メメント・モリ   作:阪本葵

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第50話 千冬の決意

「何を休んでいる! さっさと立たんか!!」

 

千冬が打鉄を纏い、地面に這いつくばっている一夏に怒鳴る。

一夏は、プルプル震え雪片弐型を杖代わりに立ち上がるが、ぜえぜえと息は荒く、目も虚ろだ。

地面の土によって泥だらけになった一夏は、泣きそうになっている。

 

「……も、もうやめてくれ……千冬姉……」

 

弱音を吐く一夏に対し、千冬は眉を吊り上げ怒鳴る。

 

「何を軟弱な事を言っている!! これしきの事で弱音を吐きおって!! 立てえっ!!」

 

千冬は、フラフラとしている一夏に蹴りを入れ吹き飛ばす。

何の抵抗の出来なかった一夏はそのまま壁にぶつかり倒れる。

 

「さあ、立て! 構えろ!!」

 

千冬の激に、ぐったりとして動かない一夏。

千冬は、その軟弱な態度の一夏に呆れ呟く。

 

「照秋ならば、こんなことぐらいでへこたれないのだがな」

 

ピクリと一夏の肩が動く。

それを見た千冬は、さらに続ける。

 

「どうした一夏。あれほど自分に劣ると言っていた照秋に劣ると言われて悔しいのか? だが事実だ。アイツは毎日、この倍以上の練習を自分に課している。しかもそれを3年間一日も欠かさずだ」

 

項垂れていた頭を持ち上げ、千冬を睨む一夏。

先程まで虚ろな目をしていたのに、今は火が灯ったようにギラついている。

 

「……俺は、あんなクズより強い……」

 

吐きだすような言葉は、かすれて千冬には聞こえない。

しかし、聞こえずとも千冬は一夏の口の動きで読み取り、鼻で笑った。

 

「フン、現実を見ろ。口だけは立派に育ったが、自分の力量と照秋の実力を推し量れないようだな」

 

「……るせぇ」

 

一夏の呟きに千冬は目を細め、さらに続ける。

 

「クラス代表になり、専用機を受け取り胡坐をかいて何もしない。それで強いといえるとは笑わせてくれる」

 

「……るせえよ……」

 

「オルコットが何故代表決定戦以降お前を相手にしないかわかるか? それはお前に期待していないからだ。クラス対抗戦で何故凰といい試合が出来たと思う? それは凰が手を抜いてお前に華を持たせようとしたからだ」

 

「うるせえよ!!」

 

一夏は叫ぶ。

 

うるさい。

うるさい!

言われなくても気づいてたんだよ!

それでも俺は織斑一夏なんだよ!

主人公なんだよ!

ご都合主義で俺が最後にいいところを掻っ攫うんだよ!

でもアイツが邪魔なんだ!

照秋が!

あのクズが邪魔なんだよ!

アイツが俺の倍以上練習してる!?

知るかそんなもの!

あんな出来損ないのイレギュラーのせいで原作のストーリーが崩れてわけわかんなくなってるんだよ!

 

「アイツが俺の邪魔ばっかするから! アイツをここから追い出してやろうとしたのに!!」

 

なんなんだアイツの周囲の人間は!?

マドカだ!?

スコールだ!?

お前ら原作じゃあ亡国機業だっただろうが!

ワールドエンブリオ!?

そんな企業知るか!!

箒も!

セシリアも!

俺のハーレム要員だろうが!!

 

「アイツらが邪魔さえしなけりゃ万事解決したんだよ!! 俺の邪魔する奴は全員敵だぁっ!!」

 

涎をまき散らし喚く一夏の目は狂気に満ちていた。

それを見て、千冬は苦痛に顔を歪めるように歯を食いしばり、小さくつぶやいた。

 

「馬鹿者が」

 

千冬は近接ブレードで一夏の腹を思いっきり殴り再び壁にぶつかり、その反動で一夏は地面を転がる。

ついに一夏は気絶し、ピクリとも動くことはなかった。

千冬は白目をむき気絶する一夏を眺め、一週間前に起こった出来事を振り返った。

 

