つまり、照秋が活躍します。
やったね主人公として出番が増えるよ!
デュノア社、及びフランス政府への報復が終わり、ひと段落したときに頃合いを見てシャルロットのIS学園での立場を見直すため学園側とワールドエンブリオ、フランス政府の三者で打ち合わせをする。
結果として、シャルロットはフランスの国家代表候補生の資格を剥奪、専用機のラファール・リヴァイヴも没収となった。
さらに、夏休みにはフランスに戻って一ヶ月の奉仕活動をしなければならない。
これは見る人から見れば厳しいように取られるかもしれないが、シャルロットにとってはこの裁定はかなり軽いものである。
代表候補生資格剥奪は、特に代表候補生という肩書きに執着していないのですんなり受け入れた。
専用機没収に関しては、自分なりにチューンした相棒であるから寂しくないと言えば嘘になる。
奉仕活動にしても内容は福祉施設や公共施設などの清掃がメインなので特に問題はない。
だがしかし、はっきり言ってそれ以上に照秋達への罪悪感が拭えない。
だが、それを顔には出さない。
出せば、照秋達が心配するからだ。
到底許されることのない罪を犯した自分を優しく許してくれた照秋。
守ってくれるために動いたマドカやスコール。
まさしく命の恩人である照秋達に、これ以上負担を強いてはいけない、そう心に誓うシャルロットだった。
学園内での変更点は、性別を偽っていたことを公表し女性として、旧姓のシャルロット・ロセルとしてIS学園に在学。
ただし、クラスの変更はしない。
今回の一夏と共謀して起こした事件は公表しないことになっているため、下手に動き過ぎると不自然になるからだ。
そして現在、1組では改めて本当名前であるシャルロット・ロセルとして副担任である山田真耶の計らいで心機一転という意味を込めて転入扱いとなり自己紹介している。
クラスメイトはフランス政府とデュノア社のゴタゴタをニュースで知っているため、シャルロットに対しては基本同情的だ。
性別を偽っていた理由も、デュノア社の命令で「広告塔」として振る舞うようにしていたと、フランス政府の公式発表で知っている。
皆、温かく迎えてくれることに感動し、涙を流すシャルロット。
偽る必要のない、本当の自分でいれるという解放感に、もう縛る者のいない自由を噛みしめシャルロットは笑顔で言うのだった。
「ありがとう。みんな、改めてよろしく!」
そんな1組でただ一人、織斑一夏のみがシャルロットと目を合わせず気まずそうな顔をしていた。
一夏はシャルロットを助けたかった。
これは本心である。
しかし、求めるものが不純だった。
一夏はシャルロットを自分に惚れさせハーレムに組み込むつもりだったのだ。
それが原作の流れだし、当然だと思っていたのだ。
しかし、思い通りにはいかず、原作とはかけ離れた結末を迎えシャルロットは女生徒の制服で1組のクラスメイトに温かく迎えられている。
あの氷のように他人と接しようとしないラウラでさえシャルロットの肩をポンとたたき今までの苦労をねぎらっているのだ。
一夏はシャルロットに近づけない。
あの事件のとき、シャルロットは一夏をかばった。
事件の首謀者は自分であり、一夏は関係ないと言った。
それは嬉しかったのだが、しかし一夏はそんなシャルロットの言葉を否定しようとした。
だが、言葉が出なかった。
マドカに言われた、犯罪者という言葉が一夏の覚悟を鈍らせたのである。
結果、一夏はシャルロットが庇ったことに乗っかってしまった。
何という情けない男だろうと、自分でも自覚しているからこそシャルロットを見ることが出来ないのだ。
しかし、やはり気になる一夏はチラリとシャルロットを見た。
すると、シャルロットは一夏の視線に気付いたのか目が合う。
一夏は、なんとか笑おうとしたが、できなかった。
シャルロットの先程までクラスメイトと笑い合っていたのに、一変して無表情に冷たい眼差しを向けていたのだから。
昼食時、シャルロットは照秋たちと採ることにした。
照秋はいつものメンバーである箒、マドカ、セシリアに加え、シャルロット、ラウラと多国籍に増えていくテーブルに、しみじみと思う、
たまに簪も混じっているが今日は4組のクラスメイトと昼食を採ると言って参加していない。
「……大所帯になったなあ……中学のときはこんなにグローバルな関係を持つとは思わなかった」
「そうだなあ……」
箒も隣でうんうん頷いている。
イギリス、フランス、ドイツ、日本の4カ国が一つのテーブルを囲み食事を採る。
なんとも壮観であるが、このIS学園ではそう珍しいものではない。
