるのよ」

 

千冬が警察と問答を繰り返していると、ドアに手をかけ千冬を見ずに話に割り込むマドカ。

その表情は、眼鏡が光を反射にその奥が見えないが、声音からするに恐らく怒っているのだろう。

 

「もうあなたは照秋君に近付くな。あなたと織斑一夏の存在が彼を傷つけ、闇を深める」

 

マドカはそう言って、千冬の反応を見ることなく病室へと入って行った。

警察は照秋の病室の前で千冬が入らないようドアを守る。

もうどうすることも出来ず、照秋の拒絶、マドカの辛辣な言葉、政府の対応と予想外の出来事にまともな思考が出来ず、重い足取りで帰って行ったのだった。

 

それ以降、千冬は自責の念と、どう話せばいいのか謝ればいいのかわからないという意気地の無さに、今まで欠かすことが無かった照秋との週一回の電話での会話を一度もすることなく、また照秋からも一度も連絡はなかった。

 

 

 

千冬は、卒業証書を受け取り壇上を降りる照秋をぼんやりと見ながらで考えた。

自分は何をしているのだろうと。

家族を守るために力を求め得たのに、二人の弟を誘拐という恐怖にさらしてしまった。

照秋に関しては傷まで負わせてしまった。

守るべき家族を守れなかった。

何のために得た力だろうか。

 

……何故、自分はあんなにも照秋に拒絶されるのだろうか……

 

照秋は小さい頃から大人しく、人より物事を覚えることが遅かった。

逆に一夏は快活で教えたことをすぐにできる賢い子だった。

一夏の物覚えの良さに、流石私の弟だと鼻高々だった。

千冬も一夏と同様物覚えの良い人間であったため、一夏を見て当然だと思う傍ら、やはり周囲から天才だ良い子だと褒められるのに気分が悪くなるはずがなかった。

だが、照秋は一夏と比べると物事を一つ覚えるのに一夏の十倍はかかっていた。

双子なのにお兄さんの一夏君とは大違いと、心無い周囲の言葉を直接受けたこともある。

千冬はそれを見て、聞いてイラつきを覚えた。

今思えば、きっと、照秋本人は千冬が聞く以上に周囲から言われていただろう。

だか、照秋はそんなことを言われて傷ついているような姿を千冬の前では見せることはなかった。

だから、気づかず、こんなことを思ってしまった。

 

―― 一夏がすぐに出来ることが、何故照秋は出来ないのだ?

 

容姿は二卵性なのでそれほどそっくりというわけではなく、むしろ自分に似ている照秋に、双子でこれほど差が出るのかと思った。

 

―― こいつは本当に私たちの弟か?

 

そんな愚かなことを考えてしまうほどだった。

一夏と照秋がまだ小学校に入る前から低学年ほどの頃は千冬も今ほど心に余裕がなく、自分の価値観を一夏や照秋に押し付け、できなければ叱り、できれば当然だと言った。

そう、千冬にとって出来て当然だと思っていたのだから、褒めることなど必要ないのだ。

そう考えると、小さい頃は一夏と比べ照秋に対しかなりキツく当たっていたのかもしれない。

だが、それは家族の愛の鞭である。

それが分かってもらえなかった、ということだろうか?

 

だから、中学校は全寮制の学校へ行くと言い出したのだろうか。

自分たちと一緒にいたくないから、自分から離れて行ったのだろうか?

 

「照秋の奴が全寮制の学校に行きたいって言ってたぜ」

 

一夏から言われた言葉に千冬は耳を疑った。

何故全寮制の学校なのだろうか?

しかも入学したい学校が、ほとんど家に帰ってこれない厳しい学校で有名だ。

何故よりにもよってそんなところに?

 

「あいつの考えてることはわかんねーよ。でも照秋が言いだしたんだから、あいつの意見を尊重しようぜ」

 

一夏に言われるまま、千冬は照秋を全寮制の学校へ入学させた。

千冬も、そんなに行きたいなら行かせてやろうと、少しの怒りと親心に推し進めていった。

だが、と考える。

千冬は照秋から一言も全寮制の学校へ行きたいと聞いていない。

一夏に言われるまま手続きをとり、送り出した。

照秋はほとんど自己主張をしない。

……いつからだろうか、笑みを浮かべることもなく、大人しく、周囲の目を気にするような子供になったのは。

 

それこそ小さい頃はテストで自分だけ100点を取ったと喜んで見せに来てくれたのに……

 