 

 

 

「織斑千冬、話がある。ついて来い」

 

いきなりマドカにそう言われ、千冬は眉を顰める。

 

「織斑先生だ。それと教師には敬意を払って敬語を使え」

 

「知るか。お前に敬意なんぞ持つわけないだろうが」

 

「貴様……」

 

ピクピクとコメカミを痙攣させマドカを睨む千冬。

普通の生徒ならその睨みで縮こまるだろうが、マドカはそんな睨みなど何とも感じていないのか、鼻で笑う。

そんなピリピリした空気の中、スコールが間に入り宥めた。

 

「まあまあ。あなた達本当に仲が悪いわね」

 

困った表情で二人の顔を見るスコールは、まあ仕方がないと思っている。

マドカは千冬のクローンである。

育った環境が違うので基本的な思想や様々な事が異なるためほぼ他人のようなものだが、それでも互いに何かと衝突してしまうのは仕方がない。

いわゆる同族嫌悪というやつだ。

まあ、二人の場合は同族というより同一であるか。

とにかく、今は二人をなんとかして行動に移さなければならない。

 

「以前からマドカが照秋の護衛手段として学園内に監視カメラと盗聴マイクを設置したでしょう?」

 

「ああ、知っている」

 

マドカから学園内の死角となる場所に監視カメラを設置する許可が欲しいと要請があった。

照秋を守るためという名目だが、しかし死角になる場所に監視カメラを設置するというのは教師側としてはありがたい。

ブライバシーの観点からは考えられないことだが、しかしIS学園は特殊な学園である。

全世界のエリートたちが集い、ISについて学びに来るのだ。

当然各国の啀み合いや牽制、様々なことが行われる。

学園内の平和を守ろうとすると、どうしても汚れ仕事が必要になるのだ。

それに、どうしても教師だけではカバーできない事というのはある。

特に男性操縦者という特殊な立場にいる照秋や一夏にはいつどこで様々な接触があるかわからない。

生徒会長である更識楯無にも協力してもらい、各所に監視カメラと盗聴マイクを設置したのだ。

勿論、毎日録画、録音したデータは学園側に提出し不正に扱っていないことを証明している。

この辺り、マドカはキッチリしているのだ。

 

「とにかく、付いてきてくれるかしら」

 

千冬はスコールに言われ、渋々つきあうのだった。

付いてきた先は寮内のマドカの部屋だった。

 

中に入ると、モニタが壁一面に設置され、様々な場所を映し出していた。

 

「……これは、監視カメラの画面か?」

 

「ああ、設置したカメラ全て網羅している。ああそうだ、今回の事が終わったら学園に還元するからそのままセキュリティとして使っていいぞ」

 

「それはありがたいが……」

 

無数のモニタを見て絶句する千冬は、一体マドカはどれほど照秋を守るために労力を費やしているのか考える。

照秋の護衛が仕事とはいえ、この行動は異常とも取れる。

 

「それで、こんなものを見せるために私をここに連れてきたのか?」

 

千冬がマドカに訪ねると、そうだ、と短く答える。

そして、何故こんなに監視カメラを設置したのかという理由を語りだした。

 

「きっかけは織斑一夏だ」

 

「一夏が?」

 

「あいつ、ここ最近私や箒、セシリアのスケジュールや日々の行動をコソコソ調べてるんだ」

 

「……何故そんな事を……?」

 

「恐らくだが、共通点として私たちは全員いつもテルの傍にいる。その人物のスケジュールを調べ、テルの傍を離れるタイミングを調べているのだと思う」

 

「つまり、照秋が一人になるタイミングを待っている、と?」

 

何故そのような事を調べる必要があるのだろうかと千冬は顎に手をやり考える。

 

「まあ、どうせ碌な事じゃあないだろうがな」

 

マドカはフンと鼻を鳴らし、スコールも苦笑している。

 

「だから、今日私は『ワールドエンブリオに出向く用事があってテルから離れる』ということになっているし、箒も『剣道部部長との要件で傍にいない』し、セシリアも『ISの整備で今日一日整備室から離れられない』」