日本に学園が置かれている事と学園運営資金は主に日本が出している手前日本人の生徒が全学年の約半数を占めるが、それでも残りの半数は海外からの学生である。
必然異文化交流は盛んになるのだが、基本会話の言語は日本語である。
これは学園の基本語を日本語で進めているというのもあるが、ISの生みの親である篠ノ之束が「日本語以外では説明しない」とISの基礎理論において日本語でしか行わなかったためでもある。
ならばPICやワンオフアビリティーなどというISで用いる英語はどうなんだと突っ込みたいが、篠ノ之束は気難しい性格だということは周知の事実であるため、下手に指摘して機嫌を損ねさせたりすると後が恐ろしいので、藪蛇になりかねない矛盾はあえてツッコまずスルーするというスタンスを世界中が取った。
なんともスルースキルの高い世界である。
「そういえば、シャルロットは今日から部屋を変わるんだったな」
マドカがシャルロットを見て聞く。
現在は緊急措置としてマドカの部屋に臨時に住んでいるが、もうシャルロットの取り巻く環境がひと段落したためその措置が必要なくなったのである。
「うん、ボーデヴィッヒさんと同じ部屋になるんだ」
よろしくね、とシャルロットはラウラを見て言い、ラウラはうむ、と短く頷く。
「しかし、当初の予定を大きく変更させられる出来事が多すぎたな」
マドカがため息を漏らしながら呟く。
「なんだそれは?」
ラウラは興味津々といった顔でマドカを見る。
「ワールドエンブリオは基本的に他国・他社のIS開発には関わらず、がスタンスだったんだ。それがなあ……」
「……ああ、なるほど……」
セシリアがマドカの言葉と、現在同じく食事を採っている面々を見て納得する。
「気付けばイグニッションプランに参加している4国のうち2国に関わったからなあ」
イギリスのブルーティアーズの改修に、フランスに支社を設置。
つまり、欧州連合において多大な影響を与えてしまっているのだ。
「でもフランスは参加辞退したんだよね?」
「それでも、フランスに配備されているISを[ラファール・リヴァイヴ]から[竜胆]に全替えだからな。正直欧州連合にとってイグニッションプラン云々言ってられないくらい立場が逆転したのさ」
各国は第三世代機の「開発」に躍起になっている時期である。
そんな中、フランスは「完成」された第三世代機、しかも「量産体制の整った最新鋭機」を手に入れたのだ。
いままでISの開発や力関係においてイギリスが欧州連合内で飛び抜けいたものが、一気に逆転してフランスがトップに躍り出たのである。
マドカが立場が逆転したと言い張るほどに竜胆の完成度は高く、また他国の第三世代機開発は困難を極めているのが現状なのである。
だからこそ、世界各国はワールドエンブリオの最先端技術を取り入れるのに躍起にやっているのだ。
イグニッションプランに参加しないというのはワールドエンブリオの意向であるとはいえ、いまだ国内がゴタゴタしているフランスはあまり各国を刺激して軋轢を生むことは避けたい。
国の威信だ、自国の技術を他国に示したいだと躍起になってISの開発を行っているが、フランスはそういう事は二の次にして、とにかく今は国内を正常化し国防を確保し、自国のIS開発は次でいいという「名を捨てて実を取る」を実行したのである。
結果はご覧のとおりだ。
「近いうちにドイツのISも見ないとなあ」
マドカのボヤキにキラリと目を輝かせるラウラ。
「なんと、それは本当か?」
「しゃーないだろ。セシリアはテルと婚約を結ぶ以前からウチの技術をを使ってた。で、クラリッサがテルと婚約関係になって順序は違うが、何もしないんじゃ同じ婚約者を差別してると文句言われてうるさくされてもかなわんからなあ」
「むう……その言い分だと我が祖国がダダを捏ねたと聞こえるのだが……」
「事実ダダ捏ねてウチに催促してきたんだよ」
マドカの言葉に、ラウラは頭を抱える。
だが言い換えればそれほど必死になってでも確保したい技術がワールドエンブリオにあるということであり、ドイツのISがそれによって能力向上すると見込んでいるのである。
「そうなるとイグニッションプランに参加しているイギリス、ドイツ、イタリアの3国の内2国に技術提供しているわけだね……ということは……」
「ま、十中八九イタリアがイチャモン付けてくるだろうなあ……」
ため息をつくマドカだったが、箒とセシリアは別のことを危惧していた。
(……イタリアから女を送り込んでくる可能性は……)
(十分にあり得ますわね)
(奥手な照秋に対して強引に攻め、既成事実を作り自国の要求を飲ませる…)
(……悪の所業ですわ……許すまじイタリア!)