気付けば卒業式は終わり、ざわざわと参列者が体育館を出ていくところだった。

千冬も参列者の流れに乗り、体育館を後にする。

千冬たち参列者は校舎入口で卒業生たる自分たちの子供、兄弟を待つ。

しばらくして、後者からぞろぞろと生徒が出てきて、自分の家族を見つけるや駆け寄る。

様々な家族がいた。

母親が泣き、それを息子が宥める家族。

父親と何やら言い合いを始める家族。

兄弟にもみくちゃにされる家族。

それらを眺める千冬は、眩しそうに目を細める。

そして、千冬は照秋が校舎から出てくるのを待った。

自分も……今日は、我が弟と家族のふれあいを。

……今日だけは、優しく。

今日こそは、あの日の謝罪を……

 

 

生徒と参列者が学校からいなくなった。

千冬以外は。

照秋は校舎から出てこなかった。

もしかして見つけられなかったのかと、照秋を知る生徒に聞いたが、一緒に教室は出たが、その後は誰も照秋を見ていないという。

 

「テルはもうここにはいないぞ」

 

不意に、声をかけられ振り向く。

そこには、五月に出会ったあの少女がいた。

 

「……結淵マドカ」

 

約一年ぶりに見たマドカはわずかに少女から女へと変わったような、大人への成長が見て取れた。

服装は以前のラフな格好ではなく、黒いスーツをピシッと着こなし、髪は以前と変わらずナチュラルミディアムながらワックスできれいに整えている。

マドカは眼鏡の蔓を掴みクイッと位置を直し、千冬を見下すように見た。

 

「照秋はどこだ」

 

千冬は怒気隠そうともせずマドカを睨む。

普通の人間ならその睨みですくみ上るだろうが、マドカは飄々とその視線を流す。

 

「テルはわが社が責任を持って保護している。あなたももう帰りなさい」

 

「質問に答えろ。照秋はどこだ」

 

「……彼はわが社が用意した住居に移動した。これからも彼はそこで生活を送る」

 

「あいつの家は私の家だ。連れて帰る」

 

「この三年間一度も『帰ることを許さなかった』家に連れ帰るのか、鬼畜だな」

 

「何を言っている?あいつは『部活動で忙しいから帰れない』と言っていた」

 

「言っていたのは『織斑一夏』が、だろう?」

 

「そうだ。そんなことはいい。照秋の居場所を吐け」

 

問答を続け、頑なに連れて帰ると言う千冬にマドカは大きくため息を吐いた。

 

「聞き分けのない女だな」

 

マドカはやれやれを首を振り、うなだれるまま斜め下から千冬を睨んだ。

 

「本人に帰る意思が無いのに無理やり連れて帰るのか?まるで犬猫の畜生扱いだな」

 

「……なんだと?」

 

「ほう、怒るのか?自分の行いを棚に上げて、弟が自分の言うとおり行動しなければ本人の意志に関係なく連れ帰る。それが畜生扱いではなくて何と言うのだ?」

 

私の行いだと?と千冬は訝しんだが、それを見たマドカはまたもや大きくため息を吐いた。

 

「それすらわからん愚かな女だったとはな。失望したぞ、織斑千冬」

 

「……貴様」

 

「なんだ、やるのか?今の腑抜けた貴様なんぞ片手で十分だ。そら、かかってこい、世界最強のブ・リュ・ン・ヒ・ル・デ・さ・ま」

 

「……いい度胸だ。望み通り潰してやる」

 

一触即発

二人の殺気がぶつかり合い、どちらがいつ飛びかかっても不思議ではない状況。

そこへ―

 

「いい加減になさいマドカ。た……社長がお待ちですよ」

 

「……ふん、クロエか」

 

マドカと千冬の間に割り込んだのはクロエだった。

少女は流れるような銀髪にサングラスをかけ、病気かと思うほど白い肌を持つ。

服装は黒いスーツを着こなし、より白い肌を病的に見せた。

千冬はそのクロエの姿を見て、知り合いと酷似している特徴に驚く。

……こいつラウラと似ている?

なんなんだ、こいつらは……

千冬は思考しながら警戒度を高めた。

そんな千冬を、クロエはサングラスの奥で目を細めて言った。

 

「織斑千冬。私たちは照秋さんをあなたに会わせません」

 

何を――と口に出そうとしたが、クロエはそして、と被せる。

 

「自身が行った行動を鑑みなさい。織斑一夏にうまく乗せられた愚かな行動を」

 

一夏に乗せられた、だと?

どういうことだ、と千冬が言おうとした時、すでにその場にマドカとクロエの姿はなかった。

照秋を保護し、マドカとクロエという只者ではない者がいる企業『ワールドエンブリオ』。

その二人が口をそろえて口に出した名前。

織斑一夏

一夏に乗せられた?

私が照秋に何をした?

……わからない……

 

千冬はひとり、校舎入口で佇んでいた。

 

 

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