 

「つまり、今照秋は一人というわけ」

 

「あの馬鹿が動く絶好のチャンスというわけだ」

 

要するに、一夏が何か馬鹿な事をするかもしれないからお前も見張って、しかるべき処置を取るために協力しろということだろう。

一夏は1組であり、1組の担任である千冬に職責を全うせよと言っているのだ。

千冬は、無言で無数のモニタを睨んだ。

 

 

 

そして、10分程して事態は動きだした。

 

「来た」

 

マドカは手元のキーボードを操作し、一つのモニタを大画面に映し出す。

 

「ふむ、テルの部屋……隣か。よし、何かあればすぐに飛んで行けるな」

 

「ええ」

 

マドカは照秋が映し出された場所を照秋自身の部屋であると確認し、スコールを一瞥して互いに頷く。

照秋と箒にすれば、まさかカメラとマイクが設置されているとは思ってもおらず、知ったら激怒するだろう。

しかし、モニタに映し出されたのは照秋だけではなかった。

 

「ちょっと待て。これはデュノアではないか?」

 

千冬は照秋と共に写っている人物を見て言う。

確かに照秋の部屋には照秋とシャルル・デュノアが映し出され、シャルルは椅子に座り照秋からペットボトルを渡されていた。

 

「……なぜデュノアが?」

 

「まあ、心当たりはたくさんあるが……」

 

モニタを見ながら呟く千冬とマドカ。

てっきり一夏がいると思っていたのに、まさかシャルルが映っていることに若干驚いているのだ。

だが次の瞬間、状況は一変する。

突如シャルルが照秋に対しタックルを仕掛け、それに抵抗した照秋と揉みあいになり、結果シャルルが照秋によってベッドに押し倒され動きを封じられていた。

 

「ふむ、なかなかいい動きだ。私の教えたとおりだな」

 

「絶妙なマウントポジションね。流石私の教えを忠実に守ってるわ」

 

マドカとスコール、二人の空気がピシリと張りつめる。

 

「おい、私が教えたんだ」

 

「あら、私が教えたのよ」

 

「何だやんのかコラ」

 

「いいわよ、相手してあげる」

 

「おい、言い合いしてる場合か」

 

何やってるんだと千冬は呆れ顔で二人を諌める。

その時だ。

 

『よっしゃー! 決定的証拠を掴んだぜ!!』

 

突如一夏の声が響いた。

マドカとスコールはバッとモニタに顔を向け真剣に観察し始めた。

 

『照秋の強姦現場を激写したぜ! これは言い逃れできないだろう!!』

 

「……一夏は何を言ってるんだ?」

 

千冬は一夏の行動が理解できなかった。

 

「ふむ、ここでシャルロットの正体をバラすか」

 

「……なんか、美人局みたいね」

 

二人は何を言っている?

シャルロットだと?

シャルル・デュノアではないのか?

そう思ってモニタを凝視した。

そして、理解した。

 

「シャルル・デュノアは女だったのか……」

 

まあ、薄々そうなんじゃないかと思ってはいたのだが、フランス政府からの正式な書類に「男」と書かれていたし、こんな線の細い男も世にはいるだろうなと無理やり納得していたのだ。

しかし、まさか政府が偽造したものだったとは思ってもみなかった。

そんなことよりも、一夏の行動が気になる。

 

『さあ、これでお前の弱みは握った! これをバラされたくなかったら、お前の会社のISデータを寄こせ!!』

 

何を言っているんだ一夏?

何故そんな照秋を追いこむような事をしているんだ?