ヒソヒソと会議を始める箒とセシリア。
そんな二人を見て苦笑するシャルロット。
「安心しろ、そんな馬鹿な事を仕掛けてきたら大々的に公表して表を歩けないようにしてやる」
マドカがそう言うと、皆呆れた顔でマドカを見る。
「その思考が怖えよ」
「……お前が言うと本当にしそうだから恐ろしい」
「本当に、マドカさんが味方でよかったですわ」
「うん、僕は身を持って感じたよ」
「ふむ、我が部隊に欲しい逸材だな」
口々にマドカの評価を言い、そんな評価に対し特に反応しないマドカは、黙々とナポリタンを口に運ぶのだった。
夜になり、マドカは自室でプライベート回線でテレビ電話をしていた。
「――ああ、アンタの要望通りドイツのISを見れる機会をつくったぞ」
『ありがとーまーちゃん!』
相手はワールドエンブリオ社長、鴫野アリスの中の人、篠ノ之束である。
相変わらず朗らかに笑う束は、悩みなど無いように見えてしまい、マドカはイラッとする。
「……しかし、アンタの言うような馬鹿な事をするかね?」
『どこにも異端はいるんだよ。で、その異端は潜り込んで中から侵食していくのが得意なのさ』
「……で、気付けば中身はグチャグチャ、『異端』が『正統』に成り代わる、か」
『そもそもあの国は実例があるからねー』
「
束とマドカがため息をつく。
『それにあの国はアメリカ並みにキツイ事やってるよ。まーちゃんと同じく、ラウラ・ボーデヴィッヒやくーちゃんもその被害者だよ』
「……人の命をもてあそぶ所業か……」
ブルートゥースのイヤホンマイクを握る手の力が強くなり、マイクがミシミシと軋む。
『いまオーちゃんに研究施設の探りを入れてもらってるから、場所の特定と今回のISに入ってる不純物が確定したら――』
束の言葉に、獣のように歯をむき出しに笑みを浮かべるマドカ。
「――その時は私も呼べ」
『もちろん! 期待してるよ!!』
「ふん。……しかしアンタは強引だな」
『何がかな?』
コテンと首を傾ける束。
「シャルロットとフランスの事だよ」
マドカに言われ、ああ、と呟く束。
「凰の時もそうだったが、今回のはもっと酷いぞ。本来ならシャルロットはこのIS学園に残ることは出来なかった。そして一生陽の目を見れない生活を送っていただろうよ。だが、そうはならなかった」
『そりゃあ、てるくんが許したからじゃないかなー』
「違う」
朗らかな声の束に対し、マドカの声音は厳しいものだった。
「アンタが覆したからだ。全てを、アンタが変えたからだ」
有無を言わせない強い口調のマドカ。
束は、それにふてくされるようにブーブー文句を垂れる。
「まあ、そーだけどー。だってしょうがないじゃん!」
――こんなところで原作ヒロインが退場しちゃダメでしょ?
――ゾクリとした。
マドカは、束の朗らかに笑う声の中に狂気を感じ、また全く何も映っていない黒く淀んだ瞳を見て僅かに唾を飲み込む。
そして、小さく深呼吸し話をきりあげる。
「……とにかく、段取りはしたからな。じゃあな」
画面をタップして通話を切るマドカは、大きく息を吐き目を閉じる。
「倫理を無視した先の進化、それは果ての理想――人が人であることを捨て神になることは許されない、か」
マドカは誰に言うでもなく呟く。
「……先導者よ、人に絶望した神罰の代行者よ、ならば何故お前は希望に縋る」
その言葉は誰に言ったものなのか――
それはこの部屋にひとりいるマドカにしかわからない――