照秋はそんな大声でわめく一夏に対し、冷静に対処している。

そして、現場が動き出す。

 

『何黙り込んでんだオラァッ!』

 

一夏は照秋に前蹴りを放ち、それをモロに食らった照秋はバランスを崩しその隙にシャルルは拘束から逃げ出し一夏の背中に隠れる。

 

「おい!? 何をやっている一夏!?」

 

「うるさい黙れ」

 

突然一夏が照秋を攻撃したことに驚く千冬は、モニタにかぶりつく。

いきなり暴力に訴える一夏を、信じられないと呟き見る。

そんなモニタにかぶりつく千冬を面倒臭そうに諌めるマドカは、忌々しそうに舌打ちする。

そして、マドカとスコールの呟きに千冬は反応する。

 

「本当に織斑一夏は、小さい頃から暴力で物事を解決しようとする短絡的な思考をしているな」

 

「まったく、周囲が甘やかすからこんな性格になったんじゃないかしら?」

 

何を言っているのか、千冬はわからなかった。

いや、わかりたくなかったのだ。

 

「……小さい頃……から……だと?」

 

何故昔の事を知っているのか聞きたかったが、それよりも聞き捨てならないのは小さい頃から(・・・・・・)という事、つまり常態化した行動だということだ。

千冬は気付くことが無かった、一夏の危うい行動。

そして、その矛先は……

 

「気付いていなかったのか、気付こうとしなかったのか知らないけど、織斑一夏は『躾』と称して毎日暴力を加えていたわ」

 

「それも、表面上分からないように服の下とかに徹底してな」

 

「……そんな……」

 

一夏がそんなことをするはずがないと言い返したい。

しかし現に今一夏は照秋に理不尽な暴力を加えた。

小さい頃から聞き分けの良く、皆に人気があって、学校の成績も、運動も優秀な自慢の弟が、自分が見ていない場所でこんな愚かな事を常に行っていたなんて。

 

千冬がショックを受けている間にも、モニタの向こうでは照秋と一夏が言い合いをしている。

照秋は努めて冷静に、しかし一夏は感情に任せて喚き散らす。

 

そしてついに、恐れていたことが起こった。

 

『いつから俺をそんな目で見れる身分になったんだ!』

 

一夏は照秋に再び前蹴りを加える。

照秋は防御するが、威力が強かったのかバランスを崩しベッドから落ちた。

シャルルが一夏を止めに入るが、それを払いのけさらに蹴りいれる。

 

『昔みたいに泣きわめいて土下座しろ! 俺に許しを請え!!』

 

何度も、何度も踏みつける。

 

『俺が主人公なんだよ! お前みたいなイレギュラーは物語に邪魔なんだよ!!』

 

「やめろ……やめてくれ一夏……」

 

目の前の光景が信じられなくて、唇が震える千冬。

昔みたいにと言っていた。

つまり、本当に小さい頃からこんな馬鹿な事を続けていたのだ。

それに気付かなかった千冬は、自分の愚かさを痛感する。

 

『おら! なんとか言えよ!!』

 

「もうやめてくれ一夏……」

 

照秋の置かれた環境に気付かず、上辺だけで一夏を褒め、照秋を叱責していた。

何故気付かなかった?

照秋が自分から言わなかったから?

違う、言えなかったのだ。

一夏が言うなと脅迫していたことは明白だ。

それ程賢しい子供であり、千冬はそんな一夏の裏の顔を見極めることが出来なかった。

 

「……よし、そろそろ行くぞ」

 

「そうね、これ以上は不味いわね」

 

マドカとスコールが立ち上がる。

その表情には感情というものが無かった。

ただ、物事をそのまま受け取り淡々と作業を行うという、プロの貌だった。

しかし、マドカの拳がきつく握られ震えているのを千冬は見ていた。

 

そして。

 

「お前なんか! 死んじまえ! この! クズヤローが!!」

 

「そこまでだ、織斑一夏、シャルロット・デュノア」

 

一夏が吠えたとき、三人は部屋に乗り込んだ。

千冬は部屋の惨状を見て顔を歪める。

息を荒げ、勝ち誇ったような顔の一夏。

その後ろで泣きそうな顔をしているシャルル・デュノア。

そして、床で蹲り頭に一夏の足を乗せられている照秋。

 

「聞いてくれ千冬姉! こいつ最低なクズヤローなんだ!」

 

何もしゃべらないでくれ、一夏。

そんな嬉しそうな顔を私に向けないでくれ。

 

「こいつ、シャルルを……」

 

「黙れ、一夏」

 

黙ってくれ、我慢できなくなってお前を殴ってしまう。

 

「何言ってんだよ!? こいつの悪事が公になるんだぜ!?」

 

「黙れと言っている」

 

一夏を睨み無理やり黙らせる。

そして、蹲る照秋の元に近寄り声が詰まる。

制服が一夏の蹴りによって靴の汚れ無数に付き、未だに丸く蹲り防御態勢を崩さない照秋を、やさしく抱きしめた。

ああ、こんなに傷だらけになってしまって…

小さい頃からこんな仕打ちを受け、一人で戦っていたんだな。

すまない……

すまない照秋。

気付いてやれなくて。

助けてやれなくて。

 

「すまない……すまない、照秋……」

 

千冬は苦しそうに顔を歪め、照秋を抱きしめる。

 

「さあ、立てるか? ゆっくりでいいからな。ほら肩を回して」

 

照秋の肩を支えゆっくり立ち上がらせてベッドに座らせる。

照秋は無言で従うが、その表情は痛みに耐えているように歪み、そして千冬の方を見ようとしない。

そのとき、ポタポタと床に落ちる液体を見て驚く。

 

「お前……血が……!」

 

照秋の額から血が流れていた。

一夏に踏みつけられ、切れたのだろう。

だくだくと流れ、白い制服を赤く染める。

千冬は急いでハンカチを取り出し傷口に当てる。

その間も照秋は何もしゃべらず千冬を見ない。

何もしゃべらず、こちらを見ない照秋に胸が締め付けられる思いの千冬は、それでも甲斐甲斐しく治療にあたるのだった。

視界の端ではなにやら一夏が顔を青ざめさせているが、今はそんなことより照秋の治療である。

部屋に備え付けの救急箱から治療道具を探し、ガーゼと綿、包帯を取り出し治療を続けるのだった。

 

 

 

その後、スコールに教師として責務を果たせと言われ一夏を連れ出し部屋からの外出禁止を言い渡した。

しばらく時間を置かないと、千冬自身が一夏を殴ってしまいそうだったから。

冷却期間を設け、翌日改めて一夏の事情聴取を行うことにしたが、その前にマドカ達ワールドエンブリオ側から提案があった。

 

「今回の事象は内々で済ませたい」

 

「……それは、一夏を不問にするということか?」

 

「これは学園側の要請でもある」

 

「……理事長が?」

 

事後処理としてシャルロットは事件以降、学園の授業を風邪と偽り休み、流石にクラスを変更するわけにはいかないが一夏と部屋も別れマドカの部屋に移り住むことになった。

事が落ち着くまで人前に出ない方がいいということでこれには千冬にも了承した。

そして、今回の発端である美人局事件についても公にせず内々にしてしまおうという落としどころでワールドエンブリオ関係者と学園理事長の間で落ち着いたのだ。

ハッキリ言って一夏の行いは犯罪であり警察に突き出すほどの事なのだが、世界で二人(シャルロットも入れると三人)のIS男性操縦者のスキャンダルは避けたいというのが学園側の思惑であり、ワールドエンブリ側としては、これからの行動に支障をきたす恐れがあるから沈黙していてほしいと願ったのである。

学園側の温情で犯罪者にならずに済んだ一夏だったが、とはいえ一夏に御咎めなしとはいかないので、一夏には今回の犯罪行為を見逃す代わりに一切の口外を禁ずるという契約を結ばせる。

そして、1組の担任として、姉として織斑一夏の再教育を要請した。

 

「……わかりました。織斑兄は責任を持って再教育させます」

 

こうして、学園内での一連の事件は一応の終息を見た。

 

 

 

「一夏。お前の性根を叩きなおす」

 

もう、私は見逃さないし、逃げない。

決心したのだ、照秋と向き合うと。

だからこそ、一夏に隠していた事実も話そう。

 

そう決意した千冬だった。

 

 


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